原発労災、再審査請求へ~悪性リンパ腫とS字結腸がん/福島

いわき市在住のTさん(当時、50歳)は、1991年から2015年まで、断続的に福島第一原発や東海第二原発で配管保温工事や設備の設建工事などに従事した。2021年3月、中間貯蔵施設の交通誘導の仕事をしているとき体調に異変を感じ、医療機関を受診。精密検査の結果、悪性リンパ腫と診断され、ただちに入院治療に入った。2023年にはS字結腸がんも発症。Tさんは原発での放射線被ばくが原因と確信し、富岡労働基準監督署に労災請求の手続きをとった。Tさんの記録上の累積被ばく線量は6.4mSvだった。
富岡労基署ではTさんの放射線業務歴、被ばく状況、療養経過等を調査したうえで、厚生労働省にりん伺したところ、2024年9月、「電離放射線に係る業務上外に関する検討会」が、「Tに発症した悪性リンパ腫及び結腸がんの業務上外に関する検討会報告書」をまとめ、同署に回答した。
「検討会報告書」は、悪性リンパ腫の発症リスクは類似疾患である全白血病5分の1に相当するとし、「業務起因性を認める場合の重量離放射線による被ばく線量は、25mSv(5mSv×5倍)×(電離放射線を受ける業務に従事年数)以上となる」ため、Tさんの累積被ばく線量は6.4mSv、従事年数約0.68年では、25mSvに満たないため業務起因性は認められないと判断した。さらにS字結腸がんについても、「被ばく線量が100から200mSv以上に有意なリスクの上昇はみられるものの、100mSv未満での健康影響について言及することは困難」として業務起因性を否定した。
2024年9月、富岡労基署は、「検討会報告書」に基づき、Tさんの労災を不支給処分としたため、ただちに福島労災保険審査官に審査請求をした。
審査請求では、Tさんが働いた東海第二原発での被ばく線量が過小評価されていることを指摘した。同原発で作業では線量が高く制限があり、長い時間作業できず、配管に保温材を巻き付けたり、撤去する作業をしていると線量計が鳴り、その場所から退避を迫られたこともあった。作業記録によれば、その場所は、「PCV」(原子炉格納容器)と記載されており、高線量区域だったことがわかる。そこでは全面マスクも装着せず、軽装備で作業に従事していたことから、内部被ばくも相当程度あったと考えられる。
さらに2023年8月、「国際核(施設)労働者調査」(INWORRKS:International Nuclear Workers Study)の最新報告によれば、低線量・低線量率被ばくと健康リスクは明らかになっており、厚生労働省の100mSv以下の低線最被ばくとがん発症の因果関係は明らかではないという労災補償の考え方に科学的根拠はないことを主張した。※
しかし、2026年2月、福島労災保険審査官は、審査請求を棄却。審査官は、「検討会はINWO
RKS2023報告はひとつの研究結果であり、研究結果を注視する必要はあるが、この結果ひとつで労災補償の考え方を見直すと結論づけるのではなく、今後も国際的な知見を収集するとともにUNSCEARやICRP等の国際機関の報告を踏まえて判断していくことが重要であると結論にいたっており、共通の認識に至ってないことが認められる。このような状況を踏まえれば、審査官は請求人の主張を採用することできない」と述べ、Tさんの労災を認めなかった。
しかし、決定書の参与の意見には、「参与4名のうち、3名は、『棄却』相当、他の1名は『取消し』相当との意見であった」と記されている。つまり、参与の1名は、Tさんの主張を認め、富岡労基署の不支給処分の取消しを支持してくれたのである。審査請求は棄却されたとはいえ、大きな励みになる。
幸いTさんは体調もよく、病状も安定しており、毎日アルバイトに出るようになっている。3月には労働保険審査会に再審査請求した。引き続き、Tさんの再審査請求における闘いを支援していきたい。

※参照「国際核施設労働者調査(INWORKS)最新報告~低線量率・低線量被曝の健康リスクがさらに明らかに」(振津かつみ)『原子力資料情報室通信』第596号(2023/21)https://cnic.jp/50927

文・問合せ:東京労働安全衛生センター

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