ラーメン店店長の上肢障害/過酷な長時間労働が原因●東京
Aさんは、数年前から都内にあるラーメン店の店長として働いていた。そのラーメン店は関西に本社があり、独特の豚骨ラーメンを看板にしていた。
ラーメン店の店長としての勤務は過酷なものだった。毎日、早朝に出動し、数百本の豚骨をハンマーで割り、3つのスープ鍋にその大量の豚骨を投入し、長時間煮込んでいく。その間、大きな棒でスープ鍋を撹拌し続ける。さらに、チャーシュー用の大量の豚肉を巻く作業もある。そうした仕込み作業が終わると、営業時間になる。お客さんは途切れなく来店し、店長はスープ鍋の撹拌を常に続けながら、調理作業も行う。店は店長1人とアルバイト2~3人の体制で、仕込みと調理の作業は店長一人で担当していた。仕事は朝6時半から、深夜0時過ぎまで続いた。
仕事をはじめて3年ほど経った2022年の夏頃から、Aさんは次第に左手指にしびれを感じるようになった。2023年になるとしびれがさらに強くなり、左手の筋肉がなくなって握力が落ちていった。病名は「肘部管症候群(ちゅうぶかんしょうこうぐん)」。上肢障害の一種で、肘の神経障害である。Aさんの症状は重く、最終的に左肘の手術を受けることになった。
2024年1月、Aさんは労働基準監督署に労災申請を行った。長時間の仕込み・調理作業が原因で起こった職業病であることは明らかだった。Aさんは、長時間労働の証拠として、自らの日々の作業内容を詳細にまとめた報告書、元同僚の証言、本社に送っていた業務報告のメールなどを労基署に提出した。しかし、労基署が8月に出した結論は、労災とは認められないという不支給決定だった。
上肢障害の労災認定基準は、①病気が上肢障害に該当すること、②上肢に負担がかかる作業を主に行っていたこと、③発症前に作業の負担が増えていたこと、の3点が判断のポイントになっている。Aさんのケースでは、①と②の条件に該当すると認められたものの、③については該当しないとされた。
Aさんは毎日17時間前後の仕込み・調理作業に従事しており、③の条件を満たしていると主張した。しかし労基署は、本人が提出した様々な証拠を一切採用せず、それらの証拠では労働時間も作業時間も確認できないとして、店の売り上げ記録(金額)の増減だけを見て、業務の負担が増えていないと結論づけた。
とくに労基署は、タイムカードがないので労働時間の客観的な資料がないと言ってきた。実際には、本社が店長の労働時間をまったく管理しておらず、店長のタイムカードを用意していなかったのである。「労働時間の記録を付けずに違法に長時間労働させている事業主が有利になり、労働者が泣き寝入りすることになる」と抗議したが、労基署は判断を変えなかった。
Aさんのケースは、現在、審査請求を闘っている。長時間労働の被害に向き合おうとしない労基署の決定を覆し、Aさんの労災補償を勝ち取るため、当センターも支援を続けていく。
文・問合せ:東京労働安全衛生センター
安全センター情報2025年12月号


