精神障害の長期療養者に係る社会復帰支援について/基補発1226第2号令和6(2024)年12月26日

基補発1226第2号
令和6年12月26日

都道府県労働局労働基準部長殿

厚生労働省労働基準局長補償課長

精神障害の長期療養者に係る社会復帰支援について

労災保険における社会復帰対策については、平成5年3月22日付け基発第172号「被災労働者の社会復帰対策の推進について」により、社会復帰を希望する被災労働者に対して、その希望内容に応じた的確な社会復帰指導を一定期間継続的に行うこと等により、被災労働者の早期社会復帰を促進することとしている。
今般、精神障害の長期療養者は増加の傾向にあることから、都道府県労働局(以下「局」という。)及び労働基準監督署(以下「署」という。)において、下記のとおり、関係行政機関との連携により、精神障害の長期療養者に係る社会復帰支援について、取り組むことができることとしたので、各局の業務の実情に応じて適切に対応されたい。

1 趣旨

令和元年度及び令和2年度に行われた「仕事を原因とした精神疾患の発症により労災認定を受けた長期療養者に対する治療と並行して行う効果的な社会復帰支援に関する研究」によれば、精神障害で労災認定された患者のうち、職場復帰できる事例は、3年以内に7割は職場に復帰できるが、そうでない事例は職場復帰できない状況に陥る傾向が強くなると指摘されており、精神障害で長期に療養を継続している者の社会復帰のためには、できるだけ早期に職場復帰に向けての支援を開始することが重要と考えられる。
また、令和5年7月に取りまとめられた、精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書(以下「検討会報告書」という。)において、労災認定を受けた被災労働者について、療養を継続しつつも就労可能と医師が判断した被災労働者の社会復帰を促進する体制整備が重要であり、今後、医療機関及び関係行政機関等との連携等、被災労働者の社会復帰支援に関する取組を引き続き検討していくことが必要とされたところである。
以上を踏まえ、本通達は、精神障害による療養開始後1年以上継続している者(以下「長期療養者」という。)の社会復帰支援として、局又は署における具体的な取組を示すものである。

2 本通達で対象となる長期療養者の範囲

長期療養者であって、局又は署が過去に実施した調査等を通じて離職していることを把握している者とする。
また、早期の社会復帰支援を実施することが重要であることから療養開始後3年以内の者を優先的に支援の対象とするが、事案に応じて療養開始後6か月以上1年未満あるいは3年超の者を対象としても差し支えない。
なお、当面の間、支給決定を行った署が所在する都道府県に居住していない長期療養者は支援の対象外とし、支援の対象とする際には改めて指示することとする。

3 支援対象となる長期療養者の選定手順

上記2について、以下(1)から(3)の手順により、主治医への調査及び長期療養者への意向確認をした上で、支援対象となる長期療養者(以下「支援対象者」という。)を選定する。

(1) 主治医への調査

局又は署は、主治医に対して、症状の推移、治療経過、治療内容等とともに、

① 症状が安定し、療養を継続しながら就労が可能な状態にあるか
② 上記①の状態に至っていないが、療養を継続しながら就労移行支援のサービス(※)を受けることが可能か
※障害福祉サービスの一つ。詳細は後記5参照。
③ 長期療養者自身が障害を受容しているか
④ 就労の開始や就労移行支援を本人に案内するに当たって特段配慮すべき事項

について医学意見を収集する。
また、この主治医への調査は、昭和59年8月3日付け基発第391号「適正給付管理の実施について」(以下「適正給付通達」)という。)の記の2(5)に基づく調査において併せて実施することも差し支えないが、その場合には、上記①~④の項目を照会事項に追加すること。
なお、主治医への調査に当たっては、就労移行支援事業の説明として、別途示すリーフレットを同封すること。
ただし、長期療養者の居住する市町村(東京都特別区を含む。以下同じ。)で就労移行支援事業所がない場合には、下記5による支援ができないため、意見依頼の前にWebサイト等で就労移行支援事業所の有無を確認し、当該市町村に就労移行支援事業所がないことを把握した時は、就労移行支援(上記の②や④の項目の一部)に関する医学的意見の収集及びリーフレットの送付を行わないものとする。

(2) 長期療養者への意向確認

局又は署は、長期療養者への社会復帰に係る意向確認に当たっては、主治医に確認した内容を踏まえ、慎重かつ丁寧に以下のとおり実施すること。

ア 公共職業安定所(以下「安定所」という。)との連携

主治医への調査の結果、症状が安定し、療養を継続しながら就労が可能な状態にあると判断された者に対しては、別紙1「アンケート(公共職業安定所用)」により、安定所の職業紹介部門の利用意向を確認する。

イ 市町村との連携

主治医への調査の結果、就労移行支援のサービスを受けることが可能な状態にあると判断された者に対しては、別紙2「アンケート(市町村用)」により、就労移行支援の利用意向を確認する。
なお、「アンケート(市町村用)」を送付する際には、主治医への意見依頼の際と同様、就労移行支援の説明として、リーフレットを同封すること。

(3) 支援対象者の選定

上記(1)の主治医への調査結果を踏まえ、(2)の長期療養者に対する意向確認の結果、安定所や就労移行支援の利用を希望すると回答した者を支援対象者とする。

4 安定所との連携

安定所においては、就職を希望する求職者に対し、職業相談や職業紹介を行っており、長期療養者のうち、休業の必要がなく、療養を継続している者が対象になると考えられる。安定所との連携に当たっては、予め職業安定部職業対策課と調整して、各安定所の初回訪問窓口を決めておき、署とその情報を共有しておくこと。
その上で、上記3により、安定所との連携による支援対象者を選定した場合には、支援対象者の居住地を管轄する安定所の窓口に、安定所での職業相談等を希望している支援対象者の氏名と住所を連絡した上で、当該支援対象者に対し、別紙1「アンケート(公共職業安定所用)」の写しを交付し、アンケートの写しを持参して当該安定所を訪問するよう案内すること。

5 市町村との連携

(1) 連携する事業

障害者総合支援法に規定される就労移行支援とする。
就労移行支援は、就労を希望する障害者が原則2年間、必要な訓練を就労移行支援事業所で行った後、円滑に一般就労へ移行することを想定した障害福祉サービスであって、利用に当たっては、支援対象者の住所地の市町村から就労移行支援のサービス利用に係る支給決定を受ける必要がある。
支援の内容は、通常の事業所に雇用されることが可能と見込まれる者に対して、

① 生産活動、職場体験等の活動の機会の提供その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練
② 求職活動に関する支援
③ その適性に応じた職場の開拓
④ 就職後における職場への定着のために必要な相談等の支援

を行うこととされている。
そのため、長期療養者のうち、症状は改善しつつも一般就労可能な状況には至っておらず、休業している者が対象になると考えられる。
なお、障害者手帳を所持していなくても診断書等により支援の対象となる場合があり、障害福祉サービスの利用に当たり、利用者の世帯の収入状況によっては利用者負担が生じる場合もある。

(2) 市町村との調整

上記3の結果、市町村との連携による支援対象者として選定を行った場合には、該当の市町村の担当部署(障害福祉サービスにおける支給決定の所管部署)に、就労移行支援のサービス利用を希望している支援対象者の氏名と住所を連絡した上で、当該支援対象者に対し、市町村の窓口を訪問するよう案内すること。

(3) その他

本通達では、障害者総合支援法に規定される就労移行支援の活用を想定しているが、支援対象者が受けることができる障害福祉サービスについては、市町村が支援対象者の意向を踏まえて判断するものである。
したがって、市町村の判断により、「就労移行支援」が受けられない場合や、「就労継続支援A型」など他の障害福祉サービスの利用が適当と判断される場合もあるが、市町村の判断を尊重すること。
また、障害福祉サービスの利用に関して、局又は署が独自に判断するケースはないと考えるが、仮に障害福祉サービスの内容に疑義が生じた場合は市町村担当者等に適宜相談すること。

6 個人情報の取扱い

安定所又は市町村との連携において、局又は署が取得した支援対象者の個人情報(「氏名」と「住所」)を提供することを想定しているため、上記3(2)のアンケートにおいて情報提供に係る同意を得ることとしている。

7 社会復帰支援実施後の対応

(1) 必要な保険給付の実施

安定所又は市町村との連携後も支援対象者からの請求に基づき必要な保険給付を行うこと。就労移行支援の利用を開始したことをもって精神障害が治ゆ(症状固定)となったと判断されるわけではないことに特に留意すること。
また、就労を開始したとしても、療養のため休業を必要とすることも想定されることから、療養のため労働することができなかったと認められる日に関しては主治医の証明等に基づき、休業(補償)等給付の支給を行うこと。

(2) 症状照会の実施

保険給付を行いつつ、適正給付通達に基づき、他の傷病と同様に適切な時期に症状照会を行うこと。
なお、検討会報告書では、精神障害の「治ゆ」について、
① 精神障害の症状が現れなくなった
② 症状が改善し安定した状態が一定期間継続している
③ 社会復帰を目指しリハビリテーション療法等を終えた
のいずれかの場合であって、通常の就労が可能な状態に至ったときには、「投薬等を継続していても通常は治ゆ(症状固定)の状態にあると考えられる」と示されており、支援対象者が就労を開始したことを把握した後の主治医又は専門医に対する意見依頼は上記の考え方を踏まえて行うこと。

8 その他

(1) 本通達は精神障害の長期療養者に対する社会復帰支援を実施するため、関係行政機関と連携して行う取組を示したものであり、従来の適正給付に係る取組を変更するものではない。
(2) 精神障害の長期療養者へ各種説明を行う際には、治ゆ(症状固定)後は障害(補償)等給付を受給できる可能性があること、必要に応じて社会復帰促進等事業としてのアフターケアにより、診察、カウンセリングや薬剤の支給等を受けることができることを説明すること。
(3) 当該年度の取組の結果については、翌年度6月30日(閉庁日の場合は翌開庁日)までに別紙3「精神障害の長期療養者に係る社会復帰支援実施状況報告」により、当課福祉係へ報告すること。
(4) 精神障害による長期療養者への社会復帰支援に係る関係行政機関との連携については、本通達による取組を足がかりとして、今後、拡充を検討するものであることを申し添える。

別紙1 アンケート(公共職業安定所用)

療養により症状が軽快し、一定程度改善・安定したと医学的に認められる方においては、社会復帰への足がかりとして、ハローワーク(公共職業安定所)による職業紹介を受けられるよう、支援いたします。
社会復帰支援の利用をご希望される場合には、お住まいの地域を管轄するハローワークに紹介いたしますので、本アンケートにてご意向をお聞かせください。
ハローワークに紹介することとなった場合には、お名前とご住所をハローワークに提供いたしますので、ご理解のほど、よろしくお願いします。
※ご提供いただいた情報はハローワークに提供する目的以外には使用いたしません。
氏名:
質問1 会社等への在籍状況についてお聞かせください。
① 休職前の会社等に在籍しているが、現在は休職中である。
② 現在は会社等には在籍していない(休職前の会社等は退職した)。
(回答)【    】
質問2 社会復帰支援の利用のご希望についてお聞かせください。
① ハローワークによる就職支援の利用を希望する。
※ハローワークに私の氏名及び住所が提供されることに同意する。
② ハローワークによる就職支援の利用を希望しない。
※引き続き療養に専念したい、現在の職場において復職訓練を受けたいといった場合は、「②」を選択してください。
(回答)【    】
質問は以上です。ありがとうございました。

別紙2「アンケート(市町村用)」は同内容のため省略

別紙3 精神障害の長期療養者に係る社会復帰支援実施状況報告(令和○年度)○○労働局

1 調査等実施状況

① 主治医への調査を行った者 人
② 別紙2「アンケート(公共職業安定所用)」を送付した者 人
別紙3「アンケート(市町村用)」を送付した者 人
③ 支援対象者として選定した者 人
うち、安定所を案内した者 人
うち、市町村の窓口を訪問するように案内した者 人
④ 安定所による職業紹介を受けた者 人
(※)就労移行支援等の利用を開始した者 人
※④については局署で把握している範囲で回答すること。

2 本取組の改善に関する意見等

報告期限:毎年度6月30日(閉庁日の場合は翌開庁日)

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