COVID-19罹患後症状認定/東京●看護士の院内感染否定するクリニック

Bさん(女性・44歳)は、看護師。昨年秋、都内クリニックで透析室での仕事についた。勤めはじめてまだ間もない10月のある朝、いつものように透析室準備をしながら同僚と話していたBさんは、自分の声が普段と違って妙にかすれることに気がついした。発熱こそしていなかったものの、先輩の看護師に相談し、同クリニックの医師を受診。抗原検査を受けたととろ、COVID19陽性との結果だった。薬処方を受け早退し、以後自宅療養となった。
療養中、Bさんはひどい咳に悩まされた。発症から約2週間がすぎ、やっと陰性という結果が出て職場復帰した。しかし、その後も咳、倦怠感、息切れ、思考がまとまらない、不眠等の症状が残った。12月に入ると、よくなるどころか喉の詰まり感、息苦しさ、動悸・めまいなど、もう仕事をできる状態ではない、と休職することになった。
様々な症状に近隣の病院の医師が診断に行き詰まるなか、コロナ感染の延長線上の影響ではないかと考えたBさんは、年末ぎりぎりにコロナ後遺症外来を受診。「コロナ後遺症」との診断を受けた。医師に感染確認時の職場で他に複数のスタッフがコロナ陽性がでていた事実を伝えると「職場感染による労災の可能性がありますね」と言われた。
COVID-19感染から職場に戻った11月、傷病手当金の手続きを勧める人事担当に「傷病手当金申請書には、院内感染と記入しないこと」「職場感染となると職場がお金を支払わなければならない。だから院内感染とは書かず、『市中感染による新型コロナウイルスに感染』と書くように」と言われた。あらためて医師から「労災の可能性」と言われ、どうすればいいのか思ったBさんは、所轄の労働基準監督署に電話した。監督署には「労災になったからと職場が支払うことはない」と説明され、職場が労災保険に加入し、保険料も納付されていることもわかった。
年明け、電話で人事担当に労災申請したいと伝えると「労災じゃない」「感染しないように気をつけていたら感染なんかしないんだ」「あなたのは市中感染だ」「近所で買い物するんだから、そこで感染したんだ」とすごい剣幕でののしられた。この時受けた暴言が契機になり、Bさんは動悸と強い不安感に苦しむようになった。面談に来るようにと勤め先からの通知も屈いたが、主治医が診断書に「4月末までの療養が必要」とした上で、当面はストレスのかかる面談等を控えるべきとの意見も添えてくれ、Bさんは面談を回避できた。
一方で、Bさんはクリニックが準備してくれない労災請求を自分で進めなければと思っていた。しかし、COVID-19感染以降、思考を整理することができない、思い出せない、書いた文章を自分で推敲できない等で、書類作成に困っていた。
東京都の労働相談情報センターの紹介で、東京安全センターにつながり労災請求書類を作成したBさんは、事業所に事業主証明等の協力を求めて書類を郵送した。しかし、提示した期限が過ぎてもクリニックは返事も書類返送もよこさず、書類を待つ強いストレスでBさんの体調は悪化。Bさんの意向を受け、都労働相談情報センターが労災書類の進捗状況の確認とBさんの労災書類の早期返送を働きかけてくれ、結果、事業主証明なしで労災書類が返送されてきた。労災請求したいと申し出てからクリニックに一貫して嫌がらせをされ続けて2か月、Bさんは労基署に労災請求書を出した。そして、請求提出からわずか2週間たらずで、業務上認定された。
Bさんは労災認定後間もなくクリニックを退職した。当面は焦らずじっくりと療養に専念していってほしいと思う。おりしも新型コロナウイルス感染症は、これまでの「新型インフルエンザ等感染症(いわゆる2類相当)」から「5類感染症」になった。療養中のBさんと日々の体調の様子などのやり取りをするたびに、安易にコロナ禍の幕引きをさせてはいけないという思いを強くしている。

文・問合せ:東京労働安全衛生センター

安全センター情報2023年8月号