労働安全衛生法令策定のためサポートキット(2022.1.13 国際労働機関(ILO)から/00 1.-5. はじめに

免責事項

この労働安全衛生(OSH)法令策定のためのサポートキットの目的は、ILO国際労働基準、実施準則・手引きや各国の比較実践に基づいてOSH法の枠組みを開発・改善することをめざすILO加盟国を支援することである。
サポートキットに掲載されている国内法令の条文の事例は、ILOによる推奨や、「モデル法」または「ベストプラクティス」としてこれらの法的条文に従うべきことを示唆するものではない。むしろ、サポートキットにそれらを含めているのは、ある立法要素を含めるという政策的に決定された場合に、どのように当該要素を起草することができるか説明することを意図したものである。
説明に役立つ関連する法令条文の事例を提供するために、多大な努力が払われた。法律が進化することを考えれば、これらの条文の最新の状態は、とりわけ時間が経過した場合には、保証されるものではない。

1. 包括的な予防に基づくOSH管理・法令の必要性:ビジネスケース

労働安全衛生(OSH)パフォーマンスのまずさが労働者、使用者や地域釈迦に与える人的・経済的な悪影響はよく実証されており、行動のための明快な呼びかけになっている。2017年についての最新の世界推計は、毎年278万人の労働者が労働災害や職業病の結果として死亡し、数億人の労働者が一時的及び永久的な非致死的労働関連傷害・疾病に苦しんでいることを明らかにしている。こうした世界推計は、どの国も免れることのできない、多数の労働者の死亡・負傷・健康障害をもたらす大惨事によって定期的に強調されている。
まずいOSHパフォーマンスの全体的な経済的負荷は、世界の国内総生産(GDP)の4%近くを占め、年間費用はほぼ2兆9900億ドルと推計されている。まずいOSHパフォーマンスのGDPにおけるこの費用推計に加えて、いくつかの国は、この経済的負荷が労働者、使用者や地域釈迦にどのように分配されるかを評価する研究を実施している。2012年にセーフワーク・オーストラリアは、OSH関連の傷病の経済的費用の大部分は労働者と地域社会が負担しており、労働者が経済的費用の77%、(社会保障や医療費を通じて)地域社会が18%、使用者が5%を負担していると推計している。
OSHパフォーマンス改善への投資効果に関する研究は、職場におけるOSH改善実施の「費用」の認識を覆しつつある。ミクロ経済レベルでは、EU-OSHA[欧州労働安全衛生機関]の報告書が、OSHへの投資が企業に実質的な利益をもたらすことを実証している。こうした「費用」を投資としてとらえ直すことは、不釣り合いな数の労働災害・職業病が発生し、OSH改善への限られた財源の投資が他のビジネス上の優先事項と競合している、零細・中小企業との関連でとりわけ重要である。2013年にISSA[国際社会保障協会]の報告書が、個々の企業が予防的なOSH戦略に1米ドル投資すると、2.2米ドルの見返りが得られると推計している。
表1・2は、職場でOSH戦略を実施する際の費用対効果分析の主要な要素を簡単にまとめている。

2. 国のOSHシステム

効果的なOSH戦略とポジティブなOSHパフォーマンスは、健全な国のOSHシステムの存在に左右される。このようなシステムは、2006年労働安全衛生促進枠組み条約(第187号)によって、「労働安全衛生に関する国の政策及び国の計画を実施するための主要な枠組みを提供する基盤」と定義されている。国のOSHシステムは、相互に関連したOSH諸能力によって構成され、それらが一体となって国のOSHパフォーマンスを向上させ、結果として労働災害・職業病を防止する。各々のOSH能力は必要であるが、それだけでは国及び職場レベルにおけるOSHパフォーマンスの改善につながるには十分ではない。
包括的な予防に基づくOSH法令枠組みは、国のOSHシステムの必要な能力のひとつである。うまく設計・起草されれば、労働者と使用者が自らの権利と義務を理解・履行する能力、政府が法的条項を管理・執行する能力を容易にすることができる。
国のOSHシステムのその他の必要な能力は以下のとおりである。

▶使用者と労働者のための教育、訓練及び能力開発
▶政策決定過程における三者構成社会対話の活用
▶職場監督
▶労災補償プログラム
▶OSH専門機関・ネットワーク
▶信頼できるOSHデータ、など

表2に示した効果と機会に加え、よく設計されたOSH法令には、以下によって主要な関係者に確実性と明確性を提供するという付加的な利点もある。

▶OSHに関連する義務・権利保持者を定義する
▶そのような義務・権利の性質及びそれらを満たすためにどのようなステップを講じなければならないかを定義する。
▶労働災害・職業病予防のためのメカニズムを確立する。
▶労働者がOSHに関する懸念を表明する場合に彼らを保護するためのメカニズムを設定する。
▶労働災害・職業病が生じた場合に所得及び医療を確保することを含め、社会的保護のためのメカニズムを設定する。
▶国及び職場レベルで社会的対話のためのメカニズムを確立し、OSHの改善を使用者・労働者及び政府にとって共通の優先事項とする。

3. 労働安全衛生法令策定のためのサポートキット

3.1 コンセプト

このOSH法令策定のためのサポートキットは、加盟国が、第187号条約によって求められる国のOSHシステムを実施し、並びに、ともにあいまって国及び企業レベルでのOSH成果の改善につなげる相互に関連するOSH諸能力を構築するのを支援しようとする、2015年にILOによって開始されたILOフラッグシッププログラム「セーフティ+ヘルス・フォー・オール」のもとで開発された。上述したとおり、こうした必要な能力のひとつが、OSHを包括的に扱い、OSHをその他の関連する法的枠組みに統合する、OSH法令枠組みである。
このサポートキットは、OSH法令の確立または改革に取り組むための枠組みを提供することによって、ILOの構成員のニーズに応えることを目的にしている。サポートキットは、包括的な予防に基づくOSH法令の枠組みの主要な原則及び構成要素を系統的に明示・分析する。各構成要素について、また可能な限り、異なる法的伝統をもつ国々の法令構成要素の事例とともに、主要な政策及び設計の選択を確認及び議論する。サポートキットは、「階層的」アプローチを採用し、場合によってはOSH政策及び規制設計の基本的な諸問題に関するより複雑な意思決定を支援するために、国際労働基準に関連した法令枠組みにおけるギャップを確認するために利用することができるようにしている。

3.2 目的

このサポートキットは、以下の2つを主な目的としている。

1. 以下によって、政策立案者、立法者、その他の構成員が、OSH法の採用につながる立法議論に効果的に参加するための基礎を提供する。

▶十分に考慮されるべき(国際労働基準(ILS)及び規制が強化されつつあるその他の法的規定に基づき)法令枠組みの構成要素と法的要素を容易に確認する。
▶なぜこれらの構成要素と法的要素が重要であるかを理解する。
▶構成要素と法的要素の基礎にある異なる政策選択について理解する。
▶他の国々が自国のOSH法令のなかでこれらの構成要素と法的要素どのように規制しているか、関連する条文を起草する際にどのような設計オプションが利用できるのかを学ぶ。

2. 国際労働事務所が以下を行えるようにする。

▶早い段階、理想的には政策立案者・立法者がOSH法の起草または改革を開始する前に、加盟国の立法過程に積極的に関与する。
▶OSH法の草案について相談を受けた場合に、より迅速かつ包括的な技術的支援を提供する。
▶OSH法令枠組みに関する技術的支援を提供する際に、事務所全体(本部及び現地スタッフ)で一貫したアプローチを採用する。

3.3 対象者

このサポートキットが対象とする読者は以下のとおりである。

▶政策立案者・立法者、使用者・労働者の代表や労働監督官を含め、OSH法令枠組みの策定に参加する、ILOの構成員
▶市民団体やOSH専門家の組織など、立法過程に参加する可能性のあるその他の関係者
▶加盟国に技術的支援を提供するILOスタッフ

このサポートキットは、包括的(枠組み)OSH法の採用または既存の法律の改訂・現代化を希望している、OSHに対するアプローチが時代遅れまたは不完全な国のために、主として設計された。

3.4 対象範囲と限界

このサポートキットは、広い範囲をもっているが、以下に示すような限界もある。

1. OSH法令枠組み

サポートキットは、OSH法令枠組みが含むべきすべての法的要素を包含している。ほとんどの規定は主要な、一般的な、枠組みOSH法に組み込まれるだろうが、一部の要素は労働・行政・刑法や実施規則のなかに見出されるかもしれない。

2. 経済部門

サポートキットには、特定の経済部門・ハザーズを対象にした要求事項についての詳細な議論は含まれていない。その焦点は、包括的な予防に基づくOSH法令枠組み、及び、経済活動のすべての部門にまたがって適用することができ、また、すべての労働者に適用される法的要素に当てられている。

3. 法的要素の有効性

サポートキットは、包括的な予防に基づく一般的なOSH法の構成要素と、可能な限り、なされる必要のある政策選択をマッピングすることを企図している。サポートキットは、検討した様々な法的要素、政策選択及び事例の影響または有効性についての実証的分析は提供していない。これは、OSH法令の影響を批判的に評価する研究がほとんどなく、その知見が法令が実施された状況によって異なっているからである。
OSH法令の有効性の評価は複雑な仕事である。例えば、OSHパフォーマンスを測定するのに伝統的に用いられてきた指標は、労働災害・職業病の件数や頻度の増減である。しかし、現実には、国のOSHパフォーマンスの変化は、あいまって作用する多数の介入の結果である場合が多く、たんにOSH法令だけの結果によるものではない。

4. 法的理論と実践

サポートキットは、法的理論と実践の両方をバランスよく取り入れることを企図した。しかし、サポートキットの包括的な目的は、ILOの構成員が容易かつ迅速に活用できる現実的ツールであることである。したがって、サポートキットは、様々な状況のなかで活用することができ、様々なレベルのOSH技能をもつ構成員による議論を支援する、実践的でユーザーフレンドリーなツールであることを意図している。

5. 実体的な法的規定

このサポートキットは、主に実体的OSH法を扱うよう設計されており、意図的に手続的法令または規制は対象としていない。実体法は、法的関係を扱う法的規定で構成される。つまり、自然人または法人の権利と義務を定義する。手続法は、行政や裁判の手続を統制する規則で構成され、実体法の執行において重要な役割を果たす。OSH法執行のこのような手続的な検討は、部分的または全体的にOSH法のなかに含まれるか、他の法令文書のなかに含まれる可能性がある。

6. 普遍的なリソース

このサポートキットは、主な焦点は時代遅れまたは不完全なOSHシステムをもつ諸国に置いているものの、いかなる地域の、いかなる法的伝統においても、加盟国が活用することのできる普遍的なリソースであることを意図している。その結果、サポートキットは、その普遍的な機能性を失うことなく、また活用が圧倒的に複雑になることなく、異なる国や法的伝統の特定の状況に対処することはできなかった。このサポートキットで示されるOSH法的枠組みの構成要素は、地域の文脈、社会経済的・政治的状況、国の資源、法的伝統、優先事項・課題に従って、政府、社会パートナーその他の関係者によって議論されるべきであり、国の状況に従って、また一貫性をもって、国の法律に組み込まれるべきである。

7. 資源

サポートキットは、限られた文献レビューと立法分析を考慮し(ILO労働安全衛生法令グローバルデータベース(LEGOSH)の対象である130か国についてのデータに限定)、様々な法律専門家の多大な貢献に負っている。

3.5 背景と事情

ILOは、各国が自国のOSH政策、システム及びプログラムを構築・強化するうえで技術的支援を提供している。過去10年間、OSHを扱う自国の法律が不十分または時代遅れで、改革の必要性があると決定した加盟国の数が着実に増えている。支援を求める加盟国のなかには、伝統的にOSHを一般的な労働法または法典に含めていたが、独立したより包括的なOSH法令の策定を望む国や、以前は「工場法」のなかでOSHに対処してきたが、最新化し、対象範囲をより多くの労働者・職場に拡大しようとしている国がある。サポートキットは、ILOの技術的支援に対する受容の増加に対応するものである。
改革に着手する加盟国はしばしば、主要な諸原則の包括的なセット(範囲、対象、義務と権利)、様々なハザード・リスク評価メカニズム(マネジメントシステム、管理のヒエラルキー、労働衛生サービス)、社会的対話のためのメカニズム(安全衛生代表、安全衛生委員会、全国・部門別評議会)、政府の行政的及び執行的責任と権限(データ収集システム、OSH執行当局、OSH研究所・試験所)や、実施を規制するための技術的パフォーマンス及び/または規範的基準を含めた部門・ハザード別の法令を確立するところまで、OSH法令策定のレベルが到達している諸国から学びたいと望んでいる。このサポートキットは、包括的であり、ある程度これらの要素のすべてを網羅するよう試みている。
OSH法令枠組みの策定において構成員を支援するためにILOが構築してきたツールのひとつが、130以上の加盟国のOSH法令規定の事例を特徴とし(2017年現在)、包括的な分析を可能にする、LEGOSHグローバルデータベースである。このサポートキットは、OSH法令の確立または改革に取り組むための枠組みを提供することによって、ILO構成員のニーズに応えるために、LEGOSHツールその他のリソースに基づいて構築されている。
ILOが法令の策定または改革プロセスに関与する機会の時間窓は狭いことが多い。またILOは、立法過程のあらゆる段階に関与することができる。このため、最初の法案が作成される前も含め、議会の承認を得るための立法準備のどの段階にあっても、構成員が容易に利用でき、かつ関連性の高いツールが必要であることが明らかにされている。このツールは、この必要性に応えることを目的にしている。

3.6 方法論と時間枠

1. 開始段階

サポートキットの作業を開始する前に、このイニシアティブを詳述した概要書を、サポートキットが扱う技術的領域の専門技能をもつILO本部部局及びILO現地事務所で働くOSH専門家と共有して協議・検証を行った。受け取ったフィードバックは、このイニシアティブを強く支持し、構成員がOSH法令を設計・起草するのを支援するツールの必要性を確認した。協議には、ILOと指導的な学術機関の両方から労働法改革とOSH法令の専門家が参加した、2017年1月開催のワークショップも含まれている。

2. アウトラインの作成

サポートキットのアウトラインは、OSHと労働監督に関するもっとも重要なILS(表3参照)、包括的な予防に基づくOSH法(表4参照)及びマネジメントシステムなどのアプローチに基づいている。サポートキットのアウトラインはまた、これら2つのリソースの統合的な活用を促進するためにLEGOSHの構成と可能な限り一致させた。

3. 内容の作成

ILOは、OSH専門家、研究者や実務家と協力して、サポートキットの12のセクションの内容を練り上げた。それらはさらに、(a)国・地域・国際的組織の研究出版物や報告書を含めた学術文献の机上レビュー、(b)様々な構成要素とそれらの諸要素を規制した法的規定の横断的分析の可能な各国の法令についてのLEGOSHで利用可能なデータ、(c)条約及び勧告の適用に関する専門家委員会(CEACR)によってなされたコメントに基づいて詳述された。

4. ピアレビューと検証

サポートキットは、とりわけOSH政策・立法に関して、OSHの研究・実践に豊富な技能や経験をもつ外部研究者によるピアレビューのために提出された。サポートキットの内容は、ピアレビュワーによるコメントや提案された修正に基づいてさらに開発・調整された。加えて、サポートキットは、協議のために、その技術的領域がサポートキットで扱われる対象事項を含むILOスタッフらと共有された。

4. このサポートキットの活用方法

4.1 構造

サポートキットは、包括的な予防に基づくOSH法の主要な構成要素を扱った12のセクション(Ⅰ~Ⅻ)で構成されている。各セクションには以下が含まれている。

  1. はじめに
  2. 構成要素の根拠についての議論
  3. 関連するILS
  4. 様々な政策・設計オプションの分析(データがある場合)
  5. 法令の事例と傾向
  6. 当該課題により深く取り組むことを望むユーザーのための文献目録/役に立つリソースのリスト(学術論文、出版物、ツール、データベースなど)
  7. 問題とギャップの確認を支援するためのチェックリスト

4.2 活用方法

このサポートキットは、自国のOSH法の策定または改革に着手することを決定した国によって、立法過程のどの時点においてもリソースとして活用されることを意図している、しかし、以下に示すように、サポートキットの活用がとりわけ有用であり得る2つの時点がある。

1. 法令の策定または改革の最初の時点、OSH法令の改革を開始する決定がなされた時点でのサポートキットの活用

OSH法をもっていない国に対してこのサポートキットは、包括的な予防に基づいたOSH法に含まれるべき構成要素は何か、なぜそれらが重要で、どのように起草することができるかを、構成員が理解するのを支援するだろう。また、立法過程で構成員に寄り添い、意思決定過程における情報に基づいた議論と討論に寄与する。
各国が既存のOSH法を改革しようとする場合、サポートキットは当初、既存の法令におけるギャップを含め、何が問題なのかを判断するのを助け、それらに対処する方法に関するガイダンスを提供することのできる、構成要素の注釈付きアウトライン及び法的要素のチェックリストとして役立つ。

2. OSH法令の改革過程におけるサポートキットの活用

この場合には、OSH法がすでに施行されており、見直しと最新化が追求されており、ILOの支援が要請される典型的な時点である。このような状況では、法案がすでに作成されており、構成員は典型的にはILSや他国のOSH法に照らして法案を評価することを望んでいる。多くの場合、各国は「グッドプラクティス」または特定の懸念項を扱った法律の事例を求めている。ここでもサポートキットは、可能性のある懸念事項、OSH法案における時代遅れの条項やギャップを確認するのを助ける、構成要素の注釈付きアウトライン及び法的要素のチェックリストを提供することによって、構成員がその評価に取り組むのを助ける。また、起草者または三者構成助言委員会が技術的諸問題に対処する最善のアプローチについて疑問をもったとき、または技術的諸問題にどのように取り組むべきかについて意見の相違があるときのいずれかの場合にも、このサポートキットは有用である。
ILOの支援が要請される場合には、ILOのスタッフも、法案に関する事務所の技術的な覚書を作成する際に、サポートキットを活用することができる。状況が許す限り、ILOスタッフはサポートキットとその活用方法を紹介し、活用を促進すべきである。これは、このツールがどのように活用されることを意図されているか、また立法過程全体を通じてどのように役立つかを、構成員が理解することを確保するだろう。サポートキットの12のセクションは、ILOスタッフが、特定の課題をめぐる議論を最適に構成し、議論のなかですべての重要な点が取り上げられるようにすることができる。サポートキットの内容は、ILOスタッフが、特定の構成要素または法的要素が名ず重要であるかを説明し、どのようにそれらを具体的な法令の規定に転換し得るかを示すことができるようにする。ILOスタッフは、様々な政策オプションの長所と短所に関連する議論を支援し、サポートキットで提供される情報に基づいて各国がそれらの問題にどのように対処してきたかの事例を提供する能力をもつことになる。

4.3 立法過程における主要な段階

国の立法過程は多様である。主要な段階は、各国の憲法や法令で定義された、政府の形態によって決定される。多様性にもかかわらず、ほとんどの国の立法過程に典型的に存在する、主要な諸段階がある。表5は、ユーザーが立法過程のどの時点でサポートキットを役に立つリソースとして活用することができるか理解するのを助けるために、可能性のある論理的フローにおけるそれらの主要な諸段階を、各段階についての簡単な要約をつけて、グループ分けしている。国によって異なるために、表は「標準的」な立法過程を示すものではない。

1. 準備/開始段階

新しい法律の策定または既存の法律の改革の決定がなされたら、準備過程に入らなければならない。立法過程を開始し得る状況と関係者は様々である。いったんはじまったら、誰が政策決定及び起草段階に関与するのか、政策決定・起草過程で必要な情報・データの収集、協議を受ける関係者などを決定するための行動計画が作成されるかもしれない。
準備段階において、OSHインフラやインフォーマル経済、(MSMEsにおける)義務保持者の法令を遵守する能力、法令の潜在的デメリットや可能な代替案を含め、国のOSH状況を考慮しつつ、提案される法的改革がもつかもしれない経済的・社会的・環境的結果に関する影響評価、提案を執行する国の能力を含め、提出される立法提案を、構成員が注意深く分析及び議論することが重要である。これらの検討は、準備段階に加えて、立法過程の他の段階でも役割を果たす可能性がある。

2. 概念化/政策設計段階

この段階では、政策立案者は、(a)立法目的を設定し、(b)対処しようとする問題や課題及び達成することを望む目的を確認し、(c)確認された問題や課題を解決するのに役立つ法的及び非法的な政策オプションと解決策を分析し、(d)(非介入を含め)様々な政策代替案の費用と効果を分析し、最終的に与えられた文脈や状況においてもっとも適切な政策は何かを決定する。

3. 起草段階

政策決定がなされたら、法律の起草が開始される。これは、以下のように起草過程を優先順位づけすることによって、構造化及び体系化されたやり方で多なうことができる。まず法律のアウトラインを作成し、次になされた政策決定を具体的な法的規定に変換する。
政策分析、意思決定及び起草はしばしば同時に行われ、役割を果たす者が異なる場合には、政策立案者と起草者の間で反復的なやりとりが行われる。結果的に、立法過程は、政策設計段階と起草段階の間を行ったり来たりすることになる。

4. 議会段階

いったん法令が起草されたら議会段階がはじまる。手続はここでも国によって様々である。この段階は、読会、審議及び議会による法案に対する修正によって構成され、結果的に新しい法律及び/または既存の法令の改革が採択されるだろう。

5. 実施段階

実施段階は広い意味で、法案が採択されて法律になった後に、とられる必要のあるすべての行動を対象としている。これは、(a)新しい法令を管理・執行するための必要な組織的能力・リソースの確立、(b)実施のための技術的的基準・ガイダンスの起草・発行、(c)法令の順守を達成するために必要な戦略の考案、(e)紛争解決と司法メカニズムが実施されていることの確保、(f)新しい法律の影響・効果の監視・評価を網羅している。

このサポートキットは主として、立法過程の、準備/開始段階、概念化/政策設計段階及び起草段階を対象にしている。

関係者との協議

政策・立法イニシアティブを成功させるために不可欠なのは、すべてのレベルにおける政府機関、社会パートナー及び新たなまたは改革された政策・法律によって影響を受けるであろうその他の関係者の積極的な関与である。協議は、たとえ立法化するという決定がなされる前であっても、早い段階から、理想的には政策決定と立法過程のすべての段階において行われるべきである。
社会パートナーとの協議は、ILSのもとでの要求事項である。市民団体その他の関係者を含め、より幅広い協議が有益かもしれない。関連するすべての関係者をマッピングし、協議のための計画を作成することが、効果的な関与の達成を確保するために重要かもしれない。協議は通常、存在する場合には、国の三者構成OSH委員会を通じて行われる。代わりに、特別の委員会またはタスクグループを設置することもできる。

5. アイコン目録

サポートキットは、ILS、事例、役に立つツール、定義等を視覚的に確認することによって、ユーザーがこのツールをナビゲートするのに役立つように、アイコンを使っている。サポートキットのなかで使用されているアイコンを理解するために、以下の目録[省略]を参照されたい。

Support Kit for Developing OSH Legislation ダウンロードページ

https://www.ilo.org/publications/support-kit-developing-occupational-safety-and-health-legislation

安全センター情報2023年1・2月号