化学物質管理に係る専門家検討会中間取りまとめ[簡略版/(注)・文献レビュー等省略]2022(令和4)年11月21日厚生労働省労働基準局安全衛生部
目次
- Ⅰ 検討の趣旨及び経緯等
- Ⅱ 労働者のばく露が濃度基準値以下であることを確認する測定等について
- Ⅲ 個人サンプリング法による作業環境測定の今後の在り方について
- 別紙目次[別紙1~4は別紙の表題のみを記載]
- 中間とりまとめ概要版・詳細版PDF
Ⅰ 検討の趣旨及び経緯等
1 検討の趣旨
今般、国内で輸入、製造、使用されている化学物質は数万種類にのぼり、その中には、危険性や有害性が不明な物質が多く含まれる。さらに、化学物質による休業4日以上の労働災害(がん等の遅発性疾病を除く。)のうち、特定化学物質障害予防規則等の特別則の規制の対象となっていない物質を起因とするものが多数を占めている。これらを踏まえ、従来、特別則による規制の対象となっていない物質への対策の強化を主眼とし、国によるばく露の上限となる基準等の制定、危険性・有害性に関する情報の伝達の仕組みの整備・拡充を前提として、事業者が、危険性・有害性の情報に基づくリスクアセスメントの結果に基づき、国の定める基準等の範囲内で、ばく露防止のために講ずべき措置を適切に実施する制度を導入することとしたところである。
この制度を円滑に運用するために、学識経験者からなる検討会を開催し、2に掲げる事項を検討する。
2 検討事項
(1) 労働者に健康障害を生ずるおそれのある化学物質のばく露の濃度の基準及びその測定方法
(2) 労働者への健康障害リスクが高いと認められる化学物質の特定並びにそれら物質の作業環境中の濃度の測定及び評価の基準
(3) 労働者に健康障害を生ずるおそれのある化学物質に係るばく露防止措置
(4) その他
3 中間取りまとめ
今般、本検討会は、2に掲げる検討事項のうち、次に掲げる事項について、中間的な取りまとめを行った。
(1) ばく露が濃度基準値以下であることを確認する測定等について
(2) 個人サンプリング法による作業環境測定の今後の在り方について
4 検討の経緯[省略]
5 構成員名簿[省略]
Ⅱ 労働者のばく露が濃度基準値以下であることを確認する測定等について
第1 基本的考え方
※文献レビュー結果等は、別紙1参照
1 労働者のばく露の最小化と濃度基準値の法令上の位置付け
(1) リスクアセスメント対象物については、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。以下「安衛法」という。)第57条の3第1項に基づくリスクアセスメント(以下「リスクアセスメント」という。)を実施することが事業者に義務付けられており、同条第2項により、リスクアセスメント結果に基づき、法令に基づく措置に加え、労働者の危険や健康障害を防止するために必要な措置を講ずるよう努めなければならないことが規定されている。これに加え、新たな化学物質規制においては、安衛法第22条に基づく措置として、労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号。以下「安衛則」という。)第577条の2第1項でリスクアセスメント対象物を製造し又は取り扱う事業者に対して、リスクアセスメントの結果等に基づき、労働者の健康障害防止のため、代替物の使用、発散源を密閉する設備、排気装置の設置及び稼働、有効な呼吸用保護具の使用等により、リスクアセスメント対象物に労働者がばく露される程度を最小限にすることを義務付けている。さらに、同条第2項において、リスクアセスメント対象物のうち、厚生労働大臣が定める濃度の基準(以下「濃度基準値」という。)が定められた物質を製造し又は取り扱う業務を行う屋内作業場において、労働者のばく露の程度が濃度基準値を上回らないことを事業者に義務付けている。
(2) これらの規定には、測定の実施は義務付けられておらず、ばく露を最小化し、濃度基準値以下とするという結果のみが求められていることに留意する必要がある。また、これらの規定には優劣はなく、これらの規定に基づく措置を等しく実施することが必要なものである。なお、濃度基準値は、有機則、特化則等の特別則の適用のある物質には設定されない予定である。
(3) 今後、リスクアセスメント対象物が約2,900物質に拡大される予定である一方、濃度基準値は800程度の物質に限られる見込みであることから、事業場においては、まずは、数理モデルの活用を含めた適切な方法により、事業場で製造し又は取り扱う、全てのリスクアセスメント対象物に対してリスクアセスメントを実施(注1)し、その結果に基づきばく露低減措置を実施する必要がある。さらに、リスクアセスメントの結果、労働者のばく露が濃度基準値を超えるおそれのある作業を把握した場合は、労働者のばく露の程度と濃度基準値を比較し、労働者のばく露が濃度基準値以下であることを確認するための測定(以下「確認測定」という。)を実施し、その結果を踏まえて必要なばく露低減措置を実施すべきである(注2)。
(4) 濃度基準値は、安衛法第22条に基づく健康障害を防止するための最低基準であることから、全ての労働者のばく露が、濃度基準値以下である必要がある。ただし、測定値の平均値の上限信頼限界が、濃度基準値以下であることを維持することまでは求める必要はないと考えられる。なお、濃度基準値は、法令上、労働者のばく露がそれを上回ってはならない基準であるため、労働者の呼吸域の濃度が濃度基準値を上回っていても、有効な呼吸用保護具の使用により、労働者のばく露を濃度基準値以下とすることが許容される(注3)。仮に、事業者が実施した確認測定の結果、労働者のばく露が濃度基準値を上回っていた場合は、直ちにばく露低減措置を講じる必要がある。また、労働基準監督機関が労働者のばく露が濃度基準値を上回っていることを把握した場合は、ばく露低減措置の実施を主眼とし、具体的な実施方法を示す、外部専門家の活用を促すなどにより、事業場に対して丁寧な指導を行うべきである。
(5) 一方、安衛法第57条の3に定めるリスクアセスメントにおいては、濃度基準値がない物質については、一定以上のばく露があると推定される場合等、正確なばく露の評価を行う必要がある場合にのみ、測定を実施すべきである。この測定は、作業場全体のばく露を評価し、安衛則第577条の2第1項により、ばく露を最小限とするための対策を検討するために行うものであるから、工学的対策を実施する場合にあっては、労働者の呼吸域の測定のみならず、よくデザインされた場の測定(注4)も必要になる場合がある。また、統計的な根拠を持って事業場の有害物質のばく露が有効な管理下にあることを示すため、測定値のばらつきに対して、統計上の信頼区間(95%)を踏まえた評価を行うことが望ましい。
(6) なお、建設作業等、毎回異なる環境で作業を行う場合については、異なる現場で毎回測定を行うことは困難であることから、典型的な作業を洗い出し、あらかじめそれら作業における労働者のばく露を測定し、その測定結果に基づく要求防護係数に対して十分な余裕を持った指定防護係数を有する呼吸用保護具を使用すること、防毒マスクの場合は適切な吸収缶を使用すること、局所排気装置の設置及び使用等により、それら典型的な作業において、労働者のばく露の程度の最小化を行うとともに、労働者のばく露が濃度基準値を上回らないと判断する方法も認められるべきである。
(7) これらの安衛則第577条の2第1項及び第2項に関する一連の措置については、安衛則第12条の5第1項に規定する化学物質管理者が管理する事項に含まれていることから、化学物質管理者の管理下において実施する必要がある。
2 確認測定の対象者の選定
(1) 事業者は、安衛法第57条の3のリスクアセスメントの結果、作業内容の調査、場の測定の結果、数理モデルによる解析の結果等(注1)を踏まえ、有害物質へのばく露がほぼ均一であると見込まれる作業(均等ばく露作業)に従事する労働者のばく露濃度を評価すべきである。その結果、労働者のばく露の程度が、安衛則第577条の2第2項の8時間の時間加重平均の濃度基準値(以下「8時間濃度基準値」という。)の2分の1程度(注2)を超えると評価された場合は、確認測定を実施すべきである。
(2) 全ての労働者のばく露が濃度基準値以下であることを確認するという趣旨から、事業者が、最も高いばく露を受ける均等ばく露作業において労働者の呼吸域の測定を行い(注3)、その測定結果に基づき、事業場の全ての労働者に対して一律の(厳しい)ばく露低減措置を行うのであれば、それよりも低いばく露が想定される作業に従事する労働者の測定を行う必要はない。しかし、事業者が、ばく露濃度に応じてばく露低減措置の内容や呼吸用保護具の要求防護係数を作業ごとに最適化するためには、均等ばく露作業ごとに最大ばく露労働者を選び、測定を実施することが望ましい。
(3) 均等ばく露作業ごとの測定を行う場合は、均等ばく露作業に従事する作業者を把握した上で、その中で最も高いばく露を受ける労働者を選定し、当該労働者の呼吸域の濃度を測定することが妥当である(注4)。なお、通常、十分な能力を有する者が十分な事前調査を実施すれば、最も高いばく露を受ける労働者は判断できる(注5)。
(4) 均等ばく露作業の特定に当たっては、ばく露測定結果が全員の平均の50%から2倍の間に収まらない場合は、均等ばく露作業を細分化することが望ましい。
(5) 労働者のばく露の程度の最小化と、労働者のばく露の程度を濃度基準値以下とすることについては、安衛則第577条の2第10項の規定により、関係労働者の意見を聴取するとともに、安衛則第22条第11号の規定により、衛生委員会において、それらの措置を審議することが義務付けられていることに留意し、確認測定の結果の共有も含めて、関係労働者との意思疎通を十分に行う(注6)とともに、衛生委員会で十分な審議を行う必要がある。
3 測定の実施時期
(1) 測定の頻度については、濃度基準値を上回るばく露が発生していないことを確認する趣旨から、労働者の呼吸域の濃度が、濃度基準値を超えている作業場については、少なくとも6月に1回、個人ばく露測定等(注1)を実施し、呼吸用保護具等のばく露低減措置が適切であるかを確認する必要がある。
(2) 労働者の呼吸域の濃度が濃度基準値の2分の1程度を上回り、濃度基準値を超えない作業場所については、一定の頻度で確認測定を実施することが望ましい。その頻度については、安衛則第34条の2の7及び化学物質リスクアセスメント指針に規定されるリスクアセスメントの実施時期を踏まえつつ、リスクアセスメントの結果、固定式のばく露モニタリングの結果、工学的対策の信頼性、製造し又は取り扱う化学物質の毒性の程度等を勘案し、労働者の呼吸域の濃度に応じた頻度(注2)となるように事業者が判断すべきである。
4 ばく露低減措置の考え方
(1) 労働者のばく露を濃度基準値以下とするための方法については、すでに化学物質リスクアセスメント指針に規定されているように、有害性の低い物質への代替、工学的対策、管理的対策、個人用保護具(注)の使用という優先順位に従い、事業者が対策を検討し、実施する必要がある。
(2) 個人用保護具のうち、呼吸用保護具の選択と使用については、適切な選択と使用を確保するため、米国や英国で、別規則で詳細な規定を置いていることを踏まえ、呼吸用保護具の選択と使用について詳細な規定が必要である。具体的には、溶接ヒューム測定等告示で定める方法を踏まえ、JIS T 8150に定める方法により、個人ばく露測定の結果に基づき呼吸用保護具の要求防護係数を算出し、それを上回る指定防護係数を有する呼吸用保護具を使用させる必要がある。また、防毒マスクの場合は、適切な吸収缶の選択と破過時間の管理が必要である。さらに、米国安全衛生庁(OSHA)規則と同等な方法である、JIS T 8150に定める方法により、フィットテストを定期的に実施する必要がある。なお、これらの一連の呼吸用保護具に関する措置は、保護具に関して必要な教育を受けた保護具着用管理責任者の管理下で行われる必要がある。
第2 短時間濃度基準値の設定と運用
※文献レビュー結果等は、別紙2参照
1 短時間濃度基準値の設定と適用
(1) 短時間濃度基準値については、各国の基準を踏まえ、作業中のいかなる15分間の時間平均値も超えてはならない濃度として設定されるべきである。さらに、8時間濃度基準値を超え、短時間濃度基準値以下の濃度のばく露については、各国の基準において抑制する必要性が強調されていることから、米国ACGIHやドイツDFGの基準を踏まえ、これらばく露については、1回あたり15分を超えず、8時間で4回までかつ1時間以上の間隔を空けるように努めるべきである。
(2) 短時間濃度基準値が設定されていない物質についても、米国ACGIHが述べるように、毒性学の見地から、8時間シフト中のばく露時間が1時間で残りの時間はばく露がゼロの場合に、8時間濃度基準値の8倍のばく露濃度を許容することのないようにする必要がある。このため、英国HSEの基準を踏まえ、作業期間のいかなる15分間の時間加重平均値が、8時間濃度基準値の3倍を超えないように努めるべきである。
2 天井値について
天井値については、英国HSE、ドイツDFGでは設定されていない。天井値を定める米国OSHA規則やACGIHにおいても、連続測定ができない場合は、15分間平均濃度で評価することが認められており、いかなる瞬間も超えてはならないという天井値の趣旨どおりの適用は必ずしも行われていない。現時点における連続測定手法の技術的限界を踏まえると、英国、ドイツの基準の例を踏まえ、天井値については設定しない方向で検討すべきである。
第3 確認測定における試料採取時間等
※文献レビュー結果等は、別紙3参照
1 8時間濃度基準値と比較するための試料空気の採取時間
(1) 確認測定は、労働者のばく露の測定であることから、空気試料の採取は労働者の呼吸域で行う必要がある。空気試料の採取の時間については、8時間濃度基準値と比較するという趣旨を踏まえ、米国NIOSH、英国HSE、米国AIHAが共通で述べているように、8時間の1つの試料か8時間の複数の連続した試料とすることが望ましい(注1)。8時間未満の連続した試料や短時間ランダムサンプリングは望ましくない。
(2) 例外として、米国AIHAでは、作業日を通じて労働者のばく露が比較的均一である自動化・密閉化された作業という限定的な場面を挙げているが、英国HSEが述べているように、測定されない時間の存在は、ばく露測定の信頼性に対する深刻な弱点となるため、測定されていない時間帯のばく露状況が測定されている時間帯と均一であることを、過去の測定結果や作業工程の観察等によって立証することが求められる。この場合であっても、英国HSEのように、試料採取時間は、ばく露が高い時間帯を含めて、少なくとも2時間(8時間の25%)以上である必要がある(注2)。
2 短時間濃度基準値と比較するための試料空気の採取時間
(1) 労働者のばく露が短時間濃度基準値以下であることを確認するための測定においては、最もばく露が高いと推定される労働者(1人)について、最もばく露が高いと推定される作業時間の15分間に測定を実施する必要がある。
(2) 測定については、測定結果のばらつきや測定の失敗等を防ぐ観点から、同一作業シフト中に少なくとも3回程度実施し、最も高い測定値で評価を行うことが望ましい。ただし、同一作業シフト中の作業時間が15分程度以下である場合は、1回で差し支えない。
3 短時間作業の場合の試料空気の採取時間
(1) 短時間作業が断続的に行われる場合や、同一労働日で化学物質を取り扱う時間が短い場合には、8時間の試料を採取することが困難である。この場合は、作業の全時間の試料を断続的に採取し、作業実施時間外のばく露がゼロの時間を加えて8時間加重平均値を算出するか、作業を実施しない時間を含めて8時間の測定を行って、8時間加重平均値を算出する。
(2) この場合、8時間加重平均値と8時間濃度基準値を単純に比較するだけでは、短時間作業の作業中に8時間濃度基準値をはるかに上回る高いばく露が許容されるおそれがある。それを防ぐため、短時間濃度基準値が設定されている場合は、15分間の時間加重平均値を測定することで急性毒性の影響を評価する必要がある(注)。短時間濃度基準値が設定されていない場合は、別途15分間の試料を採取し、15分間の時間加重平均値が8時間濃度基準値の3倍を超えないように努めるべきである。
(3) なお、一日の作業時間が8時間の3分の1より短い場合は、溶接ヒューム測定等告示のように、測定した時間に応じて時間加重平均値を算出し、その値と8時間濃度基準値を比較する方法も考えられる。
第4 リスクアセスメントにおける測定の試料採取場所及び評価
※文献レビュー結果等は、別紙4参照
1 リスクアセスメントにおける測定の試料採取場所及び評価
(1) 安衛則第577条の2第1項及び安衛法第57条の3第2項の求めるところは、労働者のばく露が最低基準である安衛則第577条の2第2項の濃度基準値以下であることのみならず、工学的対策、管理的対策、保護具の使用等を駆使し、労働者のばく露を最小限とすることを事業者に求めていると解される。工学的対策の設計と評価を実施する場合には、試料採取箇所は、労働者の呼吸域のみならず、良くデザインされた場の測定も必要となる。
(2) 安衛則第577条の2第1項及び安衛法第57条の3第2項は、高いばく露を受けている者のばく露を引き下げるのみならず、事業場における全ての労働者のばく露を最小限とすることを求めているものであるから、ばく露評価も、事業場のばく露状況を包括的に評価できるものであることが望ましい。このため、最も高いばく露を受ける均等ばく露作業のみならず、幅広い均等ばく露作業を対象とした労働者の呼吸域の測定を行い、その測定結果を統計的に分析し、統計上の信頼区間(95%)を活用した評価や最も濃度の高い時間帯に行う測定の結果を活用した評価を行うことが望ましい。
(3) なお、建設作業等、毎回異なる環境で作業を行う場合については、異なる現場で毎回測定を行うことは困難であることから、典型的な作業を洗い出し、あらかじめそれら作業における労働者のばく露を測定し、その測定結果に基づき、あらかじめ、十分な余裕を持って必要なばく露低減措置を決定しておくことで、それら作業に関するリスクアセスメント及びその結果に基づく措置を実施する方法も認められるべきである。
第5 今後のスケジュール等
1 測定方法の詳細に関する法令上の位置付け
(1) 安衛則第577条の2第1項及び第2項においては、いずれも測定を義務付けていないことを踏まえ、第1から第4に記載した事項については、安衛法第28条第1項の規定に基づき、事業者が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るための技術上の指針として公表すべきである(注1)。
(2) この技術上の指針には、第1の4(2)に記載された、有効な呼吸用保護具の選定、使用に関する詳細事項も付記すべきである。
(3) この技術上の指針には、濃度基準値が定められた物質に係る試料採取方法と分析手法(注2)についても付記すべきである。
2 今後のスケジュール等
(1) 本中間取りまとめは、化学物質管理者の講習内容等にも影響を与えるため、速やかに公表すべきである。
(2) 確認測定は、濃度基準値に応じて行うものであるから、この技術上の指針の公表は、濃度基準値を定める厚生労働大臣告示と時期を合わせるべきである(注)。
(3) この技術上の指針の策定に当たっては、パブリックコメントにより広く国民の意見を聴取すべきである。
Ⅲ 個人サンプリング法による作業環境測定の今後の在り方について
1 個人サンプリング法による作業環境測定の今後の在り方について
(1) 個人サンプリング法による作業環境測定(C・D測定)は、現時点では実績が少ない(詳細は別紙5の2の「個人サンプリング法に係るアンケート結果①」参照。)が、次に掲げる理由から、個人サンプリング法による作業環境測定を適用できる作業場の種類を拡大していくべきである。
① 個人サンプリング法による作業環境測定とその結果の評価は、リスクアセスメントのための個人ばく露測定とその結果の統計的な評価を兼ねることができること
② 個人ばく露測定の担い手を育成するという観点から、個人サンプリング法による作業環境測定に習熟した作業環境測定士の育成が必要であること
③ 再測定の結果も第三管理区分となった事業場に対する措置の強化に関して、呼吸用保護具の選択のための測定は、個人サンプリング法による作業環境測定又は個人ばく露測定が原則となること
(2) アンケート結果においては、約5割の作業環境測定機関が個人サンプリング法には利点があるとしている一方(別紙の2の「個人サンプリング法に係るアンケート結果②」)、問題があるとしたのは約3割であった(別紙5の2の「個人サンプリング法に係るアンケート結果④」)。その問題点も、個人サンプリング法に要する経費がA・B測定と比較して高額となる等、費用に関するものがほとんどであり、個人サンプリング法の測定としての精度面での指摘はなかった。
2 個人サンプリング法における測定手法の検討について
(1) 個人サンプリング法による作業環境測定に追加可能な化学物質等については、別紙5の3の「個人サンプリング法における測定手法の検討①」の物質等について、追加することに技術上の課題はない。
(2) 別紙5の3の「個人サンプリング法における測定手法の検討②」の現行の作業環境基準にない測定法を取り入れること等で追加可能となる7物質については、NIOSH法には、測定精度等についての自己評価の記載があることから、それらを確認した上で、判断すべきである。
(3) 別紙5の3の「個人サンプリング法における測定手法の検討②」の引き続き検討が必要な19物質については、次に掲げる事項について検討し、判断すべきである。
① D測定で管理濃度の10分の1の濃度を精度良く測定できることを確認する必要性(理由の④)については、D測定は、C測定と異なり、統計的評価を行わず、また、作業中の最も高い濃度と管理濃度を比較するためのものである趣旨から、管理濃度の10分の1の濃度を精度良く測定できる必要はなく、管理濃度を精度良く測定する観点から可能な方法を検討すべきである。
② 液体捕集法で捕集する化学物質については、諸外国で使用されている試料採取機器の情報を収集するなどにより、実現可能性を検討すべきである。
3 その他検討が必要な事項
(1) 個人サンプリング法の精度管理の制度を構築すべきである。選択した試料採取機器によって分析手法(前処理等)も異なり、精度に影響を与えるからである。
(2) 個人サンプリング法の実施に当たっては、自社で育成した作業環境測定士(第二種でもよい。)により、試料採取を行い、試料の分析だけを作業環境測定機関に委託する方法(注)について周知を図るべきである。
4 今後のスケジュール等
(1) 別紙5の3の「個人サンプリング法における測定手法の検討①」に掲げる物質等については、個人サンプリング法による作業環境測定が実施できるよう、本年度中を目途に、作業環境測定基準を改正する。
(2) 別紙5の3の「個人サンプリング法における測定手法の検討②」の作業環境測定基準にない測定法を取り入れることによる可能となる物質については、NIOSH法等の信頼性等を検討した上で、可能な物質について、順次、作業環境測定基準の改正を行う。
(3) 別紙5の3の「個人サンプリング法における測定手法の検討②」の引き続き検討が必要な物質については、2(3)に掲げる検討を行った上で、可能な物質について、順次、作業環境測定基準の改正を行う。
(4) (2)及び(3)については、改めて本検討会で検討を行う。作業環境測定基準の改正に当たっては、パブリックコメントにより国民の意見を聴取する。
別紙目次[別紙1~4は別紙の表題のみを記載]
別紙1 ばく露測定の基本的考え方に関する文献等
別紙2 ばく露測定における短時間ばく露限度の適用に関する文献等
別紙3 ばく露測定における試料採取時間等に関する文献等
別紙4 リスクアセスメント(包括的評価)のための測定の統計的評価に関する文献等
別紙5 個人サンプリング法による作業環境測定の今後の在り方について
1 個人サンプリング法による作業環境測定の概要
(1) 導入経緯等
・ 平成30年11月に公表された個人サンプラーを活用した作業環境管理のための専門家検討会の報告書において、
① 一定期間必要(測定できる作業環境測定士の養成のため)であること等を踏まえ、以下の作業(図1[省略])を部分的に先行導入する。
② 作業場所の測定は、A・B測定と個人サンプリング法(※1)による測定のいずれかを事業者が作業環境測定士の意見を踏まえ選択する。
旨等が報告された。
・ その後、省令等の改正(※2)により、令和3年4月から個人サンプリング法による作業環境測定が導入された。先行導入されたものは以下のとおり。
(先行導入作業)
① 発散源が作業者とともに移動し、発散源と作業者との間に測定点を置くことが困難な作業(吹付け塗装など)
② 有害性が高く管理濃度が低い物質(※3)を取り扱う作業であって、作業者の動きにより呼吸域付近の評価結果がその他の作業に比べて相対的に大きく変動すると考えられる作業
※1:個人サンプリング法は、労働者の身体に装着する試料採取機器等を用いて行う作業環境測定(C・D測定ともいう)。
※2:作業環境測定法施行規則の一部を改正する省令(令和2年厚生労働省令第8号)等により、作業環境測定法施行規則、作業環境測定基準、作業環境評価基準が令和2年1月27日に公布及び告示(施行及び適用:令和3年4月1日)された。
※3:ベリリウム及びその化合物など13物質
(2) A・B測定と個人サンプリング法(C・D測定)の比較[省略]
(3) 個人ばく露測定の導入状況
現時点で個人ばく露測定を導入しているものは次のとおり。
① 切羽に近接する場所の粉じん濃度等の測定(令和3年4月1日施行)
試料空気の採取方法は以下の方法で行う(ずい道建設工事における粉じん対策に関するガイドラインの別紙1)。
○定置式の試料採取機器を用いる方法
○作業に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器を用いる方法
○車両系機械(※)に装着されている試料採取機器を用いる方法
※動力を用い、かつ、不特定の場所に自走できる機械。
② 溶接ヒュームの濃度測定(令和3年4月1日施行)
試料空気の採取は、金属アーク溶接等作業に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器(※)を用いる方法により、濃度測定を行い、その結果に同じて労働者に有効な呼吸用保護具を使用させる(特定化学物質障害予防規則第38条の21第6項)。
※試料採取機器の採取口は労働者の呼吸域に装着
③ 第三管理区分改善困難作業場所での濃度測定(令和6年4月1日施行予定)
作業環境管理専門家が第三管理区分の改善困難と判断した場所等において、個人サンプリング法等による化学物質の濃度測定を行い、その結果に同じて労働者に有効な呼吸用保護具を使用させる。
④ リスクアセスメント指針に基づく濃度測定
リスクアセスメントに基づき個人ばく露測定を行う場合は、労働者の身体に装着する試料採取機器等を用いて行う方法により、労働者個人のばく露(労働者の呼吸域の濃度)を測定する(化学物質リスクアセスメント指針の9(1)イ(ア)(※))。
※「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について」(平成27年9月18日付け基発0918第3号の記の9(3)イ)
2 個人サンプリング法に係る作業環境測定機関へのアンケート結果等[省略]
3 個人サンプリング法における測定手法の検討
新たな化学物質管理に向けて、厚生労働省委託事業(中央労働災害防止協会受託)において個人サンプラーを用いた作業環境測定の対象拡大に向けた検討を行った結果を踏まえ、以下のとおり対象物質の拡大を進めることとする。
① 厚生労働省委託事業(令和3年度)の検討を踏まえ、個人サンプリング法対象物質に追加可能な化学物質等
・ 有機溶剤:塗装作業等以外の全ての作業で可。
・ 特別有機溶剤:塗装作業等以外の全ての作業で可。
・ 特定化学物質(特別有機溶剤以外):アクリロニトリル、エチレンオキシド、オルト-トルイジン、酸化プロピレン、三酸化二アンチモン、ジメチル-2,2-ジクロロビニルホスフェイト、臭化メチル、ナフタレン、ベンゼン、ホルムアルデヒド、リフラクトリーセラミックファイバー、硫酸ジメチル(以上管理濃度あり)オーラミン、パラ-ジメチルアミノアゾベンゼン、マゼンタ(以上管理濃度なし)【15物質】
・ 粉じん:粉じん(遊離けい酸の含有率が極めて高いものを除く。)※遊離けい酸の含有率100%の粉じんでは、管理濃度が0.025mg/m3となり、管理濃度の1/10を測定するために読取精度0.001mgの天秤が必要となるため、測定困難。
② 現行の作業環境測定基準にない測定法(NIOSH法)を取り入れること等で可能な7物質(管理濃度がない化学物質を含む))
[特定化学物質の名称:試料採取方法/分析方法/管理濃度]
・ ジクロルベンジジン及びその塩:ろ過捕集方法/高速液体クロマトグラフ分析方法/-
・ アルファ-ナフチルアミン及びその塩:固体捕集方法/ガスクロマトグラフ分析方法/-
・ オルト-トリジン及びその塩:固体捕集方法/ガスクロマトグラフ分析方法/-
・ ジアニシジン及びその塩:固体捕集方法/ガスクロマトグラフ分析方法/-
・ 塩化ビニル:固体捕集方法/ガスクロマトグラフ分析方法/2ppm
・ 塩素:固体捕集方法/高速液体クロマトグラフ分析方法/0.5ppm
・ 沃(よう)化メチル:固体捕集方法/ガスクロマトグラフ分析方法/2ppm
③ 引き続き検討が必要な19物質(管理濃度がない化学物質を含む)
[特定化学物質の名称:管理濃度/理由]
・ 塩素化ビフェニル(別名PCB):0.01mg/m3/②⑤
・ ベンゾトリクロリド:0.05ppm/⑤⑥
・ アクリルアミド:0.1mg/m3/②④
・ アルキル水銀化合物:0.01mg/m3/①⑥
・ エチレンイミン:0.05ppm/①②※1
・ クロロメチルメチルエーテル:-/①⑥
・ コールタール:※2/③⑤
・ シアン化カリウム:3mg/m3/①②※1
・ シアン化水素:2ppm/①②④
・ シアン化ナトリウム:3mg/m3/①②※1
・ 1,1-ジメチルヒドラジン:0.01ppm/④
・ ニッケル化合物:0.1mg/m3/④
・ ニッケルカルボニル:0.001ppm/⑤
・ ニトログリコール:0.05ppm/①②④
・ パラ-ニトロクロルベンゼン:0.6mg/m3/④
・ 弗(ふつ)化水素:0.5ppm/①②④
・ ベータ-プロピオラクトン:0.5ppm/⑤
・ ペンタクロロフェノール及びそのナトリウム塩:0.5mg/m3/①②※1
・ 硫化水素:1ppm/①②④
(備考)※1:代替法も液体捕集方法。
※2:ベンゼン可溶性成分として0.2mg/m3
(理由)
① 現行の作業環境測定基準で試料採取方法が直接捕集方法又は液体捕集方法。
② 現行の作業環境測定ガイドブックにない方法(OSHA法やNIOSH法)を検討している。
③ 高精度の測定機器によれば測定ができうる。
④ D測定は15分間のサンプリングで管理濃度の1/10の濃度を測定できることが確認されたものであることが通達(令和2年基発0127第12号)に示されており、その精度には達していないが、管理濃度と同じ有効桁で足りるとすれば、実施可能である。
⑤ ④のレベルには達していない。
⑥ 定量下限値の情報がなく、判断できない。
【参考1・2】[アンケート様式-省略]
中間とりまとめ概要版・詳細版PDF
「化学物質管理に係る専門家検討会」の中間取りまとめを公表します(厚生労働省2022年11月21日)