アスベストは世界的な廃棄物問題-取り除けるかもしれない方法がここにある,BBC, 2024.3.27

Katharine Quarmby、特集担当記者

世界中の建物から何百万トンものアスベストが取り除かれている。あるいは、有効利用できるのだろうか?

世界中の建物から何百万トンものアスベストが取り除かれている-この危険な鉱物は永久に処分できるのだろうか?あるいは有効利用できるのだろうか?
オランダのロッテルダムにある小さな産業施設では、アスベストが有害でなくなるよう分解が進められている。アスベストセメントの大きな板が破砕され、湿式処理される。会社によると、粉砕と加熱によってアルカリ性のスラリー[泥漿]が生成され、アスベスト繊維を溶かすという。このプロセスは、セメントとともにこの有毒鉱物の繊維を無害な材料に変える。この物質は-ケイ酸カルシウム水和物として-建設業のコンクリート混合物に再利用できる。ますます多くのアスベストが埋立地や環境に投棄されるなか、この事業は世界的な廃棄物問題に対する潜在的な解決策のひとつとなっている。

2019年には、水道管などに使用されるアスベストが世界で約2億トン生産されたと推定されている(過去10年間の生産量はカウントされていない)。攪乱されると繊維が空気中に飛散し、吸入すると肺や気道を損傷してがんにつながる可能性がある。

大半は、閉じ込められたままでいることを期待されて、他のゴミと一緒に埋め立てられてしまう。しかし、繊維が環境に流出し、水源に入り込み、さらには空気中に飛散することさしている懸念されている。そのため、より恒久的な解決策が必要とされている。有害なアスベスト繊維を永久的に分解する方法を開発する最前線にいるオランダのAsbeter社などの企業は参入するか、あるいはそう望んでいる。

2018年に発表されたある研究は、アスベストへの曝露が原因で毎年25万5000人の死亡が世界で発生していると推計している。これらの死因のほとんどは労働において曝露した人々であるが、フィラデルフィアにあるドレクセル大学のアーサー・フランク教授(環境・労働衛生学)など一部の専門家は、環境曝露がもたらすリスクは過小評価されていると考えている。数多くの研究が、アスベスト工場や元鉱山、アスベストが投棄された埋立地の近くに住むなど、環境曝露を経験した男女ともにリスクがあることを強く示唆している。

欧州委員会によれば、EU域内のアスベスト含有物質の量は1億トンを超える可能性がある。また、世界生産量は減少しているものの、アスベストは依然として採掘されている。アメリカ連邦地質調査所によると、2022年には約130万トンのアスベストが採掘され、そのほとんどがロシアとカザフスタン、次いでブラジルと中国で採掘されている。つい先週、アメリカが全ての種類のアスベストを禁止すると発表し、禁止国は70か国近くになった。しかし、世界中の建物や水道管の中には、まだ膨大な量のアスベストが隠れている。

2018年の調査では、毎年25万5千人がアスベスト曝露が原因で死亡していると推定されている(Credit: Katharine Quarmby)

老朽化した建物がぼろぼろになりはじめにつれ、アスベストを除去しなければならない。しかし、既存の埋立地には十分なスペースがない、と弁護士でありアスベスト問題に取り組む政策立案者、運動家、科学者、企業が毎年集まる欧州アスベスト・フォーラム(EAF)の会長であるイボンヌ・ウォーターマンは言う。「アスベストの除去は、基本的にAからBに場所を変えるだけだということを、人々は忘れている」とウォーターマンは言う。

アメリカ環境保護庁の推定によれば、1990年から1980年の間に米国で使用されたアスベストは3000万トンを超える。1989年にアスベストの使用は部分的に禁止されたが、アメリカは今年までアスベストの輸入を続けてきたから、この数字はさらに高くなるだろう。

イギリスでは、約150万棟の建物に約600万トンのアスベストが板などの製品に使用されていると、労働組合会議などが推計している。イギリスのアスベスト業界の専門家が昨年発表した報告書によると、分析したアスベストのうち、70%が損傷しており、30%は、緊急に対処するか除去する必要のある、もっとも危険度の高いカテゴリーに分類された。

イングランドでは、毎年少なくとも23万トンのアスベスト含有廃棄物が埋立処分されていると推定されている(2011年に政府から詳細な説明がなされたが、その後除去は加速している)。国会議員や活動家は、40年以内に非住宅建築物からアスベストを除去するよう求めている。現在のペースでは、アスベスト変性会社Thermal Recyclingを経営するグラハム・グールドなどの専門家は、埋め立てに移行するまでに少なくとも25年かかると推計している。

アスベストを管理及び除去する野心的な計画が実施されているオーストラリアでは、2022年から2023年にかけて120万トン以上のアスベスト含有物質が埋め立て処分されたと推定されており、この課題の規模の大きさを物語っている。アメリカではこのようなアスベスト廃棄物の追跡は行われていない。

「アスベストはすべて埋立地行きだ」とグールドは言う。「いったん埋め立てられれば、永遠にそこに留まるだけ。人々ははアスベストの除去について語るが、アスベストが除去されたことは一度もない」。

そのためグールドは、現在は埋め立てられているアスベストを-「変性する」かまたはその性質を変えて、われわれがアスベストとして知っている危険な鉱物の集合をもはや有害でなくする計画に10年以上費やした。グールドの技術は、熱を使って「物理的及び化学的変化を起こし、単純にアスベストでなくする」ものだという。

グールド社は、本格的な処理プラントは年間3万トンまで変性できると主張しており-同社は現在、イギリス環境庁から年間29,500トンの処理許可を得ている。ウォルバーハンプトン近郊にある実証プラントでは、現在、より少量の処理しか行っていない。「アスベストは有害なのでリサイクルはできない」とグールドは言う。彼の会社が開発した技術では、変性した繊維を使用して、カルマグと呼ばれる乾燥した不活性製品を作る。これはセメントの代替品で、敷石などの建設業で使用できる。それは、人間が年間に排出する二酸化炭素の5~8%を占める従来のセメントの代わりに使用することができる。
グールドは、この大問題がなかなか進展しないことに苛立っている。世界中からこの技術に関心が寄せられているというが、彼は、埋め立ての代わりにアスベストを処分する別の方法を見つけるために、政府がもっと積極的になる必要があると考えている。「アスベストは建物内よりも地面の穴の中の方が安全だが、それは一時的な解決策であり、一度埋立地に埋めると、劣化も退化もせず、永遠にそこにある」と彼は言う。「埋立は解決策ではなく、建物から持ち出す以外には何の成果もない」。

EU域内のアスベスト含有量は1億トンを超えそうだ(出典:Getty Images)

ポーランドなどでは、国家的なアスベスト除去計画により、2032年までに国内の建物からすべてのアスベストを除去することをめざしている。フランスやオランダも、少なくとも一部のアスベスト製品の除去を開始している。ベルギーのフランダース地方政府は、2040年までに約300万トンの老朽アスベストを除去する「アスベスト除去行動計画」を策定した。

アスベストの投棄:不平等な問題

イギリスにおけるアスベスト廃棄物管理政策は、一見すると厳格に見える。規制では、アスベストは二重袋に入れ、蓋をして施錠したコンテナに入れなければならないとされている。BBCがイギリス環境庁に行った環境情報規制要求によると、イングランドとウェールズにはアスベストを処理できる埋立地が29か所ある。中には孤立しているものもあるが、多くは住宅の近くにあり、ダーリントン、チェスターフィールド、ハートレプール、ラグビー、ティースポートなど、4件に1件は貧困地域にある。

アメリカでは、有毒な埋立地(アスベストからヒ素、危険な化学物質まで何でも含む)は、有色人種や貧困層が住む地域に必ずと言っていいほどあることが調査で明らかになっている。アラバマ州エメル-住民の大半が黒人の、貧しい町-の近くには、有害廃棄物を受け入れる最大規模のゴミ処理場がある。
しかし、ポーランドでは、埋め立て処分場はすでに満杯で、アスベストを含んだ建築廃材の追加処理には対応できない。約200万トンのアスベストが国内に輸入され、約1,550万トンの製品に拡散した後、ポーランドの国家的なアスベスト除去計画が2002年に開始された。そのような廃棄物はすべて、ポリエチレンと呼ばれるプラスチック箔で包んでから、繊維の飛散を防ぐために側面を強化し、2mの土で蓋をした特別なピットに入れ、有害廃棄物を処理できる埋立地に指定された。この計画は、国内のアスベストを処理するために84の埋立地が必要であることを明らかにした。しかし、2022年までにアスベストの埋立地は59か所しかなく、そのような廃棄物に広く利用できるのは31か所だけだった。アスベスト板は代わりに、公共の場所に危険なかたちで投棄されている。

欧州レベルでは、2021年に欧州議会で可決されたアスベストに関する決議によれば、「アスベスト廃棄物を埋立処分することは、将来の世代が処理しなければならないため、実行可能な長期的解決策ではない」。その代わりに、アスベスト繊維がもはや公衆衛生上のリスクとならないような方法で、アスベスト繊維を不活性化する費用対効果の高い方法の開発を推し進めた。欧州委員会は結局、2023年末に発効した「労働におけるアスベスト指令」において、決議のこの部分は採用しないことを選択した。

埋め立てが、世界中で発生する膨大な量のアスベスト廃棄物に対する一時的な解決策にしかならないことは明らかだ。最近では、アスベストの粒子が帯水層や陸地の地下を長距離移動し、乱流や土壌の乱れによって空気中に飛散する可能性さえあることが研究によって判明している。

北アイルランドのデリー近郊にあるモブオイと呼ばれる広大な不法投棄場の検査で、付近の土壌から他の汚染物質とともにアスベスト繊維が検出された。アスベスト繊維やその他の汚染物質がデリーの飲料水に混入する恐れがあるため、数マイル離れた近くのフォーガン川の水のサンプリングが続けられている。

実際、埋立地の洪水は、アスベストを環境中に洗い流す危険性もある。イギリスの21,000か所の歴史的埋立地のうち、1,200か所以上が氾濫原に位置している。欧州では、1万か所以上の歴史的埋立地が洪水や浸食の危険にさらされている。気候変動によって異常気象が増えれば、これらの埋立地はさらに危険にさらされる可能性が高い。オーストラリア安全・根絶機関によれば、洪水などの気候変動に関連した事象は、アスベストを含有する建物の劣化や損傷の速度を速めている。

オランダのロッテルダムにある小さな工場では、アスベストが分解され、もはや有害なものではなくなっている(Credit: Katharine Quarmby)。

しかし現在では、他の方法でアスベストを処理する技術も増えてきている。アスベスト廃棄物を加熱したり、マイクロ波で爆破したりすると、繊維が破壊されることがわかっている。また、アスベスト繊維を化学薬品で処理し、形状を変えたり変性させたり、ガラスなどの別の素材に封じ込めたりする方法もある。

このような様々な技術に取り組んでいる企業は数少なく、各国で小規模に行われている。

オランダのロッテルダムで、BBCはそんなアスベスト変性のパイオニアの一人に会った。冒頭で紹介したAsbeter社である。

実証工場の見学中に、同社の創設者で社長でもあるしたイネス・ポステマは、その仕組みを説明した。まず、アスベストセメント屋根板(同社は後に水道管にも同じプロセスを使用する計画を持っている)を破砕し、アルカリ溶液で粉砕する。できあがったスラリーは100℃以下に加熱され、化学反応を起こしてアスベスト繊維を分解する。無害な原料が製造され、ケイ酸カルシウム水和物として建築や塗料産業で再利用できる。

「何百万トンもの原料が汚染のために埋め立てられているが、その代わりに100%再利用できる」とポステマは言う。オランダ政府の環境機関はAsbeter社に廃棄物処理終了証明書を発行し、独立検査機関であるDet Norske Veritasも、アスベスト含有材料からすべてのアスベスト繊維を溶解し、アスベストを含まない残留物を生成したことを確認する検証通知書を発行した。Asbeter社は、2026年までにフルスケールのプラントを稼動させたいと考えている。
アスベストを分解するために同様の技術を用いる企業は、他にも続々と生まれている。さらに、アスベスト問題を解決するために、bioremediationと呼ばれる方法を研究している科学チームもある。菌類や地衣類は、古いアスベストを分解したり、少なくともその上を覆って繊維が空気中に飛散するのを防いだりするのに役立つ。他のチームは、バクテリア、菌類、植物を使って「活性化された埋立地」と呼ばれるものを作ることができるかどうかを調べている。

地質学者であり、アメリカ科学分析研究所の研究・法律サービス部長を経て、現在は自身のコンサルティング会社のCEOを務めるショーン・フィッツジェラルドは、35年以上にわたってアスベストの科学と地質学を研究してきた。廃棄アスベストの処理には、ひとつの解決策も特効薬もないと彼は言う。「地質学者として、私は(アスベストを)ある相から別の相に変えるために何らかの力を加えることを変性と見ている」。彼は、アスベストをただ埋立地に入れることは、とくに気候変動に伴い、危険であると付け加える。「アスベストがいつか問題になる可能性がないとは言い切れない」。

その変性技術のひとつが熱を利用することだ。南フランスのInertam社は、アスベストを非常に高温に加熱し、ガラスのような物質に変える技術を使っている。この工場は年間8,000トンを処理する認可を受けているが、このプロセスは高価である。同社は取材に応じなかった。

まだ小規模で費用もかかるが、一部の活動家や研究者が「アスベスト曝露の第4の波」と表現するような事態を避けるためには、このような対策が不可欠となる可能性がある。第1の波は、アスベスト製品に直接携わる人々とその家族であった。第2の波は、アスベスト含有製品を設置した人たちであり、第3の波は、損傷したアスベストのある建物に住む人たちである。第4の波は、埋立地周辺、大気中、そして水からの環境曝露である。世界保健機関(WHO)は、水からアスベストを摂取することが人体にリスクをもたらすことを証明する十分な証拠がないと主張している。

はっきりしていることは、現在世界中のビルや水道管、その他のインフラに閉じ込められている大量のアスベストは、間もなく除去する必要があるということだ。アスベストを埋めることは、問題を先送りにするだけだろう。

https://www.bbc.com/future/article/20240325-how-to-get-rid-of-asbestos-global-waste-problem

安全センター情報2024年6月号