無力な差別是正命令、職場内性暴力被害者が五年間「孤立」/韓国の労災・安全衛生 2024年06月07日
母胎教徒のAさんは宗教界の性暴力問題を暴露した。彼女は2016年、仏教財団法人の禅学院で修習として働き、当時理事長だった法真僧侶からセクハラ被害を受けた。加害者は最高裁判所で有罪が確定した。では、被害者に日常が戻ったのだろうか。
Aさんを待っていたのは『報復』だった。財団は分離措置という名目で孤立させた。単純業務を一人でさせた。労働委員会はもちろん、裁判所もこれをセクハラ被害者に対する差別的な処遇だと判断した。しかし、変わったことはなにもない。差別是正命令を強制する手段がないからだ。財団が最高裁まで行くと、じっと数年を再び待たなければならない。差別的な処遇は五年間是正されていない。
修習から一カ月後に性暴力の被害、
調査なく被害者を追い出そうとした財団
法曹界によると、ソウル行政裁判所は、財団が中央労働委員会を相手に起こした差別是正再審判定の取り消し訴訟で、原告の請求を棄却した。
Aさんは2016年3月、財団の事務局職員として入社した。見習いとして働いた一ヶ月目から理事長のセクハラが始まった。五ヵ月ほどで三回も加害があった。Aさんはこれによって不安・憂鬱障害などの診断を受けることになった。Aさんは同年10月、財団に「(事件を)議論し、措置して欲しい」と要求し、被害によって出勤できないと伝えた。合わせて理事長を、業務上の威力などによる醜行の疑惑で告訴した。
ところが理事長の醜行よりも、Aさんの欠勤の方が問題になった。財団はAさんの被害の訴えには調査をしなかった。代わりにAさんが無断欠勤したとし、翌年9月に四大保険の被保険資格喪失を申告した。職場内の性暴行事件を無視した財団は、結局、男女雇用平等法違反で制裁された。ソウル地方雇用労働庁は、財団が職場内の性暴行の調査を始めることさえしなかったとして、過料400万ウォンを賦課した。このような不措置と職場内性暴行による精神的な被害に対して、Aさんに慰謝料を支給せよという裁判所の判決も確定した。Aさんは労働委員会に不当解雇救済申請を出し、中央労働委員会は雇用関係が維持されているとして却下の判定をし、財団は四大保険被保険資格喪失申告を取り消した。
セクハラの加害者である理事長は2019年1月、最高裁で懲役刑の執行猶予を確定された。しかし、財団理事会は理事長の辞職届を差し戻した。2008年から理事長職を三回再任した僧侶は2022年5月になってようやく最終的に辞任した。
日常の回復を助ける代わりに、いじめ?
Aさんは2019年4月に再び出勤した。財団は日常の回復を助ける代わりに、いじめを始めた。
財団はAさんを原職復帰させず、韓国近代仏教文化記念館の訪問客応対、管理と清掃業務などを担当する席に配置した。一人で業務をさせ、事務局の事務室への出入りを制限した。業務用コンピュータを提供せず、社内のネットシステムへのアクセス権も与えなかった。Aさんが「いじめを止めろ」と原職復帰を要請すると、財団は加害者と分離措置のためのものだと言った。理事長の執務室が事務局の中にあるというのが理由だった。
Aさんは職場内性暴行被害者に対する不利な処遇で、差別的処遇に該当するとして、2021年2月に労働委員会に差別是正を申請した。刑事告訴も行った。ソウル地方労働委員会と中労委はAさんの手を挙げた。財団と理事長は、刑事裁判で男女雇用平等法違反の罰金200万ウォンも確定した。Aさんは何度も原職復職などを要請したが、財団は何の措置も執らなかった。
地方労働委員会・中央労働委員会「性暴力被害者差別」
裁判所「不当に孤立させた行為」
労働委の判定に続く行政訴訟では、裁判所も差別だと認めた。裁判所はAさんの再出勤で勤労関係が新しく形成されたため、原職復帰させる義務がないという財団側の主張を棄却した。裁判所は「Aさんが出勤しなかったのは、特別な理由がない無断欠勤ではなく、職場内セクハラがあり、これに対する是正措置がされなかったため」で、「Aさんは退職の意思を明らかにしたことはなく、むしろ復職を前提に適切な措置がされることを継続して要請した」と指摘した。勤労関係が適法に終了したとは認め難いという判断だ。
Aさんの業務を変えたのは正当な人事権の行使であり、業務上の必要性があったという財団側の主張も受け容れられなかった。裁判所は「事務職としての復職を望んだAさんの意思に明白に反する」とし、「Aさんが復職して再び事務局職員として勤めても、余剰人材は発生しないと見られる」と判断した。続けて「文化記念館が開館して以来、Aさんを配置する前までは常駐の職員を全く置かなかった。」「以前のように事務局の職員が順番に管理業務を遂行することが不可能だとは見られない」と指摘した。合わせて「Aさんが遺物・資料などの管理業務の専門家ではないだけでなく、酷くは、該当業務を与えられることもなく、単純業務だけを付与された」と付け加えた。
分離措置の主張に関して裁判所は、「加害者ではなく、被害者の勤務場所をその意思に反して変更した。」「加害者が他の場所で業務を行えるようにすることは不可能ではなかった」と指摘した。特に、理事長が辞任した後もAさんの勤務場所変更の要請を受け容れなかったことにも言及された。
事務局出入りの権限と社内電算ネットへの接近制限などについても、裁判所は「特にAさんだけを社内で不当に孤立させる行為であることは明らか」と判示した。
差別是正命令の履行、強制が困難
確定判決まで苦痛に耐えなければならない被害者
何も変わったことはない。Aさんは依然として文化記念館で働いている。不当解雇などに対する救済命令とは異なり、差別是正命令は労働委員会の判定だけで、強制する手段がないからだ。
勤労基準法によると、労働委員会は不当解雇などに対する救済命令を履行しなかった使用者に、3千万ウォン以下の履行強制金を賦課する。救済命令が履行されるまで、毎年二回ずつ、最長二年、履行強制金を賦課することができる。また、労働委員会の告発で確定した救済命令を履行しない使用者は、一年以下の懲役または1千万ウォン以下の罰金に処される。反面、差別是正命令は、確定した是正命令の不履行に対してだけ、1億ウォン以下の過料を賦課する。使用者が行政訴訟を提起して最高裁まで行けば、裁判所の判決が確定するまで、被害者は差別に耐えなければならないという意味だ。
Aさんを代理したキム・ドゥナ弁護士は、「差別是正制度は履行強制の手段がなく、行政訴訟で争うことになれば、訴訟が終わるまで不利な処遇が是正されない状態が続く。」「使用者が差別的な処遇をしたという刑事判決を受けたが、処罰するだけで、是正は強制しない。制度的な改善が必要だ」と強調した。
2024年6月7日 毎日労働ニュース カン・ソギョン記者
http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=221922