ソウル地下鉄の整備労働者7人、血液がん「集団発病」/韓国の労災・安全衛生 2024年06月05日
ソウル交通公社の地軸車輌事業所の検査チームで働くファン・スソンさん(54)は昨年5月、自分の耳の下に小さな「こぶ」を見つけて病院を訪れ、稲妻のような音を聞いた。医師は血液がんの一種である非ホジキンリンパ腫と診断した。1997年に入社したファン・スソンさんは2011年まで電車の中で重整備業務を行い、その後は軽整備業務をしたが、突然自分が重整備していた当時の作業過程を想い出した。
彼は電動車の回転機のトラクションモーターの柔らかい動きのために必要なベアリングを、シンナーや軽油などに浸した後、筆で拭いたり空気圧縮機で吹き飛ばす洗浄作業と、油性ペイントでの塗色作業を多くしていた。有機溶剤が四方に飛ばされているのに、マスクも着けず、換気施設もきちんと整っていなかった。作業環境の改善が始まったのは、白血病などの職業病問題が大きくなり始めた2013年頃からだった。ファン・スソンさんはハンギョレと電話で、「血液がんの診断を受けた時、『いよいよ私にも来るべきものが来たな』という気がした」と話した。ファン・スソンさんより先に、電車の中で整備の仕事をしていた人の中に、似たような病気に罹った人が少なくなかったからだ。
民主労総公共運輸社会サービス労組はソウル地下鉄の整備労働者の病歴を追跡した結果、ファン・スソンさんのように血液がんに罹り、闘病中か亡くなった人が7人に達していることが把握されたと明らかにした。ファン・スソンさんを含め、地軸車輌事業所で4人、君子車輌事業所で2人、新亭・倉洞車輌事業所で1人だ。このうち2人は既に業務上疾病と判定されている。2017年に労災を認められたソン某さんの業務上疾病判定書によれば「ベンゼン、トリクロロエチレンなどの有害物質へのばく露レベルが低いとしても、作業環境の改善が行われる前に働いていた作業環境では、更に高いレベルでベンゼンにばく露された可能性がある。塗装・洗浄作業を長期間行いながら、各種の有害化学物質に持続的にばく露したと推定され、業務と傷病との間の相当因果関係が認められる」と書かれている。
このような状況で、ソウル交通公社労働組合とソウル交通公社は、整備労働者の内、勤続15年以上の83人を対象に、今年中に血液がん診断のための血液検査をすることに3月に合意した。しかし1~4号線を運営するソウルメトロと、5~8号線を運営するソウル都市鉄道公社が、2017年5月に現在のソウル交通公社に統合されるまでは、都市鉄道公社の整備業務は大部分を外注業者が担当した。ソウル市は2016年5月、青年下請け労働者のキム君が九宜駅でスクリーンドアの作業中に亡くなった事件以降、2017年12月までは外注業者の所属だった整備分野の労働者1100人を直接雇用・正規職化した。しかし、それ以前に退職した人は、公社も労組も把握しにくいのが実情だ。
しかも労組は、ソウル交通公社が人員削減を名分に整備業務の外注化を進めれば、労働者の安全が更に脅かされると憂慮する。呉世勲ソウル市長は昨年10月の国政監査で、現在1万6300人余りの職員の中から、2212人を2026年までに支障なく減らすと明らかにしている。ソウル交通公社労組は「会社は軽整備の労働者2300人の内、列車の故障時に緊急措置する『機動検収』の労働者200人の大部分を外注に回し、検収・整備の周期を延ばす形で人員を減らそうとしている」とし、「外注化されれば、整備労働者が健康に悪い作業環境に置かれることになり、問題も提起しにくくなるだろう」と憂慮した。
これに対してソウル交通公社は、「起動検収の外注化は現在は計画段階で、職員の労働環境の改善に重点を置きながら経営改善の一環として進めており、新しい電車の導入によって検査項目自体が減り、現在の検査周期の調整を検討している。」「職員の安全を最優先に置いて、安全な労働環境の造成に引き続き努力する」と明らかにした。
2024年6月5日 ハンギョレ新聞 チョン・ジョンフィ記者