職業性胆管がん事件(校正印刷会社SANYO-CYP)(2013年冬-1)胆管がん、さらに8件労災認定。S社17件ほか:S社書類送検「きわめて悪質」 /化学物質管理対策も見直し
片岡明彦(関西労働者安全センター)
目次
はじめに
安全センター情報2013年7月号で、職業性胆管がん事件の発端となったSANYO-CYP社の労災請求計17件が業務上認定されたこと、労働安全衛生法違反容疑で大阪労働局が強制捜査を行ったこと(4月2日)、一方、SANYO-CYP社の被害者の会が結成され会社との話し合いをはじめたこと(4月21日第1回)などを報告した。
その後、厚生労働省は、「印刷事業場で発生した胆管がんの業務上外に関する検討会」で請求事案の順次検討をすすめ第11回検討会(11月19日)までに、さらに8件を業務上と判断した。
9月26日、事件の重大性に鑑み大阪労働局は、SANYO-CYP社を書類送検した。SANYO-CYP胆管がん被害者の会は会社との話し合いを続けているが、会社側が示す「説明」「認識」は、被害者にとって評価できないものに止まっており、補償について合意に至っておらず、交渉は2014年にずれ込むことになった。
一方、職場の化学物質管理の制度的欠陥を衝くかたちで発生・発覚した今回の胆管がん事件。一定の問題意識のもとで厚生労働省は、「胆管がん問題を踏まえた化学物質管理のあり方に関する専門家検討会」を8月に立ち上げ、10月29日付けで報告書をまとめた。
労災請求・業務上判断の動向、SANYO-CYP社と被害者との話し合いの行く末、SANYO-CYP事件発覚以降の厚生労働省調査でも明らかになったきわめてずさんな職場実態が改善されたのか、SANYO-CYP事件の再発は防げるのか。
2014年も、胆管がん事件から目が離せない。
SANYO-CYP社書類送検
2013年4月2日、大阪労働局はSANYO-CYP社本店と大阪第二工場に対して捜索差し押さえを実施した。
9月26日、大阪労働局は労働安全衛生法違反の疑いで株式会社サンヨー・シー・ワィピー(SANYO-CYP社)と山村直悳(とくゆき)社長を書類送検した。会社と社長の罪が問われるのは、労働安全衛生法の両罰規定に基づく(同法第122条第1項)。
SANYO-CYP社の安衛法違反・被疑事実
被疑事実は、
「被疑者株式会社サンヨー・シー・ワィピーは、本店及び大阪第二工場において、常時50人以上の労働者を使用し、印刷業を営む事業者、被疑者A(山村社長)は同社の代表取締役で、業務全般を統括管理する者であるが、被疑者Aは同社の業務に関し、
第一 平成23年4月1日に常時50人以上の労働者を使用していたのであるから、少なくとも同日から14日以内に第1種衛生管理者免許若しくは衛生工学衛生管理者免許を有する者のほか法令の定める資格を有する者のうちから衛生管理者を選任しなければならなかったのに、これを怠り、以て、平成23年4月16日から平成24年4月15日に至るまで産業医を選任しなかった。
第二 平成23年4月1日に常時50人以上の労働者を使用していたのであるから、少なくとも同日から14日以内に法令で定める要件を備えた医師のうちから産業医を選任しなければならなかったのに、これを怠り、以て、平成23年4月16日から平成24年4月15日に至るまで衛生委員会を設けなかった。」
というもの。
適用違反条文
適用された違反条文は次の三つ。
- 労働安全衛生法第12条第1項(衛生管理者の選任義務)違反
労働安全衛生規則第7条第1項
同法第120条第1号(罰則)
同法第122条第1項(法人両罰) - 労働安全衛生法第13条第1項(産業医の選任義務)違反
労働安全衛生規則第13条第1項
同法第120条第1号(罰則)
同法第122条第1項(法人両罰) - 労働安全衛生法第18条第1項(衛生委員会の設置義務)違反
同法第120条第1号(罰則)
同法第122条第1項(法人両罰)
ちなみにこれらの適用法条項は次のとおり。
【衛生管理者関係】
労働安全衛生法
第12条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、都道府県労働局長の免許を受けた者その他厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、当該事業場の区分に応じて、衛生管理者を選任し、その者に第10条第1項各号の業務(第25条の2第2項の規定により技術的事項を管理する者を選任した場合においては、同条第1項各号の措置に該当するものを除く。)のうち衛生に係る技術的事項を管理させなければならない。(以下略)
第10条 (前略)
一 労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること。
二 労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること。
三 健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること。
四 労働災害の原因の調査及び再発防止対策に関すること。
五 前号に掲げるもののほか、労働災害を防止するため必要な業務で、厚生労働省令で定めるもの。(以下略)
労働安全衛生法施行令
第4条 法第12条第1項の政令で定める規模の事業場は、常時50人以上の労働者を使用する事業場とする。
労働安全衛生規則
第7条 法第12条第1項の規定による衛生管理者の選任は、次に定めるところにより行わなければならない。
一 衛生管理者を選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任すること。
二 その事業場に専属の者を選任すること。ただし、2人以上の衛生管理者を選任する場合において、当該衛生管理者の中に第10条第3号に掲げる者がいるときは、当該者のうち1人については、この限りではない。
三 次に掲げる業種の区分に応じ、それぞれに掲げる者のうちから選任すること。
イ 農林畜水産業、鉱業、建設業、製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、水道業、熱供給業、運送業、自動車整備業、機械修理業、医療業及び清掃業第1種衛生管理者若しくは衛生工学衛生管理者免許を有する者又は第10条各号に掲げる者
ロ その他の業種第1種衛生管理者免許、第2種衛生管理者免許若しくは衛生工学衛生管理者免許を有する者又は第10条各号に掲げる者
四 次の表の上欄に掲げる事業場の規模に応じて、同表の下欄に掲げる数以上の衛生管理者を選任すること。
(以下略)
第11条 衛生管理者は、少なくとも毎週一回作業場等を巡視し、設備、作業方法又は衛生状態に有害なおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
一 事業者は、衛生管理者に対し、衛生に関する措置をなし得る権限を与えなければならない。
【産業医関係】
労働安全衛生法
第13条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項(以下「労働者の健康管理等」という。)を行わせなければならない。(中略)
3 産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるとき、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。
4 事業者は、前項の勧告を受けたときは、これを尊重しなければならない。
労働安全衛生法施行令
第5条 法第13条第1項の政令で定める規模の事業場は、常時50人以上の労働者を使用する事業場とする。
労働安全衛生規則
第13条 法第13条第1項の規定による産業医の選任は、次に定めるところにより行わなければならない。
一 産業医に選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任すること(以下略)
第14条 法第13条第1項の厚生労働省令で定める事項は、次の事項で医学に関する専門的知識を必要とするものとする。
一 健康診断及び面接指導等(法第66条の8第1項に規定する面接指導(以下「面接指導」という。)及び法第66条の9に規定する必要な措置をいう。)の実施並びにこれらの結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
二 作業環境の維持に関すること。
三 作業の管理に関すること。
四 前3号に掲げるもののほか、労働者の健康管理に関すること。
五 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。
六 衛生教育に関すること。
七 労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。(中略)
3 産業医は、第1項各号に掲げる事項について、総括安全衛生管理者に対して勧告し、又は衛生管理者に対して指導し、若しくは助言することができる。
4 事業者は、産業医が法第13条第3項の規定による勧告をしたこと又は前項の規定による勧告、指導若しくは助言をしたことを理由として、産業医に対し、解任その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。
第15条 産業医は、少なくとも毎月一回作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
2 事業者は、産業医に対し、前条第1項に規定する事項をなし得る権限を与えなければならない。
【衛生委員会関係】
労働安全衛生法
第18条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、次の事項を調査審議させ、事業者に対し意見を述べさせるため、衛生委員会を設けなければならない。
一 労働者の健康障害を防止するための基本となるべき対策に関すること。
二 労働者の健康の保持増進を図るための基本となるべき対策に関すること。
三 労働災害の原因及び再発防止対策で、衛生に係るものに関すること。
四 前3号に掲げるもののほか、労働者の健康障害の防止及び健康の保持増進に関する重要事項
2 衛生委員会の委員は、次の者をもつて構成する。ただし、第1号の者である委員は、一人とする。
一 総括安全衛生管理者又は総括安全衛生管理者以外の者で当該事業場においてその事業の実施を統括管理するもの若しくはこれに準ずる者のうちから事業者が指名した者
二 衛生管理者のうちから事業者が指名した者
三 産業医のうちから事業者が指名した者
四 当該事業場の労働者で、衛生に関し経験を有するもののうちから事業者が指名した者
3 事業者は、当該事業場の労働者で、作業環境測定を実施している作業環境測定士であるものを衛生委員会の委員として指名することができる。
4 前条第3項から第5項までの規定は、衛生委員会について準用する。この場合において、同条第3項及び第4項中「第1号の委員」とあるのは、「第18条第2項第1号の者である委員」と読み替えるものとする。
第17条 (前略)
3 安全委員会の議長は、第1号の委員がなるものとする。
4 事業者は、第1号の委員以外の委員の半数については、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合があるときにおいてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときにおいては労働者の過半数を代表する者の推薦に基づき指名しなければならない。
5 前2項の規定は、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合との間における労働協約に別段の定めがあるときは、その限度において適用しない。
第9条 法第18条第1項の政令で定める規模の事業場は、常時50人以上の労働者を使用する事業場とする。
【罰則】
労働安全衛生法
第120条 次のいずれかに該当する者は、50万円以下の罰金に処する。
一 (前略)、第12条第1項、第13条第1項、(中略)、第18条第1項、(後略)
【両罰規定】
労働安全衛生法
第122条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第116条、第117条、第119条又は第120条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。
時効になっていない分だけ立件
いずれも「2011年4月16日から2012年4月15日に至るまで云々」として、期間を明示しての容疑となっているが、これは、該当違反条文の公訴時効が3年であることを考慮したもの。
SANYO-CYP社は、2001年9月から従業員数が50人以上となったと説明しているので、2001年9月以降は「衛生管理者選任義務違反」「産業医選任義務違反」「衛生委員会設置義務違反」の状態となっていて、その「違反状態」が、昨年の5月に事件が発覚して労働局の指導により是正されるまで継続していたのだった。
行政指導には直ちに従ったケースで書類送検に至ることは普通ない。
報道によれば、この点について大阪労働局監督課は「衛生管理体制が確立していれば被害の拡大を防ぐことができた」「多数の労働者が死亡している重大性を考慮し書類送検に至った」と述べたということだ。
しかし、SANYO-CYP社は「ずさんな衛生管理体制が被害を拡大させた」という認識を述べず「法律の知識が不足していて、(義務を)認識していなかった」などと述べていると伝えられている。SANYO-CYP社の真摯な反省姿勢は見えていない。
大阪労働局「厳重処分」意見つけ送検
表1によると、SANYO-CYP社17名の胆管がん被害者のうち、14名が2003年以降に発症していて、とくに2003年、2004年と立て続けに在職者が発症、いずれも在職のまま死亡している。2001年9月以降の衛生管理体制の法的不備がなければ、被害の拡大を防止し得たとの大阪労働局の見解は妥当な見解だ。退職者に対する対策をとっていたなら、早期発見できて亡くならないですんだ被害者がいた可能性も高い。
大阪労働局は、起訴を求める「厳重処分」の意見をつけたという。
当然だろう。
見過ごした過去、罰則は大甘
起訴されて有罪となっても、社長と会社はわずかの罰金を払えばすんでしまう。なんとも納得できない話だ。
労働安全衛生法は厳罰化の導入を本気で考えないと、SANYO-CYP事件のようなことはまた起こってしまうだろう。
ただ、なぜこうしたことが見過ごされてしまったのか、SANYO-CYP社を管轄する大阪中央労働基準監督署はいったい何をしていたのか?
この点の検証がなされなくてよいのか、疑問は残されたままだ。
なにしろ、舞台となったSANYO-CYP社の本社工場ビル兼社長自宅は、大阪労働局の南500メートルの目と鼻の先にあるのだ。
責任を「値切る」SANYO-CYP
大きすぎる被害に対して
SANYO-CYP胆管がん被害者の会は書類送検を受けて9月26日に記者会見を開き、会社は17人が発症し9名が死亡したことの重大さを認識し、真摯に反省し、十分な補償責任を果たすべきだと訴えた。
被害者の会は4月21日から12月1日まで5回、会社と話し合いをもった。しかし、会社は、「知識がなかった」「胆管がんが発生するとは誰もわからなかった」などという言い訳を繰り返して、大阪労働局が指摘している被害の拡大責任さえ、きちんと認めようとはしていない。
「資料がない」とサンヨーシーワイピー社長開き直り
例えば、1980年代後半からジクロロメタン(以下、DCM)などの有機溶剤中毒防止規則対象物質を使用しながら一切の安全対策をとっていなかったことについて、「そうした物質を使っていたことを証明する資料がない」と開き直り、当時の従業員(胆管がん患者を含む)の証言を尊重しない態度をとり続けているなどしているため、被害者の会は会社への不信を募らせたまま現在に至っている。
胆管がんが発生することがわかっていなかったとしても、有機溶剤を使用するときに決められた普通の防護対策をしてさえいれば、このような悲惨な事件は起こることはなかった。
対策を完全に怠っていた責任はきわめて重大であることは明白なのだ。
そのことを認めたくないがために、有機溶剤中毒防止規則違反を犯しまくっていたことを認めたくないがために、DCMなどを使っていたことを事実として認めようとしないのは明らかだろう。実に、姑息きわまりないといえる。
前述した2001年9月以降の衛生管理体制上の法的義務違反が、深刻な被害拡大の原因になったことについても、そのような評価を会社として受け入れようとしているとは思えない。
このような姑息な言い分、対応と連動して、「労災補償とは別に補償する」という会社の公言とは裏腹に、被害の完全な補償責任を果たすというレベルとかけ離れた補償案を提示するにとどまっているため、補償についての合意には全然至っていない。
被害者の会には、17名のうち14名の本人・遺族が参加している。話し合いは今後も続けられる。(2014年9月25日に合意に至った。)
元従業員「殺人に匹敵」
胆管がん 社長ら書類送検
従業員ら17人が胆管がんを発症した「SANYOーCYP(サンヨーシーワイピー)」(大阪市中央区)が従業員の健康を守る措置を怠ったとして、大阪労働局は26日、同社と山村悳唯(とくゆき)社長(67)を労働安全衛生法違反(事業者の安全衛生措置義務違反)の疑いで大阪地検に書類送検し、発表した。なぜ被害が広がったのか、遺族らは詳しい解明に期待する。「危険性は見抜けなかった」と会社側は強調した。
「書類送検は当然。これからが本当の罪を確認していく段階。17人ががんになり、9人が死んだ。命の尊さを、社長にわかってほしい」
「被害者の会」が大阪市内で開いた会見。SANYO社の元従業員、本田真吾さん(31)=大阪府=は、かみしめるように話した。
本田さんは昨年、胆管がんと診断された。「自分も助からないかも」。先輩従業員が相次いで胆管がんで亡くなっていた。
11月、13時間に及ぶ手術を受けた。現在は自宅療養しながら、抗がん剤治療を続けている。
2000年から約6年半、同社で働いた。印刷機の洗浄作業で、発症原因とされる化学物質「1,2-ジクロロプロパン」を含んだ有機溶剤を使った。胆管がん発症が相次ぎ、従業員から「溶剤が原因では」という声があがっていた。
本田さんは06年の健康診断で肝機能異常が見つかった。病院を訪れると、「有機溶剤使用が原因と考えられる」と記された診断書が出た。会社を辞めた。
「安全管理を軽視してこういうことになった。殺人に匹敵すると思う」と力を込めた。
07年に長男の岡田浩さんを46歳で亡くした母、俊子さん(83)=大阪市=も会見に臨んだ。浩さんは10年間同社に勤め、退職8年後に胆管がんを発症した。
浩さんは「溶剤を吸うと気を失いそうになる」と話していたという。俊子さんは「本人は原因が分からないまま命を落としたが、会社が原因と分かった。社長は人の命を軽視している」と憤りをにじませた。
被害者の会は労災認定された元従業員6人と、亡くなった7人の遺族が結成。片岡明彦事務局長によると、3回あった会社との話し合いでは「溶剤が原因だと指摘した」という元従業員らの証言に対し、山村社長は「記憶にない」と繰り返したという。(上原賢子、机美鈴)会社側「発がん性予測できず」
大阪市中央区にあるSANYO社の本社では、山村健司取締役が報道陣の取材に応じた。書類送検を受け、「今後も捜査に協力していく」と話した。
胆管がんで労災認定を受けた元従業員らについては「大変申し訳なく残念。道義的な責任は感じている。できる限りのことをしたい」と述べた。SANYO社は、胆管がんになった17人(9人死亡)のうち3人(1人死亡)と補償金支払いで合意し、今後も補償交渉を続けるという。
一方、胆管がんの原因とされる化学物質「1,2-ジクロロプロパン」が含まれた洗浄機の洗浄液について「当時は国も危険性を把握していなかった。発がん性は予測できなかった」と説明。「国の規制がない洗浄液の危険性を一企業が見抜くのは難しい」と民事上の責任ははいと強調した。
SANYO社によると、これらの化学物質が含まれた洗浄液は2006年までに使用をやめ、現在は別の溶剤を使っている。作業室の換気装置も一新し、従業員に作業中のマスク着用を指示するなど、「国の基準を上回る安全基準を設け、労働環境を改善した」(山村取締役)としている。(矢吹孝文)
労災認定 全国で22人
印刷会社で働いていて胆管がんになった人の労災請求は全国で相次いでおり、厚生労働省は今月初めまでに22人を労災認定した(うち10人は死亡)。SANYO社のある大阪府で働いていた18人のほか、宮城県2人、愛知県、北海道各1人も認定された。
8月末までの労災請求はすでに認定された人も含めて75人。うち48人は請求時点で死亡している。厚労省の専門家検討会が引き続き、認定するかどうかを判断する。厚労省は10月1日、労災補償の対象となる病気のリストに「1,2-ジクロロプロパン」「ジクロロメタン」による胆管がんを追加する。「厳重処分」の意見つける
朝日新聞 2013年9月27日
大阪労働局は26日、SANYO社と山村社長について、起訴を求める「厳重処分」の意見をつけて書類送検したことを明らかにした。「会社が衛生管理者らを選任し、職場の衛生について問題を探り出す体制ができていれば、被害の拡大を防ぎ得た」と指摘した。
監督課によると、送検容疑は2011年4月~12年4月、健康対策の責任者である衛生管理者や産業医を選任せず、労使一体で対策を検討する衛生委員会も設置しなかった疑い。労働局は、同社が遅くとも02年1月から産業医らを選任する義務に反していたことを確認したが、公訴時効(3年)を踏まえ、この期間を立件対象とした。
同社では、17人(うち9人死亡)が印刷機の洗浄剤に含まれる化学物質「1,2-ジクロロプロパン」を高濃度で長期間吸い込んだために胆管がんを発症した蓋然性が高いとして、労災認定を受けた。
胆管がんで書類送検
毎日新聞 2013年9月27日
大阪労働局 印刷会社と社長 衛生法違反容疑
大阪市中央区の印刷会社、サンヨー・シーワイピーの従業員らが相次いで胆管がんを発症した問題で、大阪労働局は26日、同社の山村悳唯(とくゆき)社長(67)と、法人としての同社を労働安全衛生法違反(産業医の未選任など)の疑いで大阪地検に書類送検した。労働局は、同社のずさんな衛生管理体制が被害の拡大につながったと判断。起訴を求める「厳重処分」の意見を付けた。
送検容疑は2011年4月~昨年4月、従業員50人以上の事業所に義務付けられている産業医や健康障害を防ぐ衛生管理者を選任せず、労使が職場環境の改善策を検討する衛生委員会を設置しなかったとしている。山村社長は容疑を認めている。
労働局によると、同社は11年4月時点で約70人が在籍していたが、労働局が昨年5月に是正勧告するまで対策を取っていなかった。従業員が50人以上いた02年1月以降、産業医と衛生委員会は一度も設置されず、衛生管理者がいたもの一時期だけだったという。
同社では、20~40代の現元従業員17人が胆管がんを発症し、うち9人が死亡した。印刷所でインキを洗い流す際、有機塩素系化学物質「1,2-ジクロロプロパン」を含む洗浄剤を使用。厚生労働省の検討会は今年3月、「4~13年の長期間、高濃度の1,2-ジクロロプロパンにさらされたために発症した可能性が高い」と結論づけた。
1,2-ジクロロプロパンは法規制の対象外だったため、労働局は同物質の使用方法を巡っては刑事責任を問えないと判断した。【服部陽】
胆管がん送検
被害防げたはず
元従業員ら「会社が進言無視」
現元従業員17人が胆管がんを発症し、うち9人が死亡した印刷会社「サンヨー・シーワイピー」(大阪市)と山村悳唯社長(67)が労働安全衛生法違反容疑で書類送検された26日、被害者らは「会社がは職場の危険を訴える社員の進言を聞き入れず、多くの死者を出した。最大限の罰を」と怒りをあらわにした。
「がん多発と死は防げたのではないか」
書類送検後、患者6人と7遺族でつくる「胆管がん被害者の会」が記者会見を開き、胆管がんを発症した元従業員の本田真吾さん(31)が強い口調で話した。同社では「体調の悪さは、インキの洗浄に使う有機溶剤のせいではないか」と複数の従業員が訴えたとされる。本田さんもその一人だったが、「私が言えたのは、会社を辞める決意をした後。職場では口にしにくい雰囲気だった。次々とがん患者が出た時点で、産業医のような第三者を入れて調べていれば、被害はここまで広がらなかったはずだ」と振り返った。
大阪労働局も捜査を通じ、同社が労使で構成する衛生委員会の設置や産業医の選任をせず、改善策を検討する機会を奪っていたことを送検容疑にあげた。元従業員の長男浩さんを46歳で亡くした岡田俊子さん(83)は「息子が会社を辞める2年前、有機溶剤を吸ったら気を失いそうになると言っていたのを思い出す。同じように多くの若い人たちが命をなくした」と声を落とした。書類送検を受け、岡田さんは「事実が明らかになれば、他の人たちの役に立つ。息子には無駄な死ではなかったね、と報告したい」と語った。
厚生労働省によると、同社の問題が表面化して以降、北海道や宮城、愛知の印刷会社でも被害が確認された。胆管がんを発症したとして8月末までに75人が労災申請し、22人が認定を受けた。
また、同社が使っていた洗浄剤に含まれていた化学物質「1,2-ジクロロプロパン」は来月から、規制が厳しい特定化学物質の対象となり、事業者には排気装置の設置などが義務付けられる。【大島秀利、田所柳子】
「できる限りの対応したい」会社側
書類送検を受け、サンヨー・シーワイピーの山村健司取締役は取材に「労働安全衛生法の知識が不十分で深く反省している」と衛生管理体制の不備を認めた。
同社は、死亡者の遺族に1000万円の補償金を支払うなどとしており、山村取締役は「被害者の方々には大変申し訳ない。できる限りの対応をさせていただく」と話した。
一方、1,2-ジクロロプロパンを含む洗浄剤の使用については「規制や通達があれば使うことはなかった」と釈明した。
サンヨー・シーワイピーの胆管がんをめぐる経緯
2012年
5月19日 サ社の元従業員5人が発症、4人が死亡していたことが熊谷信二・産業医科大准教授らの調査で判明
5月28日 厚生労働省がサ社を立ち入り調査
6月13日 サ社で発症した元従業員らが計9人に。厚労省がサ社に是正勧告していたことを公表
7月19日 サ社元従業員4人の遺族が、労災認定申請
7月31日 サ社が初めて記者会見。「因果関係が明らかでない」として謝罪や補償に言及せず
8月31日 厚労省がサ社の調査結果を発表。原因と疑われる化学物質が最大で基準の21倍だった可能性が判明
2013年
3月14日 厚労省が、サ社の従業員16人について、胆管がんと業務の因果関係を認める
3月27日 厚労省がサ社の16人の労災を認定する
3月28日 サ社が記者会見で謝罪。補償にも言及
4月2日 大阪労働局が、サ社を家宅捜索
5月21日 厚労省がサ社の1人の労災を認定する
9月26日 サ社と同社社長を労働安全衛生法違反の疑いで書類送検
胆管がん全国で25件労災認定、12件不支給(2013年11月19日時点)
厚生労働省は、所轄労働基準監督署に胆管がん請求事案のすべてを本省に「りん伺」させ、「印刷事業場で発生した胆管がんの業務上外に関する検討会」(以下、検討会)において個別事案の業務上外を判断してきた。
検討会は2012年9月6日に第1回を開催し、2013年3月14日第5回で「『印刷事業場で発生した胆管がんの業務上外に関する検討会』報告書 化学物質ばく露と胆管がん発症との因果関係について~大阪の印刷事業場の症例からの検討~」をまとめた。
検討会は報告書において、「胆管がんは、以下のとおり、DCM又は1,2-ジクロロプロパン(以下、1,2-DCP)に長期間、高濃度ばく露することにより発症し得ると医学的に推定できる」とした。
そして、この時点までに労災請求し、調査資料が整っていたSANYO-CYP社の16件について業務上との判断を示した。3月27日、厚生労働省からの「りん旨」への回答に基づき大阪中央労働基準監督署は、SANYO-CYP社16件について最初の支給決定を行った。
5月21日第6回、SANYO-CYP社の17人目の野内豊伸さんが業務上と判断された。
6月13日第7回、宮城労働局管内の同一事業場の2名と愛知労働局管内の1名について業務上、1件を業務外と判断した。以後、報道機関に対して、業務上事案については所轄労働局と概要を、業務外については概要のみを公表するようになった(記者発表資料の内容がホームページに掲載されていないのはかなり問題あり)。厚生労働省資料、報道によると、
胆管がん<宮城・2名>
- 洗浄業務に従事。40歳代と30歳代の男性(いずれも療養中)。
- 150ppmを超える1,2-DCPにばく露(約16年間)。
- 2012年7月10日付け「胆管がんに関する一斉点検結果の取りまとめ結果等について」(厚生労働省)には、次の記載がある。 「(作業場の状況) 労働者数は約30名。平成23年の東日本大震災により被災し、一時事業を中断していたが、場所を移して再開している。このため、震災前の作業状況を確認することが困難であるものの、事業場から入手した当時の建物に関する写真、配置図をもとに、関係労働者からの聞き取り等で当時の作業状況の把握に努めている。現在までに把握している情報は以下のとおり。
① 1日の洗浄時間が長時間に及ぶ者もいた。
② 地下室ではないが、普段は窓を閉めた状態で作業をしていた。
③ 手袋は支給されており、手袋を着用していた者とそうでない者がいた。
また、換気の状況についても、当時の建物が消滅しているため、確認が困難な状況にある。
(使用化学物質について)
事業場関係者から入手した溶剤の一覧から、平成8年から平成23年までの間に納入されていた溶剤の主成分として1,2-DCPが含まれていたことが判明している。また、ごく少量ではあるものの、平成7年から平成22年までのほぼすべての期間にわたりDCMの納入も確認されている。現時点では成分が判明していない溶剤も含まれており、引き続き調査を行っている。
胆管がん<愛知・1名>
- 洗浄業務に従事。40歳代の男性(療養中)。
- 400ppmを超えるDCMにばく露(約12年間)。
- この男性については2012年8月29日付で名古屋西労働基準監督署に申請していた。名古屋労災職業病研究会などが支援したもので(安全センター情報2012年10月号22頁)、DCMの単独ばく露だった。SANYO-CYP社の場合は「1,2-DCP単独ばく露」6名、「DCMと1,2-DCPの複合ばく露」11名だったことから、1,2-DCPが主原因とされていたが、この男性のケースは、DCMも胆管がん原因であったことを実例として示すことになった。なおこの印刷会社は既に廃業している「三晃印刷」(名古屋市)。
「職病病だと知って」胆管がん労災認定の男性訴え
毎日新聞2013年7月27日
印刷書の労働者に胆管がんが多発している問題で、化学物質ジクロロメタンだけを原因とする胆管がん患者として恥じて労働災害と認定された40代の男性(三重県在住)が26日、名古屋市内で記者が会見した。男性は「胆管がんが職業病だと知ってほしい。知らずに苦しんでいる人は多いはず」と話した。
男性については、厚生労働省の専門家検討会が先月13日に労災との結論を出し、名古屋西労基署が同月24日付で正式に認定した。2010年4月から2年4ヶ月の休業補償と治療費が保険給付される。ただし288万円を要した粒子線治療は高度先進医療のため労災保険対象外とされ、男性は「納得できない」として今後支給を求めるという。
男性は1984年~95年、名古屋市内のオフセット印刷会社(すでに廃業)に勤務。有害性が確認されているジクロロメタンを含む洗浄剤で印刷機を洗う業務に従事していたが、マスク着用や排気など安全対策が取られておらず、07年に発症した。
会見に同席した関西労働者安全センター(大阪市)の片岡明彦事務局次長によると、胆管がんの労災認定は大阪府の同じ事業所の17件と三重県の男性などの3件の合計20件。ジクロロメタンは今も金属製品の洗浄剤やフロン代替物質として広く使われているといい、「同様な労災が他でも起きている可能性がある」と話した。【花岡洋二】
胆管がん<北海道・1名>
8月1日第8回、北海道労働局管内の男性1名が業務上と判断された。
報道によると、「1985年から約11年間印刷会社に勤務、1,2-DCPを洗浄剤として使用し、高濃度ばく露したことにより業務上と判断。ほかに6件を検討し、うち2件を業務外、4件を継続検討とした。業務外2件は、いずれも60代男性(1名死亡)で、うち1名は50年前に9か月間シンナーでの洗浄作業をしたが、シンナーによる胆管がん発症の知見がないとして関連なし、とされた」という。
胆管がん<大阪・1名>
9月3日第9回、大阪労働局管内の1名が業務上と判断された。
厚生労働省や報道によると、「死亡時30歳代の男性。1997年から2001年までの約4年間、洗浄業務に従事。1,2-DCPに高濃度(150ppm超)にばく露した」という。同時に業務外とされた3名は「死亡時60歳代の男性、印刷会社での洗浄業務で13年間ガソリンにばく露」「死亡時60歳代の男性、印刷会社で活版印刷業務(活字の組み込み)に従事、キシレンや灯油への少量ばく露を除いて化学物質への大量ばく露は認められなかった」「死亡時60歳代の女性、印刷会社で製版業務(版の傷の修正や汚れの除去)に従事、製版業務での化学物質の使用量が少なく、1,1,1-トリクロロエタンなどへの少量ばく露を除いて化学物質へのばく露はほとんど認められなかった」という。新たに検討を行った福岡労働局管内の2件を含む5件(4事業場)については継続検討とされた。
胆管がん<福岡・2名>
10月1日第10回、福岡労働局管内の同一事業場の2件が業務上と判断された。
厚生労働省や報道によると、「2名はいずれも40歳代男性で、請求時に1名は死亡、1名は療養中だった。印刷会社で洗浄業務に従事し、150ppmを超える1,2-DCPに、死亡した方は12年間、療養中の方は7年間ばく露した」という。同時に業務外とされた3名(3事業場)は「死亡時60歳代の女性、印刷会社で洗浄業務に従事し、ガソリンに約5年間ばく露した」「70歳代の療養中の男性、印刷会社で洗浄業務に従事、エチレングリコールに約3年間ばく露した」「死亡時60歳代の男性、印刷会社で洗浄業務に従事、ガソリンに約23年間ばく露した」とのこと。
11月19日第11回、埼玉労働局管内の1件が業務上と判断された。
厚生労働省や報道によると「療養中の40歳代男性、印刷会社(すでに廃業)で洗浄業務に従事、1996年から会社が廃業した2009年までの約13年間、1,2-DCPにばく露した」という。同時に業務外とされた3名(3事業場)は「死亡時70歳代の男性、印刷会社で洗浄業務に従事、トルエンを使用しておりDCMや1,2-DCPへのばく露はなかった」「死亡時50歳代の男性、印刷会社で洗浄業務に従事、ミネラルスピリットを使用しておりDCM、1,2-DCPへのばく露はなかった」「死亡時50歳代の男性、印刷会社で洗浄業務に従事、ガソリン、シンナー、ミネラルスピリットを使用しており、DCM、1,2-DCPへのばく露はなかった」とのこと。また、印刷業以外で1件が業務外と判断された。「死亡時40歳代の男性、新聞小売業、化学物質の使用なし」とのこと。
2013年11月19日時点の胆管がんの労災補償状況
2013年11月19日時点の胆管がんの労災補償状況は次の表2、3、4のとおり(厚生労働省)。
印刷業における請求件数は77件(うち請求時死亡50件)で、業務上25件(同11件)、業務外12(同10件)。
印刷業以外における請求件数は19件(同12件)で、業務上0件、業務外1件(同1件)。
検討会はほぼ1か月に1回開催されており(第12回は12月17日)、今後順次業務上外判断が行われていくことになり、認定の動向を注視していかなければならない。
安全センター情報2014年1・2月