韓国の労災・安全衛生安全保健は費用ではなく価値投資、安全職場が企業競争力 2023年06月05日 韓国の労災・安全衛生

アラン・スティーブンス/イギリス産業安全保健協会(IOSH)

重大災害など労災・疾病を予防するために、元請け大企業の安全保健への投資意志が重要だと、イギリスの安全保健専門家が主張した。 労働者の声に耳を傾けて予防対策に反映し、災害予防機関の活動は、労災発生と予防の根本的な原因を見付けることに重点を置くべきだという指摘も続いた。

企業殺人法の先駆けたイギリス
「労使共にする安全文化づくりも必要」

アラン・スティーブンス(Alan Stevens)イギリス産業安全保健協会(IOSH)戦略企画室長は、イギリスで安全保健公団と行ったインタビューで「イギリスは安全保健のためには立法が先行するべきだと考え、法律の制定によって事業主と労働者に規定を守らせるようにしたが、同時に安全文化も(労使が)一緒に造成してきた」と話した。

韓国の「重大災害処罰などに関する法律」(重大災害処罰法)は、2007年にイギリスで制定された「企業過失致死および企業殺人法」(企業殺人法)を参考にして作られた。重大災害処罰法は、経営責任者の安全保健確保義務に集中する構造であり、企業殺人法は法人に注目して責任を問うというのが少し違う点だ。企業殺人法を担当するイギリス保健安全庁(HSE)は、産業安全保健協会や安全協議会などの民間機関と協力し、安全保健教育・安全保健専門家養成といった、産業安全保健活動を展開している。

雇用労働部は昨年11月に出した重大災害削減ロードマップによって、『自己規律予防体系』の構築に集中している。危険性の評価を出発点としている。アレン室長は「韓国政府が重大災害処罰法と重大災害削減ロードマップで、自己規律予防体系や危険性評価などを強調する理由も(安全文化の造成を強調するイギリスと)同じ脈絡だと考える」として、「韓国のように災害予防政策の樹立と執行が急速に進んでいる国は、優秀なデータ構築力を基盤に、国の産業安全保健システムの実効性を高めることができるだろう」と展望した。災害の原因と結果を分析・蓄積し、これを基盤に労災予防政策を樹立・執行すべきだという意味に解釈される。

イギリスの企業殺人法が法人に注目する点についても説明した。彼は「経済的な観点からのアプローチが、事業主の(安全保健)義務の履行を引き出すことができる」として「事業主は効率性と費用に敏感なので、安全管理活動を根拠に保険料節減のような経済的インセンティブを付与することは方法になり得る」と助言した。

コーヒー産業を例に挙げ、元請けの安全保健活動の重要性も強調した。アレン室長は「最近、財貨やサービスが倫理的に生産されているのかに関心を示す傾向が高まっていて、この倫理的生産には、労働者の安全保健も含まれる」とし、「事業主が倫理的生産方式に資本を投資し、労働者の安全保健を増進するならば、サプライチェーンに属している中小規模の企業の労働者の安全保健増進と改善にも役立つだろう」と期待した。安全な産業現場のために事業主の意志が重要だという点は、万国共通だ。アレン室長は「事業主に安全保健は『費用』ではなく、投資誘致などを可能にする『価値創出の媒介』と認識させるべきだ」とし、「労働者の安全と健康は事業主の収益に繋がり、韓国の若くて賢い最高の未来労働力は、彼らを安全に守る環境の中で働くことになるだろう」と強調した。企業競争力で優位を確保するためには、人材を登用して維持しなければならず、安全な職場が人材維持のための必要条件だということだ。

監督者と労働者間の日常的協業がなされなければ

安全文化を造成・拡大するためには、事業主と労働者の協業がなければならないとも強調した。彼は「労働者と管理者が、自ら動機付けができるようにしなければならない」とし、「試合前にサッカー選手と監督が戦略を議論するように、産業現場で監督者と作業者の間で対話がなされなければならない」と話した。続いて「その日の作業に関して話す安全点検会議は、産業現場の安全性を増進するだろう」と繰り返し説明した。

アレン室長は安全保健公団に対して、「刑事コロンボのように活動せよ」と助言した。「TV番組の刑事コロンボでは、現場に出動した警察と主人公のコロンボは、様々な質問をしながら犯人を追跡していく。」「公団や産業安全保健分野にある機関・組織の役割はこの刑事と同じだ」と話した。彼は「問題を解決するための根本的な原因を捜し出すには、引き続き質問をしなければならないからだ」と付け加えた。労災発生と予防の原因を見付けることに重点を置こうという意見と読まれる。

1945年に設立されたIOSHは、産業安全保健の専門家と従業員の間の交流のために設けられた非営利団体だ。200人余りの職員と130ヶ国の5万人余りの会員と一緒に、教育・訓練、刊行物の発刊等によって、事業場での産業安全保健活動を維持・促進させることに努力している。昨年、国際労働機構(ILO)は職業安全保健協約(155号)・職業安全保健体系増進協約(187号)を基本協約として採択した。IOSHは基本協約の採択を支持するため、ILOと共働で産業安全保健の増進事業に参加する予定だ。

2023年6月5日 毎日労働ニュース チェ・ジョンナム記者

http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=215443