空調設備工の肺がん死亡から30年後に遺族から相談/東京●「労災時効救済」はいまも必要

労災保険制度の遺族補償は、請求期限(時効)が5年となっている。労災被災者が亡くなって5年が経過すると遺族の請求権が消滅してしまう。しかし、アスベストによる労災については、国が特別な制度を設けて救済を図ってきた。これは、2006年のクボタ・ショックでアスベストによる深刻な健康被害が明らかになるまで、多くの遺族が被害に気がっけないまま時間が経過してしまったとこなど、アスベスト問題特有の事情を踏まえた措置である。

具体的には、石綿健康被害救済法の中で、時効によって労災補償を請求できなくなった遺族に対して「特別遺族給付金」という制度を設け、特別に労災を申請できるようにした(いわゆる労災時効救済制度)。

しかし、この「特別遺族給付金」制度が、今年3月27日ですべて打ち切られることになり、大きな問題となっている。いまもなお、数年~数十年前に亡くなった方のご遺族から、「私の家族が亡くなった原因は、仕事で曝露したアスベストではないか」という相談が寄せられており、このタイミングでの制度の打ち切りは、多くのアスベスト被害者とその遺族の切り捨てにつながるからである。

Aさんのケースも、そうした相談のひとつだった。Aさんは、1960~1980年代、ビル等の空調整備を取り付ける会社で働いていた。ご遺族によると、建設現場に入って空調設備の取り付け工事に従事し、作業着はいつもほこりまみれだったと言う。忙しく仕事に打ち込んでいた最中に、Aさんは肺がんを発症し、1990年代初頭に亡くなった。

ご遺族はAさんの突然の病に、仕事にその原因が潜んでいるのではないかと疑っていたものの、当待はアスベスト被害のこともよく知らず、何も動くことができなかったと言う。

その後、ご遺族は、アスベスト被害に関する報道などにふれていく中で、次第にAさんの死はアスベストが原因ではないかと考えはじめた。そして、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会による石綿被害相談ホットラインの報道を見て、電話相談したのだった。このとき、Aさんの死から約30年が経っていた。

こうした相談の場合、当時の医療記録や死亡診断書がすでに失われていて、病気の内容や死亡原因を特定できないことが少なくない。さいわいAさんの場合には、ご遺族が死亡診断書を保管していたため、肺がんが原因で亡くなったことが確認できた。ただ、病院のカルテや画像記録などはほとんど残っておらず、石綿が原因の肺がんであるかどうかを判断する医学的資料は不足していた。

厚生労働省が「特別遺族給付金」制度での認定について定めた認定基準では、どのような医学的資料がないケースについて、被災労働者の石綿曝露状況を推定できる情報があるかどうかが認定のカギになる。具体的には、同じ作業をしていた同僚にアスベスト被害の労災認定が出ているかどうかが重視される。Aさんの場合、勤務していた企業において、すでにアスベスト被害による労災認定が出ていた。

さらに、Aさんの同僚だった方が、Aさんと一緒に働いていた頃のことを証言してくれた。「ビルの建設現場などで、現場の天井にあがって空調工事をしていた。その現場には吹き付けアスベストがあった」と言う。会社側も、ご遺族からの問い合わせに対して、「Aさんの詳細な石綿の曝露状況は不明」としつつも、事業主証明を行い、労災申請に協力した。

Aさんのご遺族による労災申請は、通常であれば死後5年以上経過しているので、時効で請求することができない。しかし、「特別遺族給付金」制度により、その申請は受理された。その後、厚生労働省に案件が上げられ「本省協議」となったため時間がかかったが、最終的に申請から約1年後、ご遺族のもとに認定の通知が届いた。

今年3月、「特別遺族給付金」制度の打ち切りが迫る中で行われた、患者と家族の会の緊急相談ホットラインには、全国から700件を超える相談が寄せられた。そのなかには、Aさんのケースと同様に、何年も前に亡くなった家族についてアスベスト被害によるものではないかと訴える、ご遺族の切実な声があった。

アスベストの被害が社会に知られるようになったのは、本当にここ数年のこと。アスベストによる被害の情報を十分に知らされないまま、声をあげられず、労災申請もできず、悩み苦しむご遺族がまだまだ全国に数多くいる。

この間、患者と家族の会を中心に、「特別遺族給付金」制度の延長を望む声を国会に強く訴えてきた。いまその活動が実り、今回の通常国会で「特別遺族給付金」制度の延長が実現しそうな状況になりつつある。

文/問合せ:東京労働安全衛生センター

安全センター情報2022年7月号


労災時効救済や石綿救済の請求期限延長が実現、石綿救済法改正が6/17公布。そして、闘いはこれからだ!(関西労働者安全センターHP)