アスベストは造血器腫瘍も起こすのか? /愛知●偶然の合併ではすませられない?

1 これは偶然か?

弁護士から、胸膜中皮腫と急性骨髄性白血病の診断をほぼ同時に下された患者さんがいる、どう思うかと聞かれた。資料を見せてもらうと、建材や保温材を製造する工場で25年ほど働いた方で、胸部CTには石灰化した胸膜プラークがあり、多量のアスベスト吸入があきらかだった。これを偶然の合併ではすませないと感じ、前から気にしつつも手をつけなかったアスベストと造血器腫瘍との関係の調査を思いたった。

2 調査が必要と思う背景

少し経過を述べると、次のとおりである。私のアスベストへの関わりはじめは40年前の自動車ブレーキ・クラッチの再生加工工場の調査だった。最初に調べたのは従業員20人のA社。社長は労働運動をしていた人で、労働組合もあった。職場調査を快諾してくれ、同業B社、C社の紹介もしてくれた。数年にわたる調査で、3社の作業環境は一定度改善されたが、中皮腫や肺がんを心配していた。実際、後年、A社の社長は肺がんで亡くなった。次にB社の社長が亡くなったのだが、こちらは悪性リンパ腫だった。社長は、B社の中で胸部写真に胸膜プラークを認めた唯一の人だったので、悪性リンパ腫と聞いて、伏兵が現われたように感じた。両社長の死去より前の1987年に、呉の造船所で多量の石綿に曝露された労働者の急性骨髄性白血病2例の報告(岸本卓巳ら、日本内科学会雑誌)があったことを知っていたので、B社社長の悪性リンパ腫は記憶に残った。

その10余年後、私は、学生時代の2週間のアスベスト吹き付け工事アルバイトによる石灰化胸膜プラークが顕著で悪性リンパ腫に罹患した教員に出会った。また、1987年以来、三重県建設国保組合と私たちのチームとの協力で続けているアスベスト対策の中でも、造血器腫瘍例に遭遇した。こうしてアスベストが造血器腫瘍を起こす疑いを強めていた失先に冒頭の話があったのである。

私たちが過去にアスベスト関連疾患を疑い調査した233人中、造血器腫瘍は6人だった(表参照)。業種は、短期間石綿吹き付け1人、造船・鉄骨工1人、石綿製品製造2人、大工2人だった。胸膜プラークは全員にあり、石綿関連疾患としては、石綿肺1人、肺がん3人、胸膜中皮腫1人だった。造血器については、前白血病状態とされる骨髄異形成症候群1人、急性骨髄性白血病1人(冒頭の患者さん)、悪性リンパ腫3人(B社社長は含めず)、多発性骨髄腫1人だった。3人は中皮腫・石綿肺がんと造血器腫療の診断がほぼ同時だった。

アスベスト曝露歴がある造血器腫瘍の概要

3 国内外の報告

症例報告を探してみると、白血病(T Kishimoto 1988、R Chin
tapatla 2012)、悪性リンパ腫(K Takabe 1997、N Hara 2015)、多発性骨髄腫(E Kagan 1983、栗林康造 1999)などがある。それだけでなく、疫学研究でアスベスト曝露者の造血器腫瘍リスクが一般人に比べ高かったとする報告もある。例えば、デンマークの研究(ET Wurtz 2020)では、すべての造血器臆療のリスクは1.69倍、白血病のリスクは2.14倍で、統計学的に有意に高く、他の研究でも裏付けられれば労災認定基準を変えるべきだと述べている。

アスベストにより造血器腫瘍が生ずるとすれば、どのようなメカニズムなのだろうか。アスベスト繊維による慢性の炎症という説などがある。骨髄にアスベスト小体を認めたという報告(大西義久 1985)や膿胸関連リンパ腫(新臨床内科学、医学書院)の存在を考えると炎症起因もありうるか、と思う。

現時点で国際がん研究機関はアスベストと造血器腫瘍との関係を認めてはいない。しかし、私はおそらく今後の研究により両者の関係が需定される可能性が高いと者えている。未知のアスベスト被害を明らかにし、被害者支援をすすめるために、読者の皆様で、患者さんの情報などお持ちの方が見えたら、ぜひ、名吉屋労災職業病研究会にご連絡ください。

文/問合せ:名古屋労災職業病研究会

安全センター情報2022年7月号