構造的原因のない災害調査意見書、事故を防げない 2022年6月2日 韓国の労災・安全衛生
2019年2月20日午後5時29分、現代製鉄唐津工場で働いていた下請け労働者がベルトコンベアと滑車の間に挟まれ亡くなった。被災者が補修作業に必要な資材を取りに行く時間を短縮しようと、正常な移動経路ではなく、ベルトコンベアに上って移動しようとしたことが事故の発端となった。被災者は作業現場の暗い照明と騒音、粉塵のせいで、止まっていたベルトコンベアと間違って動いているベルトコンベアに上がって事故に遭った。安全保健公団は事故後に作成した災害調査意見書で、災害予防対策として不適正な通行禁止、適正な照度の維持、粉塵除去などを提示した。元・下請け構造などの構造的な事故原因の究明がなかったため、解決策も事業場の状況に関する対策に止まったと指摘されている。
「同種・類似災害予防の役割は果たせない」
韓国労働安全保健研究所の「直ぐに止める状況室」が先月31日、このような内容の「重大災害調査報告書を公開せよ」を発刊した。状況室は「重大災害での企業の責任を、技術的な部分を越えて構造的な部分まで究明すべきだ」とし、「元請けを含め、企業経営に実質的な責任がある者と法人に、はっきりと責任を問うには、きちんとした災害原因調査が出発」と主張した。
重大災害が発生した後、安全保健公団が作成する災害調査意見書は、事故原因の究明と事故予防という目的を達成できていないと、状況室は主張した。現在は同種・類似事故予防のために参考にできる資料というよりも、捜査資料の性格が強いため、事業主がどんな法に違反したのかについての扱いが狭いためだというのが状況室の分析だ。
実際の災害調査意見書は、事故発生当時の状況を載せるレベルに止まっているケースが多い。原因と対策を書く調査者の意見の項目は、抜けているのが常だ。9割は調査期間が1~3日に過ぎない上に、安全保健公団の専門要員の調査権限の限界など、様々な問題が重なっている。
「事故原因を深層検討しなければならない」
状況室は「災害調査報告書が死亡事故原因を、起因物(道具・施設など)問題のレベルだけで扱っている」とし、「起因物になぜ問題が発生したのか、より根本的な次元にある管理・監督の問題を扱わず、労災死亡に対する責任がどこにも出てこない報告書がある」と指摘した。
一例として、2020年2月11日にソウル永登浦区のあるオフィステル新築工事の現場で被災者が墜落死した事例を挙げた。災害調査意見書は、被災者が支柱と立て看板の連結ボルトの解体作業を行っていたところ、高さ約5.5メートルの支柱の角パイプから落ちて死亡した経緯を説明しているが、肝心の支柱の角パイプが本来の用途と違って使われた背景は説明していないと指摘した。
状況室は「(支柱の角パイプを)なぜ本来の用途ではないやり方で使用したのか、どのように許容されたのか、普段の作業道具や施設に対する管理と教育は正しく行われたのか、どこで管理すべきだったのか、費用や時間を減らすためにそのようなやり方で作業したのか、深層的な側面の検討が優先されなければならない」と指摘した。
「公開されていない報告書では質を担保できない」
構造的な原因を見付けたかどうかによって、解決策も異ならざるを得ない。2019年2月、現代製鉄唐津工場での下請け労働者の事故を記載した災害調査意見書が、不適正な通行の禁止、適正な照度の維持、粉塵除去などを代案として提示するに止まったが、安全保健診断の結果として提示された解決法は違っていた。同じ事故に関して仁川大学のキム・チョルホン教授(産業経営工学科)が作成した「現代製鉄唐津工場の安全保健診断調査結果にともなう提言」によれば、問題になった作業環境の改善が、元・下請け構造によって遮断きたということが指摘された。元請けと同じ安全システムの適用や、元請け・下請け統合の安全保健協議会のような、安全管理システム改善などの構造的な代案が提示された。
状況室は「直接原因、技術的な要因だけに固執してはならず、原因の原因を確認し、責任を問うべき構造を究明しなければならない」と主張した。また「公開されていない報告書の水準と質を担保する方法はない」とし、「災害調査結果は共有され、流布されなければならない」と強調した。
2022年6月2日 毎日労働ニュース カン・イェスル記者
http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=209196