11人のアスベストがん死について遺族がBBCの支払いを勝ち取る-2022年1月30日付け英ガーディアン紙

中皮腫で亡くなったセットビルダーのリチャード・エバンスさんが担当した、テレビドラマ「ドクター・フー」のセットでのたダーレク[番組に登場する地球外生命体]とその操作者たち(写真:オブザーバー紙)

従業員被害者家族の弁護士は、数千人が曝露した可能性があると語る。

BBC[英国放送協会]は、アスベストだらけの同協会の建物で働いたのちにがんで死亡した11人の元職員に対して、164万ポンド[2億5千万円超]の賠償を支払ったことが、オブザーバー紙によって明らかにされた。

支払いがなされたのは、メーキャップアーティスト、技師、リガー、セットビルダー、スタジオマネージャー、テレビプロヂューサーの遺族に対してである。11人全員が、アスベストへの長期曝露によって引き起こされる稀ながんである中皮腫で死亡した。

彼らは、セントラル・ロンドンのブロードキャスティングハウス[現BBC本社]、バーミンガムのペブルミル・スタジオ、2013年まで何十年にもわたってBBCの本社だったロンドン西部ホワイトシティのテレビジョンセンターを含め、18か所のBBC施設で働いた。

リストには、どちらも首都にある、BBCワールドサービスの以前の本拠であったブッシュハウスやアレクサンドラパレスも含まれる。「テレビ発祥の地」として知られる後者は、1936年にBBCが初めてのテレビ放送を行った場所であることから、BBCの歴史のなかで重要な位置を占めている。

BBCは、オブザーバー紙による情報公開請求に応じて認めた。昨年、BBC交響楽団(BBCSO)の元団員やアスベストが使用された施設で働いたその他の元職員の家族からの損害賠償請求の可能性にBBCが直面していることが明らかにされてから、われわれは和解した事例の詳細を求めていた。

この放送会社は、1959年から1998年の間に同協会で働いていた9人の男性と2人の女性に関する補償請求を解決するために、過去10年間に1,637,501ポンドを支払ったと言う。それらの名前は明らかにしなかった。

「これらの死亡に対する支払いは、アスベストが依然として大きな脅威であることを示している」、とメゾテリオーマUKの最高責任者でNHS[国民保健サービス]のパートタイムNHS看護士でもあるリズ・ダーリソンは言う。「病院の95%、学校の85%にアスベストが使用されていて、アスベストが中皮腫を引き起こす発がん物質であることを、多くの人がわかっていない」。

「中皮腫は怖い病気だ。半数以上の人が診断されてから1年以内に亡くなっている-恐るべき統計値だ」、とダーリソンは付け加える。イギリスでは、毎年約2,700人が中皮腫と診断されている。

11人のなかには、マンチェスターのディッケンソンロード・スタジオやグラスゴー・ウエストエンドのクィーン・マーガレットドライブにあったBBCスコットランド旧本社、シェトランド諸島のブレッセイやアセンション島のワールドサービス大西洋中継局で働いた人もいた。

BBCは、「BBC施設で働いていた間に個々人がアスベストに曝露したかどうか、曝露していたとしたらどの期間だったかを確認することは不可能だ」と言う。

2006年にBBCは現及び元職員・フリーランサーに対して、彼らが、いまは使われていないテレビジョンセンターのスタジオTC2、TC3、TC5で、1990年から2005年の間、アスベストに曝露していたことを警告した。ケーブルダクトからアスベスト繊維が落ちて、人の曝露を引き起こした可能性があった。

オブザーバー紙は昨年、BBSCOのホルン奏者で、中皮腫で亡くなったクリストファー・ラーキンさんの遺族がBBCを訴えていることを報じた。BBCは、この音楽家の死に対する責任を認め、審問では「アスベストへの曝露の結果死亡した」と判定された。彼は、ロンドンのBBCメイダベール・スタジオで36年間リハーサルを行ったが、このスタジオは後にアスベストが使用されていることが判明し、一部は破損し、露出していた。この建物は閉鎖される予定で、ロンドン東部のオリンピックパークに代わりのスタジオが建設中である。

われわれはまた、ドクター・フーなどの番組のセットビルダーで、中皮腫で亡くなったリチャード・エバンスさんを、同協会でセットの製作や塗装をしていた23年間、アスベストに曝露させたことをBBCが認めたことを明らかにした。彼は、テレビジョンセンターを中心にイギリス中の他の場所でも働き、1980年代半ばまで白石綿で作られたテクスチャーコートであるArtexを日常的に使用していた。彼の妻ヴァレリーも訴訟を開始した。

中皮腫で亡くなったラーキンさん、エバンスさん、その他の元BBC職員の遺族の弁護士であるハーミンダー・ベインズは、11件の和解した訴訟の被害者よりもはるかに多くの職員がアスベストに曝露した疑いがあると言う。

「BBCは11件しか和解していないかもしれないが、彼らが11人しかアスベストに曝露させていないとは思えない」。
「施設の数だけでなく、BBC施設にアスベストが存在していた年数の長さを考えれば、BBCによってアスベストに曝露させられた人は、数千人とは言わないまでも、数百人入るはずだ」、とLeigh Day法律事務所のパートナーであるベインズは言う。

下院の労働・年金特別委員会は、労働党の元閣僚ステファン・ティムズを委員長にして、アスベストについての調査を行っている。今週水曜日の最終証拠調べでは、下院議員が、安全衛生局の責任者や労働・年金省のクロエ・スミス国務大臣に質問する予定である。

アスベスト・コンサルタントから活動家に転身したチャールズ・ピクルスは、多くの学校にはまだ茶石綿として知られるアモサイトが使用されており、それは中皮腫を発症した人の98%の肺でみつかるアスベストであることから、職員や生徒に危険を及ぼすと警告している。「アモサイトは明らかに致死的であるにもかかわらず、公共建築物に組み込まれたままである」。

BBCの広報担当者は、「被害者の家族に、引き続きお見舞いを申し上げる」と言っている。

「BBC職員とBBCの建物を利用するすべての人の健康と安全が第一の関心事である。BBCは、適用される規制と法令の要求事項にしたがってアスベストを管理している」。

https://www.theguardian.com/media/2022/jan/30/families-win-bbc-payouts-over-11-asbestos-cancer-deaths

日本国内の労災保険制度での類似認定事例

石綿ばく露作業による労災認定等事業場(建設業以外・船員)で、「放送」で検索した結果、4件の認定事例がヒット

関連記事