警備員から医師まで、香港の長時間労働文化：規制されなければ爆発的に増える深刻な社会病の症状
ANROVE2019ソウル会議関連 2020/05
目次
規制されなければ爆発的に増える深刻な社会病の症状
2019年8月27日
South China Morning Post
職種を超えた長時間労働
最悪は警備員
16年のキャリアのなかで、若いころに連続660時間働いた恐ろしい経験の記憶は、香港の医師ジェームズ・タククワンさんの心のなかになお生々しく残っている。
元朗区にある博愛医院の一般外科医である40歳のファンさんは、ある地方の病院でインターンをしていたときに、一晩に続けて30時間以上で二晩連続してオンコール勤務に就いたことがあると言う。彼はこの間に100人以上の患者を診て、結果的に疲労に打ちのめされた。
「私は十分な役割を果たすことができず、他の医師がしていることをまねることしかできなかった」
「ふりかえってみると危険だった。私は人間らしく働ける状態ではなかった。」
と彼は言う。
60時間働き続けた後にファンさんは、医学生の間での競争がすさまじいために、3時間うたた寝しただけで起きて試験勉強をした。
香港で過重労働に苦しんでいるのはファンさんだけでなく、金融サービス会社USBの調査によれば、香港は調査した世界71の都市のなかでもっとも労働時間が長かった。
この傾向は専門職ばかりでなく肉体労働やブルーカラー職種にも影響を及ぼしており、専門家らによって、不公正な労使力学、不健康な文化、またその永続性のゆえに不適切な法令が指摘されている。
長時間労働が世界的現象になりつつあることから、世界保健機関は公式に職場バーンアウトを業務上の事象として分類した。バーンアウトを経験する者は、エネルギーの枯渇または消耗、労働からの精神的脱離や能率の減退を患う可能性がある。
香港では、仕事中毒［ワーカホリック］文化が長年持続してきた。香港職工会連盟（HKCTU）が4月に発表した調査結果は、香港の300万労働者の5人に1人が、昨年平均で週55時間または1日に11時間働いていた。
この調査によれば、警備、飲食、陸上運送、建設や小売部門の労働者の労働時間がもっとも長かった。警備員が最悪で、その4人に1人が週72時間以上就業していた。
63歳のチャーリー・ソーさんは、香港の南の地区にある住宅用建物の警備員である。彼は、週に6日間、午前7時から午後7時まで働いている。
元契約労働者［サイン・インストゥーラー］だったソーにとって、長時間労働は彼が望んでいたよりも長すぎるものの、－大部分が訪問者の登録と建物のパトロールである－仕事は彼の年齢にとって扱いやすいものではある。
「30代のときだったらこの仕事は選ばなかったろう」
と彼は言う。
別の住宅警備員、57歳のピーター・チェウンさんも週に72時間働いている。
「家族のためにあまり時間がとれない」
と彼は言い、自由な時間をもっと楽しむために60歳で引退するつもりだと付け加えた。
社会的病気の症状
専門家らによれば、長時間労働の文化は香港の慢性的社会問題のひとつの症状であり、部門の人手不足が問題を悪化させている。
医療などいくつかの部門は長い間、訓練を受けた人材の不足に苦しんでいる一方で、不十分な賃金や厳しい肉体労働も新しい人材を妨げている。
公式な統計は、香港には人口千人当たり1.9人の登録医がいることを示している。深刻な人手不足は、とりわけ医療サービスの需要が激増する毎年のインフルエンザのピーク時に、医師や看護師を限界点に追いやる可能性がある。
外科医のファンさんは、彼の病院ではピーク時に200人以上の患者を診るのに4人の医師しかいないことがしばしばあると言う。重症患者のための緊急手術や医療措置が必要なときのために夜通し病院に泊まり込むオンコール医師は、わずかな休憩でほとんど30時間以上、連続して長時間働かなければならない。
「医師にとってだけでなく、高度の集中を必要とする労働をする誰にとっても、20時間以上連続して働くことは危険である」
と彼は言う。
貧しい者も長時間あくせく働き、彼らの場合にはまさに生計を立てるためである。国際金融ハブになりつつあるにもかかわらず、香港はいまなお138万の人々が貧困のうちにある。けた外れな生計費と低収入に直面して、多くの人々が経済的負担をやわらげるために長時間働いている。
さらに、強制されているのではないとしても、長時間労働は労働者の間で生まれつきの文化になってきた。労働者は彼らのボスに好印象を与えるために長時間働くことを選んでいる。しかし、これが報酬の期待と何もないことがフラストレーションや労働ストレスを増大させることが悪循環になりつつある。
HKCTUによれば、新入社員や一般的な労働者ではインフレを考慮に入れて2008年と2018年の間に0.7％の平均年間収入の増加であったのに対して、香港の人口当たり国内総生産は年2％増加した。
「この統計は、社会のなかで労働者がなした貢献にもかかわらず、彼らの賃金がそれに応じて上がらなかったことを示している」
とHKCTU議長のキャロル・ウ・マンミーさんは言う。
彼女は、この食い違いを、香港で増加する弾力的な労働人口の不公正な取り扱いに原因があるとする。
HKCTUの統計によれば、有期契約スタッフ、臨時雇い労働者、パートタイム労働者またはフリーランス労働者を含め、この範疇の労働者の数は昨年、79万人または総労働力人口の22％に達している。
こうした労働者は、正規［終身雇用］労働者と比較して、失業、低収入や劣った労働福祉・保護の相対的に大きなリスクにさらされている。結果的に、彼らは交渉力を欠き、搾取に屈するかもしれない。
31歳のフォン・チャクさんは8年間、九龍の中学校でリベラルな生徒たちを教えている。しかし、最初の6年間、彼は毎年5月に年間契約が学校によって終了させられるかもしれない恐怖におののいていた。
有期契約は香港の教育部門では一般的に用いられ－香港教育専業人員協会［教員組合］によれば、公共小中学校のほぼ5人に1人の教師が1年契約である。彼らの多くは仕事を確保するために長時間働いている。
同組合の統計は、有期契約教員の53％が昨年週55時間以上働き、10％が週70時間以上働いたことを示している。
「われわれは仕事を維持するために必死に闘わなければならなかった」
と、2年前に契約から正規雇用に代わったチンさんは言う。
労働分野における不均衡な力関係も、労働と賃金の間の食い違いの原因である。ウさんは、富が社会のトップから底辺に浸透するというトリクルダウン効果に対する政府の信念を批判する。現実には、利益の大部分をむさぼっているのはトップ－使用者と関係者－である、と言う。
あいまいな定義
長時間労働は、人々の身体的及び精神的健康に損害を与える可能性がある。労働部［処］によれば、2013年から2018年9月末までの災害によって引き起こされたのではない香港の業務上死亡者数は、合計635人または年平均100人以上であった。
心臓及び脳疾患は2つの主要な死亡原因で、各々362件と120件であったことを統計が示している。
香港工会総合会（FTU）の2017年の調査は、調査対象労働者の77.4％が労働による大きなストレスを経験したと答え、主要な原因は長時間労働であったことを示している。
チンさんにとって、学校での通常の8時間とは別に、家で仕事をしなければならないことも多い。成都が夜遅くにメールで質問をしてくることもある。
彼が家族のために費やしている時間がいかに少ないかについて、妻が文句を言っているという。
「労働と生活のバランスをとれたことはない」
と彼は言う。
ファンさんにとっては、彼の妻も外科医で彼に同情してくれていることから、事態はややましである。しかし、部分的には彼らの過重労働とストレスのためにこのカップルはいまのところ子供を持とうとは考えていない。
職場での災害によって引き起こされる傷害や死亡とは異なり、過重労働に関連した病気に罹患した労働者は補償を求めるのうえで困難をかかえている。
雇員補償条例が、「過重労働による死亡」についての法的定義も補償についての使用者の関連する義務も持っていないのである。
この抜け穴を塞ぐために、立法会議員は政府に対して、長時間労働または労働圧力によって引き起こされた疾病を同条例の対象となる職業病とみなすとともに、使用者が補償に責任を負わさせるよう要求している。
労工及福利局のロー・チクオン局長は5月はじめの立法会のある会議で、複雑な個人、家族や労働に関連した多数の諸要因に関連するであろう、長時間労働や労働によるストレスと一定の種類の精神、感情または身体の疾患との関係についての、国際的に認められた基準または医学的証拠は存在していないと述べた。
しかし、労工及福利局は、死亡と労働に起因する身体疲労との間の関係を調査してきた。この調査結果は来年末までに発表される予定である。
個々人への影響はさておいても、長時間労働は、公共運送などの部門における公衆安全に対するハザーズも引き起こし得る。
名字のコウだけで特定されることを望んだあるバス運転手は、午前5時から一日10時間働いている。彼は、若者も高齢者のどちらでも多くの運転手は、割増賃金を稼ぐためにより長い時間働きたがっていると言う。
しかし、調査結果は、ハンドルを握っての長時間労働は運転手の警戒心を低減させるとともに、運転能力と判断に影響を及ぼし、その結果事故のリスクを増大させることを示している。
「われわれは貨物ではなく人々を運んでいる」
とコウさんは言う。
香港の過重労働問題は解決されなければならない、とHKCTUのウさんは言う。
「われわれは人間であって、機械ではない。われわれ全員が、休憩するために一定の時間を必要とする」
「利益を生むためにエネルギーを使い果たすことは、労働者にとって健康的なことではない」。
ガイドラインではなく、法律を！
労働組合と立法会議員は政府に対して、週44時間の標準労働時間を実行する法令を制定するよう求めてきた。
政府は2013年に、問題を調査して、長時間労働補償を検討するために、標準労働時間委員会を設置した。しかし、標準労働時間を立法する代わりに、これまでに、様々な部門の異なる見解に関して11業種にガイドラインを導入することを約束しただけである。
「ガイドラインは立法ではない。責任も、使用者がそれに従わなかった場合の結果もない」
とウさんは言う。
医療や教育など、人材不足の部門については、労働者の数の増加が労働負担を合理的に分配するのに役立つ。
「現在、政府は、より多くの実験や活動を実行するために学校により多くの資源を投資しつつあり、それはよいことである。しかし、教師を増やすことなしには、それは現在のスタッフに負担を追加することにしかならない」
と、香港教育専業人員協会副会長でもあるチンさんは言う。
労働部門の立法会議員ジョナサン・ホ・カイミンさんは、標準労働時間を超えて働く労働者のために、彼らは標準賃金の150％の割増賃金が支払われるべきであるとして、
「香港は、使用者がその労働者から可能な限り多く絞り取ろうと傾向のある、高度に資本主義的な社会である」
「より高い割増賃金は使用者に、既存の労働者に長時間労働を強いるよりも、労働者を追加するよう促すことができる」。
と言う。
（翻訳：全国安全センター）
