ILO:労働における有害な化学物質への曝露と結果としての健康影響:グローバルレビュー(2021.5.7) 知見の概要:染料

▶合成染料は、繊維、皮革、医薬品、食品や化粧品など、様々な産業で使用されている。

▶もっとも一般的に使用されている染料であるアゾ染料は、ベンゼン、トルエン、ナフタレン、フェノールやアニリンの芳香族炭化水素誘導体である。

▶アゾ染料とその副産物である芳香族アミンは、様々ながんやアレルギー反応に関連している。

▶女性は、職場でもっとも染料に曝露する可能性が高く、またそれゆえ、とりわけ妊娠に関連して、健康に悪影響を及ぼす可能性が高い。さらに、女性は、セクシュアルハラスメントやジェンダーに基づく暴力はもちろん、相対的に低い賃金や限られたキャリアアップなど、ジェンダーに関連した不利益を受けている。

主要な曝露業種:繊維・衣料・皮革・製靴、化学産業、飲食料品、医薬品、化粧品
主要な健康影響:がん(膀胱)
職業曝露の世界負荷:限定的データ
労働関連健康影響:限定的データ

曝露

染料は、基材に結合する化学物質であり その化学的性質や溶解性によって 化学的性質や溶解度によって分類される。繊維品、紙や皮革など、様々な素材の色を変えるために使用される。染料への職業曝露は、染料の製造・使用時に生じる。アゾ染料を含め、現在使用されている推定800種類の染料がある。もともとは自然界に存在するものだが、現代の染料は合成物質であり、健康に害を与え、環境を汚染する可能性がある。

染料の世界需要は約900万トンであり、そのうちアゾ染料が70%以上を占めている。繊維産業は世界の生産量の3分の2を消費しているが、染料は医薬品、食品や化粧品にもよく使用されている。アゾ染料は一定の条件下で分解されると、アニリン、ベンジジン、2-ナフチルアミンなどの発がん性のある芳香族アミンを生成する。

健康影響

がん

多くのアゾ染料は無害であるが、変異原性や発がん性影響をもつと確認されているものもある。発がん性芳香族アミンは、とりわけ労働者にとって懸念すべきものである。例えば、ベンゼンは、ヒトに対して発がん性であることがわかっており、とくに膀胱がんと関連している。日本における86の繊維製品の分析では、様々な衣料品から低濃度の発がん性芳香族アミンが検出されている。ヒトに対する発がん性が確認されている(IARCグループ1)その他の化学物質には、染料の中間体で、オーラミンやマゼンタ染料の生産に使用される4-アミノビフェニルがある。多くの染料には、膀胱がんと関連している、オルトトルイジンという化学物質も含有している。

染料はまた、染料の粒子を吸入することによって呼吸器系の問題を引き起こす可能性があり、また、皮膚の刺激やアレルギー症状を引きこすかもしれない。例えば、別のアゾ染料であるフェニレンジアミンは、接触アレルゲンとして知られている。

有害な染料に曝露する美容師

美容師はその仕事中に染料に頻回に曝露している。曝露の主な経路は皮膚への接触であり、次いで皮膚吸収である。IARCは、美容師としての染料への職業曝露をヒトに対しておそらく発がん性として分類している。とりわけ膀胱がんのリスクが、とくに男性の場合、増加すると考えられている。2007年にEUは、毛髪染料への135種類の成分の使用を禁止した。

地域的傾向

ベンジジンの製造はとくに、EU、日本、韓国、カナダ、スイスでは禁止されている。2020年11月から、EUは、繊維/衣料品分野におけるアゾ染料の使用を制限している。繊維製品は世界の染料使用量のなかで大きな割合を占めており、中国、バングラデシュ、ベトナムが世界の上位5つの衣料品輸出国の3つである。繊維産業は、毎年大量の産業廃棄物を生み出し、水生生物にとって有害であるだけでなく、ヒトにも変異原性のある、水質汚染を引き起こしている。潜在的に発がん性のある染料を含んだ廃棄物を安全に処理することは、これらの地域でとりわけ問題となる。例えば顔料やデジタル印刷など、代替の着色プロセスは、有害化学物質への依存度が低い、相対的に持続可能な布地の着色プロセスの例である。

事例研究:バングラデシュの衣料品工場労働者の疾病負荷分析、年次健康監視の提案
1,906件の医療記録を用いた労働者の健康情報のさかのぼり調査のなかで、バングラデシュの衣料品・繊維製品工場の労働者の健康状態が特徴づけられた。労働者の平均年齢は27.9±7.3歳で、60%が女性、40%が男性だった。全労働者の5分の1が貧血であることがわかった。労働者の12%で血圧の上昇があり、8%で空腹時血糖値の上昇があった。これらの健康状態の大部分は以前には診断されていなかった。平均年齢が比較的若かったにもかかわらず、かなりの割合で労働者が緊急の治療を日露とする、診断されていない、健康状態にあることが判明した。調査結果から、移動式現場診療所または既存の社内医療スタッフの訓練のいずれかによって、年1回の定期健診を提供することが、医療労働者の健康の改善に役立つことが示唆された。

選択された優先行動:染料

国の政策措置の例

▶有害な染料による作業環境における職業ハザーズを予防・管理・保護するために講ずべき措置を規定した国の法律または規則を策定する。

▶例えば、22種類の既知の発がん性芳香族アミンのひとつを放出するアゾ染料は、EUでは衣料用繊維製品から禁止されているなど(REACH規則付属書XVII)、既存の国の規制を参照する。

政策決定者のための追加的行動

▶可能な限り、有害性の相対的に低い染料を使用することを承認する。例えば、繊維製品では、ベンジン系の染料を相対的に安全な代替品によって置き換えるべきである。

職業曝露限界(OELs)

▶有害な染料に対する証拠に基づいたOELsと、それを実施・施行する方法を開発する。それらOELsの国際的調和を確保する。

現実的な職場介入の例

▶相対的に有害性の低い染料が利用可能かどうか検討する。粒状のものなど、粉じんの少ない染料を選択する。粉じん抑制または液状の形態は、曝露を低減するうえできわめて重要な要因である。

▶適切な保管方法、換気方法や清掃を用いることにより、堆積物からの粉末状染料の二次粉じん曝露を予防する。

▶感作、染料の安全な取り扱い方法、健康症状の報告方法について、労働者を訓練する。

▶その使用方法についての訓練はもちろん、適切なPPEを無料で利用できるようにする。

▶反応性染料に曝露するリスクのある労働者に対する健康監視を実施する。

繊維産業のスポットライト:世界で従業員のもっとも多い産業

アジア太平洋地域は世界のアパレル輸出の60%を占めており-この事実から「世界の衣料品工場」と呼ばれている。この地域は、2019年に推計6,500万人の衣料品部門労働者を雇用していて、全衣料品労働者の75%を占め、世界全体では8,000万人に達する。世界の衣料品輸出国上位5つのうち3か国は、中国、バングラデシュ、ベトナムである。労働基準には一定の進歩がみられるものの、低中所得諸国(LMICs)における労働条件に対する懸念は根強く、有害物質への曝露も高いままである。

繊維製品の生産には何千もの染料や溶剤が使用されており、その多くが変異原性や発がん性をもっている。よく使用される化学物質には、以下がある。

▶防しわ加工剤:仕上げプロセスで使用され、その毒性が知られていて、多くの国で規制されている、ホルムアルデヒドが含まれている場合がある。

▶難燃剤:有機リン、有機臭素化合物や有機臭素化合物などがあり、それらは健康への悪影響と関連がある。

▶アゾ染料:繊維製品に使用される染料の60~70%を占めているが、発がん性芳香族アミンを放出することが知られており、その多くがEUでは医療法繊維製品への使用が禁止されている。

発がん物質に曝露する繊維産業労働者に、膀胱がんや肺がんの発症率が高いことが一貫して報告されている。加えて、繊維労働者に皮膚炎の発症率の増加も報告されている。繊維労働者で、慢性気管支炎やCOPDの高い頻度や、闘病病と虚血性心疾患による死亡率の増加も観察されている。

女性は、繊維、衣料品、皮革及び製靴産業の労働力の80%以上を占めている。アジア太平洋地域では、衣料品労働者の大半が女性であり(3,500万人)、衣料品部門はこの地域で女性労働者の5.2%を雇用している。その多くが若い女性であり、それゆえ現在及び将来の妊娠に対する潜在的影響が懸念される。例えば、綿、ウール、その他の布地を洗うために使用される溶剤であるトリクロロエチレンは、胎盤を通過して、胎児に先天性心疾患を引き起こす可能性があることがわかっている。

もっとも有害な化学物質を段階的に廃止することが、繊維産業における優先的行動のひとつと考えられている。EUは、繊維/衣料品部門において、発がん性・変異原性・生殖毒性(CMR)として分類されている33物質の使用を2020年11月から制限することによって、その好事例を提供している。この禁止を世界的に広げることで、発がん性・変異原性・生殖毒性として知られた化学物質への曝露を防ぐことができる。EUの規制は、極性非プロトン性溶媒、アゾ染料、アクリルアミン、その他多くを対象としている。

リマインダー

鉛含有塗料の廃絶に取り組む国際活動(鉛塗料連合)は、鉛を含有する塗料の段階的廃止を促進することによって、鉛への曝露を防ぐために、国連環境計画(UNEP)と世界保健機関(WHO)により結成された自主的なパートナーシップである。ILOはこの国際行動に参加し、鉛塗料の製造・販売の段階的廃止に向けた社会的対話を促進するために、そのユニークな三者構成構造を活用している。治療中の鉛の段階的廃止を促進するためのツールに関するさらなる情報はこちらでみつけることができる。