高純度結晶性シリカの取扱作業に伴う留意点(基安発0927第2号平成30年9月27日) /高純度結晶性シリカの微小粒子にばく露して発症したけい肺症について(労安研2019年5月)

半導体封止材製造工程で高純度結晶シリカばく露による急性硅肺が多発

半導体封止材の製造過程において、高純度結晶性シリカの微小粒子粉じんにばく露したことによって複数労働者が急性の硅肺症を発症する事案が発生した。

本件については、厚生労働省所管の独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生研究所(以下、労安研)の災害調査が実施され、じん肺法及び粉じん障害予防規則(粉じん則)違反のもとで労働者が高濃度の粉じんばく露に曝されていたことが判明した。

こうした事態を受けて、厚生労働省は業界に通達(基安発0927第2号平成30年9月27日「高純度結晶性シリカの取扱作業に伴う留意点について」)を発出した。

その後2019年5月23日、第29回日本産業衛生学会において、労安研で調査にあたった研究者から報告が行われ、さらに状況が明らかになった。

半導体封止材は現代において不可欠の工業製品であって、その主要成分である高純度結晶性シリカを原因とする急性硅肺という重篤疾病の発生は、被災労働者にとって極めて重大な被害であるとともに、同種職場への警告が必要である事案として認識されたものとみられる。

ちなみによく知られているように「結晶性シリカ」は主要なじん肺である「硅肺」の原因物質である。
国際ガン研究機関(IARC)は発がん性分類グループ1(ヒトに対する発がん性がある)、日本産業衛生学会は発がん性分類第1群(ヒトに対して発がん性があると判断できる物質・要因である.この群に分類される物質・要因は,疫学研究からの十分な証拠がある)としている発がん性物質である。

以下に、上記通達および日本産業衛生学会での労安研報告を紹介する。

高純度結晶性シリカの取扱作業に伴う留意点について(基安発0927第2号平成30年9月27 日)

一般社団法人 日本化学工業協会会長殿

厚生労働省労働基準局安全衛生部長

労働衛生行政の推進につきましては、日頃から格別のご協力を賜り、厚く御礼申し上げます。 労働省では、労働者の粉じんぱく露関止対策等について、じん肺法(昭和 35 年法律第 30 号)及び粉じん障害防止規則(昭和 54 年労働省令第 18 号。以下「粉じん則」という。)に基づく措置の履行確保を行ってきました。加えて、第9次粉じん障害防止総合対策の推進について(平成 30 年 2月 9日付け基発 0209 第 3号)等に基づく対策を推進しているほか、結晶質シリカを安全データシート(SDS)制度の対象化学物質として位置づけ、譲渡・提供者に対して有害情報の提供を義務付けるとともに、製造・取扱事業者に対してリスクアセスメントの実施を義務付けることで、健康障害防止対策の徹底を図っているところです。

今般、半導体封止材の製造において高純度結晶性シリカ(99. 0%以上のものをいう。以下同じ。)の微小粒子(平均粒径約 1μmのものをいう。以下同じ。)を取り扱う事業場でじん肺法及び粉じん則に基づく粉じんばく露防止対策等が十分に講じられていなかったことが原因で、複数の労働者が急性のじん肺(通常よりも極めて短期間でじん肺を発症する事案)を発症しました(別添1 )。

高純度結晶性シリカの微小粒子を取り扱う際は、事業者は下記に留意の上、より厳密な漏洩防止、粉じんぱく露の濃度低減対策等を行う必要があります。 貴会におかれては、下記の留意点について御了知いただくとともに、傘下の会員をはじめ関係事業者に対して注意喚起いただくとともに、その法令遵守等が徹底されるよう御配慮、をお願いいたします。

1 事業者は、じん肺法施行規則(昭和 35 年労働省令第 6号。以下「じん肺則」という。)及び粉じん則に定める粉じん作業に労働者を従事させる際には、労働者の健康確保の観点から、じん肺法、粉じん則及び第 9次粉じん障害防止総合対策に基づく措置を講じなければならないこと。特に以下の点に留意すること

① 結品質シリカはじん肺則及び粉じん則に定める「鉱物等Jに該当することから、事業者は取扱状況に応じて局所排気装置の設置等により、十分な粉じんぱく露防止措置を講じること(じん肺則別表及び粉じん則別表第一参照)。

② 粉じん作業を行う場所に近接する場所での作業についても、湿潤化又は発散源の密閉化が十分でないなど粉じんぱく露のおそれのある場合には、労働に十分な防護性能を有する呼吸用保護具を使用させること(参考資料参照)。

③ 鉱物の破砕装置の整備等、粉じん作業に該当しない場合でも結品質シリカへのばく轄のおそれの高い作業においては、労働者に十分な防護性能を有する呼吸用保護具を使用させる等の粉じんぱく露防止対策が必要であること(「(参考)」参照)。

④ 特に、高純度結晶性シリカの微小粒子が発じんする作業を行う場合には、吸入性粉じんにばく露しやすいことから、防護係数の高いエアラインマスク、空気呼吸器等の呼吸用保護具を適切に選択すること(参考資料参照)。その選択に当たっては、個人ばく露測定を行うことも有効であること。

⑤ じん肺法第 3条に定めるじん肺健康診断を確実に実施すること。

2 粉じん作業に係る業務に従事していた労働者が離職する際には、じん肺健康管理手帳制度の周知を行うこと。

3 高純度結品性シリカを譲渡・提供する事業者は、労働安全衛生法(昭和 47年法律第 57 号)に基づき、容器・包装へのラベル表示を行い、譲渡・提供先に対して安全データシート(SOS)を提供しなければならないこと。

また、高純度結晶性シリカの譲渡・提供を受け、高純度結晶性シリカを取り扱う作業に労働者を従事させる事業者は、同法第 101 条に基づき、安全データシート(SOS)を常時各作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付けること等の方法により、労働者に周知させなければならないこと。

なお、安全データシート(SDS)には、高純度結晶性シリカの微小粒子を吸入すると通常よりも極めて短期間で重篤なじん肺を引き起こすおそれがあることを記載すること。

(参考)呼吸用保護具(防じんマスク)の規格

別添1 高純度結品性シリカの微小粒子を製造する事業場におけるじん肺事案について

1 事業場の概要

半導体の封止材原料として高純度結晶性シリカ(99. 0%以上のものをいう。以下同じ。)の微小粒子(平均粒径約 1μmのものをいう。以下同じ。)を製造していた。

2 事案概要

  • 平成 27 年 12 月に当該事業場における労働者 1名がじん肺を発症し死亡した。その後の調査で、新たに当該事業場の労働者 2名がじん肺を発症していることが確認され3名はいずれも高純度結晶性シリカの微小粒子を取り扱う作業を行っており、当該作業に従事してから 2~ 6年()でじん肺を発症した。同調査の結果、高濃度ばく露環境下で、あったため、短期間でじん肺を発症したと考えられている。
  • 当該事業場については、平成 28 年 9月に労働基準監督官が立ち入り、平成 29 年 2月にじん肺法(昭和 35 年 法律第130 号)違反などの疑いで、書類送検を行った。また、立ち入りの際、呼吸用保護具の使用等の労働者の粉じんぱく露防止対策について指導を行った。
  • 平成 29 年 7月に独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所が実施した災害調査の結果、当該事業場において同様の環境下で働いていた労働者 3名がじん肺を発症していたことが判明し、当該事業場においてじん肺を発症した労働者は合計6名となった。

じん肺は主として職業性ばく露での無機物性粉じんの吸入に起因し、この粉じんに対する肺の反応は短期大量吸入による急性もあるが、大部分は十数年から数十年を経て進行する線維性変化を伴った慢性経過である。 (出典:財団法人産業医学振興財団「産業保健ハンドブックⅣ じん肺-臨床・予防管理・補償のすべて-」(第2版)、平成 20 年 5月)

高純度結晶性シリカの微小粒子にばく露して発症したけい肺症について

第92回日本産業衛生学会 2019年5月23日 一般口演
産衛誌 61巻,2019
09-05

甲田 茂樹、鷹屋 光俊、山田 丸、小野 真理子、萩原 正義、中村 憲司、加藤 伸之
(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所)

【目的】平成30年9月に厚生労働省は「高純度結晶性シリカの微小粒子を取り扱う事業場における健康障害防止対策等の徹底について」を発出した。高純度結晶性シリカの微小粒子を取り扱いに従事していた複数名の労働者等が通常より極めて短期間で重篤なけい肺を発症し労災申請を行ったことがきっかけである。高純度結晶性シリカは純度99.0%以上のけい石を原材料とした平均粒径が約1μm程度の微小粒子で、半導体封止材として製造されている。安衛研は本件の原因等を究明する目的で当該事業場に赴いて災害調査を実施した。

【調査対象と方法】半導体封止材の原材料となる高純度結晶性シリカの微小粒子を製造する工程は、けい石をボールミル粉砕・水簸・乾燥・節の湿式工程を経て半製品を製造し、さらに水簸・ピンミル解砕の乾式工程、ボールミル混合・節を繰り返して製造する。作業者の粉じんばく露等を評価するために、工場敷地内で湿式工程・乾式工程と新工場において定点各1カ所で作業環境測定を、さらに5名の作業者に協力していただき、合計7サンプルの個人ばく露測定を実施した。また、安衛研の研究員も作業者の行動観察の際に個人ばく露測定とOPS・OPCを用いたリアルタイム計測を実施した。その他に製品サンプルや堆積粉じんのXRD分析やSEMによる解析を実施した。

【結果と考察】工場敷地内の作業環境測定結果は乾式工程エリア0.037mg/ ㎥ 、湿式工程エリア0.153mg/㎥、新工場0,113mg/ ㎥ 、5名7サンプルの個人ばく露測定結果は0.052~4.89mg/ ㎥ で、とりわけ、ボールミル内の補修作業2.559mg/ ㎥ 、新工場での袋詰め作業4.89mg/ ㎥ で極めて高い結果となった。数値は全て吸入性粉じんの測定値である。99.0%以上の高純度シリカの管理濃度は0.025mg/ ㎥ 、日本産業衛生学会の許容濃度は0.03mg/ ㎥ であるから、今回得られた測定結果の全てが上回っていたことになる。OPS・OPCを用いたリアルタイム測定結果をみても高純度シリカのフレコンあるいは紙袋への詰め込みやフレコンバックを積み上げた台車等の移動、エアブロー、ミル修理などで粉じん濃度の極めて高いピークが観察された。また、職場における堆積粉じんだけでなく、製造されてフレコンバック等に保管されて出荷待ち状態の高純度結晶性シリカも作業環境を悪化させる原因であり、作業環境測定やじん肺健診の未実施など労働衛生管理の観点からも取り組みが不十分であった。

当該事業場では高純度結晶性シリカを製造・出荷する工程において、作業者は日常的に許容濃度を超える極めて高い濃度の高純度結晶性シリカの微細粒子にばく露していた。本件のように、極めて短期間で重篤なけい肺症が発症した原因が、結晶性シリカに高濃度ばく露したことによるのか、結晶性シリカが99.0%と高純度であることによるのか、ばく露した結晶性シリカが極めて微小な粒子であることによるのか、今後の検討課題である。