職業性胆管がん事件(その3)(校正印刷会社SANYO-CYP):事件報道がニュースウォッチ9からはじまる

片岡明彦(関西労働者安全センター事務局次長)

事件報道はじまる

さて、3月30日に3名にかかる労災請求を行うのと平行して、誰であるかを明らかにすることはできない様々な関係者の協力によって、元従業員に対する熊谷調査が進行した。
そうした中、日本産業衛生学会( 5月31日予定 )抄録などで事件を知ったメディアからアプローチがあった。具体的には、NHK大阪や毎日新聞大阪本社の記者から問い合わせがあり、順次取材に応じた。

本件の重大性からみて、メディアとの積極的な連携が不可欠だと当初から考えていた。

第一報は、NHKが5月18日午後6時台の関西ローカルニュースで報じ、午後9時からの全国ネットのニュースウォッチ9の冒頭で報じた。

毎日新聞は翌5月19日の朝刊で大きく報じ、夕刊では各紙が記事を掲載した。

元従業員4人胆管がん死
印刷会社 平均の600倍

(第1面)
西日本のオフセット校正印刷会社の工場で、1年以上働いた経験のある元従業員のうち、少なくとも5人が胆管がんを発症、4人が死亡していたことが、熊谷信二・産業医科大准教授(労働環境学)らの調査で分かった。作業時に使われた化学物質が原因と強く推測されるという。遺族らは労災認定を求め、厚生労働省は調査に乗り出した。(27面に関連記事)

熊谷准教授によると、同社では91~03年、「校正印刷部門」で1年以上働いていた男性従業員が33人いた。発症当時の5人の年齢ほ25~45歳と若く、入社から7~19年目だった。熊谷准教授が今回の死亡者数を解析したところ、胆管とその周辺臓器で発生するがんによる日本人男性の平均死亡者数に比べ約600倍になった。

校正印刷では、本印刷前に少数枚だけ印刷し色味や文字間違いなどを確認するが、印刷機に付いたインキを頻繁に洗うので結果的に洗浄剤を多用する。洗浄剤は、動物実験で肝臓にがんを発生させることが分かっている化学物質「1、2ジクロロプロパン」「ジクロロメタン」などを含む有機溶剤。会社側は防毒マスクを提供していなかったという。

熊谷准教授は「偶然とは考えられず、業務に起因している。校正印刷会社は他にもあると聞いており調査が必要」と話す。会社側は「真摯に対応させていただいている」としている。【河内敏康、大島秀利】

胆管がん 胆管は肝臓で作った胆汁を十二指腸に運ぶ管状(長さ約8センチ)の器官。がんは上皮からできるとされる。胆管結石との関連も指摘されるが、原因は不明。日本人男性の年間死亡率は10万人あたり10・5人(05年)で、発生率は75歳以上で最も高い。


胆管がん多発 元同僚、次々死んだ
死亡男性「有機溶剤で悪環境」

(第27面)
「元同僚が同じようながんで次々死んでいく」ー。西日本のオフセット印刷の校正印刷会社で、発症が相次いだ「胆管がん」。遺族らは厚生労働省に全容の解明と被害拡大の防止を求めている。
きっかけは昨年春から、胆管がんのため40歳で死亡した男性の遺族らが熊谷信二・産業医科大准教授に相談したことだった。男性は両親に「職場は有機溶剤が漂い、環境が悪い」と言い退職した。5年後に胆管がんを発症すると、両親に同僚が同様の病気で若くして亡くなっていることを明かし、苦しみながら帰らぬ人となっていた。父は「人生半ばで亡くし非常にショックだったが、労働環境を改善してもらわねば」と調査を願った。
熊谷准教授は、男性が受け取っていた年賀状をもとに、31歳で死亡した同僚の兄宛てに手紙を送って調査の協力を依頼。その母親から電話で「実は、兄も弟と同じ会社に勤めていましたが、4年前に46歳で亡くなった。2人とも胆管がんでした」と告げられた。
熊谷准教授が遺族らに手紙を書くなどして元従業員らに当たると、仕事中に吐き気がしたり、少しアルコールを飲んだだけで肌が真っ赤になる同僚もいて不思議だったなどとの証言も出てきた。遺族に病院への開示請求などをしてもらい、医学資料を集めると、5人が胆管がんにかかり、うち4人が死亡していた。
息子2人を失った母親は「悔しくて無念です。これから働く人のために病気をなくしてほしい」と厚労省の調査の行方を見守っている。

熊谷准教授から亡き息子宛てに送られた手紙を見る母=遺族宅で
【大島秀利、写真も】

2012年5月19日 毎日新聞朝刊

NHK大阪は6月15日に関西ローカル番組「かんさい熱視線『胆管がん相次ぐ謎の死』」を放映した(http://www.dailymotion.com/video/xrjvhn_20120615yyyyyyy-yyyy-yyyyyy_news)。
5月19日から他のマスメディアもこぞって、取材と記事の発信を行うようになった。

(その4)につづく

安全センター情報2012年10月号