職業がんをなくそう通信 6/新年のご挨拶・京都印刷職場胆管がん・電通過労自殺問題と化学物質労災予防協約

2018年1月31日
職業がんをなくす患者と家族の会https://ocupcanc.grupo.jp/

新年のご挨拶・職業がんをなくす患者と家族の会代表 田中康博

新年を迎え、ごあいさつを申し上げます。
「職業がんをなくす患者と家族の会」を結成して 1 年と半年が過ぎましたが、この間5 回の「職業がんをなくそう集会」を開催し厚生労働省要請行動や相談活動など、多くの方々のご支援をいただきながら取り組むことができましたことをまずもってお礼申し上げます。

化学一般労連と化学一般関西地方本部のみなさん、働くもののいのちと健康を守る全国センターのみなさん、全国安全センター連絡会のみなさん、研究者・弁護士の先生方、そして全国で、この「職業がんをなくそう通信」を見てご支援をいただいている皆さんのお陰で、今日の「職業がんをなくす患者と家族の会」があり、また会の取り組みがあるものと存じているところです。

私自身は、自分自身が職業がんに罹患した時の辛く悔しい思いから「職業がんは三星で(わたしたちで)最後に」との願いを込めて取り組んでまいりました。そしてこの 1年と半年の間に多くの方々と出会うことができました。このことが何よりも一番うれしかったことです。素晴らしい財産だと思っています。

オルトトルイジンについては労災認定がされ、法規制も進みました。一方で、職場では他の種類の芳香族アミンの取り扱いがあり、まだまだ気を抜ける状況ではありません。ばく露を受けた労働者の健康確保にも不安が残り、職業がんを発症した労働者の補償も不明確なままであり、今後も不断の努力を重ねていかねばと決意をあらたにしているところです。

これからも、職業がんで苦しむ人をなくすために、職業がんの基礎的な学習と職場交流を深め、職業がんが発生する原因や社会的背景と化学物質規制のあり方について共に学び考えながら、職業がんをなくす運動を進めていきましょう。
2 月 18 日(日)第 6 回「職業がんをなくそう集会 in 東京」でみなさんとお会いできることを祈念して新年のごあいさつとさせていただきます。
今年もよろしくお願いいたします。

京都印刷職場の胆管がんの労災認定判断迫る

第 3回「職業がんをなくそう集会」で京都の印刷会社で長年就労しジクロロメタンなどのばく露があり退職後に胆管がんを発症した方の労災申請のお手伝いをしていることを報告しましたが、年度内に決定が下されるのではないかと京都職業病対策連絡会に連絡がありました。

患者と家族の会では、ジクロロメタンの取り扱い状況からばく露濃度を計算する方法を紹介してきました。

ばく露計算には2 つのモデルがあり、作業していた部屋の大気がよく拡散されていた場合(well-mixed room model)とそうでない場合(a near-field and far-field model)があり、取り扱っていた部屋の状況に合わせて計算する必要があります。

計算式等の詳細は省略しますが、洗浄作業で1L程度の洗浄液(ジクロロメタンや1,2-ジクロロプロパンを含有)を使用すれば、ばく露濃度は 200ppmを超えてしまいます。

この会社では以前にも胆管がん患者がおり労災申請したそうですが、濃度がわからないので不支給決定がされたとのことでした。患者や家族には治療だけでも精神的身体的経済的など様々な負担がかかります。そのような状況下で当該の一個人が作業環境を再現したり増してばく露濃度を算出したりすることは到底不可能です。
労災認定の判断が注目されます。

電通過労自殺問題に思う

昨年 1 月電通新入社員の高橋まつりさんが過労死した問題で遺族と会社の間で和解が成立し、電通が解決金を支払うとともに 18 項目の再発防止対策を取ることで合意したと報じられました。亡くなった尊いいのちは戻らないですが、せめて再発防止を徹底して日本から過労死を無くしたいというのは遺族の当然の願いです。

労働時間は労基法 36 条で 1 日 8 時間までと定められていますが、同 36 条で労働組合又は労働者代表と書面による協定を結んだ場合にのみ時間外時間外労働をさせることが可能になります。従って、労働者側としては不理尽な協定は結ばなければ良いし、その労働協約を会社が守らなければ明確な法違反となり質すことができます。この電通過労自殺問題を考える度に、労働協約はどうなったのか、会社は勿論のこと労働組合のチェック体制はどのように機能しているのかという思いが沸いてきます。あの 18項目が盛り込まれた36 協約を策定・公開しきちんと運用して行って欲しいと切に願います。

さて、この問題を職場の化学物質の取り扱いにあてはめて考えてみると大変興味深いです。
「職場で化学物質を取り扱う場合は労働災害の防止を目的とする労働協定を結ばなければならない。」勿論そうはなっておらず、事業主には労安法による規制がかかっています。労安法は労働者の犠牲によって確立された規制ですからまさに最低基準であり、事業主や労働者がよりよい労働環境を構築するには法以上の取り決め=協定があって然るべきではないでしょうか。

私が働いていた化学会社では過去に発がん性物質の取り扱いがありました。発がん性が判明してすぐにその取り扱いを中止したものの 40 年以上が経過した現在でも職業がんが発生しています。発症は一般労働者だけではなく、(元)管理職や経営者にも起こります。労使にとって労働安全衛生問題は最重要課題となっています。

この会社には、労働災害を防止するための予防協約がいくつか定められており、厳格に運用がされていました。

  • 会社の責務としては、危険な作業をさせてはならない
  • 必要な情報を労働者に提供し労働安全衛生教育を実施しなければならない
  • 健康診断・特殊健康診断を実施しなければならない
  • 労働災害が疑われる事案が発生した場合はその原因究明に関して労災ではないかという疑いをもって究明する
  • 実作業に入る以前に安全衛生管理体制が確立されているか確認する事前協議を実施しなければ ならない(今でいうセーフティアセスメント)

などの他、肺がん、膀胱がん等職業がんが発症した場合の労災申請、治療、補償等までが詳細に定められています。

労働者には、危険作業の拒否権、職場のパトロール権、安全衛生に関する調査権など様々な権利が定められており、勿論労働安全衛生に関するルールを守る義務もあります。

化学物質の労災予防協約が必要だ

福井県三星化学工業で膀胱がんが多発し、その後労働組合を結成して職場改善を進めているところですが、当該労働組合は職業がんを防止する予防協約を会社に要求しました。その内容は私が働いていた化学会社で実施に協定され運用がされている協定を参考にして、三星化学工業で 2 度と職業がんを発生させないという強い思いが込められたものです。

しかし会社は予防協約を締結する意思すら示さず、場当たりの対策を講じるばかり。今現
在 9 名もの膀胱がん罹患者を発生させておきながら、記者会見もしないし、その原因については「わからない」とし「安全配慮義務違反はなかった」と開き直っています。

私は自分自身が在籍した化学会社と比べて何と無反省で向上心のない会社だろうと感じています。

今後、「職業がんを防止するための予防協約」を公にして会社の責務や労働者の権利を明確にする中、一会社だけの改善だけでなく化学物質を取り扱う多くの会社がモデルにして化学物質の適正な取り扱いを推進するために役立てられるような取り組みを展開したいと考えているところです。(昌)

東京オルグに回りました

1月 16日 17 日、鉄道・港湾・建設・運輸・交通・機械・情報・商工・家内労働・マスコミ・出版・新聞・印刷などの労働組合及び民主団体へと東京集会への参加の訴えに回りました(堀谷・大塚)。建設関連では、一昨年製造工場で膀胱がんの多発が問題になったMOCAについて労働者教育を進めている企業が出てきたことやじん肺関連の認定の幅を狭めるような動きがあることなどをお聞きできました。

家内労働では作業環境改善に要した費用に東京都から助成金が出る制度(局所排気装置なら助成率 75%)があることを教えていただいた一方で近年、経営や運営が困難になり廃業に追い込まれるなど厳しい実態が浮き彫りになりました。

印刷・新聞関連では夜勤が多く健康障害の話をさせていただきました。昨年は 1日で回り切れず、今回は 2 日間に分けたのと慣れてきたのもあり思ったよりスムーズに回れました。また比較的ゆっくり時間をかけてお話ができたのは収穫でした。