『作業者の不注意』一行で終わる事故調査報告から変えよう/座談会:なぜ労働者の死は繰り返されるのか 2020年5月25日

現場を最もよく知る労働者が参加し、事故原因を糾明して対策を作らなければ

なぜ労働者の死は繰り返えされるのか。COVID-19防疫は『成功的』という評価を受けているのに、なぜ私たちは、今でも世界最高の産業災害王国という汚名を雪ぐことができないのか。一年に2千人の労働者が職場で生命を失い、労働者が死んでいったその場所で、なぜ、また別の労働者が、働いて亡くなるのだろうか。

<毎日労働ニュース>は、労働安全保健の現場で専門分野に強い労働者と一緒に『なぜ労働者の死は繰り返えされるのか』というテーマで座談会を行った。

(写真の左から)キム・ミヨン毎日労働ニュース記者が司会をし、カン・ハンス建設産業連盟・労働安全保健委員長、コ・ヨンチョル前・三湖(サムホ)重工業・名誉産業安全監督官、イ・テソン発電非正規職連帯会議・幹事、ヒョン・ジェスン化繊食品労組・労働安全保健室長が参加した。

出席者4名の自己紹介

コ・ヨンチョル:2年前まで名誉産業安全監督官の仕事をし、今は金属労組・現代三湖重工業支会の組合員です。1990年代、現代が買収する前の漢拏(ハルラ)重工業の時に初めて死亡事故が起きました。衝撃が大きかったです。労組の委員長が組合員を一ヶ所に集めて、ストライキを宣言しました。ストライキの手続きもなにも経ずに、全部の仕事を停めました。初めは1千人程が集まったのに、10日程過ぎると11人になりました。その中の6人は、私が属していたチームのメンバーでした。そうして労働安全保健活動に足を踏み入れることになりました。

カン・ハンス:今は建設労組の土木建築分科委員長も一緒に担当しています。その前までは、釜山で永く大工をしていました。釜山は全国でも最高層のアパートが最も多く密集したところです。海雲台のエル・シティホテルの横のアパートは88階です。高層建築の工事現場では事故が絶えません。事故が起きる原因を調べるうちに、自然に建設産業の構造的な問題に繋がりました。昨年1月、建設産業連盟の労働安全保健委員長を引き受けました。

ヒョン・ジェスン:元々は金属労組の組合員でした。作業現場で労組を作ったのですが失敗して、公開採用で化繊食品労組に入りました。化繊連盟の事業場は危険な化学物質を取り扱い、事故も多い方なのに、当時、労働安全保健の担当者がいませんでした。化学物質の事故は、発生件数は少なくても、一度起こると大事故です。労働者だけでなく、近隣の住民にまで多大な影響を及ぼします。2012年の亀尾(クミ)のフッ化水素酸の漏出事故を契機に、化学物質に関する制度の改善が主要な話題として浮上しました。そのような活動をする団体の仕事と、健康の企画局長を兼務し、化学物質に関する様々な活動をしています。

イ・テソン:発電所で働いています。キム・ヨンギュン労働者の死を、記者会見で初めて世の中に知らせました。実は、発電所に初めて入社した時は正規職でした。政府のエネルギー民営化の方針で、最も重労働で困難な、いわゆる3K業務はすべて外注化されました。その結果、発電所の事故の97%が下請け労働者に集中しています。このような過程で、キム・ヨンギュン労働者の死亡事故が起きました。彼の死の以後、政府は多くの約束をしましたが、履行されていません。その背後にどんなカルテルが存在するのかを一緒に話したいです。

今でも発電所で下請け労働者が死んでいる

司会:現場で安全保健法規はどのように作動していますか。

イ・テソン:キム・ヨンギュンの死の後に、産業安全保健法が全面改正されました。発電会社も安全対策を出しました。しかし、最近ある発電所で労働者がまた亡くなりました。先月10日に忠南の舒川(ソチョン)に建設中の新舒川火力発電所で、です。建設現場で電気設備を遮断する施設を点検していて、変圧器が爆発する事故がありました。この事故で労働者4人が火傷をし、その内の1人が一週間後に死亡しました。同じ月の20日にも、ある火力発電所の機械点検工事の現場で、10メートルの高さで仕事をしていて墜落する事故が発生しました。日雇いの青年労働者でしたが、重傷でした。下半身が動かなくなるかも知れないと聞きました。

*彼が一枚の写真を取り出した。写真には労働者が1人、黒い石炭とガスが一杯の空間に埋もれて、辛うじて顔だけを外に出していた。

この写真は、この前、発電所の屋内貯炭場(石炭を積んでおく所)を撮ったものです。石炭は自然発火するほどガスが多く発生します。黒く見えるこれが全部ガスです。一酸化炭素中毒の恐れがあって、酸素マスクを使わなければなりません。ところが、ここの作業員の顔を見ると、防塵マスクを1枚しか使っていません。このように有害物質が発生する密閉された空間での作業は、元請けの安全担当者がいなければいけません。ガス濃度が一定の数値以上に上がれば、出入りを統制しなければなりません。しかし、元請けはCCTVを設置して、下請け業者に責任を問います。このように危険な現場には入れないように遮断することは、元請けがするべき仕事なのにね。キム・ヨンギュン法の核心は、元請けの責任強化です。しかし、未だに現場は元請けが安全責任を負わずに、下請け労働者に業務を指示して、これを履行しなければ追い出す構造で運営されています。

ヒョン・ジェスン:3月に、瑞山(ソサン)のテサン公団のロッテケミカル工場の爆発事故で、50人程が怪我をしました。昨年は同じ公団のハンファ・トータルでも事故がありました。SHエネルギー化学の群山(クンサン)工場でも、3月の爆発事故で3人の死傷者が発生しました。
大部分が設備の安全点検の問題です。会社の安全管理チーム長や管理者は、危険だということを全部解っていました。化学物質事故の40%以上は、設備の管理をキチンとしていないために発生します。設備を適時に交替したり点検しないのは、すべて企業が安全より利潤を優先するためです。設備管理の主体が事業主なので、強制しにくい部分があります。化繊食品労組が、老朽設備に対する安全管理特別法を作るべきだと主張する理由です。
橋梁・ダムなどの公共施設物の場合、施設の安全と維持管理に関する特別法(施設安全法)があるように、産業団地施設でも特別法を作らなければなりません。政府と地方自治体に事業場の老朽施設の管理・監督権限を持たせ、小さな事業場には費用を支援する方向での法を制定する必要があります。

カン・ハンス:最近の現場は建設機械の装備が大型化し、依存度も高まって、装備による事故が増えています。爆発・墜落・窒息のような事故も絶えません。安全法規をチャンと守っているかを判断する基本的な尺度は、個人の保護具の支給があるかどうかです。
建設現場は今でも、安全靴や保安帽のような個人の保護具を支給しません。
現場に新しく来た人に「何日か働いて別の所に行くのに、どうするのか」、「安全靴は半月以上働けば与える」と言います。安全教育もチャンとできていません。写真を撮って、教育確認書だけを取って、時間もかけずに終わらせます。
不法な多段階下請け、アウトソーシングも深刻です。
不法な下請けが重層的に行われて、工事費は中間のすべてで抜かれます。結局、10人がする仕事を5人がすることになります。それに工事現場では、色々な協力業者が同時に仕事をするケースが多くあります。隣で仕事をする別々の協力業者の労働者同士は、お互いがする作業の危険性を全く知りません。施工者の元請けが、同時作業の危険性を教育して、作業手順を決めなければならないのに、それをしないから事故が発生します。最も基本的なことすら、依然として守られていない所が建設現場です。

コ・ヨンチョル:初めて労組で仕事をした時は「造船所で安全保健関連法をすべて守れば、造船所の門を閉めなければならない」と言うほどでした。今はそれでも、労働部が点検に来たり、事故が多く起こるので、法律だけは守ろうとするようです。
それでも、すべての事業場がそうではありません。名誉産業安全監督官の仕事で、ある現場を訪問しました。亜鉛メッキ水がグラグラ沸いているのに、外国人労働者が安全靴も履かずに、サンダルを履いて働いていました。

建設業の産業災害死亡事故は減った?
事故死亡万人率が上がって『産業災害揺り戻し』現象が心配

司会:世越(セウォル)号惨事の以後、『安全』に対する関心が高まりました。文在寅政府は産業災害による死亡事故を半分に減らすと公言しました。労働安全保健制度と政策に変化があると感じますか。

カン・ハンス:雇用労働部が昨年、産業災害死亡事故の統計を発表しましたが、建設業の場合、2018年対比で事故死亡者が57人減ったと言っています。労働部は、昨年の建設業労災予防事業の成果が出たものとして、今年はもっと数を減らすと言いました。ところが、労働部の資料を詳しく調べると、建設業の事故死亡万人率(勤労者1万人当たりの事故死亡者の比率)は、1.65人から1.72人に、逆に0.07人増加したことが判りました。これをどのように説明するのでしょうか。建設の景気沈滞で、建設労働者が290万人から240万人に減った。建設労働者が50万人減って、事故死亡者が57人減ったと解釈することができます。タワークレーンも同じです。死亡事故が続くと、直ぐに政府が集中的な監督をして、2018年の死亡者は0人でした。そして政府の監督が緩くなって、昨年1月から次々タワークレーンの事故が起こりました。勤労監督官800人を投入するパトロール点検が何時までできるのだろうか。一時的な措置です。そのようなやり方で当面の事故を減らすとしても、いつかは揺り戻し現象が起きます。政府は既存の枠組みを破れていません。

イ・テソン:安全準則を制度化しようとする努力は明らかです。しかし、依然として元請けの責任逃れの手段として利用される面がとても多いのです。A発電の安全申告センターを例に挙げてみます。A発電の職員や協力会社の職員が会員として加入すれば申告できるシステムです。そして申告者が申告をすれば、発電所の設備を改善しなければならないケースが発生します。そして(異議申請時に)電気の生産ができない責任の所在が不明になります。申告した労働者がこうむる不利益も心配です。実際に上手く運営されてもいません。申告して措置を完了した件数が確認できて、ホームページに措置結果が出ていますが、何を解決したのかがまったく共有されていません。
元請けは依然として「電気を生産しさえすればよい」という観点から安全問題を見ます。ベルトコンベヤーを例に挙げましょう。キム・ヨンギュン労働者も2人1組で作業をせずに、一人で仕事をしていて亡くなりました。ベルコンが動いても、異常が発生した時に動きを停める安全設備をフルコードスイッチ(非常停止装置)と言います。発電会社はキム・ヨンギュンの事故以後に新しい安全システムを導入すると言いました。
それがセンサーです。運転中のベルコンに労働者が接近すれば、自動警告が鳴ります。安全装置というよりもアラーム装置です。事故の危険があって、接近付けば、センサーの役割は案内放送ではなく、ベルコンを停めることでなければなりません。このように、危険な作業をコントロールして停める方法は使いません。今の安全装置は、対外的な広報手段に過ぎないということです。キム・ヨンギュンの事故以後に作られた、元・下請け、協力会社が参加する安全経営委員会の審議案件を強制する規定がありません。下請け労働者の参加は一部保障されましたが、安全経営委員会で現場労働者が何を議論して決めたのかを知ることもできません。
作業環境測定制度も同じです。作業環境測定結果報告書を、下請け労働者には公開しません。

司会:作業環境測定結果を労働者に知らせなければ、500万ウォン以下の過怠金を払わなければならないんですって。

イ・テソン:文書にウォーターマーク(複製防止用の技術)を使って流出を防ぎます。私たちが苦労して入手した作業環境測定結果報告書です。これを見れば、作業現場で1級発ガン物質が基準値の4.2~4.5倍も高いと出ています。ここで作業する下請け労働者は、このような事実を全く知りません。

ヒョン・ジェスン:化学物質管理関連の法律が強化されました。しかし、今回のコロナ19事態でも、日本との外交問題がある時にも、財界は「化学物質管理規制が余りに厳しい」と主張します。2015年から法が施行されましたが、現場への適用が非常に遅れました。アメリカ・ヨーロッパよりも規制は厳しくないのに、財界は機会さえあれば規制を逆回転しようとします。

イ・テソン:労働部が、発電所のような所には、抜き打ち点検を持続的に行っています。そして、根本対策を立てるよりは、過怠金賦課のレベルに終わっています。発電所は2018年のキム・ヨンギュン労働者の死以後、CCTVを数千個設置して監視しています。もちろん安全統制が目的と言っていますが、現場労働者にとっては、危険な要素を外部に知らせることを防止しているように機能しています。

多段階下請けに乗って繰り返される重大災害
「企業利潤を労働者の生命より重要に考えるから」

司会:重大災害の根本原因については、短期の処方しかないという話が聞こえます。重大災害が繰り返される本当の原因は何だと思いますか。

カン・ハンス:建設現場では多段階の下請けが最も大きな問題です。
元請けの管理者は工事をどれ程早く進めるか、工期に合わせられるかだけを考えます。安全管理者は3千人が働く建設現場に何人もおらず、(現場を統制する)力がありません。下請け制度のために、作業指示に関する責任も明確ではありません。現場の協力業者の労働者同士は、互いがする作業はよく知らないけど、時間に追われて急いで作業するので、作業指示も明確に受けることができません。休日に作業管理者が出てこず、労働者だけで作業をして、事故が起きることもあります。
また、建設業界がするべきことですが、最低価落札制、入札・落札構造も産業災害と賃金未払いの問題を発生させます。

コ・ヨンチョル:安全に関する認識が完全に変わらなければなりません。労働者が間違えようが、機械が誤作動しようが、人がケガする事故が起きなければ安全なのですが、現場の安全管理は、人の行動だけをコントロールしようとします。ただ気を付けろということです。以前の安全保健公団のスローガンが『注意注意コリア』でした。事故が起こらないように気を付けろ、ということです。ところが現場で事故が起きるのを見ると、不完全な状態と不完全な行動は、7対3程度だと言います。誰かは3対7だとも。その比率が重要なのではありません。機械の欠陥のような不完全な状態は、目に見えるのでコントロールできます。ところが、作業者の間違いのような不完全な行動は抽象的で、そうではありません。
造船所で、乾燥中の船内を清掃する女性労働者が、スイッチを押せば自動で閉じられる扉に挟まれて死亡する事故がありました。そのため、スイッチを押している手を離せば、自動ドアーが止まるように変えました。すると、スイッチに針金を差し込んでいました。スイッチを押し続けると手が痛くて、時間も多くかかると。ところが、それを瞬間的に誤って抜いて、また扉に挟まれて死亡しました。そのような事故が2件発生しました。そこでどうしたかと言うと、針金を差し込めないようにするスイッチを、また作りました。

イ・テソン:発電所の工程は人員が細分化されています。協力業者が3、4社ずつ入っています。A業者の人が間違えるとB業者の人が死ぬ。同じ下請け業者同士の事故が連続的に起こる『ドミノ現象』が発生します。元請けは「私が雇ったのではないので私の責任ではない」と言います。キム・ヨンギュンの死亡事故の真相究明と再発防止のための石炭火力発電所特別労働安全調査委員会の勧告内容も「不安定な要素を作るシステムを統制する方法を求めよ」ということでした。

ヒョン・ジェスン:よくハインリッヒの法則と言うでしょう。大きな災害、小さな災害、些細な事故の発生比率は1:29:300となって、正三角形ですが、我が国は逆三角形で、死亡事故が多い構造です。
取りあえず、政府でも、事業主でも、事故の最初の原因を人の失敗、すなわち作業者の不注意と見ます。システム上の原因を見つけ出そうとする努力すらしません。先進国の安全保健概念の前提は、『人は神ではないから失敗する場合があるので、失敗しても事故と被害が起こらないようにしよう』です。ところが、我が国の政府が作る産業災害調査表には、事故原因の70%が『作業者の不注意』と一行で記載されています。
怪我をしただけでも口惜しいのに、使用者側が懲戒委員会を開くこともあります。労組も「私たちが調査したところ、組合員の失敗よりもシステムの誤りの方が大きい」と主張すべきなのに、組織率が10%にしかなっていないという限界もあります。意志と余力のある労組が、事故原因の調査を直接しなければなりません。

災害調査、労働者の観点で行われているのか?
「労働者が事故調査に直接参加する構造を作らなければ」

司会:現場の災害調査はどのようにされているのですか。

イ・テソン:キム・ヨンギュンの死亡事故当時、それなりに社会的なイシューになったのに、実際に労組や遺族は災害調査報告書や事故調査の過程に参加できませんでした。「工程を最もよく知り、このことについてよく解っている労組が参加すべきではないか」と労働部に尋ねると、「駄目だ」と答えます。労組が直接参加する方式ではなければ、事故原因は糾明されません。

コ・ヨンチョル:労働者中心の事故調査でなく、事業主中心の事故調査が問題です。機械の欠陥、安全装置の破損を訊くのではなく、労働者に「昨日は酒をたくさん飲んだか」とだけ尋ねます。実際にそうなのです。
現代重工業で3メートル落ちて死亡した労働者の事故調査報告書には「この人には最近退社の意志があった」と書かれています。一体、それが事故の原因とどんな関連があるか。
さっきベルコンのセンサーの話をしましたが、ある現場で産業用ロボットの腕に挟まれて死亡する事故がありました。センサーがなかったのだろうか? いや、あった。しかしそのセンサーは、ロボットが壊れてはいけないと思って作られた装置だった。ロボットが誤作動すれば、作業を停めるようにするべきなのに、そのような装置がなくて人が死にました。人の失敗や不完全行動を問題にするのでなく、安全な現場を作るのが先です。

ヒョン・ジェスン:化繊食品労組は単位事業場に「事故が起きれば、無条件で労使共同の調査班を設置せよ」と言っています。そうでなければ、産業安全保健委員会で議論して、労使が一緒に調査をするようにしています。災害原因を最もよく知っているのは、その現場で働く人です。労働者が直接立ち上がって、事故原因を見付けようという努力をしなければなりません。

重大災害を防ごうとするなら、労働者に作業拒否権がなければ

イ・テソン:危険作業をさせられるとき、労働者にそれを拒否できる権限がなければなりません。不完全な要素がある状況でも、元請けが作業を指示し、下請けは費用のために作業を強行するケースが多くあります。労働者が危険作業を拒否しても保護されるようにしなければなりません。それが特別調査委員会勧告案の核心でもあります。まさに「作業拒否権」です。

コ・ヨンチョル:労組も事故を事前に遮断しようとする努力をしなければなりません。私たち造船所は、バイクが入ってこれないようにしています。実際に作業現場でバイクに乗った事故が多く起こります。造船所はとても広いので、組合員にも不満が多いのです。現代重工業では、会社が売却された後、現代重工業から来た管理者の一部がバイクに乗って通っていました。私たちがこっそりとバイクのタイヤをパンクさせてごみ箱に捨てたりもしました。組合員の中には自転車にモーターをつけて通うケースもありました。これを認めれば、もっと早い装置が現れそうなので、駄目だと言いました。

ヒョン・ジェスン:そう言えば、現代三湖重工業ではバイクは見られませんでした。

コ・ヨンチョル:重大災害企業処罰法は、なんとしても作られなければなりませんが、それによって重大災害を防ぐことはできません。企業は多分、重大災害企業処罰法に備えた保険をもう一つ作るでしょう。勤労者災害保障責任保険のようにね。

2002年にシンガポールの地下鉄工事現場に産業安全公団・労働部と一緒に行きました。作業が80%完了したと言うので「死亡事故も怪我をする事故もたくさんあったのでは」と思いましたが、一件もないというので、全員が「これは隠蔽だ」と考えました。
すると、そこの所長が逆に私たちを変だと思いました。「この国では労災隠蔽はない」と。病院で医師が産業災害の手続きを直ぐにするのだと言いました。韓国での生活を経験した現場にいた人が「ここでは原則をキチンと守る」と言い「文化の差」と言いました。小学校から、小さい時から、安全に関する認識を植え付ける教育が必要です。その子供が労働者になろうが、事業主になろうが、安全が最も重要だということを知って育つことが必要だということです。

「重大災害企業処罰法」、安全認識の向上と安全管理監督の強化、すべて必要」

司会:最後に重大災害の再発を防ごうとすれば、何から変えなければならないのかについて意見を言ってください。

カン・ハンス:いくつかの事例を挙げましょう。ある施工会社の現場所長に関しての記事を見たことがあります。
普通は一日で作る足場を、一週間かけて作ったと言いました。その人は「初めに作業する時に正しくしておけば、労働者も安心して安全に、結局、早く作業できる」と答えました。元請けは工事期間に非常に気を遣います。一週間という工事期限を優先するよりも、安全な現場が工事期間も短縮する、と考えなければなりません。
アメリカのミシシッピ川の橋の工事中に発生した事故がありました。仕事をしていた労働者1人が川に落ちましたが、裁判所は会社に200億ウォンの罰金を賦課しました。裁判所は、会社は川に落ちた労働者を救助することを考えなければならないのに、救命用のボートがなかったのは過失致死ではなく『故意的な殺人行為』と同じだと見たのです。我が国では、ボートについてまでは考えも及ばないでしょう。
安全に対する概念を変えなければなりません。事故原因をある個人の行為だけに見付けるよりも『しまった』事故が大事故にならないようにする、あらゆる予防措置を安全措置として拡張しなければなりません。それが企業と政府がしなければならない役割です。
マスコミも変わらなければなりません。ハン・エクスプレス物流倉庫惨事の記事を見ると、タバコの吸殻にふれた報道がありました。火災現場にタバコの吸殻があったと報道したのです。その記事を読んだ読者は何を思い浮かべるでしょうか。労働者個人を蔑視して、『死ぬようなことをした』と言うような、行為中心の報道は止揚するべきではないでしょうか。

ヒョン・ジェスン:システムや制度による事故だということを、現場のあちこちでよく解るようにするべきです。
労組は『しまった』事故に対する調査報告書を作成する活動をしています。それが始まりだと考えています。最大限に多くの事例を集めて、蔚山(ウルサン)の場合、労組が事故調査報告書をパンフの形にして、伝えたりもします。労働者が事故調査に参加して、事故の原因が何か、現場のあちこちで解るようにすることが重要です。

司会:重大災害の再発を防ごうとすれば、小さい事故から徹底して調査して、糾明しようという趣旨が良いです。

イ・テソン:政府は今までに多くの報告書を出しました。サムソンのクレーン転倒事故や 泰安(テアン)火力発電所のキム・ヨンギュン労働者の事故では、特別調査委員会も作って報告書も出しました。しかし、一歩も進んでいません。
企業は利潤論理を、労組は組織化ができなかったという理由を挙げました。政府は安易な対処をします。労働者の生命は依然として羽毛のように軽い。
今回のハン・エクスプレス物流倉庫惨事でも、途轍もなく多くの労働者の生命を奪い取って行きました。キム・ヨンギュン労働者が死亡して526日目です。
未だキム・ヨンギュンの同僚、発電所の労働者は非正規職として働いています。政府は昨年12月12日に多くの対策を発表しましたが、実際に現場では肌で感じることができない状況です。企業を優先する前に、誰かの家族であるであろう人間を、優先に考えたら良いでしょう。

コ・ヨンチョル:重大災害企業処罰法は当然作られなければなりません。そして事故調査や安全措置、事故予防には、労組があってもなくても、労働者が参加できる制度を作らなければなりません。
政府の監督の強化も強調したいです。政府はいつも「人員がおらず、勤労監督官が足りない」と言います。実際に足りません(2018年現在、勤労監督官1人が担当する事業場は1488個、労働者は1万3531人)。勤労監督官1人が1年内にすべての事業場に行ったこともありません。失業率も高いのだから、勤労監督官もたくさん採用すれば良いでしょう。
そして安全保健に関する革命が必要です。小さい時から、安全な環境とは何なのか、安全とは何なのかについて、正しく認識して、労組も安全に関心を持たなければなりません。この前、金属労組の新人幹部に安全教育をしに行ったのですが、組合員が「安全には関心が高いので、自ら参加した」と言いました。私は拍手しました。私たち労働者すべてが安全について関心を持たなければなりません。

2020年5月25日 毎日労働ニュース チョン・ソヒ記者

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