アスベスト混入タルク・ベビーパウダー問題:米国における経緯/タルクの隠れた危険性:Asbestos.com 2020.5.26

中皮腫・肺がんなどのアスベスト関連疾患患者とその家族のために質の高い情報と助言を提供しているアメリカのアスベスト・ドット・コム(Asbestos.com)がアスベストに汚染されたタルクによる危険性と、アメリカで社会問題化してきた経緯を簡潔にまとめているので、紹介する。情報は随時更新されており、紹介したのは2020年5月26日時点の情報である。
日本におけるアスベスト混入タルク・ベビーパウダー問題の経緯をみるときは欠かせない情報だろう。
以下、 https://www.asbestos.com/featured-stories/talc-dangers/ を訳した。

タルクの隠れた危険性:製造業者が利益を人々の前に置いた場合:Hidden Dangers of Talc:
When Manufacturers Put Profits Before People

タルク企業は、アスベストに汚染されたタルクの危険な健康影響と、いかにそれが中皮腫などの懸念につながるかを隠蔽してきた。ジョンソン・エンド・ジョンソンをはじめこうした企業の多くがいま、膨大なアスベスト・タルクパウダー訴訟に直面している。

最近まで、アスベストは中皮腫に関連した唯一の鉱物だった。人々の認識は、地球上でもっともやわらかい鉱物であるタルクを含めるように変わりつつある。
化粧品業界の巨人ジョンソン・エンド・ジョンソンが関わる訴訟が、アスベストに汚染されたタルクががんを引き起こしたと主張する中皮腫の原告らに対する数百万ドルの評決につながってきた。

アスベストとタルクはともに自然に形成される2つの鉱物である。これらの鉱物は組成が似ており、ともに長い時間をかけて生成する。タルクの鉱脈は一般にアスベスト及びアスベスト様繊維によって汚染されている。
アスベストは、主として肺または腹部の内膜に形成するがんである、中皮腫を引き起こすことが知られている。

1976年に化粧品工業会(現パーソナルケア製品評議会)はその会員及び広く化粧品産業に対して、今後はアスベスト・フリーのタルクだけを使用するよう求めた。
しかし、この措置の実施を確保するための政府による規制はつくられなかった。1938年連邦食品医薬品化粧品法は政府に、化粧製品またはそれらの成分を検査またはレビューするよう求めたことがない。

連邦食品医薬品局は(FDA)はアスベストに汚染されたタルクを化粧品への使用ができないものとみなしている。しかし化粧品へのその使用を禁止した連邦法はない。FDAはある製品が危害を生じさせることが科学的に証明された場合にのみ行動をとることができる。

アスベストに汚染されたタルクを含有する製品は特別な検査が必要なことを踏まえて、連邦環境保護庁(EPA)はアスベストの検出に透過型電子顕微鏡を勧告している。

訴訟は、いくらかの化粧品製造業者は彼らの製品中のアスベストを隠すために、あまり進んでいない検査方法を用いてきたと主張している。こうした検査のいくつかにはX線回折や偏光顕微鏡が含まれる。

タルクパウダーはどのようにアスベスト及びがんと結び付けられるようになったのか

タルクパウダーとアスベストは、卵巣がんや肺がんを含め、中皮腫以外のがんと関係している。

2011年に国際がん研究機関(IARC)は科学的証拠をレビューして、アスベスト曝露が卵巣がんを引き起こすことを確認した。

IARCが2010年にタルクとがんに関する科学的研究をレビューしたとき、同機関はタルクパウダーの会陰部使用がヒトに対して発がん性である可能性があることを見出した。

エピデミオロジーに掲載された2016年のある論文は、タルクパウダーを使用する女性における卵巣がんリスクの30%増加を確認した。リスクはホルモン補充療法を受けている、閉経前後の女性で高く、タルクパウダーと卵巣がんとの関連においてエストロゲンが役割を果たしている可能性を示唆した。

しかし、リスクの増大と因果関係は別の世界である。調査研究はアスベストが4種類のがん-中皮腫、肺がん、喉頭がん及び卵巣がん-を引き起こすことを証明してきた。

調査研究はタルク曝露が卵巣がん、またおそらくタルク鉱夫における肺がん、のリスク増大に関係していることを示唆してきた。

どんな製品がタルクを含んでいるのか?

異なる等級のタルクが広範な製品に組み込まれている。

化粧品等級タルク

・ ベビーパウダーに使用
・ 頬紅
・ ローション及びファウンデーションなどのメーキャップ製品
・ アイシャドー及びフェースパウダー

工業用等級タルク

・ 塗料に使用
・ セラミック釉薬
・ 接合混合物
・ 粘土
・ ウッド・パテ

最近の化粧品等級タルク訴訟に関わる主要な企業とアスベスト汚染製品にはジョンソン&ジョンソンのベビーパウダー、コルゲート・パーモリーブのベビーパウダーや、J&Jへのタルク供給についてのイメリス・タルク・アメリカが含まれる。
イメリスとR.T.ヴァンダービルト社は、塗料をめぐって工業用等級タルク訴訟に巻き込まれている。

中皮腫と診断された?タルクが原因かもしれない

知られるアスベスト曝露歴のない、中皮腫と診断されただれかはタルクに曝露したことがあるかもしれない。

中皮腫と診断された者の大部分はいつどこでアスベストに曝露したか特定することができる。ほとんどの中皮腫患者はブルーカラー仕事に就いていた間に職業的に曝露した。保温、建設、鉱業、工場仕事で働いた者はもっとも高い曝露リスクに直面した。

いくらかの中皮腫患者は、アスベスト作業を行い知らずにそれを家に持ち込んだ家族のメンバーを通じて曝露した。この種の曝露は二次アスベスト曝露として知られている。

上述のアスベスト曝露がなく中皮腫を発症した者はタルク曝露の結果としてそのがんを発症したのかもしれない。

タルク隠蔽:いかに企業は消費者から危険性を隠してきたか

アスベスト製品製造業者がアスベストの影響を隠蔽したように、タルク企業もその製品の危険な健康影響を隠蔽してきた。

●ジョンソン・エンド・ジョンソンのタルク隠蔽

封印を解かれた1970年代の文書が、J&Jがそのタルク中にアスベストがあることを示唆している。これらの文書は、J&Jのベビーパウダーが卵巣がんを引き起こしたと主張するセントルイスの50人以上の女性によって提起された2017年の訴訟のなかで明るみに出された。

1973年のある内部文書は、バーモントにあるJ&Jのウインザー・タルク鉱山におけるアスベストの存在を認めていた。この報告は、J&Jのベビーパウダーが痕跡レベルの2種類のアスベストを含有していたと言っている。報告のなかであるJ&J職員は同社のベビーパウダーにタルクの代わりにコーンスターチを使用することを提案している。

1974年のある文書は、、ウインザー鉱山の研究開発部長がアスベスト汚染に気づいていたことを示している。彼は、同鉱山から抽出したタルクを加工するために、「クリソタイルアスベストの沈降にクエン酸を使用する」ことを提案している。

「筆者は、重大な健康ハザードを示していると現在考えられているもの、また現時点ですべてのタルク鉱石中に存在している可能性があるもの防御を与えるためにこうしたシステムの使用を強く促すものである」と部長はこの文書で書いている。

J&Jはまた、イタリア・トリノ近くのヴァル・キゾーネ鉱山から購入しているタルクのアスベスト汚染を知っていたことも隠した。文書は、タルク中の微量のアスベストに言及したマーケティング用小冊子の英語版を配布するのをやめるよう、J&Jの研究員が同鉱山の所有者を説得したことも明らかにしている。

「ビジネス上の脅威は、それがタルクの純度と安全性に関する文書の妥当性に疑問を生じさせる可能性があるということだ」とJ&Jの研究員は書いている。

J&Jは、その製品がアスベストを含有しているという主張に異議を唱え続けている。

2018年2月9日、2013年から2018年の間にJ&Jの証券を購入した株主らがJ&Jに対して集団訴訟を起こした。

この訴訟は、連邦証券法違反の疑いによる損害賠償を求めたものである。それは、J&Jがそのタルクがアスベストを含有していたこと、またそうした繊維への曝露が中皮腫や卵巣がんを引き起こすと主張している。

●BASFのタルク隠蔽

2017年にBASFに対する集団訴訟が提起され、その代理人は同社がバーモントのタルク鉱山のアスベスト汚染を隠し、証拠を隠滅したと主張した。

ドイツに本拠を置くBASFは、鉱山の元々の所有者であったエンゲルハードを買収した2006年に、同鉱山とその責任を取得した。

1983年にエンゲルハードは同鉱山のアスベストに関係した訴訟を和解した。エンゲルハ-ドの職員は供述録取のなかで、同社がタルク中にアスベストがあることを知っていて、その証拠を隠そうとしたと証言した。和解を踏まて証拠は封印され、エンゲルハードとその代理人はその後の20年以上の訴訟のなかで、同社のタルクはアスベストで汚染されていないと主張した。

2009年にあるエンゲルハードの科学者の娘が、アスベストへの二次曝露の結果として中皮腫を発症したと主張して訴訟を起こした。彼女の父親は、エンゲルハードは同社のタルク中のアスベストに気づいており、また同社の法務部は「自分たちに記録を完全に削除するよう話した」ことを証言した。

[上述の]集団訴訟に加えて、別の訴訟が、BASFに同社のタルクに関する数ダースの文書を明らかにさせることを追求している。BASFはこれらの文書は秘密だと主張している。

タルク訴訟の事例と評決

こうした種類のタルク訴訟は少なくとも20年間進行中である。工業用タルク曝露と中皮腫に関わる最初の訴訟は2006年に提起された。

タルクパウダーが卵巣がんを引き起こしたと主張する最初の訴訟は2009年に提起された。

こうした訴訟においてこれまでに数百万ドルの評決が与えられている。

●主なアスベスト-タルク訴訟のリスト

被告: ジョンソン&ジョンソン
状況: 2018年審理中
概要:
22人の女性が、J&Jのタルク製品が彼らに卵巣がんを発症させたと主張。J&Jにタルクを供給したイメリスが2018年6月に未公開額について和解。本件に通じた者は和解額は500万ドル近いと言う。

被告: ジョンソン&ジョンソン
状況: 2018年5月終了
概要:
カリフォルニアの陪審員団は、J&Jのベビーパウダーを使用した結果として中皮腫を発症したと主張する1人の女性に対して2,170万ドルを裁定した。

被告: ジョンソン&ジョンソン
状況: 2018年4月終了
概要:
ニュージャージーの裁判所の陪審員団は、J&Jのアスベスト含有タルクパウダーを使用して中皮腫を発症したと主張する1人の男性に対して1憶1,700万ドルを裁定した。

被告: コルゲート・パーモリーブ
状況: 2017年10月和解
概要:
コルゲート・パーモリーブは、20年間カシミアブーケ[タルク製品名]を使用して中皮腫を発症したと主張する原告キャロル・シェニガーに対して未公開の和解金額で訴訟を回避した。

被告: コルゲート・パーモリーブ
状況: 2015年5月終了
概要:
カリフォルニアの陪審員団は、コルゲート・パーモリーブのカシミアブーケ・タルクパウダーに曝露して中皮腫を発症したと主張する1人の女性に対して1,300万ドルを裁定した。

被告: ヴァンダービルト・ミネラル及びイメリス・タルク・アメリカ
状況: 2017年12月終了
概要:
カリフォルニアの陪審員団は、塗料を作るのに使用したアスベスト含有タルクに曝露して中皮腫のため死亡した男性の遺族に対して2,200万ドルを裁定した。陪審員団は、イメリスがアスベスト含有を隠すためにそのタルクを混合したことを暴露した同社幹部の証言を聞いた。

現在のアスベスト-タルク曝露と将来の訴訟

子供用玩具、クレヨンやメーキャップにアスベスト含有タルクが使用されているという最近の報告は、消費者に警報を鳴らしている。こうした製品は意図的に何らかのアスベストを含有させたものではないが、それらに使用されたタルクが汚染されていた。

ノースキャロライナ州ダーラムに本拠を置くWTVD-TVによる2017年7月の調査は、若い少女向けを対象にした小売チェーン、ジャスティス[Jastice]によって販売されている子供用メーキャップからアスベストを検出した。ジャスティスはその年後半に、8種類の化粧用製品を自主的にリコールした。

2017年12月にはあるラボラトリーが、子供やティンエイジャーを対象にした宝石やアクセサリーの小売業者であるクレアーズ[Claire’s]によって販売されている子供用メーキャップ製品からトレモライト・アスベストを検出した。

2019年3月にはFDAが、2018年に検査された3つのクレアーズ製品中のアスベストの存在を確認した。同社はその後、製品のリコールを行った。

「慎重のうえにも慎重を期して、われわれは、FDAによってわれわれの店舗で確認された3つの製品を取り除くとともに、それ以外のタルクを原料にしたすべての製品も取り除いた」と、この小売業者は言った。

環境ワーキンググループ(EWG)アクションファンドによって2015年に委託された検査は、子供用玩具とクレヨンからアスベストを検出した。4種類のブランドのクレヨンと2種類のアマチュア犯罪現場捜査キットから、トレモライトとクリソタイルが検出された。

2007年にアスベスト疾患アウエアネス・オーガニゼーション(ADAO)が委託した検査は、子供用粘土と、テレビ番組のシリーズCSI:犯罪現場調査から名付けられた指紋採取キットにアスベストが含まれていることを明らかにした。

このような種類の製品を通じたアスベスト含有タルクへの曝露は有害な健康影響をもたらす可能性がある。現在曝露している子供たちが、アスベスト関連疾患の長い潜伏期間のゆえに、人生の後になって病気になるかもしれないのである。

ミシェル・ウィットマー

以下、略。(翻訳:古谷杉郎)

https://www.asbestos.com/featured-stories/talc-dangers/