政府はコロナ公務災害発生状況の公表を~国家公務員は当局の「探知」による認定が基本~ 「ぼうっとしてたら、私病扱い」?

未だ闇の中「コロナ公務災害」

新型コロナウイルス感染症に関する労災保険の請求件数は、5月14日現在39件だそうだ。これだけたくさんの感染数が公表され、医療従事者の感染も相当数報道されていて、そのほとんどが労災のはずなのに・・・というのが大方の見方だ。

厚生労働大臣も15日の記者会見で、「改めて、医療従事者の方が感染した場合には、速やかに、かつ、これはご本人が請求していただかなければなりませんが、ご本人に労災請求を勧奨するとともに、その請求手続きに当たって各医療機関に御協力をいただくことを、私からも改めて強くお願いしたいと思います。」と、労災保険の請求を促している。
また、厚生労働省が4月末に公表した労災補償の取扱い基準では、医療従事者でなくても、顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下の業務などについても業務により感染した蓋然性が高いとして個々の事案に即して適切に判断するとしている。いずれにしろ労災請求件数は間違いなく増加し、相当数の労災保険給付が行われることとなるだろう。

ところで労働災害の補償制度は、労災保険だけではない。

たとえば地方公務員や国家公務員は労災保険ではなく、それぞれの公務災害補償制度が適用されることになっている。
患者を受け入れている○○市立病院の医師や看護婦が感染したら公務災害だし、検疫所の職員が感染しても公務災害として補償されることになる。

しかし公務災害の補償請求や認定件数の情報は、どこからも出てこないのはどういうわけだろう。
ダイヤモンドプリンセス号に乗り込んでの業務に従事した厚労省職員2名が感染した事例を持ち出すまでもなく、未知の感染症から国民を守るために第一線で働いている公務員の公務災害補償について、ほとんど何も情報が明らかにされていないのはどういうわけだろうか。

国は当局自身が公務災害を「探知」し認定

実は、民間労働者に適用される労災保険と、地方公務員の災害補償制度、それに国家公務員の災害補償制度は、その手続きが大きく異なる。

労災保険の場合、被災した労働者やその遺族が各補償給付を請求することから始まる。所定の請求書が提出されると所轄の労働基準監督署は必要な調査を行い、保険給付を支給するかどうかの処分を行う。労働者を雇用している事業場は、請求を助力する必要はあっても労災であるかどうかの判断は、保険者である国=労働基準監督署が行う。

地方公務員の場合は、被災職員や遺族が行う公務災害認定請求にもとづき地方公務員災害補償基金という第三者が調査して、公務上かそうでないかの判断をすることになる。

これに対して国家公務員の場合は、被災職員が所属する省庁の側、つまり当局の側から公務災害の発生を「探知」して認定し、被災職員や遺族に通知するという仕組みが基本になっている。具体的な例を挙げてみよう。

厚生労働省の組織である横浜検疫所の検疫官がクルーズ船で業務にあたっていて感染した場合、横浜検疫所の補償事務主任者の任にある担当職員は、公務災害の発生を探知して公務災害補償の実施機関である厚生労働省に災害の報告を行うことになる。そして報告を受けた実施機関の長は、補償事務主任者に指示して必要な情報を集めて公務上災害を認定し、被災職員に通知、補償を実施する。

補償を直接実施

労災保険や地方公務員の災害補償のように、第三者による処分ではなく、被災職員が所属する省庁の長が補償を直接実施する。
言いかえると国家公務員の場合は、明らかな公務災害が発生したとき、被災職員は何もしなくても実施機関である当局のほうから補償を払うから請求するようにと通知されることになるわけだ。
それでは公務災害が探知されない場合はどうか。
被災職員や遺族が補償事務主任者に申出を行えば、実施機関に報告して調査を行い、公務災害かどうかを認定することになる。通勤途上災害の場合も、もともと管理下での出来事ではないので、この申出が出発点だ。

国家公務員は公務災害と私傷病を振り分け

しかしそうはいっても、ややこしいコロナ禍。ぼうっとしていると私病扱いになってしまわないか?という疑問もでてきそうだ。
私傷病の場合の給付を定めた国家公務員共済組合法では、公務上の場合は国家公務員災害補償法が適用されるので、各給付は給付しないと定めている(第60条第2項)。もちろん民間の場合の健康保険法も同じことを定めてはいる。

しかし国家公務員の場合、公務上かどうかについて共済組合が判断するときは、公務災害補償をする実施機関の意見を聞かねばならない(同法第39条第2項)となっている。
民間のように健康保険と労災保険が別々というのとは違って、結局のところ、私傷病の共済組合と公務災害の実施機関が連絡をとって振り分けるということになるわけだ。したがって、被災職員は何もせずにほおっておいても公務災害と認定されるか、はたまた私傷病として共済組合の給付があるということになり、もし公務災害なのに通知がなければ、申出をするということになる。

検疫、窓口業務、意外に多い国家公務員の感染
ただし、国立大学、国立病院は労災保険

ところでそもそも国家公務員の災害補償制度が適用されるのはどういう人だろうか。
実施機関は34省庁で、そこに勤務する常勤と非常勤の一般職国家公務員ということになっている。かつて含まれていた郵政職員など5現業は含まれておらず、国立大学法人となった国立大学の職員も今では労災保険が適用されている。独立行政法人となった国立病院も労災保険の適用だ。
それではコロナ禍による国家公務員の公務災害は、現時点でどのぐらいあるかということなのだが、報道をちょっと振り返っただけでも、ダイヤモンドプリンセス関連で横浜検疫所の職員が少なくとも6人感染していると報道されている。他にも各地の検疫所で検疫官らの感染が報道されている。

外務省の報道発表のページをみると、
3月21日に在チェコ共和国日本国大使館職員の新型コロナウイルス感染症の感染が報告されており、以降、5月5日の在アフガニスタン日本国大使館職員の感染まで10人の在外公館職員の感染が報告されている。外務省内部部局でも領事局長の感染など2名の感染が明らかにされている。
筆者が活動する大阪でも、4月初旬にハローワーク梅田で職員の感染があり、消毒のため丸1日閉庁となった。不特定多数の対象とした窓口対応の業務での感染も、他の業務以外の感染経路が明らかでない限り、公務上の災害と考えるべきだろう。
そのように考えると、国家公務員の新型コロナウイルス感染症の公務災害補償は、かなりの実施件数にのぼる可能性があるといえる。
数ある国の本庁や出先機関に配置された補償事務主任者が、すみやかに職務を遂行し、適法に共済組合とも調整をしていることを期待したい。

公務労働者の権利は守られているのか?

その事を確かめるためには、各省庁=実施機関の公務災害補償実施件数が現状どうなっているかを労災保険と同様に、リアルタイムで明らかにすることが必要といわねばならないのだ。

西野方庸(関西労働者安全センター事務局、連合大阪安全衛生センター参与)