労働における生物学的ハザーズに関する技術的ガイドライン/2022.7.13 国際労働機関(ILO)

はじめに

生物学的ハザーズは、感染性及び非感染性のもの双方が、世界中の膨大な部門及び職場において重大な健康脅威となり、職業病及び労働関連疾患を引き起こす可能性がある。
国際労働機関(ILO)が1919年に炭疽予防に関する勧告(第3号)を採択して以来、生物学的ハザーズの知見、それらの予防及びそれらが引き起こす疾病の治療において、著しい進展があった。非感染性生物学的ハザーズの重要性は、職場及び地域社会の双方でますます明らかになっており、また、職場が結核、HIV/AIDS、マラリア及びインフルエンザなどのグローバルな健康脅威、並びにCOVID-19パンデミックのようなパンデミックの予防及び管理に役立つことできることが認識されている。
2003年に国際労働会議の第91回会合で採択された労働業安全衛生に関するグローバル戦略は、生物学的ハザーズに関する新たな文書の開発に最優先順位を置くべきであることを強調した。
2011年11月にILO理事会は、ILOの基準政策の実施及びILOの目標達成において国際労働基準が果たす役割に関する三者間合意の強化のために、基準レビューメカニズム(SRM)の設立に合意した。2015年に、SRMのひとつの構成要素として三者構成作業部会(TWG)が設立された。2017年9月の第3回会合において、SRM TWGは労働安全衛生(OSH)に関する19の文書をレビューし、理事会に対して、(a)生物学的ハザーズを扱う文書を通じて、第3号勧告の改正に向けたフォローアップ措置を講じるべきこと、(b)生物学的ハザーズに関する技術的ガイドラインが公表されるべきこと、を勧告した。COVID-19パンデミックがこれらの勧告の緊急性をさらに高めた。
理事会は、国際労働会議の第112回及び第113回会合(2024~25年)の議事日程に、生物学的ハザーズに対する労働安全衛生(OSH)保護に関する議題を設定することを決定した。職場における生物学的ハザーズの管理に関する技術的ガイドラインの策定は、その議論のための技術的基礎を提供するだろう。
第110回国際労働会議(2022年)は、安全で健康な労働環境をILOの労働における基本的原則及び権利の枠組みに包含することを決定し、1981年労働安全衛生条約(第155号)及び2006年労働安全衛生促進枠組み条約(第187号)を、2022年に改正された労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言(1998年)の意義の範囲内での基本的条約として位置付けると宣言した。
ガイドラインには法的拘束力はない。これらのガイドラインは、国際労働基準に定められた原則、権利及び義務のすべてを基盤としており、これらのガイドラインに定められた内容は、それらの基準を批准した加盟国の義務を変更するものと解釈されるべきではない。

目的及び適用範囲

労働環境における生物学的ハザーズに関する技術的ガイドラインは、経済活動のすべての部門におけるすべての労働者に適用される。このガイドラインの目的は、政府、使用者、労働者及びその代表に対して、労働環境における生物学的ハザーズへの曝露に関連した労働関連傷害、健康障害、疾病、並びに危険事象及び死亡を予防及び管理するために何がなされるべきかに関する助言を提供することである。
本ガイドラインの目的のために、生物学的ハザーズとは、遺伝子組み換えされたものを含め、植物、動物または人間由来の微生物、細胞またはその他の有機物質であって、人の健康に危害を及ぼす可能性のあるものをいう。
これには、細菌、ウイルス、寄生虫、真菌、プリオン、DNA物質、体液、並びにその他の微生物及びそれらの関連するアレルゲン及び毒素が含まれるが、これらに限定されるものではない。健康影響には、感染性及び非感染性の疾病並びに傷害が含まれ得る。
労働環境における生物学的ハザーズにはまた、生物学的媒介者または伝達者も含まれ得る。

第1章 一般的義務、責任、義務及び権利[省略]

第2章 職場レベルにおけるリスクアセスメント

生物学的ハザーズのマネジメントは、組織が効果的にその活動に内在するハザーズを確認するとともに、生物学的リスクを評価し、合理的に実行可能な限り、リスクを根絶、代替、管理、または低減するための予防及び軽減戦略策を策定することを可能にする。きわめて重大なリスクが存在する場合、リスクを根絶し、またはこれが可能でない場合には、リスクを最小化するために、実行可能なすべての措置が用いられるべきである。リスクマネジメントシステムは、組織がその目標を達成するために実施するプロセス及び行動を計画、実施、見直し及び改善するサイクルを通じて、継続的な改善の概念に基づいて構築されるべきである。
事業場における経営者、労働者及びその代表の間の協力は、生物学的ハザーズの防止に関連したあらゆる措置の不可欠な要素である。職場における協力は、第164号勧告第第12項に規定されるあらゆる形態をカバーすべきであり、また適当な場合には、第155号条約第19条及び第20条に規定されるあらゆる側面をカバーすべきである。

2.1. 生物学的ハザーズの確認及びリスクアセスメント

生物学的ハザーズへの曝露は、人間または人間に関連した製品、動物または動物製品並びに生物学的廃棄物、植物及び食品との接触を伴うあらゆる労働活動において生じる可能性がある。

▶ 労働活動に関連した生物学的ハザーズの非網羅的リスト[活動のリスト-可能性のあるハザーズ及びリスク]

食品生産工場における労働

  • カビ/酵母、細菌及びダニによるアレルギー及びその他の疾患
  • 生物学的因子に汚染された穀物、乳粉または小麦粉の有機粉じん
  • ボツリヌス毒素またはアフラトキシンなどの毒素
  • 抗菌薬耐性病原体

農業、林業、園芸、動物用食品及び飼料生産における労働

  • 動物から感染する細菌、真菌、ダニ及びウイルス
  • 穀物、粉乳、小麦粉及び香辛料の有機粉じん中の微生物及びダニによる呼吸器障害
  • 農夫肺及び鳥飼育者肺などの特定のアレルギー性疾患
  • 生葉タバコ病、サル熱、咬傷、刺傷、毒液及びベクター媒介病などの特定のリスク要因による疾患
  • 抗菌薬耐性病原体

医療及び地域サービスにおける労働

  • HIV、肝炎または結核を含むがこれらに限定されないウイルス性及び細菌性感染症、並びに抗菌薬耐性病原体
  • 鋭利なもの及び針刺しによる外傷による疾病及び事故
  • 汚染された表面または人物との直接接触
  • ウイルス性、細菌性及び真菌性の病原体並びにそれらによって生成される物質及び構造物の空気感染

金属加工業、木材加工業、鉱業における労働

  • 細菌による皮膚疾患及びグラム陰性細菌とそのエンドトキシンによる気管支喘息、研磨工程などの工業プロセスで使用される循環液、パルプ工場で使用される液体、並びに金属及び石材切削液中のカビ/酵母
  • 製造工程における細菌及び酵素

ごみ処理工場、下水処理施設における労働

  • 細菌及びそれらの断片、真菌及びそれらの胞子及びマイコトキシン、ウイルス及びびプリオン、寄生虫及びベクター媒介病を含め、生分解性廃棄物の有機成分よる感染症及びアレルギー
  • ウイルス性、細菌性及び真菌性の病原体並びにそれらによって生成される物質及び構造物の空気感染
  • 抗菌薬耐性病原体
  • 汚染された鋭利な物体との接触による傷により引き起こされる感染症
  • 結核、COVID-19及びインフルエンザなどの呼吸器疾患
  • 汚染された物体または人間との直接接触

空調設備を備えた及び湿度の高い労働区域(例えば、繊維産業、印刷産業及び製紙業)

  • カビ/酵母、レジオネラ菌によるアレルギー及び呼吸器疾患

アーカイブ、博物館、図書館における労働

  • アレルギー及び呼吸器疾患を引き起こすカビ/酵母及び細菌
  • 非特異的な健康被害

建物及び建設業における労働;粘土、藁及び葦などの天然素材の加工;建物の再開発

  • ウイルス性、細菌性及び真菌性の病原体並びにそれらによって生成される物質及び構造物の空気感染
  • 結核、COVID-19及びインフルエンザなどの呼吸器疾患
  • 汚染された物体との直接接触
  • 建築材料の劣化によるカビ(アレルギー性、病原性、毒性)、細菌及び真菌
  • 動物の排泄物への曝露、レプトスピラ症及びウェイル病

2.1.1. ハザーズの確認には、病理学的メカニズム、感染の様式(直接的または間接的接触、エアロゾル、飛沫拡散、媒介物、水、ベクター、食品、動物由来)及び曝露の経路(例えば、吸入、摂取、皮膚、経皮、粘膜、親和性)を考慮すべきである。

2.1.2. 職場における生物学的ハザーズの確認には、以下の点も考慮すべきである。

(a) 傷害または疾病を引き起こす可能性のある状況または出来事若しくは状況のそれらの組み合わせ
(b) 活動、製品またはサービスに関連した潜在的な傷害または疾病の性質
(c) 臨時従業員、若年労働者、高齢労働者、移住労働者及び妊娠中または授乳中の労働者、免疫不全の労働者、既往症を有する労働者など特別の健康上の脆弱性をもつ者を含むがこれらに限定されない、汚染される可能性のある者または危害を受ける可能性のある者
(d) 過去の傷害及び疾病、アレルギー反応の発症傾向、哨戒健康事象アプローチを通じた何らかの事象及び健康影響の証拠

2.1.3. リスクアセスメントは、管理の目的のために、確認されたハザーズごとに、関連した傷害または疾病のリスクのレベルを決定するために用いられるプロセスである。リスクのレベルを評価する際には、性、年齢、障害、民族、及び労働者の健康状態及び合併症などの要因に特別の注意を払う必要がある。

2.1.4. 生物学的リスクアセスメントの実施には、以下の5つのステップが含まれる。

(1) 生物学的ハザーズの確認
(2) 危害を受ける可能性のある者及び危害がどのようなものかの確認
(3) 危害の可能性及び重大性の評価、及びリスクの除去方法、それが可能でない場合の当該リスクの管理方法の検討で構成される、生物学的リスクの評価
(4) 生物学的リスク評価の結果の記録及び改善のための優先順位の設定
(5) 必要に応じて、生物学的リスクアセスメントの見直し及び更新

2.1.5. 生物学的リスクの評価では、即時的、短期的及び長期的な危害を引き起こす可能性(感染、アレルギー、毒性、疾病または事故);潜在的な危害の重大性;因子の貯留源;環境中における安定性;エアロゾル生成または飛散の可能性;感染の様式;人口内における伝播性;予防的措置の可用性及び有効性;効果的な管理措置の可用性;医療措置の可用性及び有効性;再出現のリスクを考慮するための、病原体が希少であるか、部分的または完全に根絶されているか;に基づいて、各ハザーズを分類すべきである。

2.1.6. リスクアセスメントには、生物学的ハザーズへの曝露により発生または悪化するその他の範疇のリスクを含める必要がある。

2.1.7. 生物学的ハザーズに曝露した場合に危害を受ける可能性がある労働者の確認には、医療歴を含め労働者の健康状態;ワクチン接種状況;抗原または抗体検査の結果;適当な場合には特定の関心因子についての基準抗体価情報;予防的治療の使用及び可用性;並びに基礎疾患の有無、を考慮すべきである。

2.1.8. リスクアセスメントの方法及び技術は、対象となるハザーズの特性に基づいて選択され、実際の労働条件に適合させるべきである。行動の優先順位は、生物学的ハザーズが引き起こす可能性のある危害の可能性及び重大性に基づいて決定されるべきである。

2.2. 管理措置

2.2.1. 予防的及び保護的措置は、労働者及びその代表と協議のうえ、以下の原則に従い、管理のヒエラルキーに従って実施されるべきである。

(a) 1964年衛生(商業及び事務所)条約(第120号)に従い、労働者により使用されるすべての施設、及びそれらの施設の機器は適切に維持管理され、清潔に保たれ、自然換気または人工換気若しくはの両方を備え、新鮮な空気または清浄な空気を供給する、十分かつ適切な換気設備を備えるべきである。労働者に対して、十分な量の健康的な飲料水または他の健康的な飲料が提供される必要がある。十分かつ適切な手洗い施設及び衛生設備が設置され、適切に維持管理されるべきである。
(b) 生物学的封じ込め:曝露の可能性及びそれらの影響を予防及び低減し、感染のチェーンを確認し、生物学的因子を不活化できる弱毒化生物、代替生物または手続の使用によって、複製能、感染力、伝播力及び病原性の低減につなげる。生物学的因子の事故による放出が労働者の健康または環境に重大なリスクを及ぼす可能性がある場合には、これらのリスクを最小化するための緊急行動を詳細に定めた計画を策定すべきである。緊急計画は、リスクの高い労働現場にのみ必要である。
(c) 物理的封じ込め:ドア、生物学的安全キャビネット、空気濾過システム、廃水マネジメントシステム、その他を含め、生物学的因子の封じ込め区域からの漏洩を防止する一次的及び二次的な物理的バリアという手段による追加的保護を提供する。一次的バリアは、感染を制限することによって、職業曝露を最小化する。二次的バリアは、主として一次的バリアが失敗した場合に生物学的因子の漏洩を防止するために、補足的な封じ込め機能を提供する。
(d) 労働制限:リスク区域をできるだけ少なくするために、業種または活動の種類に応じて、曝露するかまたは曝露する可能性のある労働者の数を可能な限り少なく保つ。労働負荷を制限し、労働場所を可能な限り場所に限定する。
(e) 運用的保護:安全な労働技術の徹底により曝露を最小化する(例えば、エアロゾルの発生防止、適切な実験室慣行の適合など)。
(f) ハザードの最小化:曝露が生じた場合の影響を軽減するための措置の組み合わせを実施する(例えば、緊急対応手続、緊急時対応計画、健康及び医療監視または偶発的な曝露の影響を軽減するためのワクチン接種など)。

2.3. リスクコミュニケーション

2.3.1. リスクコミュニケーションは、誤解を招かない方法で信頼できる情報を伝えるため、開かれた透明性のある方法で実施されるべきである。伝達される情報は、使用者、労働者及び下請け業者を含め、関係者が理解できるものであるべきである。

2.3.2. リスクコミュニケーションは、関連する労働者の識字レベルに適切な手段及び言語を使用し、適切な理解を確保するために行うべきであり、また、労働者及びその代表と協議のうえ、その十分な情報提供に基づく参加のもとでの、リスクのマネジメントのための効果的なシステムの実施に資するべきである。

第3章 労働者の健康監視
第4章 情報、指示及び訓練
第5章 危険事象、労働災害及び職業病の調査
第6章 労働災害及び職業病の記録及び届出のための国のシステム
[以上省略]

第7章 緊急事態への準備及び対応

7.1. 最近数十年に労働の世界は、とりわけ、重症急性呼吸器症候群(SARS)、H1N1インフルエンザ、エボラウイルス病、ジカウイルス病及びCOVID-19など、生物学的ハザーズに関連した広範囲な緊急事態を目撃してきた。さらに、COVID-19のロックダウン解除後における職場水道ネットワークの微生物汚染やレジオネラ症のアウトブレークによって証明されるように、パンデミックは職場における二次的な事故や緊急事態を引き起こす可能性がある。気候変動、急速な都市化と土地利用パターンの変化は、労働の世界における生物学的ハザーズや感染症緊急事態のリスクを高める可能性がある。気温の上昇は、ライム病、デング熱、チクングニアウイルス感染症、ジカウイルス感染症など、ベクター媒介病の感染と拡大を促進し、とりわけ数多くの業種における屋外労働者を増大したリスクにさらしている。

7.2. エピデミック、アウトブレーク及びパンデミックの状況は、労働及び職場を含め、社会全体に影響を及ぼす。公衆衛生機関は、もっとも代表的な使用者団体及び労働者団体と協議のうえ、講じられるべき政策及び行動を定めるべきである。これらの共同で策定された政策及び行動は、使用者が職場におけるアウトブレーク対応及びマネジメント計画を策定、実施及び評価する際の指針として参照されるべきである。公衆衛生機関との調整及び情報共有の仕組みを確立することは、発生し得る生物学的リスクを管理するため適切である。

7.3. 公衆衛生、水道及び廃棄物、労働衛生、並びに獣医衛生機関及びその他のパートナーとの連携は、アウトブレーク、エピデミック及びパンデミックを含め、生物学的ハザーズの関わる緊急事態への有事準備及び対応、及び早期警戒システムの確立にとって不可欠である。

7.4. 労働衛生サービス提供者は、アウトブレークに備え、管理するために、職場及び地域の双方において潜在的な生物学的ハザーズの可能性について訓練を受ける必要があり、また、検査室または臨床に基づく監視システム、迅速な公衆衛生対応システム及び専門家の助言のためのリアルタイムコミュニケーションによって支援される必要がある。

7.5. 国のOSH[労働安全衛生]政策及びプログラムには、地理的状況の疫学的特性、産業分野及び労働者の特性を考慮しつつ、生物的因子のパンデミックまたはエピデミックが発生した場合に、職場及び労働環境において講じられるべき措置を含めるべきである。職場におけるアウトブレークへの準備及び対応は、公衆衛生準備及び対応と調整され、連携すべきである。

7.6. 職場におけるアウトブレーク対応及びマネジメント計画を策定、実施及び評価する際、権限のある機関は、もっとも代表的な使用者団体及び労働者団体との協議及び参画を確保すべきである。

7.7. 緊急事態への準備及び対応の措置は、職場において策定、定期的に更新及び維持されるべきである。これらの措置は、職場に影響を及ぼす可能性のある生物学的ハザーズによる事故、緊急事態及びアウトブレークを確認すべきである。措置は、職場の立地条件及び環境、並びにその活動の規模及び性質に従うべきである。

7.8. 公衆衛生及びその他の権限のある機関と協力して、使用者は、事故、緊急事態及びアウトブレークの性質、主要な対応者及びその責任を考慮した緊急事態行動または対応計画を策定し、以下の措置を講じるべきである。

(a) 事故、緊急事態またはアウトブレークが生じた場合に、すべての労働者及びその他の関係者に必要な情報、内部のコミュニケーション及び調整が提供されるよう確保する。
(b) 関連する権限のある機関、並びに地域社会及び緊急対応サービスとの情報提供及びコミュニケーションを提供する。
(c) 緊急時の予防、準備及び対応手続に関する定期的な訓練を含め、すべてのレベルにおいて、その能力に応じて、職場のすべての労働者及び事業所の敷地内において緊急事態に関わる可能性のあるすべての者に関連する情報、指示及び訓練を提供する。

7.9. 緊急事態への準備及び対応の措置は、使用者主が、その他の使用者、労働者及びその代表、外部の緊急サービス機関並びに適当な場合にはその他の組織と協力して、必要に応じて策定すべきである。緊急事態対応計画は、各職場ごとにローカルに策定し、あらゆる種類の緊急事態に対処できるほど十分に包括的なものであるべきである。

7.10. 職場における緊急事態への準備及び管理するための手順は以下のとおりである。

(a) 生物学的ハザーズが緊急事態を引き起こす可能性のある状況の確認及びとられるべき行動
(b) 生物学的ハザーズにより引き起こされる感染性または非感染性疾患の早期発見のための仕組みの整備
(c) 一貫性があり効果的なコミュニケーションによる公衆衛生及び職業病報告システムを通じた症例の迅速な報告
(d) 労働者が意思決定権限を有する者が誰であるかについて疑義が生じないよう確保するために明確な指揮系統を有する組織が設立されるべきである。緊急事態対応チームが設立され、業務を調整するために責任者が選任されるべきである。
(e) 必要に応じて専門家の助言及び支援の取得
(f) 公衆衛生機関及び、適当な場合には外部緊急サービスとの、地域的及び全国的に調整された支援システムの実施
(g) 生物学的ハザーズの予防、治療及び封じ込めの方法に関する研究への協力及び成果の共有

7.11. 生物学的因子のアウトブレークへの準備及び対応計画は、既存の人権枠組みに沿って、ジェンダー考慮、公平性及び包摂性に焦点をあてた分析の枠組みのなかで実施されるべきである。

第8章 監督及び法規定の遵守[省略]

付録Ⅰ 数値加重システムを用いたリスクアセスメントによる行動優先順位の決定

リスクアセスメントを実施するための確立された方法及び技術は数多く存在する。そのうちのいくつかは、行動の優先順位を決定するために数値加重システムを使用する。確認された各ハザードについて、当該ハザードが危害を引き起こす可能性に数値が割り当てられ、また、その危害の重大性にも数値が割り当てられる。これは、低から高への上昇スケールで次のように表現できる。

1. 可能性

(1) 希:ほとんど起こったことがない、あったとしても希。
(2) 可能性が低い:起こり得るが、起こるとは予想されていない。
(3) 可能性あり:年に1回程度起こると予想できる。
(4) 可能性が高い:おそらく起こるが、継続的ではない。
(5) ほぼ確実:定期的に起こる。

2. 結果の重大性

(1) 軽微:傷害または健康障害がない。
(2) 軽度:一時的な影響。
(3) 中等度:半永久的な傷害または健康障害。
(4) 重度:障害を残す傷害または健康障害。
(5) 重大:致命的な可能性あり。

リスクのレベルは、次のように表すことができる。
リスク=可能性×重大性
労働で確認された各ハザードに関連したリスクのレベルを評価することにより、使用者及び労働者とその代表は、優先的行動の領域を確認することができる。例えば、ほとんど生じず(1)かつ結果がが軽微(1)なリスクは、もっとも低い優先度(1)(つまり1×1=1)となる。一方、定期的に生じ(5)かつ致命的な結果を招く可能性のある(5)危険な事象は、もっとも高い優先度(25)(つまり5×5=25)となる。リスクのレベルが高いほど、ハザードへの曝露を根絶、低減または最小化する管理を適用することが重要である。
この数値的なアプローチによるリスクレベルの決定を説明するサンプルマトリックスは以下に示す[上表参照]。
優先的行動領域は、以下の優先的行動表に基づいて、職場における特定のハザーズを評価することで決定することもできる。各ハザードについては、「当該ハザードに人が曝露する頻度はどのくらいか?」及び「どのような結果が予想されるか?」の2つの質問を検討する必要がある。以下の表[下表参照]では、事象が発生する可能性は「毎日」「毎週」「毎月」「希」と表現され、結果の重大性はもっとも深刻(死亡または永久的障害)からもっとも軽微(応急処置のみで済む軽傷)までに分類されている。マトリックスでもっとも濃い色で塗りつぶされた領域は、もっとも優先度の高い行動領域を表している。
リスクアセスメントを実施する者は、(a)評価対象の活動または職場、(b)主なハザード及びリスクにさらされる者、(c)リスクの程度、及び(d)曝露を根絶、低減または最小化するために取られるべき措置を特定して、評価の結果を記述形式で記録することが有用である場合がある。

付録Ⅱ 管理のヒエラルキーの適用

■根絶
1.ハザードを根絶する。
2.早期確認及び必要な場合には隔離
↓ 可能でない場合*、次に
 * 可能であっても実用的でないこともある。

■代替
感染因子を感染性の低いものに代替する。
↓ 十分でない場合、次に

■工学的及び環境的[管理]
・ 工学的システム及び物理的バリアを用いて、労働者の因子との接触を根絶または低減する。環境への因子の放出を最小化するためのシステム及びバリアを開発する。
・ 曝露の高い作業を曝露リスクの低い作業に置き換える。
・ 曝露する労働者を制限する。
・ 労働プロセスを再設計する。

建物
・ 負圧
・ 隔離室
・ 換気
・ 高効率粒子空気フィルター
・ アクセス制御
・ 物理的バリア

機器
・ 安全技術
・ 消毒装置(例えば紫外線殺菌照射装置)
・ 滅菌装置
・ 安全装置(例えば生物安全キャビネット)

環境
・ 環境監視
・ 空気、表面の除染
・ 廃棄物管理
・ 清掃及び消毒
↓ 十分でない場合、次に

■行政的管理
政策及び手続の実施を通じた労働組織、健康保護、訓練の充実
政策及び手続
・ 労働安全衛生及び人事
・ 安全、衛生及び環境:事象管理
・ ソーシャルディスタンス
・ 手洗い及び呼吸器衛生
・ 清掃及び消毒
・ 表示
・ 廃棄物及び洗濯物の管理
健康保護
・ 従業員支援プログラム
・ ワクチン接種
・ 医学的監視
・ メンタルヘルス
訓練
・ 有害生物学的因子規制
・ ハザーズ及びリスク
・ 管理措置
・ 個人用保護具
・ 事象調査
・ 適切な衛生
↓ 十分でない場合、次に以下で補完

■個人用保護具(PPE)
適切な種類、サイズ、快適性、使用方法、メンテナンス及び廃棄;PPEには、手袋、ゴーグル、呼吸用保護具、フェイスシールド、手術用マスク、コート、ガウン、エプロン、カバーオール、髪カバー、靴カバー、及び供給空気などが含まれ得る。労働者は、その適切な使用について訓練を受ける必要がある。

付録Ⅲ 特定部門における生物学的ハザーズの管理に関する国際労働機関(ILO)及び世界保健機関(WHO)の主要な参考資料[省略]

https://www.ilo.org/publications/technical-guidelines-biological-hazards-working-environment

安全センター情報2026年1・2月号