J&J(ジョンソンアンドジョンソン)再び非難の的、タルクとがんをめぐる訴訟がイギリスへ/GeneOnline, 2025.2.5
タルクパウダー製品がアスベストに汚染されていたためにがんを引き起こしたとする申し立てをめぐって、3,500人の原告がジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)を訴える大規模訴訟を準備をしている。イギリスとウェールズの訴訟の歴史のなかで最大の薬事集団訴訟になるであろう訴訟は、J&Jが知っていながら危険なタルクを材料にした製品を販売して、消費者を深刻なリスクにさらしたと主張する。
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アメリカでの長年の訴訟を経て、イギリスでタルク訴訟を提起
この訴訟を主導する法律事務所KP Lawは、J&Jは早くも1970年代には自社のタルクにアスベストが含まれていることを認識していたにもかかわらず、警告を発しなかったと主張する。こうした懸念にもかかわらず、同社は2022年までイギリスで製品の販売を継続した。弁護士らは今月中にロンドンの高等裁判所に訴状を提出する予定である。
イギリスにおける原告の数は、11月の1,900人から3,500人に急増しており、その大半は卵巣がんに関する訴訟だが、中皮腫や腹膜がんに関する訴訟もある。J&Jはアメリカで同様の訴訟に長年直面しており、同社はタルクとがんの関連性を否定している。同社は数十億ドルを提示して6万件近いアメリカの訴訟の和解を試みたものの、自社製品は安全であると主張している。今回の訴訟は、イギリスの法廷で同社がこうした主張に初めて直面することになる。
「J&Jのタルクパウダー製品を使用したすべての顧客が、悲惨な結果に苦しめられている」と、KP Lawのパートナーであるトム・ロングスタッフ氏は語る。「悲劇的に命を落とし、家族が悲嘆に暮れている人もいる。彼ら全員に説明責任と正義が与えられるべきだ」。さらに同氏は、「すでにここ数年間、アメリカでは相当数の訴訟が起こされているが、今回初めてイギリスで訴訟を起こすことになった」と付け加えた。
WHO鉱物タルクを「おそらく発がん性あり」と分類J&J自社製品はアスベストや発がん性なしと主張
現在、アメリカとカナダ以外の地域でタルク関連の訴訟に対応しているJ&Jのスピンオフ企業であるケンビュー[Kenvue]社は、この訴訟に対して自社の立場をあらためて表明した。「弊社は、がんに苦しむ方々に対して深く同情するとともに、答えを求める方々の気持ちを理解している」と、同社の広報担当者は述べる。「しかし、厳格な科学的調査は一貫して、弊社のタルクを原料としたパウダーががんを引き起こすものではないことを示している」。
また、同社は弁護士たちが恐怖心につけ込んでいると非難した。「長年にわたり、アメリカの法律家たちは、食品、化粧品、医薬品、その他の消費財において長年にわたり安全に使用されてきたにもかかわらず、タルクに関する誤った情報を広めてきた。いま、イギリスで同様の戦術が、傷つきやすい患者とその家族を食い物にするために用いられていることは明らかである」。
J&Jは、タルクを原料とした自社製品の安全性を支持し続けている。「イギリス及び世界中の指導的な医療機関による数十年にわたる研究では、最先端の検査方法が用いられ、当社の製品にはアスベストは含まれておらず、がんを引き起こすこともないと確認されている」と、広報担当者は付け加えた。
しかし、昨年7月、世界保健機関(WHO)は、鉱物タルクは「おそらくヒトに対して発がん性がある」との結論を下し、集団訴訟の焦点はアスベスト汚染からタルク自体へと移りつつある。
タルクは化粧品に広く使用されているが、天然の鉱物形成によりアスベストを含有していることが多い。国際がん研究機関は、アスベストに汚染されたタルクを発がん性物質に分類している。J&Jのタルク訴訟では、同社の製品が中皮腫、卵巣がん、肺がん、胃がん、子宮がんの原因になったと主張されている。
J&Jは、中皮腫訴訟の95%について和解しており、1件あたり100万ドルから140万ドルを支払っている。同社は健康リスクを否定しているが、2023年にタルク原料のベビーパウダーの製造を中止し、コーンスターチを原料とする代替品に切り替えた。
タルク関連訴訟と和解の範囲
62,000件以上のタルク訴訟が提起されており、その99%が卵巣がんに関する請求である。2024年5月、J&Jは数十億ドル規模の和解案を提示し、被害者に3か月間の投票期間を設けた。請求者の75%以上がこの和解案を支持したため、裁判所による承認の可能性が高まった。しかし、政府諸機関は、未払い医療費の補償による潜在的な財政的損失を懸念している。
J&Jは、タルク関連の支払いに100億ドル以上を留保しており、以下が含まれる。
- 卵巣がんの訴えに対して80億ドル
- 中皮腫被害者の遺族に対して4500万ドル
- J&Jのタルク製品に含まれるアスベストと卵巣がんを関連付けられた22人の女性に対して裁定された21億2000万ドル
J&Jは、アスベストリスクを数十年間隠蔽していたという疑惑に直面している。社内での安全調査は中止されたと伝えられており、同社は警告にもかかわらず、タルクを原料とした製品の販売を継続していた。
- 2019年10月:FDAがJ&Jのベビーパウダーからアスベストを検出。同社は調査結果に異議を唱えたが、数千本のボトルをリコールした。
- 2021年2月:J&Jはタルク訴訟の和解金として39億ドルを計上。
- 2021年7月:裁判所はJ&Jに対し、卵巣がんに罹患した22人の女性に21億2000万ドルを支払うよう命じた。
- 2021年10月:J&Jは38,000件の訴訟を破産裁判所に持ち込もうとした。控訴裁判所がこの動きを阻止した。
- 2023年4月:J&Jは90億ドルの和解案を提示したが、裁判所はこれを低額すぎると却下した。
- 2024年6月:J&Jはオレゴン州の女性中皮腫患者に2億6,000万ドルの支払いを命じられた。この判決は後に覆された。
- 2024年7月:最高裁がJ&Jの2度目の破産申請を却下。
- 2024年8月:J&Jが新たな破産計画について原告の75%の承認を獲得。
- 2024年9月:同社の子会社が3度目の破産申請を行い、タルク和解金を80億ドルに増額。
アメリカ政府機関、J&J数十億ドルタルク和解案とテキサス州の二段階戦略を依然として精査中
アメリカでは和解への支持が広がっているものの、J&Jの計画が実行に移されるかどうかは、2月の裁判所判決によって決定される見込みである。アメリカでは複数の政府機関が引き続きJ&Jのタルク破産計画に異議を唱えている。J&Jが提案した80億ドルのタルク和解案は、保健社会福祉省(HHS)及び退役軍人省(VA)からの反対に直面している。これらの機関は、和解案により、タルクに関連した医療費の回収が妨げられる可能性があると主張している。J&Jによる3度目の破産申請の一部であるこの和解案では、現在及び将来の卵巣がん患者に25年間にわたって補償を行うことになっている。しかし、裁判所の承認はまだ下りていない。
承認されれば、原告はオプトアウトして個別の訴訟を起こすことはできない。J&Jが過去に試みた破産は、裁判官が同社は財政的に困窮していないと判断したため、阻止された。批評家は、今回の申し出は被害者にとっては依然として不十分であると主張している。一方、J&Jは自社のタルク製品は安全であると主張し、その擁護を続けている。
J&Jの法的手腕は、テキサスのツーステップとして知られ、依然として物議を醸している。同社は、タルク関連の負債を吸収するために子会社Red River Talc LLCを設立した。その後、この子会社が破産を申請して、J&Jを直接的な訴訟から遮断しようとしている。
批評家たちは、この戦略によってJ&Jは補償を制限しながら責任逃れができると指摘している。多くの弁護士は、80億ドルの和解金では被害を十分に補償できないと主張している。さらに、連邦政府諸機関は、J&Jは依然として財務的に安定しているため、この動きは破産法に違反していると主張している。
安全センター情報2025年5月号