タルク及びアクリロニトリルの発がん性/The Lancet Oncology, Volume 25, Issue 8, 2024.8

2024年6月、13か国から29人の科学者が参加するワーキンググループが、フランス・リヨンの国際がん研究機関(IARC)で会合を開き、タルク及びアクリロニトリルの発がん性評価を最終決定した。
アクリロニトリルは、ヒトにおけるがんについての「十分」な証拠に基づき、「ヒトに対する発がん性あり」(グループ1)に分類された。実験動物におけるがんについての「十分」な証拠、及び実験システムにおける「強い」作用機序の証拠もあった。タルクは、ヒトにおけるがんについての「限定的」証拠、実験動物におけるがんについての「十分」な証拠、及びヒト初代培養細胞と実験システムにおける「強力」な作用機序の証拠を総合的に判断し、「ヒトに対しておそらく発がん性がある」(グループ2A)に分類された。この評価は、IARCモノグラフ第93巻における「アスベストまたはアスベスト様繊維を含有しないタルク」及び「タルクを原料とするボディパウダーの会陰部への使用」というこれまでの分類に取って代わるものである。これらの評価は、IARC Monographsの第136巻で発表される予定である。「アスベストを含有するタルク」は再評価されず、第100C巻による「アスベスト」の範囲内での分類(グループ1)が維持される。

[アクリロニトリルの評価について省略]

「タルク」という物質は、鱗片状及び(アスベスト様繊維を含む)繊維状の形態のタルクを含め、含水ケイ酸マグネシウムである、鉱物または合成タルクと定義される。 アスベスト様タルクはアスベストではないが、アスベストがタルク鉱石やタルク製品に汚染物質として存在することが報告されている。タルクを原料とする化粧品や医薬品の評価に用いられる業界基準は、しばしばアスベスト汚染物質を排除するには感度が不十分である。タルクは生産量が多い鉱物で、プラスチック、セラミック、塗料、紙、屋根材、ゴム製品、動物用飼料、食品、肥料、化粧品、医薬品などに使用される。また、タルクは胸膜癒着術などの医療現場でも使用される。タルク粉じんへの高度の職業曝露は、主に吸入により、採掘及び粉砕の際に生じる。また、下流の製造産業に従事する労働者にも曝露が発生する可能性がある。一般の人々は、摂取、吸入、皮膚、または肛門経由で曝露される。ヒトにおいて、胸膜癒着術中に吸入または胸膜に注入されたタルクは、曝露が停止した後も肺内に留まる。ヒトの生検では、タルクは卵巣を含む肛門から離れた骨盤内の複数の部位で確認された。ウサギやラットでは、胸膜内へのタルク曝露は、肺や他の臓器への転位及び沈着につながる。動物実験では、吸入されたタルクは、最大4週間の曝露後、4~12か月以内に肺から排出される。ほとんどの動物実験では、会陰部から卵巣への転位は報告されていない。経口摂取されたタルクは投与後まもなく排出され、腸管吸収や他の臓器への転位は観察されていない。
タルクがヒトに卵巣がんを引き起こす証拠は「限定的」であった。入手可能な研究のほとんどは、タルクを原料としたボディパウダーの使用を評価したものであった。第93巻以降、プールされたコホート研究及び症例対照研究において、使用経験のある者とない者を比較した際のより一貫した正の関連性が報告されており、使用頻度または期間との曝露-反応関係の証拠も含まれている。しかし、ワーキンググループによるバイアス分析では曝露誤分類の差異によるバイアスを除外できず、また、タルクのアスベスト汚染による交絡も排除できない。アスベストの同時曝露の可能性が十分に考慮されていないパルプ・製紙産業における2件のほぼ重複する研究では、タルクに曝露した女性の間で卵巣がんの過剰リスクが観察された。アスベストの非存在が証明されている鉱山労働者の研究は、より高い重み付けが与えられた。これらの研究には女性は含まれておらず、肺がんまたは胃がんの過剰リスクは観察されなかった。したがって、これらのがんに関する証拠は「不十分」と判断された。
吸入曝露したSD系ラットでは、タルクは、雌では、気管支肺胞上皮がん、気管支肺胞上皮腺腫またはがん(複合)、悪性褐色細胞腫、良性または悪性褐色細胞腫(複合)、両側性良性褐色細胞腫、及び両側性悪性褐色細胞腫を副腎髄質、雄では、副腎髄質の良性、悪性または複合型の褐色細胞腫を引き起こした。また、雄雌ともに、褐色細胞腫(雄では、良性、及び良性、複雑、または悪性腫瘍の組み合わせ;雌では、悪性、及び良性または悪性の腫瘍の組み合わせ)の発生率について、著しい増加傾向も観察された。「十分な」証拠の根拠としては、本研究で報告されためずらしい腫瘍の種類(すなわち両側性悪性褐色細胞腫)や、優良試験所基準(GLP)に従って実施された研究で腫瘍が両性で観察されたことなどが挙げられる
タルクは慢性炎症を引き起こす。生体内の実験システムでは、様々な組織において、異なる経路及び最大2年間の曝露後に首尾一貫した証拠が観察された。タルクは細胞増殖、細胞死、または栄養供給を変化させる。タルクは、ヒトの初代及び不死化卵巣上皮細胞における接着非依存性増殖を促進した。タルクに曝露したヒトの初代中皮細胞は、線維芽細胞増殖を促進する因子を分泌した。さらに、複数の研究により、慢性的に吸入曝露または急性気管内投与された齧歯類の呼吸器系に過形成が認められたことが示された。首尾一貫した作用機序の証拠は、タルクのアスベスト汚染の可能性がきわめて低い研究に基づいたものであった。

https://www.thelancet.com/journals/lanonc/article/PIIS1470-2045(24)00384-X/fulltext

IARCモノグラフはタルクとアクリロニトリルの発がん性を評価
IARC Monographs Volume 136, 2024.7.5

フランス・リヨン、2024年7月5日-世界保健機関(WHO)のがん専門機関である国際がん研究機関(IARC)は、タルク及びアクリロニトリルの発がん性を評価した。評価結果は「The Lancet Onco-logy」誌の総説記事で発表されており、2025年に発行予定のIARCモノグラフ第136巻で詳細に説明される予定である。

https://www.iarc.who.int/wp-content/uploads/2024/07/pr352_E.pdf

安全センター情報2025年5月号