芳香族アミンの取扱事業場に関する 調査結果等について ~第二報 ここまで膀胱がん15名確認

三星化学工業(福井県)における膀胱がん多発を受けて、原因物質とみられるオルト-トルイジンの取扱い事業場の調査を、厚生労働省が実施している。2016年1月21日に第一報が発表されていたが、第二報として、2016年3月2日時点の調査結果が報告された。第二報までのまとめでは、

「聞き取り等により把握した膀胱がんの病歴を有する者の数」は、退職者7名・労働者6名(うち三星化学工業(福井県)は退職者1名・労働者4名)。
「健診の結果、膀胱がんの所見があった者の数」は、退職者1名・労働者1名(うち 三星化学工業(福井県)は労働者1名 )。
合計15名 (うち6名が三星化学工業) の膀胱がんを確認したことになった。

以下が2016年3月4日厚生労働省発表と「芳香族アミンの取扱事業場に関する調査結果等について ~第二報(平成28年3月2日時点)~」の全文。

芳香族アミンの取扱事業場に関する
調査結果等について
~第二報(平成28年3月2日時点)~

福井県の事業場で、オルト-トルイジンをはじめとした芳香族アミンを取り扱う作業に従事していた複数名の労働者が膀胱がんを発症した事案を踏まえ、厚生労働省では、膀胱がんとの関連があるとされているオルト-トルイジンを取り扱っていると考えられる他の事業場についての労働局・労働基準監督署による調査を実施しています。

この調査結果については、第一報(平成28年1月21日時点)を1月22日に公表しましたが、今般、3月2日までに把握できた状況等を別添のとおり取りまとめたのでお知らせします。

1. 概要

○昨年末から、労働基準監督署の職員が以下の事業場に立ち入り、オルト-トルイジンの取扱状況や労働者・退職者の膀胱がんの病歴等について調査を実施。

調査1:
オルト-ルイジンを取り扱っていると考えられる全国38の事業場
調査2:
①過去にオルト-トルイジンを取り扱っていたと考えられる全国16(※)の事業場(※第一報では19事業場としていたが、そのうち3事業場は社名変更により調査1の対象事業場と重複していたため、16事業場となっている。)
②オルト-トルイジンを取り扱っていたことを労働基準監督署において独自に把握している全国14の事業場

○調査1を先行して実施したところ、第一報のとおり、38事業場におけるオルト-トルイジンの取扱状況は以下のとおり。

①オルト-トルイジンを現在取り扱っている事業場:17か所
②オルト-トルイジンを過去に取り扱っていた事業場:10か所
③オルト-トルイジンを取り扱ったことのない事業場:11か所

○また、第一報のとおり、オルト-トルイジンを取り扱ったことがある27事業場(調査1の①及び②)については、各事業場の業務状況に応じたオルト-トルイジンのばく露防止対策の徹底を図るとともに、オルト-トルイジンの取扱作業に従事経験のある労働者・退職者に対する膀胱がんに関する健康診断の実施・受検勧奨と健康診断の実施結果の報告を求めたところ。

○調査2についても調査1と同様の対応を行ったところであり、今回の第二報は、現時点までに把握できた以下の内容を取りまとめたもの。
・ 調査1のうち27事業場に係る健診結果(⇒2.参照)
・ 調査2のオルト-トルイジンの取扱状況等の結果及び健診結果(⇒3.参照)
・ 調査1及び調査2を受けた今後の対応(⇒4.参照)
・ 福井県の事業場及び同一企業の関連事業場に係る対応(⇒5.参照)

2.調査1のうち27事業場に係る健診結果

○27事業場に、オルト-トルイジンの取扱作業に従事経験のある労働者・退職者に対する膀胱がんに関する健康診断の実施・受検勧奨と実施結果の報告を求めたところ、受検勧奨の過程で、E事業場の退職者1名が膀胱がんの病歴を有することを把握するとともに、現時点までに、11事業場、225名分の結果報告があり、そのうち、膀胱がんの所見があった者は0名であった。
※第一報で膀胱がんの病歴を有する者として把握し、公表したA事業場の退職者1名、B事業場の労働者1名については、含めていない。

3. 調査2のオルト-トルイジンの取扱状況等の結果及び健診結果

(1)労働基準監督署による調査結果

○30事業場(調査2の①及び②)のオルト-トルイジンの取扱状況を確認したところ、以下のとおり。
① オルト-トルイジンを現在取り扱っている事業場:7か所
② オルト-トルイジンを過去に取り扱っていた事業場:17か所
③ オルト-トルイジンを取り扱ったことのない事業場:6か所

○オルト-トルイジンを取り扱ったことがある24事業場(上記①及び②)の内訳は以下のとおり。なお、各事業場に対し、業務状況に応じたオルト-トルイジンのばく露防止対策の徹底を図った。
① 製造過程で取扱いのある事業場:16か所
【Ⅰ 取扱状況】
㋐オルト-トルイジンを原料として化学品を製造している事業場(オルト-トルイジンの製造を含む):14か所
㋑化学品の製造過程で副生成物として少量のオルト-トルイジンが発生する等の事業場:2か所
【Ⅱ ばく露機会】
㋒製造設備が密閉化されている事業場(ただし、サンプル採取等の作業はあり):13か所
㋓製造設備が自動化されておらず、オルト-トルイジンを反応させる工程や設備間の生成物の搬送等に人による作業が存在する事業場:3か所
② オルト-トルイジンを含有する製剤を使用した塗装等を行う事業場:5か所
③ 調査研究において使用する事業場:2か所
④ オルト-トルイジンを含有する製剤の販売を行う事業場:1か所

○労働基準監督署が30事業場に対し膀胱がんの病歴を有する者(労働者・退職者)の状況を確認し、聞き取り等に基づく範囲で把握できた状況は以下のとおり。
<第一報(既報)分>
C事業場で労働者1名、退職者2名、D事業場(5.参照)で退職者1名(これらの者には、製造工程に従事した経歴が確認されていない者も含まれている。)
<第二報分>
F事業場で退職者1名(当該退職者の膀胱がん発症については、業務における他の物質の取扱いに起因するものとして労災認定されている。)

○C事業場については、Ⅰ-㋐(原料として取扱い)、Ⅱ-㋒(密閉化された製造設備)に該当し、
D事業場及びF事業場については、Ⅰ-㋐(原料として取扱い)、Ⅱ-㋓(密閉化されていない製造設備)に該当する。
なお、先般の福井県の事業場については、Ⅰ-㋐(原料として取扱い)、Ⅱ-㋓(密閉化されていない製造設備)に該当する。

(2)労働者・退職者に対する健診結果

○24事業場に、オルト-トルイジンの取扱作業に従事経験のある労働者・退職者に対する膀胱がんに関する健康診断の実施・受検勧奨と実施結果の報告を求めたところ、現時点までに、9事業場、101名分の結果報告があり、そのうち、膀胱がんの所見があった者はG事業場で退職者1名であった。
※第一報で膀胱がんの病歴を有する者として把握し、公表したC事業場の労働者1名、退職者2名及びD事業場の退職者1名並びに3(1)で把握されたF事業場の退職者1名については、含めていない。

4. 調査1及び調査2を受けた今後の対応

○労働者・退職者に対する健康診断が完了していない事業場及び結果が未報告の事業場について、引き続き事業場に対し、実施・受検勧奨と実施結果の報告を求め、結果の把握に努める。

○第一報及び今回、膀胱がんの病歴を有する者が把握された事業場については、健康診断の速やかな実施・受検勧奨と実施結果の報告を求め、把握された他の労働者の健康診断結果等を踏まえ、引き続き必要な対応を行う。(D事業場については、別途5にて記載)

5. 福井県の事業場及び同一企業の関連事業場に係る対応

(1)福井県の事業場に係る対応

現在、独立行政法人労働安全衛生総合研究所において、1月20日及び21日に採取した試料の分析等を実施中。厚生労働省としても、引き続き、同研究所と連携しながらオルト-トルイジンを中心に原因の究明を行う。
また、この事業場を有する企業に対して、当該事業場の労働者・退職者全員(オルト-トルイジンの取扱作業に従事経験のない者も含む。)に対する膀胱がんに関する健康診断を実施するよう指導し、その結果、新たに労働者1名に膀胱がんの所見があったことを把握。(既に公表している分と合わせると、労働者5名、退職者1名)

(2)関連する事業場に係る対応

福井県の事業場以外の当該企業が有する工場部門である2事業場においても、過去に、福井県の事業場と同様にオルト-トルイジン等芳香族アミンを原料として染料・顔料の中間体を製造していたことが分かっている(現在は取扱いなし)。このうちの一つの事業場は、第一報で退職者1名が膀胱がんの病歴を有するとして公表したD事業場であり、当該退職者は、オルト-トルイジンの取扱作業に従事経験があることが分かっているが、30年以上前のことであり、資料もないため詳細の把握は困難。
当該企業に対して、これらの関連事業場においてオルト-トルイジン等の取扱作業に従事経験のある労働者・退職者に対する膀胱がんに関する健康診断の実施等を指導し、現時点では、膀胱がんの所見があった者は0名であった。

6. 労災請求への対応

○平成28年3月2日現在、福井県の事業場の5名から労災請求がなされている。
○労災請求事案については、厚生労働省本省において専門家による労災認定に関する検討会を開催することとしている。

(参考)

20160302houkouzokuamin_chousa_dai2hou_sankou

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000114323.html

安全センター情報2016年5月号