福井県の事業場における膀胱がん発症に係る調査状況等 2016年3月18日

膀胱がんが多発している三星化学工業(福井県)についての調査について厚生労働省は、2016年3月18日に中間的な報告を行った。
胆管がん事件の同様に、 独立行政法人労働安全衛生総合研究所(以下、安衛研)による専門的調査が実施され、最終的な報告へと向けての動きが続いている。
以下に、2016年3月18日厚労省発表と「福井県の事業場における膀胱がん発症に係る調査状況等について」を紹介する。

福井県の事業場における膀胱がん発症に係る調査状況等について:2016年3月18日厚生労働省発表

福井県の事業場で、オルト-トルイジンをはじめとした芳香族アミンを取り扱う作業に従事していた複数名の労働者が膀胱がんを発症した事案を踏まえ、厚生労働省では、原因の究明のため、労働局・労働基準監督署において断続的に立入調査を実施し、膀胱がんとの関連があるとされているオルト-トルイジンを中心として、過去も含めた作業実態の把握等を行ってきました。

また、独立行政法人労働安全衛生総合研究所(以下「安衛研」という。)による専門的な調査を昨年12月16日(予備的な現地調査)及び本年1月20日~21日(本格的な現地調査)に実施し、オルト-トルイジン等のばく露状況の把握等を行いました。

今般、これまでの調査状況等について、安衛研より報告があり、厚生労働省として別添のとおり暫定的な取りまとめを行ったのでお知らせします。
なお、オルト-トルイジンについて先行して調査を進めてきましたが、その他の芳香族アミンについても安衛研において引き続き調査を継続する予定です。

(別添)
福井県の事業場における膀胱がん発症に係る調査状況等について

独立行政法人労働安全衛生総合研究所(以下「安衛研」という。)より別紙(本稿末に掲載)のとおり報告があり、暫定的に取りまとめた内容は以下のとおり。

1 調査の概要

(1)事業場の概要について

①オルト-トルイジン等の取扱作業

福井県の事業場においては、液体のオルト-トルイジン等芳香族アミンを原料として、有機溶剤を溶媒として使用し、他の化学物質と反応させることにより染料の中間体(粉状の国体の製品。以下「製品粉体」という。)を製造している。製造工程は、原料を反応させ生成物を作る工程(以下「反応工程」という。)と生成物を乾燥させて製品粉体にする工程(製品粉体を袋詰めする作業も含む。以下「乾燥工程」という。)に大別される。各工程の設備は自動化・密開化されておらず、労働者の手により行う作業が数多く存在する。(本稿末の(参考)参照)

②膀胱がんを発症した労働者及び退職者

当該事業場の労働者は原料及び工程ごとに専属で配置されており、膀胱がんを発症した労働者5名及び退職者1名は、オルト-トルイジンの反応工程又は乾燥工程に従事した経歴を有している。なお、現職労働者が就労を開始した時期は平成2年から平成9年の間であり、退職者の就労歴は平成7年から平成15年までである。

(2)調査状況の概要について

当該事業場において、昨年末以来停止させていたオルト-トルイジンの反応工程及び乾燥工程を労働者に保護具等を着用させた上で3日間稼働させ、4日目に通常通りの作業を行わせながら、オルト-トルイジンの作業環境測定(化学物質の気中濃度を事業場内の定点で測定するもの)及び個人ばく露測定(化学物質の気中濃度を作業者の呼吸域で測定するもの)、作業者の尿検査、その他、各工程における溶媒や生成物、製品粉体等のオルト-トルイジン含有量の測定などを実施した。また、当該事業場関係者からの聴取や労働局・労働基準監督署の調査の結果から、現在及び過去におけるオルト-トルイジンの取扱作業の実態の把握を行った。これまでの調査状況については以下のとおりである。

①今回調査時におけるオルト-トルイジンのぱく露状況

ガス状のオルト-トルイジンにばく露する可能性がある作業について作業環境測定及び個人ばく露測定を行った結果、全ての測定において日本産業衛生学会による許容濃度(1ppm)を越えるオルト-トルイジンは検出されなかった。
一方で、今回調査当日の作業就業前後で尿検査を行い、作業者の尿中オル卜-トルイジンの増加量を測定した結果、特定の作業者に高い値が検出された。そのうち、乾燥工程に従事する特定の作業者に特に高い値が検出された。
このことから、当該事業場におけるオルト-トルイジンの取扱作業に従事したことにより、オルト-トルイジンの生体への取り込みがあったことが明らかである。

②今回調査時におけるオルト-トルイジンのばく露経路の考察
ア 経気道ばく露(空気中から吸い込むことによるばく露)

今回調査時においては、測定されたオルト-トルイジンの気中濃度は十分低く、さらに、作業者は十分な性能の呼吸用保護具を着用していたことから、経気道ばく露によるオルト-トルイジンの生体への取り込みがあった可能性は低い。
従って、特定の作業者でオルト-トルイジンの経気道以外のばく露経路が存在する可能性が考えられる。

イ 経皮ばく露(皮膚から吸収することによるばく露)

蒸留して再利用している有機溶剤(以下「蒸留有機溶剤」という。)や生成物、製品粉体にオルト-トルイジンの含有が確認された。また、作業者は、蒸留有機溶剤で洗うことによりオルト-トルイジンに汚染されたゴム手袋を着用して作業していたことや、製品粉休の乾燥状況の確認作業を保護手袋の着用なく行っていたことなど、経皮ばく露防止対策が不十分な実態が判明しており、これらの経皮ぱく露経路によるオルト-トルイジンの生体への取り込みがあったことが推察される。

ウ 製品粉体のばく露

製品粉体中に残留する未反応オルト-トルイジンの経皮ばく露もしくは経口・経気道ばく露による生体への取り込み、又は、製品粉体の経口・経気道ばく露により体内で分解生成したオルト-トルイジンの生体への取り込みについても可能性としては存在するが、今回調査時においては、製品粉体を取り扱う作業者は十分な性能の保護衣及び呼吸用保護具を着用していたことから、製品粉体のばく露によるオルト-トルイジンの生体への取り込みがあった可能性は低い。

③ 過去の作業実態及びぱく露状況の考察
ア 経気道ばく露

当該事業場の過去の有機溶剤に係る尿中代謝物の検査結果から、過去における有機溶剤のばく露は今回調査時より高いことが推察される。また、当該事業場関係者からの聴取等により、同時期における呼吸用保護具の不適切な着用の実態も把握されており、過去においては、経気道ばく露によるオルト-トルイジンの生体への取り込みがあったことが推察される。

イ 経皮ばく露

当該事業場の過去の有機溶剤に係る尿中代謝物の検査結果及び関係者からの聴取等により、ろ過槽内の生成物を蒸留有機溶剤で洗浄する作業や生成物を乾燥機に投入する作業で、飛沫等が皮膚に付着していた実態が把握されていること、また、保護衣や保護具の不適切な着用の実態や誤った保管方法から、過去においても、経皮ばく露によるオルト-トルイジンの生体への取り込みがあったことが推察される。

ウ 製品粉体のばく露

当該事業場関係者からの聴取等により、過去においては、製品粉体の高濃度ばく露の実態や適切な保護衣等が着用されていなかった状況が把握されており、製品粉体のばく露によるオルト-トルイジンの生体への取り込みについても可能性として存在する。これに関しては、更なる試験研究が必要である。

2 今後の対応

これまでの調査状況を踏まえ、厚生労働省としては今後、以下について対応することとしている。

(1)福井県の事業場に対する誠査及び指導の実施

現在のばく露経路を確定するため、安衛研による調査を引き続き実施する。また、これまでの調査結果から、現在の設備及び作業形態においては、オルト-トルイジンのばく露経路が存在しており、特に経皮ばく露の紡止対策は不十分であることが明らかとなっていることから、製品の生産工程の密閉化を基本としたオルト-トルイジンのばく露防止対策の改善について指導を行う。これに関しては、安衛研の調査班から専門家を派遣し、労働者も含めた当該事業場関係者からの聴取等を行うとともに、併せて、今回の調査結果を踏まえた労働者教育の支援を行う。
また、当該事業場については、引き続き労働者及び退職者に対して適切に健康診断及びその事後措置が行われるよう、継続して指導を行う。

(2)全国のオルト-トルイジンの取扱事業場等に対する指導の実施

既に把握しているオルト-トルイジンを現在取り扱っている事業場に対し、特に経皮ばく露について注意喚起を行うとともに、適正なばく露防止対策について指導を行う。
また、製品粉体のばく露によるオルト-トルイジンの生体への取り込みについても可能性が指摘されていることから、製品粉体を取り扱っている事業場に対し、予防的観点からの注意喚起を行う。

(3)オルト-トルイジン等による膀胱がんの発症に関する調査研究の実施

職域におけるオルト-トルイジン等の取扱いによる膀胱がんの発症について、さらなる原因究明や適切なリスク管理、健康管理対策のため、尿中オルト-トルイジンの測定など経皮吸収がある物質の経皮ばく露に関する評価方法に係る研究などを含め、幅広い調査研究を行う。

(4)規制の在り方の検討

今般の調査結果について、学識経験者、使用者、労働組合等からなる「化学物質のリスク評価に係る企画検討会」に対して報告を行い、職域におけるオルト-トルイジンの取扱いによる労働者の健康障害の防止のための規制の在り方についての検討を行う。

(参考)

20160318fukuijigyoujou_boukougan_chousagyoukyou_sankou

(別紙)

20160318fukuijigyoujou_boukougan_chousagyoukyou_besshi

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000116722.html

安全センター情報2016年5月号