議会が新たな権限を与えてから数年、EPAはアスベストその他の化学物質の禁止に苦慮/The Washington Post, 2023.2.19
2016年に議会が支援のために新たな権限を承認したが、環境保護庁はまだ法律に基づく新しい規則を承認できておらず、さらに数年にわたる闘いに直面している。
環境保護庁(EPA)が最初にアスベストを禁止しようと挑戦して-そしてまた、裁判所の干渉によって失敗してから30年以上経って、同庁は再度挑戦しようとしている。
産業界はいまもなお抵抗している。
今回バイデン大統領の政権は、アスベストと20種類のもっとも毒性の高い化学物質を追及するために、議会からより大きな権限を与えられて取り組んでいる。しかし、この新しい努力も、法的な諸問題、政治的な争い、資金不足、その他の官僚的な遅れに阻まれてきている。
2016年に議会が有害化学物質規制法の見直しを超党派的な支持を得て可決したものの、EPAはまだこの法律に基づく新しい規則をひとつも完成させていない。最後に活発に使用されたアスベスト[の種類]のひとつを禁止する動きは、今年後半までに最終規則となる可能性のある唯一の提案である。
アメリカの化学物質規制の長年の不備を是正するための議会の努力、つまり何年もかけて通過させた取り決めを実行するのにEPAがどれだけ時間をかけるのか、そのじりじりさせるプロセスは安全衛生擁護派を憤慨させている。
「有害化学物質から子供たちや地域社会を守るための画期的な立法を提供してから7年が経ったが、規制はまだ実現されていない」と、2016年の法改正に貢献したエドワードJ.マーキー上院議員(民主党-マサチューセッツ)は、この作業を行うために資金と人員を増やすよう求めた声明のなかで述べている。「時間は刻々と過ぎている」。
毎年4万人のアメリカでの死亡につながる致命的な発がん物質であるという化学物質であるというコンセンサスを数十年にわたる研究が裏付けているアスベストは、2016年法改正の重要な推進要因のひとつであった。その繊維は、皮膚や衣服に付着し、労働者や家庭で吸い込んだ家族の肺のなかに巣食い、慢性疾患である「石綿肺」や侵襲性の強いがんである中皮腫で臓器をぼろぼろにする可能性がある。
ここ数十年のうちにほとんどの企業はアスベストの使用を中止しているものの、ワシントン州の最大手企業グループの一部は、ある種のこの化学物質の使用の継続を擁護している。
EPAの提案が禁止しようとしているクリソタイル・アスベストは、微粒子を分離させることのできる柔軟な素材で、国内の塩素製造能力の約3分の1の中心を占めている。全米商工会議所、化学品製造業者のアメリカ化学評議会や石油産業のアメリカ石油協会は、EPAが提案するように早くこの物質を禁止することは、国内の塩素供給に打撃を与え、清潔な飲料水の不足や価格の高騰を招くおそれがあると言っている。
この闘いは、有害であると同時に現代生活に不可欠な化学物質へのアメリカ人の曝露を制限するという公約の実現に、政府が苦心し続ける厳しい選択と厄介な論争を例証している。EPAは、タイヤや医薬品などのように一般的な何千もの製品に使用されているより多くの化学物質に2016年法改正を適用するために、何度もこのプロセスを繰り返さなければならないだろう。
長年の人員削減と政治的闘争が、このような-またその他のいくつかの遅延を-同庁にもたらしたのである。そしていま、気候変動に対処するための多くの新しい優先事項と法的義務のなかで、この化学物質法は、環境優先事項のバランスを取り、議会が生み出した広範囲の新しいプログラムを実行する、バイデン政権の能力を試すテストになっている。
バイデン政権関係者によると、これらの化学物質のリスクを判定するために法律で義務づけられている、ドナルド・トランプ大統領の政権による科学的判断をレビュー中であるという。同庁は、人員を増やし、コンピュータシステムをアップグレードしており、また今春末の予算要求で議会にさらなる予算を要求するようだが、下院の共和党新指導部が広範囲の歳出削減を推進しているため、厳しい抵抗に遭う可能性がある。
「私はまた、このプログラムは長い目で見てよりよいものになると心から信じている」と、EPAの化学安全及び汚染防止の責任者であるマイケル・フリードフは述べている。「われわれはこれから進展を示し、2016年の法改正がわれわれに与えた約束を実現しはじめる」。
議員たちは、2016年法-21世紀のためのフランクR.ローテンバーグ化学物質安全法-を画期的な妥協として宣伝したが、これは、アスベストへの対処にEPAが長年苦しんできたことが一因であった。EPAは、1989年に初めてアスベストのほとんどの使用を阻止しようとしたものの、産業界の挑戦を受けて、連邦裁判所がその決定を覆してしまった。
このような制約のなかで、議会はEPAに行動するための明確な権限を与えた。同庁はこの法律を利用して、トリクロロエチレン、その他の溶剤及び難燃剤とともにアスベストを、新しい規定のもとでレビューすべき最初の10種類の化学物質に指定した。化学品企業は、それが、規制当局による監視を合理化し、新しい化学品の市場参入を早める可能性のある動きを含んでいたことから、この改正を支持した。
しかし、政府関係者、ロビイストや活動家たちは、翌年にトランプ政権が誕生してからすぐに問題が発生したことに同意している。EPAによると、同政権は、同法で義務づけられた新たな科学的評価を行うための資金を増やすよう求めることも、受け取ることもなかったという。
トランプは、規制の削減を掲げて大統領選に勝利し、EPAの人員削減に熱心なリーダーを[長官に]指名した。トランプの任期が終わるまでに、EPAは、これもプラグラムによって義務づけられている、毎年何百件もの提出がある、新しい化学物質の評価を行うために、全国でわずか2人の毒物学者しか抱えていなかった。
バイデンの指名によって就任したフリードホフは、トランプ政権が行った化学物質の分析に関するいくつかの決定を見直すように、スタッフに命じた。そのアスベストに関するレビューは、連邦控訴裁判所で違法と判定され、その他のレビューは法律で定められた期限までに終えられなかった。フリードホフは、マーキー議員の議会補佐官として2016年法の文言の起草を手伝っており、トランプ政権の職員は法律で義務づけられている配慮を無視したと考えていると述べた。
それが、現在も続いているアスベストをめぐる闘いの舞台を設定するのに役立った。業界関係者は、塩素プラントのアスベストは、操業中は封じ込められており、設置の際には労働者は完全防備の防護服を着用して作業していると言っている。フリードホフは、安全性の判定には、防護服を着用していない場合に曝露するかもしれない労働者のリスクに関する考慮も含めなければならないと言う。
法律はまた広範囲な評価を義務づけているとフリードホフは言い、彼女は、他の法律で規制される可能性のある方法で使用される化学物質のリスクをEPAが評価する必要はないとしたトランプ時代の決定を却下した。業界関係者はこれらの変更に同意せず、回避可能な遅延の餌食になると述べた。
「EPAは明らかに追加的な資源を必要としている。しかし、…いまもっている資源をよりうまく活用する必要もある」と、200近い化学企業を代表するワシントンの業界団体、アメリカ化学品評議会で規制・科学問題を監督するキンバリー・ワイズ・ホワイト氏は言う。「もっと効率的で…透明性のあるやり方があるはずだ」。
EPAは現在、「白石綿」としても知られるクリソタイル・アスベスに関する規則を秋に予定している。他の種類のアスベストに関する規則は、もっと後、おそらく2025年以降になると計画している。
アスベストは、耐熱性、耐火性のある自然生成の6種類の繊維状鉱物である。かつては住宅建材、玩具、自動車部品など様々な製品に使用されていたが、現在では、消防士やメンテナンス労働者、古い建物内で多くの時間を過ごす他の者にとっての最大の脅威である。今日、その使用は、塩素産業のアスベスト隔膜、シートガスケットまたは自動車のブレーキシステムをつくるための部品など、よりニッチな用途に限定されている。
70近い他の国がすでにアスベストを禁止している。しかし、アスベストを使用した製品を費用対効果の高い方法で段階的に廃止するために10年以上かかった国もあると、業界関係者は言う。彼らは、EPAが、たった2年だけというはるかに短いスケジュールを緩めるよう求めている。
環境活動家や安全擁護派は、アスベストによる危害についての科学的コンセンサスは何十年も前に広く知られていたのだから、産業界にはすでに何年も調整する時間があったと言う。彼らはまた、産業界はこの国がアスベストに依存していることを強調しすぎていると言っている。
EPAは、アスベスト技術を使用した施設によるものは、公共の飲料水供給の7%未満であると推計している。合衆国ではアスベストを使用する塩素製造プラントの数は減少してきており、現在では全国で8か所-ほとんどがオキシデンタル・ペトロリアムの化学部門の所有-で、そのうち3か所はすでに別の技術へ移行中である。
オキシデンタル・ペトロリアムの広報担当者はある声明のなかで、アスベストの唯一の供給者であるロシアとブラジルからの輸入への依存を避けるために-EPAの提案の前から-すでにほとんどのプラントをアスベストから転換していたと述べている。供給停止を避けるために、各々の転換を完了させるのに4~5年かかると、彼女は言った。
活動家らは、EPAがこの物質を禁止する意図は1980年代から明確であったと指摘する。そして、彼らは、広範な科学的コンセンサスがEPA自身による迅速な行動につながっていないことにいらだちを感じている。
「これらの化学物質の危険性に関する証拠は膨大である」と、環境法律事務所アースジャスティスの管理弁護士であるイブ・ガートナー氏は言う。「誰かがこれを複雑なプロセスにすることは可能だが、それを切り開くのがEPAの仕事である」。
EPAのフリードホフは、遅延に対する不満は共有するが、EPAはまた、提案が法的な挑戦に耐えられることを確保するために努力しなければならないと述べた。
「EPAでわれわれは、それらの規則を実施させる緊急性を強く感じている」と、彼女は付け加えた。「しかし、法的にも科学的にも正当化することのできる基準を設けなければ、その家族の誰も救えない。なぜなら、われわれは訴えられるからだ」。
新しい規則に加えて、産業界はEPAに対して、産業界が議会による2016年改正を支持した主要な理由であったプログラムである、販売したい新たな化学物質の承認を早めるよう働きかけている。この妥協は、イノベーションを促進することを期待して、産業界に対する規制を合理化するとされていた。
それどころか、新しい化学物質の承認は劇的に減速している。EPAの数字を産業界が集計したところ、過去2年間の新規化学物質の承認は各々150件未満で、2018年から2020年にかけて毎年半分以上減少しているという。
産業界の幹部にとって、承認の迅速化は必須条件である。彼らは、より安全で環境にやさしい化学物質への需要の高まりに応えることで、よりクリーンなエネルギーと持続可能性への企業や政府の投資から利益を得ることを望んでいる。
遅延にいらだつ幹部のなかには、政権に対して攻撃に出ることを推し進めている者もいる。一部のロビイストは、EPA職員の反感を買ってさらに厳しい規制や禁止を課されるリスクを避けるために、いまはそうしないよう助言している。
フリードホフは、今年はペースが上がるだろうと言っている。
また、遺産化学物質のプログラムについて、EPAはいま、今年春から秋にかけて、最大で8つの新しい規則の提案を予定している。ロビイストらは、より少なく5~6になる可能性もあると言っている。
アスベストをめぐる進行中の闘いは、EPAにとって、法律を履行して、これらすべての新規則を発行することが長くつらい仕事になる可能性があることを示唆していると、弁護士でビル・クリントン大統領の政権のEPA副長官だったボブ・サスマン氏は語る。この法律は、産業界が商業的に重要な化学物質についていくらかの制限を受け入れることができる場合にのみ有効に機能する妥協であると、サスマン氏は付け加えた。
「産業界の作戦は、EPAが人々や多くの議員の予想をはるかに下回る成果しか上げられないよう努力すると同時に、EPAの過剰な関与に対して攻撃することだったと、現在はアスベスト・ディジーズ・アウエアネス・オーガニゼーション(ADAO)の代理人を務めるサスマンは言う。「それは、すべての決定を論争の的にすることによって、苦境にあるEPAをさらに弱体化させ、麻痺させるために計算された戦略である」。
安全センター情報2024年4月号