原発被ばくによる職業病/厚生労働省●腎臓がん報告書と白血病等2例認定

腎臓がんと放射線被ばくに関する医学的知見の公表について
~労災請求を受け、国際的な報告や疫学調査報告等を分析・検討して報告書を取りまとめ~
2022.12.13 厚生労働省発表

厚生労働省の「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」(座長:東京医療保健大学教授明石真言)は、このたび、腎臓がんと放射線被ばくとの関連について、現時点の医学的知見を報告書として取りまとめましたので、公表します。
この報告書は、放射線業務従事者に発症した腎臓がんの労災請求があったことを受け、業務が原因かどうかを判断するために、国際的な報告や疫学調査報告などを分析・検討し、取りまとめたものです。報告書の概要と、この報告書を踏まえた腎臓がんと放射線被ばくに関する当面の労災補償の考え方は「資料1」のとおりです。
この公表は、労災認定の要件を満たせば労災補償が受けられること等を、広く周知することを目的としています。今後とも医学的知見の収集に努めていきます。

資料1 検討会報告書の概要等

【腎臓がんの医学的知見報告書の概要】

原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が医学文献の部位別のレビューをまとめた「2006年報告書」と、2006年以降の医学文献を中心にレビューを行った。

1 被ばく線量について

(1) 腎臓がんに関する個別文献では、腎臓がんの発生が統計学的に有意に増加する最小被ばく線量について記載された文献はなかった。
(2) 腎臓がんを含む全固形がん※を対象としたUNSCEARなどの知見では、被ばく線量が100から200mSv以上において統計学的に有意なリスクの上昇が認められ、がんリスクの推定に用いる疫学的研究方法はおよそ100mSvまでの線量範囲でのがんのリスクを直接明らかにする力を持たないとされている。
※胃がん、大腸がんなどのように、塊を作るがんの総称。固形がんではないものとして、白血病などの血液のがんがある。

2  潜伏期間について

(1) 腎臓がんに関する個別文献では、腎臓がんの最小潜伏期間について記載されたものはなかった。
(2) UNSCEARなどの知見では、全固形がんの最小潜伏期間について、5年から10年としている。

3 放射線被ばく以外のリスク要因

腎臓がんには、放線被ばく以外に、喫煙、肥満、高血圧、および後天性多発性嚢胞腎疾患がリスク要因とされている。

【当面の労災補償の考え方】

1 当面の労災補償の考え方
放射線業務従事者に発症した腎臓がんの労災補償に当たっては、当面、検討会報告書に基づき、以下の3項目を総合的に判断する。
(1) 被ばく線量
被ばく線量が100mSv以上から放射線被ばくと腎臓がんとの関連がうかがわれ、被ばく線量の増加とともに、腎臓がんとの関連が強まること。

(2) 潜伏期間
放射線被ばくから腎臓がん発症までの期間が5年以上であること。

(3) 放射線被ばく以外のリスク要因
放射線被ばく以外の要因についても考慮する必要があること。

2 その他具体的検討

個別事案の具体的な検討に当たっては、厚生労働省における「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」において引き続き検討する。

※上記1の(1)及び(2)については、これまで取りまとめた固形がんに係る当面の労災補償の考え方と同一である。

資料2 報告書[省略]
資料3 用語解説[省略]

「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」の検討結果及び労災認定した事案について公表します
2022.12.13 厚生労働省発表

厚生労働省の「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」(座長:東京医療保健大学教授明石真言)は、平成23年3月の東京電力福島第一原子力発電所(以下「東京電力福島第一原発」という。)における事故後の作業従事者の2名から、それぞれ真性赤血球増加症(真性多血症)及び白血病を発症したとして労災請求がなされたことを受け、当該疾病が業務によるものかどうか検討を行った結果、それぞれ業務上との結論となり、それを踏まえ、茨城労働局日立労働基準監督署及び福井労働局敦賀労働基準監督署において、令和4年12月21日に労災認定しましたので、公表します。
なお、この公表については、緊急作業従事者を含む東京電力福島第一原発における事故後の作業従事者に認定の要件を満たせば労災補償が受けられること等を周知する観点から、請求人の同意を得て公表するものです。
厚生労働省では、東京電力福島第一原発事故後の緊急作業従事者に対して、電離放射線被ばくによる疾病等の労災補償に関するリーフレットを直接送付するなどにより、労災補償制度の周知に努めていきます。

資料(抄)

労災認定された事案について①

○労働者は60歳代に真性赤血球増加症(真性多血症)を発症した男性。[白血病の類縁疾患であることから、白血病の認定基準を適用した。]
○昭和54年12月~平成29年6月のうち約5.9年、放射線業務に従事。
(東電福島第一原発事故後は、同原発構内での作業にも従事)
○総被ばく線量約139mSv
[うち事故後の東電福島第一原発での作業:約60mSv]
○全国の原子力発電所において電気系統の定期検査の業務等に従事し、東電福島第一原発事故後においては同原発構内での電気系統の工事における指導業務に従事したもの。
○事故後の東電福島第一原発での業務では防護服・全面マスク等を着用。

労災認定された事案について②

○労働者は70歳代に白血病を発症した男性。
○平成6年1月~平成30年2月のうち約8.6年、放射線業務に従事。
(東電福島第一原発事故後は、同原発構内での作業にも従事)
○ 総被ばく線量 約78mSv
[うち事故後の東電福島第一原発での作業:約31mSv]
○全国の原子力発電所の関連設備の建設作業に従事し、東電福島第一原発事故後は同原発構内でタンク新設工事業務等に従事した。
○事故後の東電福島第一原発での業務では防護服・全面マスク等を着用。
東京電力福島第一原発における事故後の作業従事者の労災認定状況
○これまでに労災認定された東電福島第一原発における事故後の作業従事者に発症した疾病は、白血病3件、咽頭がん2件、甲状腺がん2件、肺がん1件。

緊急作業従事者への労災補償制度の周知について

○緊急作業従事者(約2万人)に対し、平成24年度から電離放射線被ばくによる疾病の労災補償に関するリーフレットを9回、直接送付している。

(参考)白血病の認定基準
(昭和51年11月8日付け基発第810号「電離放射線障害に係る疾病の業務上外の認定基準について」)
①被ばく線量:
5mSv×従事年数以上
②潜伏期間:
被ばく開始後1年を超えた後に発症
③対象疾病:
骨髄性白血病又はリンパ性白血病

安全センター情報2023年1・2月号