既存アスベストに対するオランダの対応/2016.10 豪アスベスト安全・根絶機関(ASEA)報告書から

アスベスト関連疾患(ARDs)

オランダは、アスベストを採掘しなかった国としては、アスベスト関連疾患の罹患率が世界でもっとも高い国のひとつである。オランダの調査は、2000年から2028年の間に12,400人が中皮腫で死亡するだろうと示唆している。アスベストに起因する肺がんの数を定量化することは難しいが、アスベストへの曝露がなければ肺がんの総数は12%減少すると考えられている。

背景

オランダのアスベスト使用は輸入に頼っていた。推計は、使用されたアスベストの90%がクリソタイルであったことを示唆している。オランダでは800万トン以上のアスベスト含有製品が生産及び消費され、アスベスト加工産業には、断熱材会社、造船所、アスベストセメント工場などが含まれる。
アスベストの使用は1993年に禁止され、オランダは現在、建築環境に残るアスベスト含有材料(ACM)の最善の管理方法を模索している。残存するアスベストは、建物の解体、土壌浄化、アスベスト断熱材を使用した船舶やプラントの修理、さらに一般的には建物の改修の際に、重大な曝露リスクをもたらす可能性が高い
住宅部門では、アスベストは床材、セメントシート、電気絶縁材、建築用充填材にみられることがもっとも多い。ウォーターマンは、カナレンアイラントの事例から、既存アスベストがもたらす課題の一例を取り上げている。ユトレヒトの一地区であるカナレンアイラントの住民は、改修によって青と茶のアスベストが発見されたため、市議会と住宅組合によってアパートから避難させられた。住民は仮設住宅やホテルに入居した。アスベストが除去された後、住民たちは建物に戻ることが許可されたが、検査を行った一人の独立したアスベスト専門家はさらに多くのACMを確認した。ウォーターマンは、この出来事に関する報道は全国的な大惨事と呼応したが、専門家たちはそのリスクを「煙の充満したバーでの一晩」以上のものではなかったと公言した、と書いている。ここで浮き彫りにされた課題には、一貫性のないアスベストの確認慣行や、市民のパニックがある。

政府の対応

オランダでは、アスベストへの対応はインフラ・環境省が主導し、社会保障・雇用省、内務省と連携している。インフラ・環境省をサポートしているのがInfoMilである。。
InfoMilは、アスベストの法律と政策に関する国民のための重要な諮問機関である。InfoMilは、環境大臣の資金援助を受けて、環境政策と法律に関する情報センターを提供している。国の監督官、州、自治体、水道局、環境サービスに対し、法律の解釈に関するアドバイスやガイダンスを提供している。InfoMilは以下のサービスを提供している。

  • ヘルプデスク
  • ウェブサイト
  • 教育
  • 会議/フォーラム
  • モニタリング
  • 政策立案支援

ヘルプデスクには年間約2千件の質問が寄せられ、ウェブサイトの利用者は一般市民、専門家、監督官、行政官など多岐にわたっている。もっとも多い利用者層は一般市民で60%を占めており、アスベストがもたらすリスクや屋根材禁止の解釈方法について理解したいという一般市民の強い要望がうかがえる。

屋根の禁止

オランダ政府は、2024年に施行される予定のアスベスト屋根の禁止を導入した。これは、2016年から2024年の間に、公共、民間及び住宅用建物のすべてのアスベスト屋根を除去する必要があることを意味している。これに関する主な政策決定機関は環境省である。インフラ・環境担当のウィルマ・マンスベルド国務大臣がこの計画を発表し、住宅地での最近の火災が禁止のきっかけとなったとしている。
禁止されるのは、建物の外部にあるACMのみで、(断熱材など)屋根構造の下にある材料や内部のACシートは含まれない。除去責任は建物の所有者にあるが、オランダ政府は、この禁止を支援するために最低7,500万ユーロを拠出し、2016年から補助金を支給する。
アスベスト含有屋根を禁止する法律は2016年に施行され、AC屋根は2024年までに除去されなければならない。屋根は構造物の上部にあり、外気に接していなければならない。したがって、アスベスト含有壁や、内部のAC屋根は、この法律の対象にはならない。オランダが屋根に焦点を当てたのは、風雨にさらされたAC屋根からの流出が地盤汚染につながることを示唆する証拠のため、屋根が健康と環境の両方のリスクとみなされるからである。また、補助金の対象となる屋根のほとんどは、現在築30年以上経過しており、繊維を飛散するような状態になっている可能性が高いと推定されている。このプログラムは、そうでなければまだ必要であったはずの撤去と交換を促進するための介入であると考えられている。
オランダ政府は補助金に対して、1m2当たり4.50ユーロ、1人当たり合計25,000ユーロを上限として支払う、一律のアプローチをとっている。これを考慮すると、総費用の見積もりは、小規模な工事で1m2当たり最大40ユーロ、大規模な工事では1m2当たり10ユーロとなる。この支払いは、プロジェクト完了時にのみ行われ、ポーランドと同様、交換費用は対象外である。この補助金の資格を得るためには、プロジェクトが、認可を受け、かつLAVS(後述)に登録されているアスベスト除去業者によって行われなければならない。この補助金に対する批判のひとつは、除去及び交換の実際の費用を賄うには不十分で、低所得者が除去期限を守るのが難しいということである。これはとくに、アスベスト屋根が一般的に見られる地方の農家に当てはまる。また、総投資額(7,500万ユーロ)が不十分であるとも主張されている。政府の回答は、これは野心的な目標だが、変化をもたらすために必要なものである、というものである。期限があまりに遠い将来になると、先送りされて実行に移されない可能性がある。また、個々の費用を削減するために、地域社会が共同でプロジェクトを実施することも提案されており、自治体もこのアプローチを取りはじめている。
アスベスト屋根の使用禁止は、ARDのリスクを減らすための重要な介入策であるが、現在進行中のプロジェクトはこれだけではない。

公共建物におけるアスベスト管理計画の自主登録

多くの国々と同様に、オランダも公共建物におけるアスベストに対する意識を高め、リスクを軽減する方法を検討しており、とくに学校や病院に注目している。2011年から12年にかけて、学校と病院に対して、建物内のアスベストの状況についてアンケートを実施し、とくに現在のアスベスト管理計画の有無に焦点を当てた。収集された情報は、アトラス・オブ・ザ・リビング・エンバイロメントと呼ばれる一般にアクセス可能なデジタルマップを構築するために活用され、学校と病院、及びアスベスト管理計画の状況が掲載されている。3つのカテゴリーがある。

  • 緑色-[オランダでアスベストが禁止された]1993年以降に建設され、アスベストの可能性はなく、計画も必要ない
  • 黄色-InfoMilに報告された現在のアスベスト管理計画を含む情報
  • オレンジ-InfoMilに報告なし

これは、アスベスト管理を改善するための公的説明責任と社会的圧力を生み出した。また、サービスを提供する公共建物は、アスベストフリーであるか、または積極的なアスベスト管理計画を持つことが社会的に望まれている。消費者である一般市民は、アスベスト管理計画がある施設に好意を向けることができる。例えば、親は、現在アスベスト管理計画がある、またはアスベストがない学校に子供を入学させる可能性が高い。
業界の代表者は、このような目標を絞ったアプローチは、自分たちのサービスを調整し、学校に対してアスベスト調査の45%もの割引を提供することを可能にするうえでも効果的であったと示唆している。
結果は以下のとおり。

  • 現在、学校の68%がアスベスト管理計画を策定している。
  • 現在、病院の84%がアスベスト管理計画を策定している。

これは義務ではない報告プロセスであることから、これらは非常に肯定的な結果である。このプロジェクトの限界のひとつは、アスベスト管理計画が有効な建物よりも、(緑色のチェックを受ける)新築の建物を優遇していることである。また、計画の直接的な品質保証も行っていない。

全国アスベスト追跡システム:
LAVS ウェブアプリケーション

オランダは、アスベスト作業の追跡システムももっている(http://www.lavsinfo.nl/)。これは、アスベスト調査/登録から除去及び廃棄までの一連の作業を追跡するために作成されたオンラインアプリケーションである。このツールは現在、義務的ではなく、ユーザーにとって魅力的で、またビジネスのパフォーマンスに役立つように開発された。調査・除去業界は、約400人の評価者、300人の除去業者、25の検査試験所で構成されている。およそ3万件の作業がシステムを通じて管理されている。
自主的なオンライン・システムの利用を企業に促す主な原動力のひとつは、建物所有者が屋根交換補助金の受給資格を得るためには、システムに作業が記録されていなければならないことである。LAVSアプリケーションは5年前から導入されており、除去管理を容易にするために設計された。企業にとって魅力的な設計上の特徴は、以下のとおり。

  • ユーザーが作業に関する報告を作成できる
  • 業務管理を容易にする
  • 必要に応じて自動的に規制当局に通知するなどコンプライアンス業務を支援する

LAVSシステムの成功に対する反対意見は、企業にとってさらなる官僚主義を生み出したというものである。大規模なアスベスト管理・除去事業者はすでにオンラインシステムを持っており、これは重複しており、業界の関与も十分ではなかった。2016-17年には、大規模で複雑なアスベスト除去作業に対してLAVSがより効果的になるよう、新たなアップデートが予定されている。

業界の革新と提言

業界と地域社会の代表は、アスベスト除去補助金は前向きなスタートではあるが、十分なものではないと示唆している。アスベスト除去にはまだ経済的な障壁があると考えられている。このような除去プログラムは、農村部の農家にとって大きな課題となることが示唆されている。一部の専門家は、補助金の代わりに、政府が融資を検討すべきであると提案している。例えば、返済された資金を除去プロジェクトに再投資できるリボルビングローンファンド[回転融資基金]などである。これは、オランダの他の環境浄化プログラムで成功裏に利用されており、除去により強力な社会的成果をもたらすだろう。
アスベスト除去及び非飛散性除去作業封じ込めを行う革新的な方法を開発したデニス・キアケルス氏は、筆者が会った業界代表の一人である。小規模な除去作業を行う際に必要な個人保護具(PPE)の量は、時間と生起する攪乱と相まって、建物所有者が小規模な作業を依頼する際の共通の問題点であり、阻害要因であると考えられている。オランダのMini Containment社は、この点を考慮し、様々な規模の作業に対して運搬・設置できる革新的な格納ボックスを開発した。このボックスは負圧の密閉状態を作り出し、労働者がが外にいる間に中で作業が行われるため、オーバーオールや呼吸装置を必要としない。これは、放出された繊維がボックスに捕獲され、HEPA14バキュームクリーナーに吸い込まれるためである。
このシステムは小規模な作業用に設計されているが、ボックスを連結して大きな作業スペースを作ることもできる。現在、開発の初期段階にあり、1千件の作業に使用され、2016年には1万件に達することをめざしている。よりユニークな用途のひとつに、外壁の状態により格納が必要な屋根の撤去がある。ミニ・コンテインメント・システムを使用することで、従来の空気圧テントを使用するよりも作業費用が40%安くなった(90万ユーロのところ47万5千ユーロ)。

今後の革新:
AC屋根の除去とソーラーパネルの組み合わせ

政府代表と業界代表の両方が議論したアイデアのひとつは、建物の所有者が、AC屋根をソーラーパネルに交換する可能性を検討し、それによって除去のインセンティブを高めることを支援すべきだというものだった。これが実現した例はまだないが、個人、企業、自治体のいずれのレベルにおいても、屋根交換への投資を後押しすることになるだろう。アスベスト除去の課題のひとつは、関連費用であることは広く指摘されており、今後もその問題は続くだろう。ソーラーパネルによる新たな収益源の創出による電力コストの削減など、投資対効果を高める新たな方法を見つけることで、除去と交換への投資が増える可能性がある。これは、2022年の期限が近づくにつれ、ますます重要になるだろう。

※ASEA報告書「アスベストリスクに対するヨーロッパの対応-建築環境のアスベストから生じるリスクを低減するための政府イニシアティブに関する調査」の「オランダ」部分の翻訳である。

オランダ政府インフラ・水管理省ウエブサイトのアスベスト情報によると、「アスベストは健康被害をもたらす可能性がある。そのため、オランダ当局はその使用と除去を規制している。最近、政府は2024年12月31日をもってアスベスト屋根を禁止する法案を提案した。しかし、法案は上院を通過しなかった」とされている。
ただし、「アスベスト屋根は古くなればなるほど、繊維を飛散する危険性が高まる。アスベスト屋根をお持ちの方はそれゆえ、それを除去することが望ましい」とし、また、「事前に自治体当局に解体届を提出しなければならない」、以下の場合には「認可を受けたアスベスト除去業者を利用しなければならない」等と解説している。

  • 屋根が損傷している場合
  • 屋根が35m2超の場合
  • 屋根がアスベスト含有タイル、アスファルトまたは波型スレートでできている場合
  • 屋根が商業施設にある場合

https://www.government.nl/topics/asbestos/regulations

一方、補助金制度のほうは実施されたが、現在の同省ウエブサイトは、「アスベスト屋根除去補助金」について、以下のように紹介している。

アスベスト屋根を除去するために
補助金を受けることができるか?

アスベスト屋根除去に対する国の補助金制度は2018年12月15日に終了したが、お住まいの州当局からそのための補助金を受けられる可能性がある。

アスベスト屋根除去補助金制度の終了

最近まで、アスベスト屋根の除去のための補助金制度を利用することができた。算総額(7,500万ユーロ)がすでに使い切られたため、今後の申請は受け付けていない。

補助金制度に代わる新たな基金

アスベスト屋根除去のための補助金制度は、7500万ユーロの予算を使い果たしたため、2018年12月15日に終了した[1m2当たり4.5ユーロ、1棟最大2万5千ユーロ]。もはや補助金の申請はできなくなった。住宅促進基金、州・地方自治体、銀行、中央政府は、この補助金制度に代わる新たな基金を設立している。

自治体または州からの特別アスベスト補助金

アスベスト除去のための補助金を提供しているかどうかは、お住まいの自治体または県に問い合わせていただきたい。

https://www.government.nl/topics/asbestos/question-and-answer/entitled-to-grant-asbestos

安全センター情報2024年4月号