現場の声無視による重大災害/東京●大久保製壜支部の取り組み(寄稿)

■21年に及ぶ大久保製壜闘争

(株)大久保製壜所(墨田区東墨田、ドリンク薬用ビンの製造販売、従業員約100人)の労働者(24時間操業4直3交替)で組織する全国一般東京東部労組大久保製壜支部は1975年、障害者への虐待・差別に反対して36名の障害者が決起、冬期一時金で障害者差別査定のない「一律2か月」を要求して職場に座り込んだととろ、職制により職場から排除され、日本基督教団堀切教会に籠城したことから闘争がはじまりました。

会社は政府から「福祉モデル工場」と表彰されていましたが、実態は障害者に対する日常的な虐待・暴力・差別が横行していました。会社は労務屋を入れて数々の不当労働行為・組合つぶしを行ってきました。1976年から向島労基署は100項目以上の摘発・指導を受けました。1987年には支部の長崎副委員長をおとし入れるため、長崎副委員長のオートパイに覚醒剤を仕込み、警察に誣告・逮捕させるという謀略犯罪を起こしました。1997年、21年9か月の争議が全面解決し、平和的労使関係を目指してきましたが、度々問題がおき、闘い続けてきました。

■「追い通し勤務」を廃止させる

2017年の1年間で14名が退職し、各職湯で人員不足問題が発生。製造現場である製壜課で追い通し勤務(例えば2部勤務1時持から22時まで、3部勤務22時から翌日7時まで16時間拘束の連続勤務)が日常的に行われ、労働者が疲弊する勤務環境に関して向島労基署に申告し、同年5月に是正勧告「強烈な騒音を発する場所における業務に一部労働者を1日2時間を超えて時間外労働に従事させている」、10月にも是正勧告「健康上有害な業務(多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務)に一部労働者を1日2時間を超えて時間外労働に従事させていること」が出され、長年にわたり大久保製壜支部が改善を求めてきた労基法違反が証明されました。

これにより、1976年の労基署の摘発時にも取り上げられた追い通し勤務を止めさせることができました。しかし会社は、実働を10時間に抑え、休憩時間を増やした勤務体制を新たに導入、労基署の指導を形骸化させようとしてきました。支部は抗議の一環として、2018年6月、墨田区労働組合連絡会の行政交渉でハローワークすみだに対し、会社を「労基法違反企業」として、その求人紹介を停止するよう要請し、20日間ではあるが求人を停止させることができました。

■安全軽視・利益優先の会社

この間、職場の安全衛生委員会(支部組合員も委員)では、会議の議事録も、測定結果・資料配布もしない、労基署からの是正勧告書が出たことすらまともに説明されないなど、安全軽視の会社の姿勢が明らかになっていました。

このような職場の安全衛生委員会の形骸化につき、向島労基署からは数回にわたる勧告・指導が発せられています。

2017年12月には「作業環境測定の結果及びその結果の評価、その結果に基づく対策の樹立に関することを付議し、調査・審議させていないこと」について、2018年9月には「労働者の危険の防止に関することを付議し、調査・審議させていないこと」について勧告・指導が行われました。

大久保製壜所では過去にも重大労災が何件もあり、支部は大ケガを負った被害者への補償、会社の責任を追及してきましたが、会社は一貫して「個人的責任」と言い、職場環境・労働実態に問題があるのに責任をとろうとしていませんでした。2018年11月頃には2か月間で5件も労災が起きています。

■多段積みによる重大労災発生

このような中、2019年7月7日、会社のテント倉庫において重大な労災事故が発生。多段積み製品の荷崩れ事故に3名の労働者が巻き込まれました(うち1名はレスキュー隊により救出)。3名のケガはそれぞれ腰椎圧迫骨折、両足かかと骨折と右足の粉砕骨折、胸骨にヒビなど、警察によれば「死んでいてもおかしくない状態」でした。会社の安全対策無視が招いた「人災」です。長年にわたり支部・職場から「多段積みは危ない、死亡事故が起きてもおかしくない」と不安と怒りの声が上がっていました。1mも掘ると水が湧くという軟弱地盤の倉庫に4段から6段積みの製品が500パレット以上置かれた結果、500トンもの重量が床にかかり陥没しているという状態にもかかわらず、会社は「倉庫を借りるとコストがかかる」と多段積みを黙認、危険性の指摘を無視し続けた結果、事故は起きました。

■労基暑からの報告なし

支部は多段積みについて、会社のみならず向島労基署に対してもその危険性を知らせ、改善させるよう求めていました。2019年2月、支部が多段積みの危険牲を労基署に申告しました。これをうけ7月23日の向島労基署交渉で支部は多段積みの危険性「死亡事故が起きる。何とかしてほしい。私たちが申告していたにもかかわらず7月7日に大労災事故が起きた。向島労基署は会社に指導していたのか。労基署にも責任がある」と詰め寄ると、「実は」と担当の監督官がこの間の経過を説明。5月20日、会社に対し「荷の崩壊等について、倉庫内での高さ2メートル以上に荷を積む擦は、荷の崩壊や荷の落下による労働者の危険の低減対策を行うこと」との指導票を出していたことが判明しました。しかも是正期日は6月28日。支部は労基暑に「なぜ指導票を出した事を当事者の私たちに報告しないのか。報告があれば会社に対して話ができた。7月7日の重大労災事故を回避することができたかもしれない。労基署は責任をとれ」と無責任で他人事のように対応する労基署に怒りの抗議をしました。

その後7月30日に追加で「荷の崩壊等について…同種災害の発生を防ぐための対策を速やかに講じてください。特に、今回発生した災害の原因の特定ができるまでの間、及び同種災害の発生防止対策を講じるまでの問については…同種災害を発生させないための特段の措置を講じてください」との指導票が出されました。

■会社の無責任な対応

支部は重大労災につき2019年7月11日、29日に会社と団体交渉をしましたが、会社は重大労災事故に関して、向島労基署から5月20日の指導票が出されたことを公表せず、5月24日の安全委員会会議でも報告すらせず、多段積みの危険性、改善指導を受けても事実を隠していたことがわかりました。

この重大労災は「多段積みの放置」により発生しており、明らかな人災です。会社の責任は重い。しかし、会社は一貫して責任を認めようとせず、被害者3名への損害補償も否定し「社長が菓子折りをもってお詫びをした。障害を負った場合は就業規則の規定に基づいて対応する」など、まるで「事故はもう終息した」とでも言わんばかりの対応でした。支部は団体交渉・安全委員会でも「私たちの意見・声に耳を傾けろ」と強く求めてきました。会社は「話は聞いている。会社の主張もあり受け入れられないこともある」と言うばかり。あげくには9月5日の団体交渉では、「会社の存続・繁栄あっての労働者の命だ」との越旨を言い放つなど、金儲け優先の考えを変えませんでした。

■命を守れ!ストライキに決起

2019年8月23日、大久保製壜支部は24時間ストライキで重大労災事故に対する抗議行動を行いました。当日は雨が降る中、総勢200名近い規模で集会を貫徹しました。

会社への抗議とともに、労働者が「殺されかけた」にもかかわらず会社に対して抗議の意思表明すらしようとしない大労組(大久保製壜所労働組合=御用組合)委員長の責任を追及しました。

東部労組各支部・支援の仲間200名が続々と駆けつけてくれました。参加した仲間たちは大久保製壜支部9名とともに、心からの怒りを爆発させました。

工場一周包囲行動では「大怪我をさせた労働者に心から謝り、賠償しろ」「危険な多段積みをやめろ」「労働者の安全を守れ」と地域一帯に絶え間なくシュプレヒコールが響きました。

■向島労基善が書類送検

向島労基署の不誠実な対応に対しても連続した大衆行動を実施した結果、2021年8月24日、向島労基暑が会社を書類送検(安全衛生法違反。東京労働局のホームページに社名公開)しました。

■解決に向けた事務折衝

2022年2月、会社より解決に向けた事務折衝の提案があり、8月4日に解決協定の調印が実現しました。会社との協定書では、①重大労災の原因となった多段積み製品パレットの上限段数(テント倉庫では3~4段)、新倉庫では7.5メートルの高さ制限の条項を認めさせた。②安全衛生委員会に支部を参加させ、必ず参加できるように日程調整して安全パトロールで倉庫の安全を確認する。③会社は今後、問題等がある場合団体交渉で解決に努める。④解決金を払う。などで、組合は解決の基準を解決金の多いか少ないかではなく、今後大労災事故が起きない安全な職場環境をいかに作れるか、会社が職場、組合の声を真撃に受け止め改善をはかるか、そして、地域の工場・職場でも同じように重大労災が起きた時に闘いに役に立つかを基準に解決を目指し、決裂も辞さない姿勢で交渉を行ってきました。

■労健者の命を守る闘い

職場の労働者の声、意見を聞かず無視・黙認した結果、重大労災事故が起きました。

今後この協定書を無駄にせず闘いを堅持できるか、解決したから終わりではなく、製造環場は「高温・騒音・粉じんなど有害職場」で改善が必要です。会社は労働者に「自己責任」を押し付け責任を取ろうとしません。労災の発生原因には職場環境・労働実態が大きく影響します。労働組合が労働者の命と健康を守らなければ労働者が犠牲になります。「闘いなくして安全なし」。安全な職場環境を目指し、職場・地域で闘っていきます。

最後にこの間、東部労組・友好労組・地域の方々のこ支援・ご協力に感謝し、「受けた支援を運動で返す」を実践していく決意を新たにしたいと思います。

文:全国一般東京東部労組大久保製壜支部委員長 金澤新悦東京労働安全衛生センター「安全と健康」2022年10月号から

安全センター情報2024年3月号