労災不承認判決から一ヵ月後「また」配電電気員に甲状腺ガン/韓国の労災・安全衛生2024年08月07日
約30年間、配電電気工として働いたチャン・ヒョソン(62)さんは、二ヶ月ほど前の定期健康診断で甲状腺ガンと診断された。チャン・ヒョソンさんは、1988年から光州・全南地域で電気工事業者を転々としながら配電設備の補修業務をした。この内、16~17年程は2万2900ボルトの高圧電流が流れる状態で、無停電直接活線作業をした。チャン・ヒョソンさんは「12~16メートルの高さの高圧線の近くで、緊張した状態で仕事をしているため、ストレスを受けざるを得ない」と話した。
特高圧電磁波に曝されて甲状腺ガンが発病した配電電気労働者に対する労災事件が最高裁に係留されている中で、同じ業務をしたもう一人の労働者が甲状腺ガンの診断・手術を受けた事実が確認された。配電電気労働者の甲状腺ガンの発病が、一個人の特殊な事例ではないということを確認できる。
2022年に、一審裁判所は配電電気員の甲状腺ガンを労災と初めて認め、前向きな判決だと注目を集めた。しかし今年の六月、二審裁判所は、研究結果が足りないという理由で、一審判決を逆転し、最高裁に上告された状態だ。配電電気労働者に甲状腺ガン発病の事例が確認され、研究結果だけで簡単に因果関係を否定するのではなく、労災予防という労災保険制度の目的に符合する判決でなければならないという声が出ている。
配電電気員の7.8%が甲状腺ガンを経験
<毎日労働ニュース>が取材した結果、配電電気員として働いて、甲状腺ガンを発病した事例が少なくないことが明らかになった。チャン・ヒョソンさんは先月の31日に手術を受け、現在病院で療養中だ。ソウル高裁が6月11日、20年近く活線作業をした配電電気員の甲状腺ガンを労災と認めないという判決をしてから僅か一ヶ月で、もう一人の配電電気員が同じ病気で手術を受けたのだ。
一人や二人の配電電気員の問題と観るのは難しい。建設労組は昨年2~4月に、配電電気労働者307人に甲状腺ガンに関する実態調査を行った。調査の結果、回答者の24人(7.8%)が、甲状腺ガン(または甲状腺結節)と診断されたことがあると答えた。周辺の同僚・退職者の内、甲状腺ガンで治療を受けた事例(10人)まで合わせると、34人(11.1%)だ。ところが、それらの内の一人も労災申請をしていないと労組は確認した。
労組のチョン・ジェヒ労働安全保健室長は、「甲状腺ガンの労災事件で(発病以後)9年間も訴訟が続いて、『どうせ訴訟までしてもだめだ』という認識が拡がったと想われる。」「また電気工事業者の所属で、二年ごとに契約を更新しなければならない雇用不安のために、労災申請を敬遠する側面もある」と説明した。このような事情を考慮すると、明らかになっていない甲状腺ガンの発病事例はもっと多い可能性があるという指摘だ。
白血病の労災は認められたが
労災保険制度の目的と趣旨を考慮した時、研究結果がないからといって、直ちに業務上の疾病ではないと観るのは難しいという指摘もある。朝鮮大学のイ・チョルガプ教授は「医学的・科学的に因果関係が立証されなかったからといって、配電電気員として働き、極低周波の磁場に長期間ばく露した職業的な特性と、疾病との因果関係を直ちに否定してはならない。」「労災保険制度の目的は、事後補償だけでなく、事前予防も重要だということを考慮する必要がある」と話した。
勤労福祉公団は、2015年に高圧電流に接して白血病に罹って亡くなった配電電気労働者の労災を認めた経緯がある。その時公団は、電磁波と白血病の間の関連性を証明する証拠が足りないという趣旨の産業安全保健研究院の疫学調査の結果にも拘わらず、蓋然性・誘発性・有病率などを総合的に考慮して労災を承認した。産業安全保健研究院の『活線作業者の健康状態および関連実態調査』(2017)によると、活線作業者の極低周波磁場の平均数値は1.3μT(マイクロテスラ)で、一般会社員(0.05μT)の26倍に達することが判った。
2015年に甲状腺ガンが発病した以後、9年間の労災認定闘争を続けてきたキム・ジョンナム(55)さんは<毎日労働ニュース>との電話で「(一審判決は)不幸中の幸いだと思ったが、逆転して失望した。」「電磁波による影響が少しでも明らかになり、同僚たちに(良い)影響を与えて欲しい」と話した。
2024年8月7日 毎日労働ニュース オ・ゴウン記者
http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=223017