安全装備「準備だけ」すれば事業主の義務は終わりか/韓国の労災・安全衛生2024年07月05日

資料写真/チョン・ギフン記者

70代のペイント工がA型梯子から落ちて亡くなった。当時、作業現場の近くには安全帽と作業足場が用意されていた。それでも裁判所は、事業主が安全措置義務を果たさなかったと判断した。単純に安全装備を備え付けるに止まらず、作業現場に適した安全装備を準備し、これを使うよう強制する義務まであると見た。

安全帽を被らず働いて墜落死

法曹界によれば大法院は産業安全保健法違反・業務上過失致死で起訴された施工会社の運営者A氏に、懲役1年に執行猶予2年を宣告した原審を確定した。

A氏は施工会社の実質的な運営者で、現場の所長を務め、安全保健管理の責任者の役割をしていた。事故は、A氏がある大学から請け負った6千万ウォン相当の施設補修工事現場で発生した。

A氏は70代の女性を雇って、天井のペンキ塗りの作業をさせた。2021年10月、現場で高さ80~110センチのA型梯子に登り、3~4メートルの高さの天井にペイントを塗る作業をしている途中、床に落ちた。直ぐ病院に運ばれ、治療を受けていたところ、翌年1月に敗血症ショックなどで死亡した。

A氏は労働者の墜落に備えて、安全帽を支給・着用するようにせず、作業用の踏み台を設置しないなど、業務上の注意義務と安全措置義務を果たさなかったなどとして起訴された。A氏側は、現場に安全帽を備えており、随時安全帽を着用するよう指示していたと容疑を否認した。

裁判所「安全帽の着用まで事業主の義務」

一・二審裁判所は、A氏が安全帽を「着用するようにしなければならない」義務を果たさなかったとし、有罪を認めた。

裁判所は「産業安全保健基準に関する規則によれば、事業主は作業条件に合う保護具を支給しなければならないだけでなく、労働者がこれを着用するようにしなければならない」と強調した。続けて「会社は労働者がよく安全帽を着用せずに作業しているという事実を認知していたし、今後もそのような作業が続くということを未必的にでも認識していたし、予見できたと見るのが妥当だ。」「会社は安全帽を備えておいただけで、労働者にこれを必ず着用するよう強制したり、これを着用したかを確認できる体系を全く備えていなかった」とした。

「安全帽を着用せよ」と言っただけでは、義務を果たしたと見ることはできないとも判断した。裁判所は「会社は着用を強制する体系を備えておらず、作業時に着用の有無を確認しなかった。」「最小限の措置を準備するのに、相当な費用がかかったり、過度な人材が必要になるとは見られない。安全帽の未着用事例を何度も発見していたなら、それに相応する措置を執るべきだった」と指摘した。

裁判所「安全装備は現場に適合しなければならない」

作業足場の設置義務に対する判断は食い違った。被災者が働いていた作業現場の近くに馬足場と移動式足場などの作業足場があった。一審裁判所は、安全保健規則上の遵守事項の履行の有無だけを判断し、該当の疑惑に対しては無罪と判断した。馬足場に補助部材が設置されていたということを根拠として挙げた。

一方、二審は、安全装備が実際の作業に使えるか、まで判断した。裁判所は「背の低い被害者が、馬足場に上がって作業するとしても、天井部分は塗ることができず、(安全保健規則を遵守した馬足場だとしても)作業に適しているとは見難い」と判断した。これに対し、二審は、A氏に懲役6ヵ月、執行猶予2年を言い渡した原審判決を破棄し、懲役1年、執行猶予2年を言い渡した。最高裁も二審の判断が正しいと見た。

2024年7月5日 毎日労働ニュース カン・ソギョン記者

http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=222404