経営陣が変わると作業中止マニュアルは「紙切れ」/韓国の労災・安全衛生2024年04月02日

民主労総の主催で2日に行われた作業中止権要求案の発表と現場証言大会で、金属労組・韓国タイヤ支会のヒョン・ジンウ副支会長が発言している。/チョン・ギフン記者

新年の劈頭(1月2日)から、現代モービスの忠州一工場で作業をしていた労働者が、手を切って手術までする事故が発生した。労使は2023年に作った安全事故対応マニュアルによって、該当ラインの作業を中止した。続いて「直ちに措置できない部分がある」という項目に同意し、1月19日までに安全措置を執るという約束をした。

しかし、突然使用者が態度を変えた。金属労組・現代モービス支部忠州支会によれば、使用者は「措置ができない」「作業者にしっかり教育をして再発させない」とし、約束を破って稼動を指示した。支会が反発すると、使用者は労務チームを連れて工場を訪れ、現場での衝突も覚悟した再稼動を強調した。結局、ラインは再び回っている。当時、再稼働を止めた支会の労働安全担当者は、譴責の懲戒まで受けた。

2月にも同じようなのことが起こった。支会は再び安全事故対応マニュアルによって作業中止と安全措置を要求した。しかし、再び使用者が再稼動をしなければならないとして現場を訪れた。このケースでも結局、再稼動した。

支会のチョン・ミョンジュ労働安全保健部長は「新年に経営陣が交替し、前の経営陣と議論して構築したマニュアルが水の泡になった。」「(作業中止権の行使を妨害する行為を処罰する)強制性がない中で、使用者が罰金まで覚悟して動けば、(マニュアルも)一枚の紙切れに過ぎないのだということを痛切に感じる」と証言した。

韓国タイヤの作業中止、労組幹部3人に9千万ウォンの損害賠償

作業中止権を行使した労働者を懲戒したり、安全措置が実施されていないにも拘わらず使用者が一方的に作業中止を解除するなど、労働者の作業中止権が形骸化していることが判った。労組に作業中止権を付与し、作業中止権を行使した時に不利益を加える使用者を処罰できるように、制度の強化が必要だという指摘だ。

民主労総は2日午後、民主労総の教育場で作業中止権要求案の発表と現場証言大会を開催し、このように明らかにした。この日の参加者たちは、現代モービス、韓国タイヤ、現代ISC(現代製鉄社内下請け)、郵政事業本部、家電の訪問点検・修理、大型マートでの作業中止権行使と、これによる不利益の事例を証言した。

作業中止権は、労働者または使用者が災害発生の危険があると判断すれば、そこから待避したり該当作業を拒否できるようにした権利だ。1990年の産業安全保健法に、事業者の義務として初めて導入され、1995年に労働者の作業中止権が導入された。1996年に作業を中止した労働者に対する不利益扱いを禁止する条項も新設されたが、これを破っても罰則条項はなく、現場での効果は制限的だ。

特に、使用者が作業中止権を行使した労働者に財産上の不利益を与えている。2022年、韓国タイヤの工場の作業を中止させた労組代表など幹部に、8900万ウォンの損害賠償を提起したのが代表的な例だ。金属労組・韓国タイヤ支会のヒョン・ジンウ副支会長は「作業中止権を行使した後、名誉産業安全監督官が地方労働庁と議論し、地方労働庁の是正指示によって施設の改善まで終えた使用者が、突然『何の理由もなく無断で作業を中止させ、損害を与えた』として3人に損害賠償を請求した。」「何の異常もなかったのであれば、なぜ設備を改善したのか」と批判した。

横暴な顧客を相手にして死亡労災、「作業中止」の団体協約が作動せず

屋外労働・サービス労働・感情労働に対する作業中止権はもっと不十分だ。マート産業労組のペ・ジュンギョン組織局長は、「対面サービス業種の労働者が経験する顧客のパワハラと、それによる精神疾患の問題が社会化され、いわゆる感情労働者保護法(産業安全保健法41条)が施行されたが、顧客応対業務マニュアルを作ったというレベルで、実際的な保護は団体協約によって行われる」と説明した。それにも拘わらず、現場では被害が後を絶たない。

「2019年に2分25秒にわたって男性顧客からパワハラと暴言を受けたホームプラスのキャッシャーが、退勤後に脳出血で死亡して業務上災害を認定された。」「当時、ホームプラスの労使は団体協約で、顧客の暴言・暴行時には、上位の責任者が応対すると規定していたが、事件当時には履行されなかった」と説明した。「様々な事例についての法制度があり、団体協約や社内制度があるにも拘わらず、顧客と応対をする労働者が、問題の状況で実際に作業を中止をするのには困難があることが確認される。」「現場の監督と文化の改善だけでなく、実質的に作業の中止を強制できる制度の改善が必要だ」と指摘した。

民主労総は4月の総選挙の後に開かれる22代国会に、産業安全保健法の改正を要求する方針だ。労働者だけでなく、労組に作業中止権を保障する改正を含め、△作業中止を行使した労働者に不利益を与えた事業主の処罰、△作業中止期間中の下請け労働者の賃金と業者への損失補填、△悪天候・感情・訪問労働と、安全保健措置が不備な場合の作業中止などの範囲の拡大、△完全な改善措置の後で作業を再開する時の産業安全保健委員会による議決、などの法制化が原則だ。

民主労総のチェ・ミョンソン労働安全保健室長は「労働者の作業中止権は、個別労働者の作業待避権の段階に留まっており、急迫した危険や作業再開のための適切な措置など、使用者の判断と作業再開要求に対する規制がない。」「猛暑や暴風雨・大雪のといった気候危機によって、一層危険の頻度と強度が高まっている屋外作業に対する作業中止権の問題も、やはり解決されていない」と批判した。

2024年4月2日 毎日労働ニュース イ・ジェ記者

https://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=220829