被害者の相続人が国を提訴兵庫~●請求権認めぬ建設アスベスト給付金

建設作業に従事し、アスベストによる健康被害を受けた被害者とその遺族が、国と建材メーカーを被告として、全国各地で争われてきた建設アスベスト訴訟は、2021年5月17日に最高裁が原告勝訴となる判決を言い渡した。

最高裁判決を受けて、当時の菅首相と田村厚生労働大臣が原告に謝罪を行なうとともに、2021年6月には特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律が成立し、2022年4月から施行された。

13年間にわたる原告団・弁護団らの取り組みの積み重ねがあったからこその成果である。

建設アスベスト給付金制度の給付対象者となるのは次の3点をすべて満たす方となっている。

1目点は、特定石綿ばく露建設業務に従事した方。具体的には、石綿吹き付け作業については昭和47年10月1日から昭和50年9月30日までの期間、屋内作業については昭和50年10月1日から平成16年9月30日までの期間に屋内作業に従事された方が対象とされている。屋内作業とは、「屋根があり、側面の面積の半分以上が外壁などに囲まれ、外気が入りにくいことにより、石綿の粉じんが滞留するおそれのある作業場」と定められている。

2点目は、特定石綿ばく露建設業務に従事したことにより、石綿関連疾患にかかった方。

3点目は、労働者や一人親方等であった方(その遺族)。給付金の支給対象者となる遺族については、①配偶者、②子、③父母、④孫、⑤祖父母、⑥兄弟姉妹の順となっている。

労災保険の支給決定を受けている方については、「労災支給決定等情報提供サービス」制度が設けられている。厚生労働省曰く、「請求手続きの利便性の向上を図るため」として、給付金を受ける対象者に該当するか否かを、本請求を行なう前に事前に調査するという制度である。

一人親方の電工として長く建築現場で働いてきたAさんは、2019年10月に悪性胸膜中皮腫を発症した。病状の悪化は早く、2020年1月2日に逝去された。Aさんは独り暮らしであったため、お兄さんのBさんが労災保険の請求を行った。Aさんは、労災保険の特別加入をしていたため、Bさんに遺族補償一時金が支給された。

その後、建設アスベスト給付金法が施行されることとなり、Bさんのもとに厚生労働省から給付金に関する個別通知が届いた。そこでBさんは、2022年2月22日に「情報提供サーピス」の申請を行い、同年6月2日付けで給付金の支給対象者として「該当」するとの通知が届いた。

早速6月13日には、給付金の請求を行ったが、Bさんは体調を崩され同年8月7日に逝去された。

前述したとおり、給付金の支給対象者は、①配偶者、②子、③父母、④孫、⑤祖父母、⑥兄弟姉妹の順となっているため、Bさんが亡くなられたことにより、請求権者が誰もいなくなってしまった。

今回の問題は、①民法上の損害賠償請求権者(相続人)と給付金請求権者の範囲が異なるという問題と、②給付金請求権者が給付金を請求していたにもかかわらず、国が迅速に支給決定を行わなかったために、支給が決定される前に請求権者が亡くなってしまったという問題がある。

給付金の問題については、7月12日に行われた、アスベスト患者と家族の会と厚生労働省との交渉においても取り上げられた。情報提供サービスの請求を行っても、その後の給付金請求を行っても、「時聞がかかり過ぎる」という声や、「追加の資料提供を次々と求められる」「請求を行ったが何度も『取り下げてはどうか』と言われた」という相談が数多く寄せられているからであった。

今回の請求権がなくなった件についても、厚生労働省に回答を求めた。「ちょっと時間を要していたというのは…大変申し訳なく思っている。以前に比べて、人員を増やしたりとか弾力的に人員体制を組んだりとか…何とか迅速な認定審査に努めてまいりたいと思います」と今後の決意だけが述べられた。

9月6日、Aさんの遺族であり、国に対する損害賠償請求権を相続した法定相続人が原告となり、国に対する国家賠償請求訴訟を神戸地裁に提起した。

提訴後の会見において、Aさんの姪にあたるDさんは、「父が亡くなったと国に連絡を入れた際、『これで終わりです』と言われショックだった」「叔父とはずっと一緒に生活していて、私にとっては父のような存在だったが、国に家族ではないと言われている気がした」「請求者である父が亡くなるのを待っているのかなと思うことがあった。そういう思いをさせないでいただきたい」と訴えていた。

文・問合せ:ひょうご労働安全衛生センター

安全センター情報2023年12月号

「家族じゃないと言われた気がした」石綿給付金めぐり、遺族が国提訴 朝日新聞 2023年9月6日

建設アスベストの給付金 死亡男性のめいなどが賠償求め国提訴 NHK 2023年9月06日