アスベスト被害ホットライン兵庫~●神戸と横須賀の基金共同で7回目

8月26~27日、全国一斉アスベスト健康被害ホットラインが取り組まれた。西日本を中心にアスベスト被害者の補償・救済活動を取り組むNPO法人アスベスト被害者救済基金(神戸市)と、東日本を中心に活動を展開しているNPO法人じん肺アスベスト被災者救済基金(神奈川県横須賀市)との共催で実施されたもので、全国一斉のホットラインは今回で7回目となる。

昨年も全国各地から相談が寄せられ、とくに肺がんやじん肺の患者さんからの相談が多かったことが特徴であった。また、過去にアスベストを取り扱う仕事に従事された方から、健康不安に関する相談が多かったことも特徴であった。昨年のホットラインで相談からその後、労災申請を行い補償につながったケースや、企業に対して責任を求め補償を受けたケースもある。

6月21日に厚生労働省は、2022年度の「石綿による疾病に関する労災保険給付などの請求・決定状況」を公表した。2022年度に全国の労働基準監督署が受け付けた石綿労災の請求件数は1,361件(前年度は1,278件)、支給決定件数は1,078件(前年度は1,012件)で、この数年、請求件数も支給決定件数も1,000件を超える状態が続いている。

また、厚生労働省は人口動態統計に基づき、アスベスト特有のがんである中皮腫による死亡者数の年次推移を公表している。2022年9月16日に公表された2021年の中皮腫による死亡者数は、全国で過去最高の1,635人となっており、年々増加傾向にある。

全国安センタ一の調査によると(1・2月号参照)、中皮腫を発症し、2021年までに労災保険や石綿救済法による補償・救済件数は22,694件となっている。罹患者数のデーターは得られないため、死亡者数を分母として中皮腫の救済率を検証すると22,694/29,848=76.0%となる。アスベスト特有のがんである中皮腫であっても、24%の方がまったく補償を受けていない状況である。

石綿肺がんとして2021年までに補償・救済された件数は9,594件で、中皮腫よりも大幅に少ない状況。石綿肺がんについては、国際的な科学的コンセンサスは中皮腫の「2.0倍」とされているが、環境省の考え方である中皮腫の「1.0倍」という仮定で、中皮腫の死亡者数を分母として計算すると、9,594/29,848=32.1%となり、約68%の方がまったく補償を受けていない状況となっている。

石綿によるじん肺(=石綿肺)が、間質性肺炎などの別の病名で片付けられ、なかなか労災申請に至らないケースもある。本来、労災補償や救済を受けられる被害者やその遺族が、埋もれたままになっている可能性が大である。

神戸と横須賀の両基金は共同でフリーダイヤルを設けており、日常的にも通じて相談を受付けている。西日本地域からの発信電話は神戸に、東日本地域からの発信電話は横須賀につながる設定になっている。

今回のホットラインでは、神戸への着信は合計36件であった。相談者は、圧倒的に関西圏内で、相談のきっかけは新聞やテレピでの報道であった。疾病別では、肺がん11件、中皮腫4件、石綿肺2件、びまん性胸膜肥厚1件で、相談件数の半分は石綿関連疾患と診新された方からであった。また、胸膜プラークの所見がある方から8件の相談が寄せられ健康不安な訴えられていた。

【特徴的な相談】

  • 父が肺がんで死亡。船員として機関部で働いていた。環境保全機構に申請し認定され、船員保検も認定されていた。先日、環境保全機構から建設給付金の案内が届き、手続きを行なっているが、審査が進まず、何度も「取り下げ」を言われている。
  • 義母が泉南の石綿工場で働いていた。平成11年に亡くなったが、病院にカルテも何も残っていない。死亡名も不明。補償を受けることはできないか。
  • 原子力や火力の発電所のプラント配管の仕事をしていた。平成30年から肺がんの疑いで経過観察中。手術をしないと肺がんが確定しない。手術はしたくないが、補償を受けることはできないのか。
  • 主人が悪性胸膜中皮腫で死亡した。医師の協力で環境再生保全機構に申請したが認められず、審査請求を行っている。どうしたらいい?
  • 10年間、造船所の下請け作業員として配管の保温工事や天井への吹付け作業を行なっていた。大学病院で肺がんと言われた。補償を受けることは可能だろうか。
  • 父がびまん性胸膜肥厚と診断された。監督署に申請したが、呼吸機能の検査が行われていないため、担当官が医師に追加の検査を依頼した。主治医は「患者さんと意思疎通ができないので検査はできない」と言っている。どうしたらいい?
  • 父親が肺がんを発症し治療中。高齢のため細胞診、組織診は行なっておらず、医師はXPとCT画像から肺がんと診断。確定診断がなされていないが、認定されるだろうか。
  • 父は自営で窯業を行なっており、窯の周囲にアスベストを使用していた。胸膜プラークがあると診断されているが、大きなものではない。今後、申請を進めるにあたり、どのような点に注意したら良いか?

文・問合せ:ひょうご労働安全衛生センター

安全センター情報2023年11月号