メンタル労災認定・ハラスメント対策ほっとライン/全国●2日間で217件の相談 「職場環境が害されている」現状改善へ

全国安全センタ一のハラスメント部会が中心となり、例年「ハラスメントほっとライン」を取り組んでいる。昨年は、10月10日の世界メンタルヘルスデーに合わせて、コミュニティ・ユニオン全国ネットワークの皆さんにも協力いただき、全国11か所に相談窓口を開設し、97件の相談を受けた。今年は、9月1日に厚生労働省が精神障害の労災認定基準を改正したこともあり、「職場のメンタル労災相談・ハラスメント対策ほっとライン」と題して、10月9日から10日にかけてホットラインを開設した。今年もコミュニティ・ユニオン全国ネットワークとの共催で、全国9か所(札幌・東京・山梨・名古屋・大阪・神戸・岡山・広島・福岡)に相談ポイントを設けた。相談件数は全国で217件であった。

フリーダイヤルを活用

全国安全センターは、ホットライン開設に向けて、10月3日に厚生労働省の記者クラブにおいて会見を行った。また、各地でもマスコミへの周知が行なわれ、全国紙の地域版や地方紙、テレビ・ラジオ・ネットでもホットラインの取り組みが紹介された。

また今回の相談受付は、全国安全センターが開設しているフリーダイヤル(0120-631-202 ローサイSOS)を活用した。このフリーダイヤルの番号が全国放送で流れたこともあり、テレビの放送直後から各地の相談窓口には電話が相次いだ。相談件数は、東京が67件、山梨が3件、名古屋が28件、大阪が46件、神戸が49件、岡山が13件、広島が7件、福岡が4件であった。相談件数が昨年より倍増した要因として、フリーダイヤルの活用と全国放送の影響が大きいと考えられる。

相談の傾向

相談受付表に記載されている記録をもとに相談者の傾向をみると、まず性別では、男性が98名、女性が104名となっており、ほぼ倍数であった。

棺談のきっかけについては、新聞が12名、テレビが145名、その他が23名となっており、圧倒的にテレビ報道を観たことが相談の契機となっていることがわかる。

年代別に見ると、29歳以下が5名、30代が10名、40代が21名、50代が34名、60歳以上が44名となっており、50代以上の方からの相談が多かった。

2022年度の精神障害の労災請求件数では、29歳以下は583件、30代は600件、40代は779件、50代は584件、60歳以上は137件となっている。ホットラインに若い世代からの相談が少なかったのは、前述した相談のきっかけとも関連するが、ウエブを通じてホットラインの取り組みが情報として充分に届いていないことが原因ではないだろうか。

雇用形態別にみると、正規社員が74名、非正規社員が48名、その他が6名であった。相談者の織種は様々であったが、仕事内容を分類すると、製造業・作業員が29名、小売・サービス業が21名、事務職が19名、福祉・施設関係が18名、教育・学校が16名、運輸・物流が11名、指導員・講師が10名、建設業が7名、病院・看護師が6名、公務員が6名であった。

そして、ハラスメントの行為者については、上司が62名、同僚が32名、社長・所長・理事長・校長が20名、先輩が8名、委託先・顧客が4名、正社員が2名であった。行為者が、社長・所長・理事長・校長といった事業場のトップの場合、相談内容の詳細を確認するとすでに「退職」を選択されている方が多く、対応の困難さがうかがえる。また、同僚や先輩が行為者と訴える相談も多く、無視・仲間はずれ・陰口・仕事を教えない・殴る・蹴る・怒鳴る…といった相談内容からも、職場の人間関係がいびつになっていることがうかがえる。

ハラスメントの行為類型

職場におけるハラスメントは様々な事例が起きているが、相談内容を6つの類型に分類すると、①身体的な攻撃 13件、②精神的な攻撃 91件、③人間関係からの切り離し 14件、④過大な要求 27件、⑤過小な要求 7件、⑥個の侵害 11件であった。類型の分類は相談スタッフの判断によるもので、類型に分類できない相談や、複数の類型に該当する相談もあった。

いわゆる「パワハラ防止法」では、①優越的な関係を背景とした言動であり、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであり、③労働者の就業環境が害される、3要素をすべて満たすものと定義されている。先ほど相談内容を6類型に分類したが、実際には「パワハラ防止法」の定義には該当しないと思われる事例が多くあった。

しかし、多くの相談は、人権を侵害する行為であり、職場のギスギスした人間関係や雇用形態の多様化を要因とした、「就業環境が害される」内容であった。

相談内容から見えてくる職場実態

具体的な相談内容について紹介する。

  • 息子が、上司の気分で丸刈りにされた。翌日には新品のYシャツのボタンを全部ちぎられた。
  • 上司から暴行を受け、精神障害に罹患。電話をかけてもガチャ切りされ、暴言を受けている。
  • 社長、上司から食堂で首根っこをつかまれて壁にぶつけられ、何年も前のことの文句を言われた。
  • 10年ほど前に勤めていた会社で、同僚からパカと言われ続け、ハンマーで殴られた。その時に統合失調症になり、今も体調が優れず働けない。
  • 仕事で失敗すると、頭を叩かれたり膝を蹴られたりした。仕事で手間取っていると、「いつまでやってんだ」と怒鳴られた。
  • こめかみをつかまれ倒され、暴力を振るわれ失神した。会社に訴えたが、病院から診断書をもらってこいと求められ、相談したがかたちだけの対応だった。被害届は出していない。
  • 年下の上司から「年くってるな」「自分で考えろ」「おかしいから黙ってろ」等の暴言を受けてる。
  • 入社したが、研修、仕事のマニュアルない。仕事内容を確認すると「自分で考えろテメェー」といわれた。
  • 塾の経営者が生徒の前で怒鳴り散らす。理不尽で高圧的な対応。
  • 過去に自分が備品を盗んだと職場でうわさされ、会うたびに「どろぼう」などと暴言を言われる。この状態が3年間続いている。
  • 同僚たちが、自分の一挙一投足を、自分に聞こえるようにとりあげて話している。
  • 月126時間の時間外労働。夜、職場3名から叱責メールを受信し卒倒した。その後、発作的にベランダから身投げをした。
  • 2023年2月末、タワークレーンから柱が務下し、ヘルメットが大破するほどの事故に遭い、現在8か月目の療養中。会社の上司から、「いつまで休んでいるのか」と出勤を強いられるようになってきた。
  • 他の社員がいる事務所で、大声で怒鳴られたり、机を叩かれたりした。2023年1月に病院に行き、適応障害と診断されたが、我慢して会社に通っている。
  • 「坊主になれ」「養老の滝に行け」「何でお前が課長なんだ」と同僚に言われた暴言等が忘れられず、うつ状態。
  • 教務主任が口をきいてくれない。指示を紙で出される。A4の紙に赤ペンで、何枚も机に貼られる。また、資料を机の上に山積みされる。教頭に相談したが、何もしてくれない。
  • 食品売り場で主任から、お客様がいる前で大声でどなられ、「自分が来るまでに商品を陳列しておけ」と感情的に言われ、不安障害となった。
  • 1か月社内研修後、派遣先に配属された。派遣先の女性社員から「これと同じようにやれ」と指示を受け、やって間違えたら「これくらいできるでしょう」「研修でやったでしょう」とか「マニュアルに出ているでしょう」と言われる。マニュアルを調べたが載っていなかった。
  • 事務職として雇われたが、突然、新部署が作られ自分一人だけが配属となった。社長から、お前は仕事をしていない等と言われ、研修と称して1時間ほどつるし上げをくらった。仕事がなく、会社の掃除をしていたら、余計に社長から不評をかった。
  • 嫌がらせ(制服があちこちに移動されている)を受けた。会社に訴えたが、「誰がやったかわからない。勘違いでないか」と言われた。その件を外部の相談窓口(カウンセラー)に電話したことが本部長に知られ「会社の悪口を言っており、規約に反する行為だ」と言われた。さらに係長との面談において、「なんだその態度は」等と恫喝を受け、その後、配置転換させられた。
  • 前任者から2週間程度で仕事の引き継ぎを受けたが、前任者は辞めて、自分一人でこの業務をやることになった。仕事で失敗するとすべて自分の責任にされたり、業務量が多くて残業すると、どんな仕事のやりかたをしてるんだと叱責されたりする。
  • 就職して2年間の平社員を経た後、3年目で店長を任される。2020年1月にうつ病を発症。勤務時間が月45時間を超えると出勤簿を改ざんさせられ、休憩時間とされていた。
  • 仕事を与えない嫌がらせが1年前から続いている。上司に改善求めたが指導してくれない。労働局にも電話相談した。
  • 同僚に履歴書を見られて、過去の経歴について根掘り葉掘り探られた。
  • 同年代の職場の先輩(女性)が、有給休暇の取得内容について質問してくる。「どうして取得したの?」と。その他の同僚には聞いていない。
  • 派遣社員によるカメラでの盗撮行為が行われた。上司に報告したが、お咎めなし。
  • 主任がデスクの中身を勝手に捨てる。些細なこともネチネチと言われる。

ハラスメント防止に向けた取り組み

厚生労働省が公表した「令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、総合労働相談コーナーに寄せられた「民事上の個別労働紛争」27万2185件のうち、「いじめ・嫌がらせ」が6万9932件(21.1%)となっている。「いじめ・嫌がらせ」に関する相談はずっと1位である。これは、ユニオンへの相談でも同じ傾向である。

ハラスメントの相談は、1件で30~40分の時間を要すことが多い。ところが、労災申請や労働組合への加入や団体交渉につながらないケースが圧倒的である。そして、「パワハラ防止法」の3要素をすべて満たさない相談も多くある。これが現状である。

しかし、今回のホットラインに寄せられた相談内容からも、多くの職場で「職場環境が害されている」ことがわかる。パワハラの3要素をすべて満たさなくとも、就業環境を害するすべての言動をいかに改善していくのか、その取り組みが重要になっている。

安全センターとしては、個人加盟のユニオンや労働組合の皆さんと連携し、信頼される相談窓口となるためのスキルアップと、相談窓口(電話番号等)そのものの周知が求められている。そして、法律が守られているとか、被災者が経済的に救済されるだけではなく、「職場環境が害されている」具体的な問題点を積極的に見つけ出し、被害者や同僚が相談し合い、一緒に問題を考え合い、改善に向けた取り組みを実践していくことが必要である。

ストレスチェック

厚生労働省の「令和4年労働安全衛生調査(実態調査)の概況」によると、「過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者又は退職した労働者がいた事業場の割合は13.3%」となっており、前年の10.1%から増えている。そして、「メンタルヘルス対策に取り組んでいる」と回答した事業所は63.4%で、前年の59.2%から増えている。取り組んでいると回答した事業所の取り組み内容で最も多いのが、「ストレスチェックの実施jで63.1%であった。

ストレスチェックを実施した事業所のうち、集団分析を実施した事業所は72.2%と回答しており、その分析結果を活用した事業所の割合は80.2%となっている。ストレスチェック・集団分析の実施、分析の活用を行なっている事業所の割合が増えれば、本来なら「いじめ・嫌がらせ」相談もメンタル不調者数も減少に向かわなければならない。ストレスチェック制度が「職場環境が害されている」状況の改善に結びついていない原因について、安全衛生委員会の議論についてや労働組合の安全衛生活動の現状についてしっかりと見つめる必要があるのではないだろうか。

安全センター情報2024年1・2月号