役割を果たせない労災再審委員会、救済率は10%にも満たず 2023年10月16日 韓国の労災・安全衛生

勤労福祉公団の判定に不服な場合に被災者が訪れる特別行政審判機関である「産業災害補償保険再審査委員会」(労災再審査委員会)が、本来の役割を果たせていないと指摘されている。2020年以降、毎年4千件を遙かに超える再審査請求が行われているが、救済率は10%にも満たない。再審査の決定過程で現場調査はほとんど行われず、再審査委員会に対する苦情は年々大きくなっている。結局、被災者が金と時間をかけて行政訴訟を提起し、やっと労災が認められる状況が繰り返されている。

現場調査を10件も行わず、請求への苦情は増加傾向

共に民主党のウ・ウォンシク議員が勤労福祉公団から受け取った資料によると、今年8月末までの労災再審委員会の決定件数は444件で、初審が取り消された事件は5.5%(37件)だった。2020年に9.29%だった取り消し率が下がり続けている。一方、再審査の決定に不服として行政訴訟を提起し、裁判所が今年1~6月に判決を行った176件のうち15.9%(44件)で被災者の手を挙げた。労災再審委員会を経ずに直ちに行政訴訟を提起したケース(14.5%)よりも高い。

ウ・ウォンシク議員は「公団の最初の判断よりも、再審査委員会の判断の方が、法的により不十分だという意味」だとした。

労災再審委員会のパッシング現象も現れている。昨年から今年6月までに、労災再審査委員会を経ずに行政訴訟を提起して判決が確定したケースは1208件、労災再審査委員会を経た後に行政訴訟を提起して判決が確定したケースは799件だった。申請した労働者が労災再審委員会が初審の判定を正すことを期待していないという意味だ。

労災再審委員会が事件を一つを処理するのにかかる時間は、昨年はで3.8分に過ぎなかった。年間の事件処理件数を審理会議の時間で割った数値だ。2022年の現場調査は7回実施された。請求に対する苦情は増え続けている。2021年に79件だった苦情は、2022年には約2倍の148件になった。

審査委員の72%は医療界関係者、委員長は労働経験が皆無

労災再審委員会の問題の背景には、委員の資質の問題がある。委員90人の内、72%(63人)は医療関係者で、法曹界と労働界はそれぞれ19%(17人)、3%(3人)に過ぎない。希少がんのような先端産業関連の疾病は、医学的な因果関係を明確に証明することが難しいケースがほとんどだが、医療界の委員が中心となって医学的な判断をして、被災者の救済を難しくしているということだ。

パノリムによれば、半導体・ディスプレイなど電子産業に従事して職業性がんに罹り、被災者が労災を申請した29件は、全て勤労福祉公団の審査、労災再審査委員会の再審査を経ても、労災を認められなかったが、行政訴訟を提起した後に労災と認められた。

公認労務士のイ・ジョンランさんは「勤労福祉公団が一次的に救済を誤って、4700件も異議申し立てが集中すること自体が問題だ。」「しかし(労災審査委員会の)救済率はさらに下がり、被災者は時間と費用が多くかかる行政訴訟手続きまでを選ぶことになる」と指摘した。「結局、時間と費用をかけることができる労働者だけが(行政訴訟に)行く」とし、「移住労働者、非正規職、低賃金労働者など、被災の危険が高い人たちの権利が救済されていないのが問題」と強調した。

ウ・ウォンシク議員は「労働部が労災再審査委員会に対して徹底した組織診断をすべきだ。」「専門性のある委員長を選任するための開放型公募と、医療人中心の構造を改善するための委員比率改善も検討すべきだ」と批判した。2016年以後、労災再審査委員会の委員長は、保健福祉部、国務総理室、国務調整室の出身で、労働分野で仕事をした経験がない人たちが当たった。現在のチョ・ホンナム委員長の直前の職責は、国務調整室市道自治支援団副団長だ。

2023年10月16日 毎日労働ニュース カン・イェスル記者

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