全世界の過労死一年に74万人・・・「国際基準」に逆行する政府 2023年3月8日 韓国の労災・安全衛生
政府が延長勤労時間を増やし、最大週80.5時間(7日勤務基準・6日69時間)まで働けるようにする内容を核心とする『勤労時間制度改編方案』を発表した後の論争が絶えない。
国際社会は長時間労働で毎年数十万人が死に至っており、国がこれを予防する法・制度を準備するように勧告しているが、韓国政府は国際基準に逆行していると指摘されている。
世界保健機関(WHO)と国際労働機構(ILO)は2021年に共同して、長時間労働による全世界人口の人命被害研究結果を発表したという経緯がある。該当の論文によると、2016年の一年間、週当たり55時間以上の長時間労働によって、虚血性心臓疾患と脳卒中による死亡者は、74万5千人に達すると分析した。2000年(58万人死亡)から16万5千人増えた。研究陣が週35~40時間働いた労働者と、週55時間以上働いた労働者の、心臓疾患・脳卒中死亡危険を比較した結果、各々17%、35%高かった。
過労が労働者の死亡に繋がる経路は二種類に分析される。一つ目は、ストレスホルモンを過剰誘発して、身体に直接損傷を与えること、二つ目はストレスが喫煙・飲酒・睡眠不足など、健康でない生活習慣を誘発し、間接的に健康を害することだ。
WHOとILOは共同研究の結果を土台に、政府と雇用主、労働者団体に、国際基準に符合する労働時間の制限を設定し、休憩時間と有給休暇など、労働者の保護方案を内容とする法制度を作ることを勧告した。ILOは「勤務時間を週末や夜間に移すなど柔軟に調整しても、労働者の健康に否定的な影響を与えてはならない」とし、WHOは「労働者の勤務時間が週55時間を越えてはならない」と勧告した。
勤労福祉公団が出した資料によれば、2016年の韓国では、577人が過労による脳・心血管系疾病で亡くなり、労災承認を申請した。この内、150人(労災承認率26%)が労災認定を受けた。労災の承認率が低かったのは、当時、雇用労働部の告示(脳血管疾病または心臓疾病および筋骨格系疾病の業務上疾病認定可否決定に必要な事項)が、過労の基準を週60時間(発病前12週間)と高く設定したためだ。労働部は2018年、この基準を52時間に下げ、以後の労災承認率は40.75%(2020年)まで高まった。2020年には670人が過労で亡くなって労災を申請し、273人が労災と認められるなど、過労で亡くなる労働者は増えている。法定労働時間の減少にも拘わらず、現場では労働者の健康を無視した長時間労働が蔓延していることを傍証するものだ。
それでも韓国政府は、健康のために労働時間を制限する基準が「高度化する産業と職業、多様化した労働者の需要を反映できず、企業の革新と個人の幸福追求を妨害」とし、週69時間(最大80.5時間)にまで増やそうとしている。政府は改編案が施行されれば、一時的に長時間労働ができるが、延長勤労時間を総量で管理するので、休む時により長く休むことができると主張する。一年を見れば、労働時間が週48.5時間を越えることはないということだ。
しかし、長時間労働だけでなく、不規則な労働時間も健康に否定的な影響を及ぼす。アメリカの産業医学ジャーナルに掲載された論文によれば、脳心血管疾患で労災認定を受けた労働者1042人を対象に分析した結果、発病前の一週間の労働時間が、発病前の8~30日に比べて10時間増えると、脳心血管疾患の危険が1.45倍に増えた。産業安全保健研究院のイ・ウンヘ研究員の分析では、週52時間を越えなくても労働時間が不規則なら、労働者の不安障害が5倍まで多く発見された。カトリック大学校・ソウル聖母病院のキム・ヒョンリョル教授はこのような内容を土台に、「長時間労働をしない労働時間柔軟化は不可能だ」とし、「労働時間柔軟化は、長時間労働の問題と不規則な労働時間の問題を同時に持っている」と指摘した。
韓国労働安全保健研究所のチェ・ミン常任活動家(職業環境医学専門医)は<ハンギョレ>に、「労働者が健康を害しながら長時間働かないように監督し、保護するべき政府が、超過労働を法的に許容すると言い出した」、「WHOとILOが勧告する上限労働時間(週55時間)を遙かに越える週69時間勤務を可能にし、国際基準、労働者の健康権を云々するのでは話にもならない」とした。
2023年3月8日 ハンギョレ新聞 イ・ジェホ記者