現場労働者「安全装置の設置が不可能な現場はない…結局は『金』の問題」 2019年11月25日
落ちた瞬間、何の考えも浮かばなかった。「私は死んだのか?死んでいないのか?」運良く墜落防護ネットに落ちたが、ネットに架かった時も、完全に生きているとは思わなかった。「一緒に落ちた材料がぶつかるのではないか?」3分余りで正気に戻って、何とか動こうとした。携帯電話を取り出して119に連絡した。
建設現場で働く型枠大工のKさん(25)は、三回も墜落事故を経験した。2016年7月に3Mの高さの作業床と足場の間から墜落した。2017年4月には、5Mの高さで固定されていなかったパイプを、指示された通りに掴んだら落ちた。同じ年の11月には、システム足場の片方の端を踏んだせいで、資材と一緒に5Mの高さから墜落した。膝にヒビが入るなどの怪我はしたが、幸い三回とも墜落防護ネットがあって、命拾いをした。
墜落事故は労働者の死亡事故のうちで最も多数を占める。Kさんの最初の事故のように、作業床と足場の間から墜落したり、正しく手摺りが設置されずに発生した事故は、昨年から今年9月末までに16件もあった。固定されていない脚立や足場、高所作業台で作業していて落ちた事故は43件にもなった。正しく固定されていない踏み台がひっくり返る事故もしばしば発生した。
事故の半分以上が建設現場で起こった。現場労働者の声を聞くために、現職の建設労働者3人と話した。ハン・ギョンシク建設労働安全研究院長(47)は、建設現場で20年以上働いている。キム・サンオクさん(50)は、27年間クレーン・オペレーターとして働いている。型枠大工のパク・ジェウォンさん(仮名・61)は、経歴27年の労働者だ。
雇用労働部は今年1月1日から、脚立の上での作業を全面禁止した。最近10年間に、脚立の上で作業していてケガした労働者が3万8859人で、死亡者だけで317人に達したためだ。
労働部は脚立を上下に移動する通路としてだけ使えと言った。作業のためには、作業床があって、4本の脚で支える移動式足場かビティー足場を設置するように、という指針を出した。事業主が労働者に脚立を作業台として使わせて摘発されれば、5年以下の懲役か5000万ウォン以下の罰金刑に処されることになった。この指針が出されると、直ぐに業界が強く反発した。足場が組めない狭いところや、いつも足場を移動させなければならない状況では、難しいということだった。労働部は3月に指針を改正した。狭い場所と軽作業に限って、二人一組で作業をし、高さが3.5M以下なら可能だとした。
現場労働者は、結局「費用の問題」だと話した。「どんな所でも足場を設置することはできる」、「足場は1Mでなく、25CMも製作は可能だ。切ったり新しく製作すれば、何倍かの費用がかかる」ということだ。「施行もしない内に、業者の抗議を受けて変えたようだ」と話した。
現場の労働者は、個人よりも構造が問題だと口をそろえた。「100ウォンの工事が、下請けすれば80ウォンに、その下に再び降りて行けば60ウォンに、実質的な一番下は40~50ウォンで工事をする」。「そうなれば結局、労働強度は高まり、労働時間が長くなる」と話した。このような構造で仕事をすれば「安全装備を完全にして、ノロノロ仕事をするのには耐えられない」ということだ。
「ある建物を作ろうとすると、設備、水道、塗装、窓など、色々な業者が一緒になる」。「窓を一つ作るにも、色々な業者がきて作業をしなければならないが、このような一件ごとが多段階下請けだから、早く、もっと早くしなければならない」と話した。
2~3段階の下請けが入るので、労働者がどこからきたのか、誰なのかも互いに知らずに作業をする。現場安全教育や管理が難しい構造だ。「ある下請け労働者の家から、連絡が取れないと私たちに電話がきたが、私たちも誰なのかを知らないので、教えることができなかった」と話した。
労働者は現行法上、専門業者までは外注できるようになっているが、それ以上の下請けも多いといった。業者はいちいち労働者に労賃を支給して管理するよりも、一定金額を払って下請けに任せる方が気楽だ。工程だけを守れば良いからだ。下請け業者も中間で利潤を上げる。1人当りの労務賃が24万ウォンと決まれば、チーム全体にまとめて支給され、下請け業者が熟練度によって割り振り、その中から本人の取り分を取っていく構造だ。
現場の労働者は、不法下請けを取り締まるのは難しいと話した。「勤労監督官から見れば直雇用の形に見えるが、自分たち同士が勤労契約を書いたようにするからです」。不法下請け問題は、死亡事故の時に正しく責任を問うことができないことにも繋がる。「すべての現場が元請けの直雇用になれば、事故も減る」と話した。
ダンプや掘削機、リフトなど、工事・荷役車両による事故も多い。バックして労働者をひく事故も多く、車両が転倒して下敷きになる事故も普通にある。作業通路と労働者の通路を区分せず、誘導員や信号士を配置しなかったという原因分析がたくさん出ている。「正しくしているところは5%にもならないだろう」と話した。
信号士は装備当たりに1人ずつ配置しなければならないが、そのような現場は探すのが難しい。信号士も、服装と装備を整えて、関連の教育を受けて、信号方法も共有すべきなのに、形だけ配置されているという指摘もあった。「専門的な信号士を教育しなければならないのに、その日その日に来る、一回だけの人を使っている」と話した。
災害調査意見書は作業計画書を書かず、事前に危険性の評価をしていないという点を指摘する。「作業計画書を書くところは時々あるが、それは大きな業者や現場で、それすら、現場の労働者は除いて、担当者だけで書いている」と話した。
キム・ヨンギュンさんの死亡事件を契機に、産業安全保健法が28年振りに全面改正された。元請けの責任が一部強化されたりもしたが、最初の議論とは違って、大幅に後退したという指摘も出た。「今でも産安法は請負事業の時の、元請けの安全措置と義務を規定しているが、実際に死亡事故が発生しても、処罰は正しくできていない」。「人が1人死んだのに、元請けには罰金400万ウォン程度しか課せられない。このような構造で、事業主が安全に投資するか」と反問した。
2019年11月25日 京郷新聞 ファン・ギョンサン記者