がんを打ち負かす-欧州の環境の役割-European Environment Agency(EEA), 2022.6.28

欧州環境機関(EEA)は2022年6月28日に、「がんを打ち負かす[Beating cancer]-欧州の環境の役割」と題したウエブ報告(1)と「汚染への曝露が欧州の全がん症例の10%を引き越している」というニュース記事(2)をアップロードした。

このウエブ報告は、欧州におけるがんの環境・職業的決定因子に関する証拠とEUによる政策対応の簡単な概要を提供している。

EU-27か国で毎年、270万人の新しい患者ががんと診断され、130万人が亡くなっている。修正することが可能なリスク要因は、欧州におけるがん症例の約40%を占めている。そうした外因性リスク要因には、ライフスタイルに関連したもの(例えばタバコの使用、肥満、食事、飲酒など)、一部の感染症、発がん性化学物質への環境・職業曝露、紫外線、室内ラドンや大気汚染がある。がんの環境・職業リスク要因は修正することが可能であり、行動、環境、プロセス、規制や政策の証拠に基づいた介入を通じて低減することができる。2019年の欧州の全がん死亡の9%は、環境・職業要因によるものと推計されている(GBD2019)。国レベルの研究によれば、環境・職業要因が欧州のがん症例の10%を引き起こしているかもしれない。さらに、これらの推計は知識のギャップや不確実性のために方法論的に保守的であり、環境・職業リスクへの曝露の実際の寄与を過小評価している可能性が高い。

「環境リスクとがんとの関連」として、大気汚染、ラドン、紫外線、化学物質、受動喫煙、アスベストについては別途情報を提供しており、アスベストに関する情報が別稿で紹介するものである。

続いて、「環境・職業リスク要因に対処するEUの様々ながん予防イニシアティブ」について、以下のように解説。

「欧州ビーティング・キャンサー計画」は、がんに対する流れを変えるための政治的コミットメントであり、がんの予防、治療及びケアを改善する緊急の必要性に対するもっとも新しいEUの対応である。この計画は、発がん物質への曝露を低減させることを明確に約束している。そのフラッグシップ・イニシアティブのひとつが「欧州がん不平等登録」であり、加盟国間におけるがんの発生率、傾向及び不平等を確認することを任務としている。

「EUキャンサー・ミッション」は、「欧州ビーティング・キャンサー計画」と共同で、予防と治療を通じて2030年までに300万人以上の人々の生活を改善し、また、がんに罹患した人々とその家族に、より長く、よりよく生きる糧を提供することを目標にしている。このミッションには、4つの具体的目標があり、そのうちのひとつは具体的にがんの予防に関するものである。

「欧州対がんコード」は、受動喫煙、紫外線や様々な汚染物質などの環境リスク要因をカバーした証拠に基づく勧告に従うことによって、それらのがんのリスクを低減するためにとることのできる行動を人々に知らせる、欧州委員会のイニシアティブである。

「がんに関するロードマップ」は、欧州委員会、EU-OSHA[欧州労働安全衛生機関]、欧州社会パートナー及び一部の加盟国が、職場における発がん物質への曝露によって生じるリスクについての注意を喚起し、グッドプラクティスを交換するための自主的な取り組みである。

「がんに関するナレッジーセンター」は、独立的な、証拠に基づく科学的協力を進展させるとともに、欧州委員会のがんに関連した政策・活動を支援している。

その他にも、がん予防の様々な側面や環境・職業がんリスクの低減が果たしうる役割に関連した、いくつかのEU規模のイニシアティブ・科学委員会やEUが資金提供する研究プロジェクトがある。これらの活動は、欧州委員会の「政策のためのナレッジ・プラットフォーム」によってマップ化された、直接・間接の関連性と相乗効果をもっている。

最後に、以下のような「結論」を示している。

環境・職業がんのリスクは本質的に予防可能であり、それらを低減することは欧州におけるがんの負荷を低減するための鍵である。さらに、人々ががんのほとんどの職業・環境決定因子から自らを守る範囲は限られており、規制的介入と政策実行をとりわけ必要かつ適切なものにしている。政策と規制は、(職業上のものを含め)曝露の防止と汚染の低減のために割り当てられる十分な資源によって裏打ちされる必要がある。

いくつかの環境・職業発がん物質への曝露が減少傾向にあることは心強いことではあるが、それだけでは十分ではなく、また一般的な傾向を示すにはほど遠い。がんの症例は過去の曝露を反映する傾向があるため、曝露の減少傾向ががんの発生率に反映するには何年もかかるだろう。

データが不完全であり、不確実性も高いものの、既存の科学的証拠は、環境・職業曝露を低減することが、がんリスクを低減するための効果的かつ費用節約的な戦略であることをしっかりと支持している。さらに、発がん物質への環境・職業曝露の実際の寄与をかなり過小評価している可能性がある。容易に正当化できる予防原則のもとで汚染を低減させる断固とした行動をとるために、環境リスクからがん症例に至る因果関係の経路のすべての段階を完全に理解する必要はない。

(1) https://www.eea.europa.eu/publications/environmental-burden-of-cancer/beating-cancer-the-role-of-europes
(2) https://www.eea.europa.eu/highlights/pollution-and-cancer

安全センター情報2022年10月号