長時間労働が蔓延しているのに・・週52時間制の柔軟化は「過労社会への回帰」 2022年7月13日 韓国の労災・安全衛生

労働時間の管理単位を「週」ではなく「月」に変えれば、一週間に80時間以上仕事をする事例が出る可能性があり、労働界は「過労社会への回帰」だと批判している。/キム・サンミン記者

「IT業界では、殺人的な長時間労働で過労死したり、自ら命を絶つ残念なことが繰り返されています。人は機械ではありません。労働者を『入れ替える』のではなく、与えられた時間内に効率的に仕事ができる環境改善のために努力してください。クリエイティブなアイデアでグローバル企業と競争する競争力は、十分な休息と安定性から生まれると思います。私たちの健康を、自ら守れるようにして欲しいということです。」

民主労総化学繊維労組IT委員会のオ・セユン委員長が13日『尹錫悦政府の労働時間柔軟化政策対応』討論会に参加して、このように証言した。一緒に参加した金属労組現代自動車支部・ナムヤン研究所委員会のイ・サンミン政策部長は、「事業の開発段階によって、特定の時期に業務が偏重されて労働が集中する時がある。この場合、週52時間を遙かに越えるにも拘わらず、管理者の顔色を窺って正しく記録できない」。「労働時間の柔軟化は労働強度の解消を労働者に転嫁する結果に繋がりかねない」と憂慮した。

労働界、週52時間制の柔軟化は「過労社会に回帰」

尹錫悦政府は「週52時間制」を見直すと明らかにした。労働時間の管理単位を「週単位」ではなく「月単位」に変えるということで、この計算通りにすれば、一週間に80時間以上仕事をする事例が現れかねず、労働界は「過労社会への回帰」と批判している。

この日の国会討論会では、労働時間の柔軟化による労働者の健康権を憂慮する声が多数出てきた。民主社会のための弁護士会・労働委員会のジョン・ダウン弁護士が提供した、世界保健機関(WHO)と国際労働機関(ILO)の共同研究報告書(2021年5月)によると、週55時間以上の勤務で、2016年の1年間に39万8000人が脳卒中で死亡し、34万7000人が虚血性心不全で死亡した。35~40時間の労働者と比較して17~35%程多い数値だ。ILOは長時間労働が精神・身体・社会的に及ぼし得る影響を考慮し、各国政府が勤労時間の問題を「深刻に考慮するべきだ」と指摘している。

韓国労働安全保健研究所などの資料によれば、一日8時間以上働く場合、8時間勤務した労働者よりも各種の事故の危険が50%程高く、10時間以上の労働が週二回続けば、憂うつまたは不安障害も高くなる。

政府は11時間連続休憩時間制度と勤労時間貯蓄口座制などを前面に掲げている。過労死予防のために、勤務日の間に少なくとも11時間の休憩時間を導入し、延長・夜間・休日労働などは、労働時間を「積み立て」しておいて、原則的に休日または休暇などで補償しようという趣旨だ。

『11時間連続休憩』など、過労死は予防できるか

昨年8月10日、参加連帯、アルバイト労組、韓国非正規労働センター、民弁など労働市民社会団体が、包括賃金制規制指針発表要求記者会見を行い、政府の即刻の措置を要求した。/キム・ギナム記者

 労働界は実効性に疑問を提起している。一日基準での労働時間上限がない現実で、11時間連続休息時間制度では大きな効果は得られないということだ。欧州連合(EU)指針は、一日24時間当たり、最低11時間の連続的な休息時間制を運営し、事実上、一日の労働時間の上限は13時間と定めている。一週間基準での平均労働時間が48時間を超過しないようにしている。民主労総のチェ・ミョンソン労働安全保健室長は、「一日の労働時間の上限がなく、深夜に仕事を終えても交通手段などの問題で退勤できずに連続勤務をする場合がある」とし、「また、連続休息時間制度は、それに伴う人員の増員がなければ、労働時間の長さは短縮されず、健康権の侵害は続く」と指摘した。  現在、ほとんどの労働者が年次休暇も使い切れない状況で、勤労時間貯蓄口座制がきちんと導入できるのかも疑問だ。雇用労働部の資料によると、2020年基準で、5人以上の事業場5000ヵ所の平均年次休暇消化率は63.3%で、2019年(75.3%)よりも減少した。年次休暇の未消化の理由について、「仕事量の過多または代替人員の不足」という応答が54.8%で最も高く、「未利用年次休暇に対する金銭的な補償」(24.9%)がその後に続いた。ソウル科学技術大学経営学科のチョン・フンジュン教授は、「企業が悪用する心配が強く、実際の労働者には実所得が減少するおそれがある」と話した。

討論に参加した労働・市民団体は、政府の労働時間柔軟化政策の再考の必要性を主張し、包括賃金制の廃止が急がれると話した。超過労働時間に関係なく、賃金を一括で計算して支給する包括賃金制はそのままにしておきながら、労働時間の柔軟化だけを前面に出すことには問題があるという指摘だ。オ・セユン委員長は「包括賃金制は長時間労働を可能にする制度であり、先ず廃止されるべきだ」と話した。「職場の甲質119」のオ・ギョホ執行委員長は、「労働時間算定が難しいケースでもないのに、包括賃金制が職場で広範囲に悪用されている」、「使用者たちは右手に包括賃金制という刀を持っているが、今度は左手に『週92時間』という斧を与えようとするものだ」と批判した。続けて「政府がするべきことは、不法と便法の包括賃金制を規制し、管理監督を強化することだ」と話した。

経総のファン・ヨンヨン労働政策本部長は、「韓国は先進国に較べて労働生産性が低い。経営界は勤労時間の総量を増やそうと言っているのではない。52時間制の中で柔軟に利用して生産性を高め、個人と企業が共に発展すべきだという提案だ」と話した。労働部のパク・ジョンピル勤労監督政策団長は、「勤労時間の短縮基調を維持するのが、政府の政策方向だ」と話した。

2022年7月13日 京郷新聞 ユ・ソンヒ記者

https://www.khan.co.kr/national/national-general/article/202207131631001