老人ホーム事務職員の新型コロナ感染、労災認定されるも、症状は持続●東京

2021年3月、都内のT病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)から、新型コロナウイルス感染症にの患者さんについて相談を受けた。

Aさん(女性、53歳)は有料老人ホームで事務職として働いていた。2021年1月19日、施設で入居者が発熱し、PCR検査の結果、陽性となった。

入居者、職員全員にPCR検査を実施したところ、多数の感染が判明し、施設内で新型コロナウイルスによるクラスター感染が発生したことが確認された。AさんはPCR検査の結果は陰性だったため、通常の業務を続けた。事務室は非常に狭く、職員間の距離は1メートルの近さだった。発熱している入居者を居室に誘導したり、施設内の売屈で品物を入居者に販売もした。

1月末の深夜、悪寒がして検温すると38度、翌朝40度まで体温が上昇し、頭痛と軽い倦怠感があった。保健所の指示で受けたPCR検査結果は陽性、新型コロナ感染が判明した。

2月1日からホテル療養となった。食欲がなく、強い倦怠感、サチュレーション(SpO2・酸素飽和度)が94%ほどに低下、体温も37.5度~38度のため、2月5日にT病院に入院することになった。CT検査では両肺が真っ白で肺炎を起こしていた。酸素量も4リットルになり、SpO2は80%に低下。

2月8日に重症化に備えて別のK病院に救急搬送された。ステロイドが処方され、血液サラサラの筋肉注射を1日2回うった。幸い症状は急変することなく、酸素量も3リットル、SpO2も90%前半台となり、息苦しさは残るものの、3月2日に退院。その後は在宅で療養することになった。

3月半ば、T病院でCT検査後、在宅酸素の設置が決まり、在宅看護師から在宅酸素の使い方、酸素使用時のパイタルの確認などを教えてもらい、MSWのSさんから労災申請を勧められました。最寄りの労働基準監督署に出向き、労災請求書の5号、8号の記入の仕方等教えてもらい、リーフレットをもらった。
会社に労災請求書を郵送し、事業主の証明を依頼したものの、いつまでたっても返送されてこない。不安になったAさんは、東京労働安全衛生センターに相談の電話をかけた。

4月半ば、当センターの内田と飯田がT病院を訪問し、AさんとMSWのSさんと面談。労災請求するために会社や主治医への対応について打ち合せをした。Aさんの感染源は施設のクラスター以外になく、家族にも感染者はいなかった。初回のPCR検査結果陰性から9日後の発熱までの期間、職場の業務以外で感染者との接触はない。一方、主治医は、新型コロナ感染症後、Aさんの呼吸障害の状態を「COVID感染症及び後遺症による器質化肺炎」と診断していた。

新型コロナ感染症の合併あるいは継続する症状は多様である。強い倦怠感、微熱、臭覚・味覚の喪失、食欲不振、メンタル不調などのほか、Aさんのように退院後にも肺機能が低下し、強い呼吸困難に苦しむ方もいる。Sのような事情を踏まえ、主治医にも理解を求め、8号の傷病名を「COVID-19」と記載していただくことにした。

その後、7月には労災認定され、Aさんは安心して療養することができるようになった。

Aさんの新型コロナ感染症の労災認定の取り組みでは、①老人介護施設でクラスター感染によることが明か、②PCR検査陽性→ホテル療養→T病院入院→重症対応のためK病院転医→在宅療養と適切な医療を受けられた、③MSWへの相談と当センターにつながったことが労災認定に結び付いたと思われる。

現在、Aさんは在宅酸素を受けながら生活している。主治医からは、呼吸器障害の回復は難しいと言われているそうである。当面、労災での療養、休業を続けながら、職場復帰に向けた会社との話し合いや労基署への対応など、今後も相談していくことしている。

文/連絡先:東京労働安全衛生センター

安全センター情報2021年12月号