人を傷付ける有毒物質、無許可で製造・流通まで 2022年3月29日 韓国の労災・安全衛生

金海市の自動車部品メーカーのテフンR&T事業所で5年間洗浄の仕事をしてきたAさんが体調に異常を感じたのは、先月初めだった。吐き気がして頭痛がひどかった。胃腸に問題があると思って内視鏡検査を受けた。薬を飲んでも吐き気が続き、肝臓の検査を受け、半月後の17日に入院した。その頃、トゥソン産業で集団職業性疾病が発生したという事実が明らかになった。

Aさんは、テフンR&Tで急性肝中毒の症状で入院した二人目の労働者だ。現在は退院して薬を飲んでいる。Aさんは電話取材に対し、「今は肝臓の数値が正常に戻ったが、いつ再発するか分からないというので心配だ。全身にじんましんが出て苦労している」と話した。

今年2月、テフンR&Tとトゥソン産業では、洗浄工程で働いていた労働者が集団でトリクロロメタン中毒になったことが明らかになった。急性中毒でトゥソン産業で16人、大テフンR&Tで13人の職業性疾病患者が発生した。調査の結果、製造から販売まで総体的な不法行為があったことが判った。

両社に洗浄剤を製造して納品したユソンケミカルは、環境部から「トリクロロメタン」を製造できる営業許可を受けていなかった。化学物質管理法によって、有毒物質や制限物質など、有害な化学物質を製造・販売するためには、環境部から営業許可を受けなければならないが、トリクロロメタンの製造については許可申請すらしていない無許可の企業だった。また、製品を納品する際、成分情報を表記する物質安全保健資料(MSDS)に、「トリクロロメタン」ではない別の物質を表記して企業に提出し、雇用労働部には提出すらせず、過料処分が下された。環境部はユソンケミカルを慶尚南道警察庁に告発した。

問題になった有毒物質は、製造だけでなく販売でも違法があった。ユソンケミカルが製造した洗浄剤は、卸売業者を経て、トゥソン産業やテフンR&Tに販売された。ところが、これらの卸売業者も販売許可を受けていないことが判った。

なぜ、こうした毒性物質が無許可企業で製造・流通され、数十人が疾病に罹るまで放置されたのか。先ず、有害化学物質の製造・販売許可と規制は環境部が、使用に関する指導・点検は労働部が行うなど、業務の二元化が死角地帯を作ったと指摘されている。当初、洗浄剤取扱事業場は、洗浄剤の主成分としてジクロロメタンを使用してきた。2019年10月、環境部がジクロロメタンを有毒物質に分類し、混合物含量基準を0.1%に強化したことで、企業は代替洗浄剤を見付けなければならなかった。代替洗浄剤を探す過程で、安全性を考慮せず、未規制の化学物質を選んだ事例があると労働部は把握している。

正義党のカン・ウンミ議員が韓国産業安全保健公団を通して確認した資料によると、ユソンケミカルがテフンR&Tに提供したMSDSには、ジメチルカルボネートの含有量が70%と記されている。しかし、実際は40%に過ぎず、トリクロロメタンが30%ほど含まれていた。この30%は、法定許容基準値(10%)の3倍になる。労働環境健康研究所のイ・ユングン所長は、「これを機に化学物質に関する業務を全体的に検討する必要がある」と話した。労働部と環境部は、今月28日から4週間、洗浄剤の製造・輸入・流通業界全般に対する合同点検に着手した。化学物質に関して環境部と合同点検を行うのは今回が初めてだ。

成分分析が別途に行われなかったことも、重大災害を防げなかった理由だ。環境部と労働部は有害化学物質の成分を分析していない。労働部によると、化学物質に対する昨年1年間の明細書が発給され、このうちMSDSが提出されたのは約5万3000件だ。公団の関係者は「EUとアメリカは『安全な塩素系洗浄剤はない』ということを認め、水を主成分に、超音波などによって洗浄できるシステム(水系洗浄システム)に変更している。」「韓国も根本的な制度改善を考えなければならない」と指摘した。

2022年3月29日 京郷新聞 ユ・ソンヒ記者

https://www.khan.co.kr/national/labor/article/202203292202005