過重な業務? 労働時間よりもストレス要因を見た大法院 2022年1月19日 韓国の労災・安全衛生

資料写真/イメージトゥデイ

新しく就職した病院で、職員の延長勤務手当ての最小化対策をまとめるように要求されて業務の圧迫に苦しみ、脳出血で死亡した薬剤師に対し、大法院が業務上の災害に当たると判決した。

大法院三部は、総合病院の薬剤師Aさん(死亡当時40歳)の配偶者が、勤労福祉公団に提起した遺族給与と葬儀費用の不支給処分取り消し訴訟の上告審で、原告敗訴の判決を破棄し、事件をソウル高裁に差し戻した。

Aさんは約1年6ヵ月間を薬剤師として勤務し、16年12月に唐津の総合病院に短期契約職の薬剤課長として転職した。1カ月後の17年1月、誤って医薬品を調剤して患者のBさんに渡した。

翌日、この事実に気付いたAさんは、Bさんの配偶者を尋ねて、間違って処方した薬を返してもらい、新しい薬を渡した。この過程で、Aさんがよろめいて転倒し、Bさんの配偶者が助け起こした。薬品の誤製造以後もAさんは仕事でのストレスに悩まされていた。病院は、Aさんに薬剤課の職員の延長勤務手当てを最小化する案を作るするよう求めた。また勤務時間外にも薬剤とシステムの改善案で苦悩したが、この過程で看護部と意見が衝突した。

転職後に頭痛が起きたAさんは、同年1月31日、漢方医院の診療を受けた。そして翌日、普段通りに帰宅した後、自宅で倒れた。Aさんを発見した夫が救急車を呼んで病院に搬送されたが、10日後に死亡した。詳細不明のくも膜下出血による脳浮腫が死因だった。

遺族はストレスによる業務上の災害だとして、遺族年金と葬儀費の支給を公団に申請したが、「客観的な業務上の負担要因は確認できない」として拒否された。遺族は2019年8月に訴訟を提起した。

一審は業務上の災害だとして遺族に軍配を挙げた。判決は「Aは薬剤課長としての業務を完璧に遂行しようとする業務上のストレスによってくも膜下出血に至ったと判断されるため、死亡と業務との間の相当因果関係が認められる」とした。

特に病院の「延長勤務手当最小化案」の要求がストレスに影響を及ぼしたものとみられる。同地裁は判決理由について、「病院側の要求は、職員の利益と相反するもので、A氏は職員への説得と調整が必要だったとみられる」と説明した。短い経歴にも拘わらず、薬剤課の総責任者を務め、相当なストレスを受けたという趣旨だ。

医薬品誤製造による業務能力評価の悪影響への恐れや、薬剤課のシステム改善策作りに関するストレスも、業務上の災害認定の根拠として取り上げた。これと共に、普段から脳血管系の疾患がないという点も考慮した。

一方、控訴審は、「精神的ストレスが脳出血を起こしたと見ることはできない」とし、遺族の請求を棄却した。裁判所は、業務時間が事故前の4週間で1週平均40時間程度に過ぎず、過重な業務に苦しんだとは考えにくいと判断した。

しかし、大法院は、「業務と死亡との間の相当因果関係が認められる」とし、控訴審を再び逆転した。裁判部は判決理由について、「Aさんは脳動脈瘤の危険因子を持っていた状態で、薬剤課を統括する地位への業務上の環境変化や、薬剤課の整備、誤製造事故などによるストレスで、従来の疾患が自然的な進行経過以上に急激に悪化し、くも膜下出血として発現し、死亡したと考えられる」と述べた。

Aさんの遺族を代理したキム・ヨンジュン、キム・ウィジョン弁護士は「業務時間と実際の不利益があったかだけで業務との関連性を判断するべきではないのに、これを誤って判断した原審を訂正した判決」とし、「病院の鑑定でなく、社会規範的な観点から脳心血関係疾患について結論を出したということに意義がある」と話した。

2022年1月19日 毎日労働ニュース ホン・ジュンピョ記者

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