ILO:労働における有害な化学物質への曝露と結果としての健康影響:グローバルレビュー(2021.5.7) 知見の概要:パーフルオロ化学物質

[訳注:「Perfluorinated chemicals(PFAS)」と表記されている。]

▶1930年代に誕生したパーフルオロ化学物質(PFAS)には、炭素鎖に結合したフッ素原子を含む4,730種類以上の人工化学物質が含まれる。パーフルオロオクタン酸 (PFOA)とパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS) は、もっとも長く製造されており、環境中にもっとも広く存在し、現在までにもっとも研究されているPFASである。

▶PFASの化学組成はそれを、撥水・撥油性、高温・低温での安定性、摩擦低減効果のあるものにし、多くの消費者製品にとって重要な添加剤にしている。

▶PFASは、繊維製品、紙製品、食品接触材料、半導体、自動車・航空宇宙部品、調理器具、食品梱包、防汚加工された衣類や消火用フォームなど、様々な製品に使用されている。

▶PFASは、様々ながんと関連しており、また、免疫機能、内分泌機能や乳房の発達に影響を与えることが知られている。

▶生物学的性は、PFASへの曝露による影響や生物濃縮・クリアランスに影響を与える可能性がある。PFASは非常に広く使用されているため、曝露と健康影響についてのジェンダー影響を評価することは難しい。研究では、男性と女性の消防士双方の血液中のPFASレベルの上昇が示されている。

主要な曝露業種:化学産業、飲食料品・たばこ、繊維・衣料品・皮革・製靴、建設業、エレクトロニクス製造、航空宇宙、自動車、緊急時対応
主要な健康影響: がん(精巣・肝臓・腎臓)、免疫毒性、肝臓毒性、生殖毒性
職業曝露の世界負荷:限定的データ
労働関連健康影響:限定的データ

曝露

職場では、MNMsの吸入、接種や皮膚吸収によって健康ハザーズが生じる可能性がある。人間の肺は、表面積が大きく、上皮のバリアが薄く、血管が発達しているため、MNMsにとってよい侵入口になっている。経皮及び経口による曝露の可能性がある一方で、吸入した場合の方がより大きな全身投与量となる可能性が高い。

健康影響

がん

IARCは、PFOAをヒトに対して発がん性の可能性(グループ2B)として分類し、アメリカ環境保護庁(EPA)は、PFOA及びPFOSのヒトにおける発がん性について示唆的な証拠があると結論づけている。アメリカの国家毒性プログラム(US NTP)は最近、ラットにおけるPFOA曝露後の発がん性の明確な証拠があることを示した。高レベルのPFASに慢性曝露した労働者・住民に、精巣・肝臓・腎臓がんの増加が観察されている。

その他の健康影響

疫学研究のレビューは、パーフルオロアルキルへの曝露と、血清酵素の増加や血清ビリルビン値の低下(とくにPFOA、PFOS、PFHxSについて)、血清脂質、とりわけ総コレステロールと低比重リポタンパク質(LDL)、コレステロール(とくにPFOA、PFOS、PFNA、PFDeAについて)の増加によって示される、肝障害を含む肝臓に関するいくつかの健康影響との間の相互関係の可能性を報告している。別の系統的レビューは、PFOAとPFOSはヒトで機能している免疫系に対するハザードであると推定されると結論づけている。この結論は、PFOAとPFOSが動物実験で抗体反応を抑制したという証拠と、これらの化学物質が、抗体の減少を含め、ヒトの免疫系の様々な側面に影響を与えるという証拠に基づいている。さらに、PFOAとPFOSは、動物に発達毒性を引き起こし、ヒトの疫学調査も、いくつかのPFASと発達影響との関連性を示している。ある系統的レビューとデータのメタアナリシスは、血清または血漿中のPFOAの1ng/mLの増加が、ヒトの出生時体重に-18.9gの差と関連していると推計した。また、PFASは内分泌かく乱作用を示し、とりわけヒトと動物の研究では、PFAS曝露と甲状腺ホルモンの不均衡及び生殖能力の低下との関連が示されている。

地域的傾向

PFAS汚染は人間や環境中に偏在している。しかし、もっとも高いレベルの曝露は、先進国と開発途上国の双方で、PFAS生産施設や廃棄場の近くで観察される傾向がある。様々な国でPFASの段階的廃止が開始され、より厳しい制限が課せられつつある一方で、低中所得諸国(LMICs)ではそのようなことが起きておらず、PFASの生産は主にアメリカや欧州からアジアに移っていて、中国が主要な生産国になりつつある。2009年にPFOSはストックホルム条約のもとで世界的根絶の対象物質リストに掲げられ、2019年にストックホルム条約締約国会議は、PFOAを世界的根絶の対象にした。

事例研究:パーフルオロオクタン酸の内部被曝量の高い、パーフルオロアルキル酸曝露男性労働者
PFOAとPFOSを生産していた工場の462人の男性従業員のコホートにおけるPFASsへの曝露と死亡率との関連性が調べられた。各コホートメンバーの累積血清中PFOA濃度を予測するために、労働者の血清中PFOA濃度測定が用いられた。死亡率は、PFASs曝露の可能性と累積血清PFOA濃度の3分位のカテゴリーについて、標準化死亡率(SMR)を用いて地域の人口と、またリスク比(RR)に関して近くの金属加工工場の労働者と比較された。120人のPFAS労働者の内部血清中PFOA濃度は非常に高いと分類された(気化平均値4,048ng/m、範囲19~91,900ng/mL)。PFAS労働者コホートの全死亡率は、肝臓がん、悪性リンパ腫と造血系組織の悪性新生物について増加した。金属加工工場労働者と比較して、PFAS労働者では、全死亡、糖尿病、肝臓がん、肝硬変について、死亡率のRRが増加した。これらの原因による死亡率は、PFAS曝露の可能性及び累積PFOA結成濃度との関連で増加した。このコホートでは、すべての原因で死亡率の増加を示し、PFOAの内部蓄積量がもっとも高い対象者は、両方の比較で、肝臓がん、肝硬変、リンパ系・造血系の悪性新生物の死亡率について、統計的に優位な増加があった。

ジェンダーの役割

生物学的性別は、ホルモン、生殖能力、妊娠への影響など、PFAS曝露による健康影響に影響を与える。また、生理学的な違いが生物学的蓄積性やクリアランスに影響を与える可能性もある。例えば、ある研究は、中国のフッ素化学工場の50歳未満の女性労働者は、男性労働者と比較して、体内のパーフルオロアルキル酸の半減期が短いことを示した。

PFAS製造に従事する労働者はとくに曝露するものの、それが膨大な数の製品に使用されていることから、PFAS曝露は非常に幅広い職業環境で生じる可能性がある。そのため、ジェンダーに関連した曝露の違いについて一般的な結論を出すことは難しい。しかし、いくつかの研究は、PFAS含有消火フォームやPFAS処理された防護服からの曝露のゆえに、消防士は、一般人口と比較して、PFASの血中濃度が高いことを示している。消火活動は一般的に男性の多い職業であり、ほとんどの研究は男性労働者のコホートに焦点をあててきた。しかし、全員女性の消防士のコホートを対象とした最近の研究は、86人全員が[訳注:文章が途切れている。]

選択された優先行動:パーフルオロ化学物質

国の政策措置の例

▶根絶と相対的に安全な代替品との代替に焦点をあてて、職場におけるPFASの使用に対処するための規制を開発する。

▶2020年にEU委員会が公表した、「疾病及び関連する社会的・経済的費用の全領域」によるPFASの使用・汚染に対処するための新しい包括的行動を参照する。この行動は、それが社会にとって不可欠であると証明されない限り、PFASの使用が段階的に廃止されるのを確保することを目的としている。職場でのPFAS曝露の偏在性と証明済みの健康影響のゆえに、相対的に安全な代替品により段階的に切り替えていくことは、世界的に同様の取り組みを行うべき優先的イニシアティブである。

▶ストックホルム条約及びPFASに対するその他の関連政策を参照・実施する。
-2009年以来、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)とその誘導体は、使用を根絶する対象のリストに含まれている。2019年に各国政府は、各国政府はパーフルオロオクタン酸(PFOA)とその塩、PFOA関連製品の世界的禁止に合意した。
-PFOSとPFOAは、EUでもPOPs規制により段階的に廃止されている。

政策決定者のための追加的行動

▶効果を高めるためにグループ分けの手法を用いて、世界的な廃絶のためのストックホルム条約のもとで、さらなる種類のPFASをリストに掲載する。

▶封じ込めることのできないすべてのPFAS用途について、非残留性の代替品の使用を実施または優先する。これには、PFAS汚染の主な原因である消火フォームが含まれるが、現在、非残留性のフッ素を含まないフォームなど、完全に効果的な代替品が利用可能である。残留性フォームと非残留性フォームの操作上の違いは現在、技術的に解決できるか、または訓練によって対処することができる。

▶適切な場合にはGHSを適用して、分類とラベル標示を調和化する。

職業曝露限界(OELs)

▶PFASに対して証拠に基づいたOELsを策定する。アメリカのEPAは、十分な健康影響データが存在し、公開されており、ヒトの健康毒性値の導出を適切に支援する場合、PFASに対するがん及び非がんの毒性値を策定することを計画している。

現実的な職場介入の例

▶消防士や化学産業・製品製造の労働者など、PFASにとくに曝露する職業を対象とした、対象を定めた予防対策を提供する。

▶非残留性の代替品概要される場合には適切な訓練が与えられることを確保する。

▶ジェンダー間の生理学的な違いを含め、あらゆる体型のヒトを効果的に保護するよう設計された、効果的なPPEを供給する。

▶ジェネラル・サスペクト・スクリーン(GSS)など、バイオモニタリングの新しいアプローチを用いて、曝露労働者の医学的監視を確保する。GSSは、曝露の知識と結成の疑いのスクリーニングを統合したもので、女性消防士に有効な手法であることが証明されている。