職場の女性、5年間で流産は26万件・・労災認定は3件 2021年8月13日 韓国の労災・安全衛生

チョン・ジュンスク議員室が国民健康保険公団の資料を公開

流産した女性の10人中6人は会社員だが『労働との因果関係』認定は難しく
労働時間が長いほど流産の危険が高く・・・・週61~70時間では56%上昇
業務関連性の立証は容易でなく『流産=女性個人の問題』認識も大きく

「半導体労働者の健康と人権守り」(パノリム)の常任活動家・李鐘蘭(イ・ジョンラン)労務士は「今のシステムで流産を産災と認められるには、勤労者個人が難しい立証手順を踏んで判定を受けなければならない。立証責任を軽減して補償のハードルを下げれば、多くの女性が流産を業務上疾病として申請するということを、サムソン電子支援補償委員会の事例が教える。判定を経なければならないという産災保険制度そのものの転換を考える時」と話した。共に民主党のチョン・ジュンスク議員は「現行制度は流産を個人的な問題として処理し、女性労働者に責任を転嫁するようなものだ。流産の産災認定手続きの緩和など、関連法の改正を積極的に検討すべきだ」とし、「『産災保険は勤労者本人だけに該当する』という規定によって、流産、胎児の健康損傷などが産業災害と認定されないケースが多い。国会・環境労働委で議論中の産業災害補償保険法の改正によって、流産や胎児の健康損傷に対する保険給付事項を新しく規定する方案が準備されるように願う」と話した。

ケティ・イメージバンク

総合病院で働く看護師のKさんは、今年流産を経験した。妊娠の事実を知ると直ぐに会社に知らせて短縮勤務を申請したが、会社はこれを許可しなかった。勤労基準法は妊娠初期(12週以内)または臨月(36週以後)の女性労働者が、一日二時間の短縮勤務を申請した場合、これを許容しなければならないと定めているのに、現場では守られていなかった。

看護師は普通、病院の中だけで一日に1万歩以上歩くという。ほとんど終日、急いで病棟を行き来し、立って働かなければならなかったKさんは、結局妊娠8週目に流産した。Kさんは流産休暇を申請したが、会社はこれまた拒否した。勤労基準法は、流産した労働者が申請すれば流産休暇を与えるとしているが、雇い主はこれさえも拒否したのだ。Kさんは「妊娠の初期も、流産した後も、出血があるのに病院内を歩き回った。妊娠した時も誰も保護してくれなかったのに、流産もさびしく私一人のせいだった。最小限の法さえ守られない現実で、どのように子供を産めというのか解らない」と話した。

2016~20年の5年間に流産を経験した女性は45万8417人だ。低出生基調で妊娠が減り、流産の人数自体はかつてよりは減少したが、妊娠した女性の中の流産を経験した比率である流産率はむしろ増加した。特に、就業の有無によって流産率に違いが生じた。同じ期間の職場の女性の年間流産率は、未就業女性の流産率より7%高く現れた。労働環境が妊娠の維持に否定的な影響を与えていることが推定できるような数字だ。このように労働条件に関係した流産が少なくないと見られるのに、同期間に産業災害(業務上疾病)と認められた流産は、たった3件に過ぎなかった。政府は低出生対策に一年に46兆ウォン(2021年現在)を注いでいるが、本来妊娠した女性労働者の保護、流産との労働因果性の認定を蔑ろにしたためだ。

<ハンギョレ>は、国会・保健福祉委員会のチョン・ジュンスク議員を通じて、国民健康保険公団から『流産・分娩関連の診療者人員現況』(2016~2020)の資料を受け取った。この5年で毎年平均9万1600人が流産していた。同期間の分娩女性は、平均26万2700人だった。妊娠した女性の4人に1人が流産を経験したのだ。

全体の流産人数の内、職場加入者と被扶養者が占める比率の推移

低出生で妊娠自体が減り、流産した人数もやはり減少する傾向だ。しかし就業の有無を確認できる健康保険職場加入者(就業)と被扶養者(非就業)に分けてみると減少幅が変わる。

非就業女性の流産は、2016年の4万5515人から2020年の3万3877人に、1万1638人(25.6%)減った。一方、流産で診療を受けた女性就業者は、2016年に5万2101人、2020年に5万893人で、大差はない。流産した人数全体の中で就業女性が占める比率は、同期間に53.4%から60%にまで増加した。流産を経験した女性の10人の内6人は、会社員だということだ。

晩婚の傾向で妊娠年齢が高くなって、流産率が増加した可能性もある。但し、流産率は就業(27.2%→31.3%)、非就業(20.3%→24.5%)の女性で、ほとんど同じように増加した。就業女性の流産率の増加に、晩婚とは別の原因があることを推測させるような内容だ。

就業女性の流産率、未就業者よりも7%高い

職場加入者の流産率の推移

注意深く見れば、大きな課題は就業者と非就業者の流産率の格差だ。この5年間の就業者の流産率は、非就業女性の流産率よりも着実に7%ほど高かった。年度別流産率の差を見れば、2016年は6.9%(27.2%、20.3%)、2017年は7.1%(28.4%、21.3%)、2018年は7.1%(30.2%、23.1%)、2019年は7.1%(30.8%、23.7%)、2020年は6.8%(31.3%、24.5%)だった。

このような格差は以前から似ていると確認される。2016年に、韓国女性政策研究院が2006~15年の職場加入者と被扶養者の流産率を分析したが、その時も、すべての年齢帯で職場加入者の流産率が被扶養者よりも高かった。当時、研究チームは「職場加入者の勤労環境が、妊娠と出産時の健康状態に否定的な影響を与えているものと類推できる」と分析した。

専門家たちは、就業女性の流産率が非就業女性より7%高く維持されている原因を把握するために、労働時間と業務の種類、胎児に影響を与える生殖毒性物質の使用の有無などをもっと丁寧に確かめなければならないが、業務との関連性を否定することは難しいと言った。市民建康研究所のキム・セロム・ジェンダーと建康研究センター長は「過重な業務、職場の競争の深化が、職場加入の女性の流産率が被扶養者女性より高く維持されていることに影響を与えると見られる」とした。チェ・イェフン産婦人科専門医は、「一般的に過労、交代・夜間労働などが、妊娠の維持に困難を与えることが知られている。しかし、原因把握のためにはより詳しい研究が必要だ」と話した。

長時間労働が流産に影響を与えるという通念は、既に研究で立証されている。2019年にスンチョンヒャン大ソウル病院のイ・ジュンヒ職業環境医学科教授、カチョンキル病院のイ・ワンヒョン職業環境医学科教授の研究チームが、国民健康栄養調査(2010~12年)に参加した19才以上の女性労働者4078人の流産の経験を調査した。週当り50時間未満で働く女性と比較した時、61~70時間働く女性は、自然流産の危険が56%高かった。週当り労働時間が70時間を超えれば、自然流産の危険が66%まで上昇することが明らかになった。研究チームは、「働く時間が長くなるほど、流産の危険が高くなるという認識が学術的に証明された。働く女性の母性保護のための政策の根拠になるように願う」と話した。

労働時間だけでなく、『労働の従属性』も流産に影響を与えるという意見もある。ウソン大のイ・ヒョンジュ看護学科教授は、「被扶養者の女性も家事・世話など相当な肉体労働をする。しかし雇い主の指揮・監督などの統制を受け、競争的に成果を出さなければならない職場女性とは、労働の姿も、それによるストレスの姿も違うはずだ。職場の加入者と被扶養者の間の7%の格差を正しく理解するには、労働自体だけでなく、このような労働の従属性にも注目する必要がある」とした。

産災(労災)認定はたった3件・・・・『流産=女性個人の問題』という障壁

流産と労働の因果性を表わす研究と統計が次から次へと出ているが、流産は依然として女性個人の問題に置き換えられている。2016~20年に流産した職場女性25万8646人の内、産災(業務上疾病)が認められた流産はたった3件だった。当初、産災申請自体も8件と少なかった。専門家たちは、流産を経験した当事者と判定主体のすべてが、『流産=女性個人の問題』と認識しているために、こうした現象が現れたと見る。

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<ハンギョレ>は、勤労福祉公団がチョン・ジュンスク議員室に提出した資料から、業務上疾病と認められなかった流産の事例を調べた。不承認事例とその理由が公開されるのは初めてだ。

不承認事例5件の内2件は、妊娠初期の自然流産だった。申請者はレストランの従業員と顧客相談員であったが、それぞれ長時間立って働く労働環境、顧客の暴言による流産を主張した。疾病判定委員会は妊娠初期の自然流産はありふれたもので、染色体異常のケースが多く、業務との関連性が立証されなかったという理由で、不承認の判定を行った。

他の2件は、早期羊膜破裂であったが、「早期羊膜破裂は現在まで原因が不透明で、業務との関連性が立証されていない」として不承認とした。残りの1件は子宮頸部無力症だった。疾病判定委は「(申請者が)過労や長時間勤務をしたとは見難い」として認めなかった。

不承認の事例5件の内、4件が自然流産と早期羊膜破裂だった。発生原因が医学的に明らかでないものなどだ。原因が曖昧なので、労働との関連性を見付けることも容易ではない。問題は、この難しい立証責任が、すべて女性労働者個人に転嫁されているということだ。疾病判定委員として活動する国立中央医療院のユン・ジョンウォン産婦人科専門医は「胎児染色体検査、炎症検査、感染検査など、すべての検査で異常がなく、職業ストレスを除けば妊婦は建康であることを本人が立証しなければならないのは、容易なことではない」と話した。

労働と流産の関連性の立証に関する負担を軽くすれば、結果が変わることもあることを示す事例がある。サムソン電子の白血病死亡事件の補償問題などを処理するための仲裁判定で、2018年11月に、独立機構の『サムソン電子半導体・LCD産業保健支援補償委員会』が作られた。勤労福祉公団の産災認定とは別に、サムソン電子の作業場での労働者の疾病補償の手続きを進めるために作られた機構だ。2020年6月までに、流産173件、死産10件など、全部で400件の補償が完了した。支援補償委員会は最小の基準(サムソン電子と協力会社の女性在職・退職者の中で、妊娠の三ヶ月前から出産(流産)まで、半導体とLCDのラインで一ヶ月以上勤務または出入りした者)を充足しさえすれば、業務上疾病と認定している。そうすると一つの事業場だけで183件の流産関連の疾病補償が認められたのだ。

「半導体労働者の健康と人権守り」(パノリム)の常任活動家のイ・ジョンラン労務士は、「今のシステムでは、流産を産災と認められようとすれば、勤労者個人が難しい立証手順を踏んで判定を受けなければならない。立証責任を軽くして、補償のハードルを低くすれば、多くの女性が流産を業務上疾病として申請するということを、サムソン電子支援補償委員会の事例が示している。判定を経なければならないという産災保険制度自体の転換を考える時だ」と話した。共に民主党のチョン・ジュンスク議員は「現行の制度は、流産を個人的な問題として片付け、女性労働者に責任を転嫁するようなものだ。流産の産災認定手続きの緩和など、関連法の改正を積極的に検討すべきだ」とし、「『産災保険は勤労者本人だけに該当する』という規定によって、流産、胎児の健康損傷などが産業災害と認められないケースが多い。国会・環境労働委で議論中の産業災害補償保険法の改正の中で、流産や胎児の健康損傷に対する保険給付事項を新しく規定する方案が準備されるように願う」と話した。

流産の産災認定と同じく重要なのは、職場での最小限の母性保護だ。<ハンギョレ>が流産を経験した半導体労働者二人、保健医療労働者三人にインタビューしたところ、交代勤務、夜間勤務をしていたという共通点があった。勤労基準法は妊婦の夜間労働を原則的に禁止する。但し、夜間勤務同意書を提出すればできることになる。イ・ヒョンジュ教授は「晩婚で30~40代に初めて妊娠する女性たちが増える傾向なので、より一層、職場内の母性保護が重要だ。それでも政府の「第四次少子化・高齢社会基本計画」に含まれた流産防止対策は、妊娠中の育児休職分割使用回数の除外、妊娠中の柔軟・在宅勤務の活用の勧告がすべてだ。妊娠中の労働者が、自身と胎児の健康を守れるように、職場内の危険な要素を避けることができる権利を制度的に保障すべきだ」と話した。

2021年8月13日 ハンギョレ新聞 チェ・ユナ記者

https://www.hani.co.kr/arti/society/women/1007561.html