中皮腫の疫学(抄:イタリアの状況)/Domenica Cavone, et.al., Environments, 2019, 6

[前略]

イタリアでは、閣僚会議議長[首相]命令n. 308/2002により国立労働災害保険協会(INAIL)に設立された全国中皮腫登録(ReNaM)に、中皮腫症例の疫学調査が委託されている。

全国登録の権限(DPCM 308/2002)
-イタリアにおける中皮腫事例の発生率の推計
-登録された事例の過去のアスベスト曝露に関する情報の収集
-アスベストの工業利用の影響の評価及びまだ知られていない汚染源の認識に対する貢献
-中皮腫事例とアスベスト曝露との関係の評価のための調査研究プロジェクトの促進

全国中皮腫登録は、(管轄領域内の症例を診断・調査する保健施設を通じた)発症事例の能動的調査と(対象者の職業、居住及び家族歴に関するインタビューを通じた)アスベスト曝露の様相の明確化を基本的活動とする各地域の地域オペレーションセンター(COR)による中皮腫症例の発見について、国の領域全体をカバーしている。MM症例の発見は症例を診断・治療する能力のある保健施設によって行われる(労働衛生サービス、解剖学及び組織病理学、呼吸器諸部門、胸部手術、及び腫瘍学)。退院カード(SDO)、ISTATによってエンコードされた死亡カード及び存在する場合には人口がん登録のデータを使って、データの包括的かつ完全なチェックがなされる。国レベルで定められReNaMガイドラインに収録された基準に従い、診断の確実性のレベルに応じた症例の分類が行われる。ガイドラインは領域の発展と調査対象、作業手順、及び分類及び診断・曝露のコード化の基準を説明している。全国中皮腫登録の活動の結果は定期報告書及びイタリア・世界の科学ジャーナルで発表される。

5. ReNaMデータ:イタリアにおける問題の規模

診断の確実さと診断時年齢との間に反比例の関係が確認される。「84歳以下」までの年齢グループについては確実な症例のシェアは90%から73%の間であり、「85歳以上」の場合は42.5%に減少する。解剖学的部位による確実な症例の割合に著しい違いはない。
男女比M/Fは2.5である。アーカイブされた27,356件のうちの72%が男性だった。

女性の割合は胸膜中皮腫について27.4%、心膜・腹膜事例について各々32.8%・41.1%だった。

診断時の平均年齢は70歳で、大きな男女差はなかった(女性で70.8歳と男性で69.5歳)。45歳未満の症例が2%を占めた。

曝露分類には職業(確実[certain]、おそらくあり[probable]またはありうる[possible])、家族、環境、失業中[out-of-work]、ありそうにない[unlikely]、わからない[unknown]、未確定[to be defined]及び分類不明が含まれた。
ReNaMは1993年から2015年までのアーカイブを完了して27,536件のMMを報告、そのうち21,387件のMM(合計報告件数の78.2%)が曝露の定義を満たした。

それらのうち、4,261件(19.9%)はアスベスト曝露がみつからず、曝露はありそうにないまたはわからないであった。曝露が定義された全症例のうち69.2%に職業曝露(確実、おそらくありまたはありうる)があった。曝露の平均時期は1959年だった(1951年から966年)。
・ 職業曝露 14,818(69.2%)
・ 家族曝露 1,0417件(4.9%)
・ 環境曝露 939件(4.4%)
・ 趣味活動曝露 322件(1.5%)
・ 曝露わからない/ありそうにない 4,261件(19.9%)
・ 対象者とのインタビュー 11,832件(55.3%)
・ 家族とのインタビュー 9,044件(42.2%)
・ 記録作成(追加インタビュー) 511件(2.3%)

もっとも関連する業種(1993~2015年、職業原因により罹患した者)
・ 建設業(15.5%)
・ 重工業(エンジニアリング)(8.6%)
・ 造船所(6.1%)
・ 紡織業(6.4%)
・ 金属製品製造業(5.7%)
・ 軍事防衛(4.3%)
・ 冶金(4%)
・ 鉄道車両(3.2%)
・ セメント・アスベスト産業(3.1%)
以上の業種でReNaMのアーカイブに登録された症例の約60%を占めている。

他の関連する業種(職場における物質の存在によるもので、直接使用によるものではない):
・ 自動車・バイクの製造、修理及びメンテナンス(4.4%)
・ 陸上運送(3.8%)
・ 化学・プラスチック産業(3.5%)
・ 食品産業(2%)
・ 海事部門(2%)
・ 保健(1.9%)
・ 電気・ガス生産(1.6%)
・ 港湾荷役(1.5%)
・ ガラス製造(1.3%)
・ ゴム製造(1.3%)
・ 石油抽出・精製(1%)
・ 製紙業(0.9%)
・ 砂糖工場(0.8%)

無意識の曝露(職場におけるアスベストの存在がわからない、一般の人々に開かれていることが多い)
・ 行政(1.1%)
・ ホテル、バー及びレストラン(0.6%)
・ 銀行、郵便局及び保険会社(0.5%)
・ 教育(0.5%)

建物における曝露のある症例の増加により曝露の新しいシナリオが示されており、それは今日最大の症例数を生み出し、現在の曝露の可能性に対する懸念も生じさせている。この部門から生じる症例の領域の分布は広がっている。それは一次予防にとっての重要な部門である。いまもなお可能性のある曝露の特別な関心は「マイナー」と呼ばれる分類に登録される中皮腫症例の数である(輸送用車両の製造・メインテナンス、食品産業、木材、たばこ、製造業、農業及び畜産、ケータリング、教育、及び行政部門におけるサービス)。地域登録の活動から、認識されていない予想外のアスベスト曝露のある職業活動・経済部門が明らかになってきた。

中皮腫症例の地理的分布の検討は、とりわけカサーレ・モンフェラート、ブローニ、ジェノヴァ、ラ・スペツィア、グルリアスコ、モンファルコン、トリエステ、カステッランマーレ・ディ・スタービア、バーリ、タラント、ビアンカヴィッラ及びオーガスタにおいて、最高の発症率をもつ地方自治体のクラスターの確認を可能にしてきた。これらの地方自治体には、禁止されるまでに特定の期間にアスベストを使用し(造船、保温された車両の製造)、また周辺地域を汚染した(アスベスト・セメント製造)会社があった。これら地方自治体のいくつか(カサーレ・モンフェラート、ブローニ、トリエステ、バーリ、タラント、ビアンカヴィッラ及びオーガスタ)は土地の埋め立てについて国家的関心地(SIN)として認識されている。

カサーレ・モンフェラート(エターニト工場)、ブローニとバーリ(フィブロニット工場)では、住民における中皮腫の流行が記録された。カサーレ・モンフェラートにおける症例の25%及びブローニ・バーリの症例の33%について単一のリスクファクターが認められた。アスベスト・セメント工場近くに居住したことであり、それが無意識のわからない環境/居住曝露を設定した。工場から500m未満のところに居住した者について計算された相対リスクはきわめて高く(各々10.5と5.25)、また死亡事例の肺中の繊維負荷は他の地域のものよりも10倍高かった。

ReNaMにより報告されたデータから、イタリアでは非職業(環境・家庭内)及び職業曝露の双方について、女性におけるMMの発症率が高いと思われる。合計10.2%のMM症例はアスベストへの非職業曝露から来ている。(血縁関係における)家族MMの症例は2.5%未満である。MM症例に関係した経済負荷は1事例当たり25万ユーロと推計されている。

ReNaMのデータは現出しつつある公衆衛生問題のひとつが人口の環境曝露であることを示している。

以前の曝露分類の再構築が行われたMM症例の約10%が環境原因(居住)または家族原因(職業曝露した家族との共同生活)により曝露したものであることがわかった。登録の活動は症例と曝露分類の地域的分布を示してきた(アスベストセメント会社近くに居住、曝露者との共同生活)。

中皮腫のリスクは、重要な曝露源近くの場所に居住したことによるものと、アスベストまたはアスベスト様鉱物の鉱脈のある領域上にいたことによるもの双方の環境曝露の結果として研究されてきた。女性では非職業曝露のある症例の割合は20%を超える。

ベニスでの政府会議(2012年11月)及びナショナル・アスベスト・プラン(2013年)において環境起源のMM症例の問題が優先研究課題として指摘され、ReNaMとCORsに特別な調査が委託された。「各地域は、地域のCORsまたは他の関連機構に委託することにより非職業(環境または傍職業[para-occu-pational])曝露と関連した中皮腫リスクの規模を調査する」。環境曝露が存在していることから、また公衆衛生保護に対する市民の関心を考慮して、リスク管理プロセスにおいて特別のコミュニケーション介入を作り上げることが不可欠である。とくに重要なのは中皮腫によって影響を受けた地域社会における心理的介入である。

[以下省略]

出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11836665

安全センター情報2020年11月号