2倍高い被災労働者の自殺率、経済活動人口全体に比べ~労災(産災)保険制度の不備が要因との批判 2020年9月7日/韓国の労災・安全衛生

労災(産災)被災労働者の自殺死亡率が、経済活動人口の率より2倍以上高いという研究結果が出た。産業災害申請もできない低賃金脆弱階層の労働者の現実を考慮すれば、自殺死亡率は更に高まるものと見られる。

労災保険制度の不備が、社会経済的に脆弱な労働者を死に追いやっている、と専門家たちが批判した。産業災害にあったという事実そのものが、劣悪な労働環境で働く以外にない労働者の脆弱性を証明するが、事故の後の治療費と復職困難などで貧困の悪循環に陥った労働者を労災保険が救済できず、極端な選択までさせているという指摘だ。

27日午前ソウル、世宗文化会館の階段で行われた『2020最悪の殺人企業選定式』で、産災死亡労働者のための追悼の小さなパフォーマンスが行われている。 2020.04.27/キム・チョルス記者

8月の職業環境医学国際学術誌「OEM」に、イ・ヘウン、キム・イン、キム・ミョンヒ、河内一郎教授が著述した『韓国の産業災害後に増加した自殺の危険』報告書が載せられた。

報告書によれば、2003~2014年の間に労災補償保険療養給付(治療費など)を受けた15~79才の労働者、約77万人の内2796人が、2003~2015年に自殺して生命を終えた。この内、男性は2626人、女性は170人で、年齢構造の影響を除いた年齢標準化自殺死亡率は、人口10万人当り、男性が65.1人、女性が17.1人だ。

被災労働者の自殺死亡率は、標準集団の経済活動人口に比べて2.21倍高く現れた。雇用形態、障害の程度、損傷部位に関係なく高かった。

8月の仕事環境医学の国際学術誌のOEMイ・ヘウン・ギムインア・ギムミョンフイ・河内一郎教授が著した「韓国産業災害後増加した自殺の危険」レポートの結果を描いた表。
ⓒ「韓国産業災害後増加した自殺の危険」レポート

高い自殺率の原因の一つとして『経済的困難』が挙げられた。報告書は「被災労働者の所得は、事故以後の5年間で平均14%減少した。また被災労働者の半分しか12ヶ月以内に復職できず、20%は事故の後の3年間は働き口を失った」と指摘した。

「更に、事故当時に社会経済的に脆弱な集団は、より多くの所得損失を経験した。例えば、臨時職の所得は事故後の5年間に27%減少したが、正規職は7%だった」とした。

今回の研究では、臨時職の自殺死亡率が常用職より高く現れた。所得損失の他に、失職、職場復帰の困難が臨時職にはより大きいという以前の研究を反映している、と報告書は付け加えた。

経済的困難は逆説的な数値としても現れた。男性の被災労働者の場合、障害が残らなかった労働者が、重い障害が残った労働者よりも自殺死亡率が高かった。より大きな怪我をした方が、自殺の危険性が減少するというのが現実だ。

原因は所得損失の程度と指摘された。障害等級が1~3級の労働者は、年金で被災前の給与の70~90%を補償されるが、障害がない労働者は仕事ができなかったり、事故の前より少ない収入によって、経済的な危機に直面するためだという分析だ。

27日午前、ソウルの世宗文化会館の階段で行われた『2020最悪の殺人企業選定式』で労災死亡労働者を追悼する小さな空間が用意された。 2020.04.27/キム・チョルス記者

「被災労働者は被災以前から脆弱層」
「労災申請すらできない労働者まで加えれば…」

被災労働者が貧困に陥る過程は、2月に労働健康連帯が発表した『労災保険死角地帯の解消と公平性強化のための研究』で詳しく知ることができた。研究陣は業務関連の労災を経験した労働者20人との焦点・集団インタビューによって、労災被災労働者の観点から労災保険制度の問題点を把握した。

被災労働者は、労災が承認された以後も経済的な困難を経験したと口をそろえた。被災以後に労働者が直面する最も大きな問題は、復職または新しい職場を求めることだったと報告書は強調している。

報告書は「災害が発生する前でも未熟練・低賃金労働者であった被災者の本来の職場には、既に本人の居場所が残っていなかったケースがほとんどであったし、労災請求の過程での会社との摩擦のために、戻りにくい状況だった」とし、「新しい職場を求めようとしても、十分な療養期間を取った治療とリハビリができず、労働能力が完全に回復されなかったり、身体的・精神的な後遺症が残っているために、労働市場への再進入が難しいケースが多かった」とした。

続いて「これらは適合した職場を見付けようとしたが、被災労働者に対する社会的な偏見、就職の役に立たない労災保険の職業リハビリと就職プログラムのせいで、思うようにいかなかった」と指摘した。被災労働者は共通して、事故前に比べて低くなった本人の力量で、果たしてなにができるのかを不安に思ったとし、勤労福祉公団の求職訓練・サービスの向上を要求したと付け加えた。

健康保険の非給付の部分は、労災保険でも支援しないために、治療費もやはり被害労働者の財政的な負担になっているのが実情だ。被災労働者の本人負担率は32.46%に達すると、報告書は指摘した。あるインタビュー回答者は「公傷(会社負担)処理をした場合、病院の費用の一切を会社が負担したが、労災請求をしたところ、非給付の部分を本人が負担し、短期的には労災保険適用の方が損になる状況を経験した」と話した。

労災承認の遅延は、労働者の経済的な負担を高める。昨年の雇用労働部の発表によれば、業務上疾病の処理期間は2018年は平均166.8日だった。この期間は、労働者本人がすべての費用を負担しなければならない。医療費負担で適切な治療を受けられなければ、復職に困難を経験することになる。

28日、ソウル、世宗大路、光化門広場の北側で、九宜駅惨事4周期追慕委員会の主管で行われた労災死亡労働者の追悼で参加者が108拝をしている。2020.5.28/キム・チョルス記者

産業災害を体験した労働者は、事故前から既に社会経済的に脆弱な労働者だったと報告書は強調した。「産業災害は無作為に起きる事故ではなく、構造的な要因によって、労働市場で劣勢に置かれた労働者に転嫁される」と指摘した。経済的に脆弱な労働者が、産業災害によって、結局、貧困のくびきに閉じ込められることになるという趣旨だ。

産業災害を承認された労働者の自殺死亡率は2倍だが、申請さえできない被害労働者まで含めば、自殺死亡率は2倍を大きく越えると推定される。チョン・ウジュン労働健康連帯事務局長は「労災保険の最も大きな問題は、隠蔽あるいは負担転嫁」で、「隠蔽された労災は90%近くになると見ている」と指摘した。

チョン事務局長は「松坡の三人の母娘事件(訳註:ソウル松坡区の一戸建て住宅の地下に間借りしていた母娘一家が自殺した事件)の場合、労災処理さえされていれば、極端な選択はしなかっただろう。一次社会安全網によって選ばれた人の自殺率ですら2倍以上なら、自殺率はより一層高まる」とし、「晋州の無差別殺人事件の加害者の場合、病歴が問題になったが、病状が進んだ契機は労災の不承認だった。この事件のように、労災でなく、貧困、家庭不和、うつ病など、個人的な所見や家族的な理由による自殺にすり替えられる死が多い」と話した。

引き続き「労災保険の核心は公平性だ。より劣悪な労働者がもっと制度を簡単に利用して、もっと長く治療受けて、より多くの給与を補填されて、再び職場に戻れるように、勤労福祉公団が気配りしなければならない。しかし今は反対に、既に安定している労働者が、更に支援を受けて」おり、「労災が自らの役割を果たせなくなっている」と批判した。

2020年9月7日 民衆の声 カン・ソクヨン記者

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